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第23話

名凛(めいりん)一行は、竜仙山(りゅうせんざん)の麓に居を構える太刀渡家(たちわたりけ)に到着した。 正確には太刀渡家の門前に到着したといっていいだろう。 一本道しかなかったところに突如として重厚な門が現れたかと思うと、門は自然に開いて、名凛たちを招き入れた。 一行は驚きと警戒心を抱きながらも、門をくぐり抜けた。 太刀渡家の敷地一体に強力な結界が張られていて、気分を害する者もいた。 名凛も友泉もただならぬ気配を肌で感じてはいたものの、特段変わった様子はなかった。   名凛の乳母である梅月(ばいげつ)も平然としており、どちらかといえば生き生きとしているようにも見えた。 「歳をとるといろんなことに鈍感になって、そういったものを感じにくくなるのでごさいますよ」 梅月は名凛にそう言った。 一行は門を過ぎればすぐにでも屋敷に着くと思っていたが、そこからさらに四半刻馬を走らせ、もう日も暮れようとした頃、ようやく太刀渡家の屋敷前に到着した。 屋敷の前にはすでに屋敷の者たちが名凛一行を待ち構えていた。名凛が馬車から降り立つと、名凛は出迎えの労をねぎらった。 待ち受けていた一行は名凛を前に深々と一礼すると、中央にいた背の高い女が一歩前に出た。 細面の顔に形の良い切れ長の目、長く艶のある黒髪。 胸元に金剛石を散りばめた黒衣をまとい、悠然とした佇まいを見せている。 女は落ち着いた、張りのある声で挨拶した。 「名凛様。この度は遠路はるばる、我が屋敷にお越しくださりましたこと、誠に光栄に存じます。 (わたくし)は太刀渡家当主・倫寧(りんねい)と申します。名凛様におかれましては、滞在中治療に専念できますよう、心を尽くしてまいります」 名凛は慣れた様子で当主の挨拶を受け入れた。 倫寧と名乗った女は、名凛を屋敷に招き入れるが友泉もついてくるのを見て、片眉を軽く吊り上げた。 「友泉(ゆうせん)殿。申し訳ございませんが、これをもって貴方のお役目は終わりにございます。ここから先、屋敷に入れるのは名凛様とそのお付きの乳母のみにございます」 「なっ、どういうことだ⁈ 俺は聞いていないぞ! 」

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