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第26話
すでに夜となり、広い客間には行灯が灯されている。
薄暗い部屋のなかで、名凛 は倫寧 と向き合って座った。
倫寧は先ほどと打って変わって、柔らかい表情だ。
「名凛様、長旅でお疲れでございましょう。今日はゆっくりお過ごしください。治療につきましては、明日改めて、お話いたしましょう」
名凛は、「よろしくお願いします」と丁寧に礼を述べると、「一つ聞きたいことがあるの。いいかしら? 」と言った。
「遠慮は不要にございます。どうぞなんなりと、仰ってください」
「兄を助けてくださった方は……そちらにご縁のある方でしょうか? 」
倫寧は軽く口角を上げ、
「えぇ、確かに。おっしゃる通りでございます」
「兄が、お礼を述べたがっておりました。直接、お礼を申したいと」
「ご心配に及ばずとも、時期が来ればそれも叶いましょう」
「えぇ……、私もそう思います」
「名凛様の痣痣 は治るかしら? 」
名凛を客室に案内した女が客間に戻って来ると、倫寧の隣に腰をおろした。
「さぁ……」
倫寧はあまり興味がない様子だ。
「彼女はあざがあってもなくても、自分の道を切り拓いていけるでしょう」
「えぇ、そうお見受けしましたわ。ご自分というものを分かってらっしゃる」
「ふふっ。花南 の言う通り、賢いしね……」
倫寧は、花南の長く艶のある髪の一房を自分の指に絡めた。
「まぁ! あなたがそんなふうに人を褒めるなんて、珍しいわね」
倫寧は花南の首筋に舌を這わせると、伸ばした手は花南の豊かな胸をまさぐり始めた。
「そう? まぁ、正直どうでもいいのよ、彼女のあざのことは……。国王たっての願いだから、聞いてあげただけ。本来は何があっても干渉しない。それが太刀渡家――」
倫寧は、まさぐる手を一旦止めると、囁くように呟いた。
「あぁ、でも、うちの坊やはどうだろうね。皇太子殿下に、随分とご執心で……」
「ふふっ、そうね。小さい時からずっと……。それにしても、あなた、どうでもいいって言っておきながら、楽しそうよ」
花南は、潤んだ目で倫寧を見つめた。
「そう? 私はこっちの方が楽しい……」
倫寧は、花南の唇をそっと塞いだ。
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