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第28話

その日の夕食後、清蓮(せいれん)は乳母が入れてくれた茶を飲みながら、自室で本を読んで過ごしていた時のことだ。 清蓮は本を閉じると、乳母に言った。 「梅雪(ばいせつ)、やっぱり今から父上のところに行って、謝ってくるよ」 「えぇ、その方がよろしゅうございますね、清蓮様。国王陛下も清蓮様をご心配して、おっしゃったのでしょうし」 その数刻前、父親である国王と清蓮は、成人の儀で起こった騒動について、意見の食い違いから口論となっていたのだ。 清蓮は当初から、すべては自分が招いたことだとして、演舞場の警護に当たっていた者たち処分に反対していた。 父親としては、その主張が理解できないわけではなかったが、国王としては、見逃すわけにもいかない。 いつもは穏やかな清蓮もつい頑なな態度になってしまい、二人の意見は物別れに終わった。 「ちょっと行ってくるよ」 清蓮は、両親に謝罪しようと国王夫妻の部屋に向かおうとした。 その矢先、騒々しい声が部屋の外から聞こえたかと思うと、突然大勢の武官が皇太子の部屋に入って来たのだ。 部屋には清蓮と乳母の梅雪、その他に数人の侍従たちも控えていたが、みな一様に驚いた。 開いた扉の隙間からは、床に突っ伏して倒れている護衛が清蓮の目に入った。 明らかに異常な出来事だが、清蓮は状況を理解することができない。 武官の一人が、自分たちは道連(どうれん)将軍の配下の者だと名乗った。 確かに、清蓮はその武官を見知っていた。 その武官は緊張した面持ちで生唾を飲み込むと、呆然と立ち尽くす清蓮たちに向かって言った。 「今から半刻前、国王夫妻の他、多数の死傷者が何者かによって暗殺されました!」 「——!」

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