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第29話

清蓮(せいれん)は顔面蒼白になり、頭が真っ白になった。 武官の言っていることが耳には入ったが、理解できない。 乳母の梅雪(ばいせつ)は清蓮の袖につかまり、小さな叫び声をあげた。 清蓮は武官に視線を向けたまま、梅雪の手を握った。 「父上と母上が殺された? 何があったんだ? 一体……、一体誰がそんなことをしたんだ! 」 清蓮はことの重大さに震え出した。 武官は清蓮たちの動揺をよそに、嘲笑うかのように言った。 「何を今更、とぼけたことをおっしゃるのかと。ご自分が一番良くご存知でしょうに」 「——それはどう言う意味だ? 」 「それは、こういうことですよ、皇太子殿下! 」 武官は仰々しく言った。 「生き残った者たちの証言により、この蛮行は皇太子・清蓮によるものだと判明した! これにより王弟である天楽(てんらく)様より、謀反人である皇太子を捕えよとの命令が下された! 」 「——! 」 清蓮は心の中で武官の言葉を反芻した。 言葉を発しようにも喉が詰まったようになって、何も言えない。 すると、武官は清蓮のその様を無言の同意ととらえた。 「天楽(てんらく)様の温情により、大人しく縛につけば命の保証はするとのこと。しかし、もし命令に従わないなら……」 清蓮は何かしらの誤解が招いた事態で、話せば分かってもらえるはずと考えた。 国王夫妻を殺すなどありえないからだ。 「分かった……。貴殿の言うとおりにしよう」 清蓮は、武官について行こうと一歩前に出た。 すると、乳母の梅雪が悲鳴にも似た声で言った。 「清蓮様、ついて行ってはいけません! 早くお逃げください! 」 「梅雪? 」 「清蓮様、捕まったらおしまいです! いいですか! 謀反の罪で捕まって、生きていた者など、この世の誰一人としておりません! どうか、一刻も早くお逃げください! 」 梅雪が清蓮を庇うように前に出た。 武官は剣を抜くと、その剣先を梅雪に向ける。 「致し方ない。命令に従わないなら、その場で切り捨てても良いと仰せだ! 」 梅雪は武官の前に立ちはだかった。 「清蓮様、逃げて! 早く、早く!」

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