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第30話

清蓮(せいれん)は、森の中を一心に走り続けた。 迫りくる追っ手を短剣一つで追い払い、ようやく追手が来ないと確信すると、清蓮は足を止めた。 荒い息のまま空を見上げると、星も月も厚い雲で覆われ、見えるのは暗黒の夜空だけだ。 時折、鳥や獣の鳴き声が、静まり返った森に響き渡るが、清蓮に聞こえるのは、自分自身の乱れた呼吸と心臓の鼓動だけだ。 清蓮はここまでどうやって逃げてきたのか、よく覚えていなかった。 ただ、無我夢中で逃げ出してきたのだ。 あの時、乳母の機転がなければ、どうなっていたか分らない。 分かっているのは、これが清蓮に突きつけられている現実、ということだけだ。 清蓮はもう一度、夜空を見上げると、雲に隠れていた満月が姿を現した。 清蓮は一息つこうと木に寄りかかって座ると、木枝や葉が擦れる音が聞こえた。 清蓮は緊張して身構えたが、すぐに警戒をといた。 草木の間から出てきたのは一匹の野うさぎだった。 野うさぎは、きょろきょろと辺りを見回すと、清蓮の前を横切り走っていく。 清蓮は、野うさぎの後ろ姿が見えなくなるまで見届けた後、視線を戻した。

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