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第33話

木漏れ日が降り注ぐ森の中、清蓮(せいれん)はまだ目覚める前の、ふわふわとした気持ちの中にいた。 (あぁ、喉が渇いた。いつもなら梅雪(ばいせつ)がお茶と胡桃をもって来てくれるのに…… ) 清蓮は薄目を開け、清蓮はゆっくりと身を起こすと、目の前に広がる景色を見た。 森は穏やかで、鳥が歌い、木々は葉を広げて日を浴びている。 清蓮は居心地良い部屋にはいなかった。 梅雪も、温かいお茶も、大好きな胡桃も、何一つなかった。 清々しい朝でさえ、清蓮は昨日のことを思い出して、暗い気持ちになった。 美しいはずの世界もぼんやりとしている。 「夢じゃなかった……」 清蓮はふと身の回りに目をやると、いつのまにか木に寄りかかり、清蓮の体はたくさんの木の葉で覆われていた。 「あれ? 確か、地面に寝ていたような……」 清蓮は立ち上がると、ふらふらと森の中を歩き始めた。 あてもなく歩き続けていると、急に視界が開け、小川が見えた。 穏やかに流れる川の音に耳を澄ませると、その静かなせせらぎは、清蓮の鬱々とした気持ちを和ませてくれた。 清蓮は小川を覗き込んだ。 透き通った水面には髪は乱れ、目は赤く腫れあがった清蓮の顔が映っていた。 そこには清蓮の皇太子としての高貴さ、気高さは微塵もない。 「酷い格好だ……」 清蓮は、自分の無様なありように絶句したが、気を取り直して顔を洗った。 川の水は冬の冷気もとりこんで、清蓮の手も顔も芯から冷やした。 清蓮は気にせず袖口から手拭いを取り出し、冷たい水に浸して体を拭き始めた。 逃走中に木の枝や葉で切ったのか、腕や背中など、体のあちこちに切り傷ができて、体のあちこちがひりひりとして痛い。 胸にも横に切れた傷があり、その周りには血がこびりつき、わずかに熱も帯びていた。 その傷は他の傷より深かったが、清蓮はそれを見るまで気づかなかったのである。 それも仕方のないことで、生きるか死ぬかの場面で必死に追っ手を退け、森の中を駆けていたのだ。 傷の痛みを感じている暇などなかったのである。

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