33 / 71
第33話
木漏れ日が降り注ぐ森の中、清蓮 はまだ目覚める前の、ふわふわとした気持ちの中にいた。
(あぁ、喉が渇いた。いつもなら梅雪 がお茶と胡桃をもって来てくれるのに…… )
清蓮は薄目を開け、清蓮はゆっくりと身を起こすと、目の前に広がる景色を見た。
森は穏やかで、鳥が歌い、木々は葉を広げて日を浴びている。
清蓮は居心地良い部屋にはいなかった。
梅雪も、温かいお茶も、大好きな胡桃も、何一つなかった。
清々しい朝でさえ、清蓮は昨日のことを思い出して、暗い気持ちになった。
美しいはずの世界もぼんやりとしている。
「夢じゃなかった……」
清蓮はふと身の回りに目をやると、いつのまにか木に寄りかかり、清蓮の体はたくさんの木の葉で覆われていた。
「あれ? 確か、地面に寝ていたような……」
清蓮は立ち上がると、ふらふらと森の中を歩き始めた。
あてもなく歩き続けていると、急に視界が開け、小川が見えた。
穏やかに流れる川の音に耳を澄ませると、その静かなせせらぎは、清蓮の鬱々とした気持ちを和ませてくれた。
清蓮は小川を覗き込んだ。
透き通った水面には髪は乱れ、目は赤く腫れあがった清蓮の顔が映っていた。
そこには清蓮の皇太子としての高貴さ、気高さは微塵もない。
「酷い格好だ……」
清蓮は、自分の無様なありように絶句したが、気を取り直して顔を洗った。
川の水は冬の冷気もとりこんで、清蓮の手も顔も芯から冷やした。
清蓮は気にせず袖口から手拭いを取り出し、冷たい水に浸して体を拭き始めた。
逃走中に木の枝や葉で切ったのか、腕や背中など、体のあちこちに切り傷ができて、体のあちこちがひりひりとして痛い。
胸にも横に切れた傷があり、その周りには血がこびりつき、わずかに熱も帯びていた。
その傷は他の傷より深かったが、清蓮はそれを見るまで気づかなかったのである。
それも仕方のないことで、生きるか死ぬかの場面で必死に追っ手を退け、森の中を駆けていたのだ。
傷の痛みを感じている暇などなかったのである。
ともだちにシェアしよう!

