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東の風はいずれ西の風となり 第35話 | 美玲の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
東の風はいずれ西の風となり
第35話
作者:
美玲
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第35話
清蓮
(
せいれん
)
は、
温蘭
(
おんらん
)
を目指し歩いていたが、改めて自分の身なりを見て、これはまずいと思った。 高価な衣服は切れ切れになり、なんともお粗末な姿だったのだ。 「こんな格好していたら、不審に思われてしまう。人混みに紛れ込むには、そこに住む人々と同じでなければ」 清蓮は、どうやって服を調達しようかと思案した。 半刻ほど歩いたところで、小さな集落にたどり着いたが、その集落はみな総出で畑仕事でもしているのか、しんと静まり返っていた。 清蓮はこれ幸いと、とある農家を覗いた。 人の気配はまったくない。 時折、鶏がけたたましく鳴いているだけだ。 清蓮は鶏の鳴き声の方へ様子を見に行った。 小さな庭に数羽の鶏が餌を啄んでいて、その庭の片隅には、こざっぱりとした衣服がいくつも干されていた。 この日は朝から抜けるような晴天で、洗濯物はすっかり乾いていた。 「まったく、皇太子が盗みだなんて、聞いたことがない、前代未聞だ……」 清蓮は申し訳ないと思いつつ、自分の体に合うものを片っ端から探した。 ちょうど良さそうなものを見つけると、庭の片隅で服を脱ぎはじめたが、体のあちこちにできた傷が疼いた。 「薬はあるかな? 皇太子が盗みだなんてって思ったけど、服を拝借するんだ、こうなったら薬もないか探してみよう」 清蓮は、もう一度家の中に人がいないことを確認すると、部屋に潜り込んだ。 箪笥の引き出しを片っ端から開け、塗り薬を見つけると手早く薬を塗った。 ほとんどの傷は治りかけていたが、胸の傷は深く、以前より赤みが増し、痛みも強くなっていた。 清蓮は一旦外に出ると庭の一角にあった井戸へ行き、濡らした手拭いで傷を拭いた。 「これ以上、悪くならないといいけど……」 清蓮は再び部屋に戻ると、胸に薬を塗り、これも拝借した晒しを巻いた後、服に着替えた。 清蓮は新しい服に着替えると、今度は空腹で腹が鳴った。 適当な服が見つかれば、次は食というわけだ。 清蓮は森の中で、小川の水と木の実くらいしか食べていなかった。 野うさぎなどの小動物もいたが、捕まえたところでどうも食べる気にはなれなかった。 愛らしい姿を見ると、つい抱き寄せて撫でたり、胸の中に入れて、その温もりで寒さをしのいだりしていたのだ。 清蓮は空腹を満たすべく、今度は台所に忍び込んだ。
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美玲
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