40 / 71
第40話
男は女の代わりに清蓮 を連れていくと言い出した。
清蓮は笠で顔を隠していたが、男は投げ飛ばされる瞬間、笠の隙間から見える清蓮の美しさを見逃さなかったのだ。
男の目には清蓮は、男並の腕力を持つ、温蘭族の美しい「女」に見えたのだ。
性別分け隔てのない服も、男女ともに背の高い人々が多いことも清蓮の不利に働いた。
清蓮は、もう笑うしかない。
その時だ。
ふと女と目が合った。
清蓮を見た女は、「あっ! 」と小さな悲鳴をあげると、後退りした。
幸い、ごった返す雑踏の中、女の声を聞いた者はいない。
清蓮は女の視線に気づいていたが、男の注意を逸らそうと、半ば開き直って、男に言った。
「分かった……、分かったわ。私が、行けば借金は帳消しにしてくれるのよね?」
「あぁ、いいよ。あんたが来るなら、その女のこと、なかったことにしてやるよ」
清蓮は、静かに頷くと、男の後について行った。
清蓮は女の横を通り過ぎる時、咄嗟に女の袖口に何かを入れた。
「? 」
女は、清蓮たちが立ち去るのを最後まで見ていたが、清蓮たちの姿が見えなくなると、女は袖口の中を確認した。
「これは……」
それは、見事な翡翠の玉で、清蓮の短剣に埋め込まれていたものだった。
ともだちにシェアしよう!

