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第47話
案内された部屋は、楼の一角にある、こぢんまりとした離れだった。
部屋には初老の男がいて、盆栽の手入れをしていた。
その男は、他ならぬこの大店の楼主だった。
楼主は盆栽の葉を丁寧に切り取りながら、清蓮 に今から見世に出るよう告げた。
「おまえさんには、ちょっと試しにやってもらいたいことがあるんだよ」
楼主は盆栽の手入れを終えると、ようやく清蓮を見た。
楼主は無骨な指で、清蓮の透き通る頬をなぞりながら、卑猥な笑みを見せた。
「……? 」
清蓮は自分に向けられる、楼主のねぶるような視線に嫌悪感を感じた。
正直なところ清蓮にとって、楼主や店の男たちは脅威ではない。
この場で一瞬にして楼主たちを蹴散らすことなど造作ない。自分だけなら、いつでもできるのだ。
だが、清蓮は気の毒な女たちを逃がすという、そのためだけに、ここに残っているのだ。
その反面、ここにいるということは、春を売るということでもある。
清蓮は焦りを禁じ得なかった。
楼主の話が終わると、再び店の男が清蓮を別の部屋に連れて行った。
その部屋には女が一人、清蓮を待ち構えていた。
その女は昨夜、清蓮たちの下衣をめくった女だった。
女は昨日とは様子が違い、具合が悪いのか顔は青ざめ、いまにも倒れてしまいそうだ。
女は清蓮が高く売れるよう、身を整えるよう呼ばれたのだった。
女は清蓮にまず風呂場に連れて行った。
清蓮はいよいよ男だとわかってしまうと焦ったが、風呂場には誰もおらず、案内した女もすぐに出ていってしまった。
清蓮は久しぶりの風呂をありがたく思ったが、人に見られてはいけないと、さっと済ませた。
女が用意した肌衣を着ると、着ていた服に隠しておいた、手拭いで包まれた二つの米を取り出した。
清蓮は温蘭 に来る前、民家に忍び込み、食べ物を漁っては腹を満たしていた。
そして、いつも余った米を丸めて懐に忍ばせていたのだ。
最後に立ち寄ったところでも同じように、丸めた米を二つ胸に忍ばせていたのだ。
そのおかげで、昨夜、女が清蓮の胸を触った時、気付かれずに済んだのだ。
そうでなければ、間違いなく女に気づかれていただろう。
米は少し固くなってはいたが、ないよりは良いだろうと、清蓮はそれをもう一度握り直し、少しでも女の胸に見えるようにと、巻いた晒しに挟んだ。
同じく隠し持っていた短剣も、懐に隠した。
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