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第48話

清蓮(せいれん)が部屋に戻ると、女は手早く清蓮に化粧を施していく。 化粧が終わると、髪を結い、簪をさした。 女は艶やかに仕上がった清蓮を見て、顔色の悪い顔に笑みを浮かべた。 女が化粧を施している間、清蓮はこれからのことを考えていた。 ここに来たのは演舞場で出会った幼子の母親の身代わりとしてだった。 今はここにいる女たちを一人でも助けてやりたいと、ここに留まっているのだが、問題はどうやって女たちを助けるかということだ。 自分一人なら清蓮はいつでも逃げ出せる。 ここの男たちは自分の相手ではない。 しかし、女たちも一緒にとなると、慎重にことを進めなければいけない。 清蓮は何か良い方法が思いつくかもしれないと、探りを入れることにした。 「あの、少し聞いてもいい……かしら? 」 清蓮は化粧道具を片付けている女に声をかけた。 「なに?」 女はそっけなく答える。 「ここで働いている女性(にょしょう)は何人位いるの? 」 「どうして、そんなこと聞くの? 」 女はさっさと仕事を終えてしまいたいのか、素っ気ないが、清蓮の質問には答えた。 「さぁ……、数えたことないわ。結構大きな店だから、それなりにいると思うけど、人の出入りも多いし。使い物にならなければ、すぐに剣山(けんざん)に捨てられるし」 「剣山? 山に捨てられるということ? 」 「違うわ。山に捨てられるなら、まだましよ。あなたお花を生けたことある? 」 女は乾いた笑いの後、清蓮に突拍子もないことを尋ねた。 清蓮は、「あります」と答えると、女は剣山について話し始めた。 「ここから少し離れた山あいに、大きく窪んだ場所があって、昔その辺りは古戦場だったとか。その窪みの中には、数えきれないほどの剣があって、その剣先が天に向かうようにして地面に埋まっているんですって。なんでそうなったのかは、よく分からないけど、死んだ兵士たちの呪いじゃないかって。それが剣山に見えるっていうんで、みんなそう呼んでいるの」 「……!」 「あくまで噂よ。でも、どっちにしたって、気分が悪いわ。こき使われて、いらなくなったらおしまい。捨てられて、串刺しだなんて……」 捨てられた女たちは剣山に放り込まれ、串刺しの状態で野にさらされるのだ。 遺体が腐敗すれば風土病の原因にもなるはずだが、山に住む獣や来死鳥(らいしちょう)と呼ばれる鳥が食い尽くしてくれるため、楼主たちにとっては、都合がいいのだ。 女は自分の末路を思ってか、重苦しいため息をついた。 とにかく用済みになった女は、「そうやって剣山に捨てられるのよ」と呟いた。 病気した遊女や客がつかなくなった遊女—— 店からすれば女たちは、ただのお荷物だ。 使えなくなったら捨てればいい。 (……なんて場所だ、生きるも死ぬも地獄だなんて……) 清蓮は剣山に刺さったまま朽ちていく女たちを思うと、心が冷えていくのを感じた。

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