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第49話
「あの…、もう一つ聞いてもいい?」
「なに?」
女は清蓮 に少し心を開いたのか、幾分語気が和らいでいた。
「あなたは……、どうしてここに来たの? 」
清蓮は聞いてはまずいかなと思ったが、どうしても聞いてみたかったのだ。
意外にも、女は気にすることもなく話し出した。
友安国には友泉 の父である剛安 将軍の他にもう一人、道連 という名の将軍がいた。
女の夫は、その道連将軍直属の部下であった。
将来を有望され、将軍の信頼も厚く、成人の儀では演舞場の警備を任されていた。
その武官は皇太子のお披露目という重要な儀式で、警備の指揮をとることを、この上なく名誉なことと、意気揚々として任務に望んだ。
しかし、儀式の終わりに観客の一部が暴走した。
責任者の武官は、暴動を抑えられなかったという理由で、処罰されることになった。
国王はその武官の任を解くよう命じたが、その場にいた清蓮がその責はないと訴えた。
国王はその訴えを聞き入れず、二人の間には険悪な空気が流れたが、そこを国王の弟、天楽 と道連、剛安両将軍も再考を願い出たため、何とか任を解かれることは免れた。
その後、武官は無期限の謹慎を命じられたが、その最中に自らの命を絶った。
武官には妻がいたが、夫の死後、身内から縁を切られ、行くあてもなく、いまに至ったのである。
「……」
清蓮は、女に尋ねたことを後悔した。
清蓮はどこまでも絡みつく不運の連鎖に頭をもたげた。
女はそんな清蓮をよそに、淡々と話を終えると、女は用意した衣装を着せようと、清蓮に近づいた。
清蓮は慌てて、「自分でできるわ」と、女が持っていた衣装をつかんだ。
いくら清蓮が中性的な顔立ちをしていたとしても、ここが温蘭 で背の高い人が多い地域だとしても、体に触れられては男だと分かってしまう。
胸の代わりと丸めた米も、ちゃんと触れば嘘だと分かるはずだ。
「あ、あなた、疲れた顔をしてるわ……。きっと私が余計なことを聞いたからね。ごめんなさい、辛いことを思い出させてしまって。
あとは私、自分でできるから、少し休んで。終わったら、手直しをお願いできるかしら? 」
清蓮は女に休むよう伝え、衝立の中で手早く着替え始めた。
手早くといっても、見られてはいけないとの焦りから、うっかり肌衣から胸に忍ばせた米の包みを落としてしまった。
清蓮は、思わず「あっ!」と声を上げると、すんでのところで拾い上げた。
清蓮は衝立の隙間から女を覗いた。
女は、清蓮の思ったとおり、疲れていたのか目を閉じ、壁に寄りかかって休んでいる。
清蓮はその姿を確認すると、ふぅと一息ついた。
清蓮に与えられた衣装を纏った。
それは豪奢で手の込んだ衣装だったが、見た目とは異なり、簡単に着脱できるように工夫されていたため、清蓮でも簡単に着ることができた。
その理由はいたって簡単だ。
どんなに豪奢な衣装でも、客の目的はその衣装に包まれた生肌なのだ。
そこそこの手間で脱がし、手っ取り早く、ことに及びたいのだ。
幾重にも重ねた衣装を一枚、一枚と脱がせていく楽しみはあるだろうが、それは初売りの女には必要ない。
新入りの女には、これでちょうど良いのだ。
清蓮は難なく着替え終わると、女に声をかけた。
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