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第50話

肌衣の上に白絹の衣、繊細な刺繍が施された錦糸帯、さらに深紅に染まった羽織。 滑らかな白肌に、ほのかに赤く染まる頬と唇。その姿は何人も犯しがたい雰囲気だ。 「とてもきれいよ。間違いなく人気者になれるわ」 女は手直ししながら、清蓮(せいれん)を見て素直に称賛する。 「あっ、えっと……ありがとう……」 女は準備ができたことを伝えると、男は清蓮を別の部屋に案内した。 そこは簡素な作りの小部屋で、長椅子が一つ置いてあるだけだった。 店の男は、清蓮にその長椅子に座るよう言った。 清蓮は戸惑いながらも言う通りにすると、店の男はこの部屋の目的と清蓮の役割を説明し始めた。 この部屋には、清蓮が入ってきた扉以外出入り口はなく、日の光を差し込むための小窓が一つ、天井近くの壁にあるだけだ。 しかし、目を凝らしてみれば、壁の中央には一寸ほどの穴が黒い点のように空いているが、清蓮からはそれは塞がっているように見えた。 一方、通りに面した部屋の外側には、小さな引き戸がついており、そこを開けると、一寸ほどの穴を通して、中にいる者の様子を見ることができるのだ。 つまり——これは、覗き窓というわけだ。 商売熱心な楼主は、金になりそうなことを思いつくたびに、いろいろ試していて、女をただ見世に出すだけではおもしろくないと、新入りの売れそうな女をこの部屋に入れて、うまいこと客の関心を引こうと考えたのだ。 楼主曰く、美しい女が岩戸に隠れているならば、客は金を払ってでも、岩戸を開いて見たいだろうというわけだ。 客は客引きの男からいい女が入ったとうまいこと言われ、いい気になって、女を覗き見るために金を払う。 客がその女を気に入れば、再び金を払って女を買う。そして、支払われた金額に応じて、女は客を接待をするといった具合だ。 清蓮は男の話を聞いて、なんて馬鹿げた話だと呆れたが、それと同時に自分が客の目に晒されることに動揺を隠せなかった。 一体何がどうなると、一国の皇太子が見せ物になるのだ? 清蓮はここで働く女たちを決して見下してそう思ったのではない。 自分の身の落ちようにあらためて愕然としていたのだ。女たちを助けるためとはいえ、今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。 清蓮は血の気の失せた顔で、戸惑うばかりだが、店の男は清蓮の気持ちなど知る由もなく、勝手に話し続けた。

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