51 / 71
第51話
「それでだな、おまえさんは、ここで客を気に入ってもらえるよう努力しなきゃならない。わかるか? 」
「努力……? 」
清蓮 には、言わんとするところがよく分からなかった。
清蓮は何をするでもなく、長椅子に座っていればいいのだと思っていた。
客は小窓から女の品定めをするだけだと考えていたのだ。
清蓮がらそう思うのも無理からぬことだ。
皇太子がいちいち花街の仕組みなど知るはずもない。
客を惹きつけるために努力する必要もない。
まして、清蓮は友安国の皇太子だ。
大臣や高官たちの娘たちが偶然をよそおって、清蓮に気に入られようとひっきりなしにやって来るのだ。
清蓮は誠意をもって娘たちを送り返すのだが、今度は自分が客の男たちを惹きつけるために、部屋の中から男を誘惑しなくてはならないのだ。
「そんなこと……、私には無理です! 女性、いえ、殿方を惹きつけるだなんて、そんな、そんな、はしたないことしたことありません! 」
清蓮は顔を真っ赤にしながら、男に訴えた。
「はぁ? 男を誘惑したことないだってぇ? 何もったいぶってるんだよ、ったく! 」
男は呆れた様子で首を左右に振ると、自らの体を使って清蓮に指南し始めた。
「いいか、例えばだな、穴に向かって、こう横になるんだ。両足を軽く曲げて、くの字にして、少し前に出す。これで腰のくびれを強調するんだ。頭は肘を曲げた右腕にのせて、左手は腰回りに軽く添える」
男は長椅子に寝そべりながら、熱心に客がそそられる姿とやらを清蓮に教えた。
「いいか、一番大事なのは、目と口だ! 潤んだ目、半開きの唇……。艶っぽく……、物欲しそうに男を見つめるんだ。目と目があったら、捕えて、『あなたを離さない! 』って、好きな男に見せるようにやるんだ。
わかるか? そんでもって最後は身悶えしながら、『あぁ、あなたが欲しい……』って感じで男を見るんだ︎! わかったか?」
自らの体をくねくねさせながら熱弁する男は、あまりにも滑稽で、清蓮は顔をぽりぽりと掻いて苦笑した。
(そんなことできるわけないだろう……。大体、誰が私を買うというんだ? そんな人いるわけないだろうに…… )
「とにかく、いいか? 俺が言ったようにやるんだぞ! 」
男は言いたいだけ言って満足したのか、清蓮を小部屋に残し出て行った。
ともだちにシェアしよう!

