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第53話

清蓮(せいれん)は皇太子として常に尊敬されてきたため、人から激しく叱責されたのは生まれてはじめてだった。 清蓮は呆然として、もう一度長椅子に横たわった。 「そんなに怒らなくても……。あぁ、こんなところで馬鹿なことするくらいなら、いっそのこと逃げ出して、改めて女たちを助けた方がいいかもしれない」 そうは思ったものの、いかんせん小部屋に閉じ込められていたため、逃げ出すことすらできない。 仙術を使えば壁を破ることも造作ないが、そんなことをすれば、すぐに宮廷に知れてしまうだろう。 清蓮は、今はなんとかして、この場を切り抜けるしかないと思い直した。 「あぁ、もう! 色っぽいだの、そそるだの、私には無理だよ! 好きな人を思い出せって言われても、今まで色恋に無縁だった自分に何ができるっていうんだ。まして、『あぁ! 』なんて、恥ずかしくてできるはずない! 」 清蓮は重いため息をついた。 宮廷にいた頃は、ため息なんてついたことがなかった清蓮にとって、ここに至るまでに、いったい何度、ため息をついたことだろう。 清蓮は無意識に水晶の首飾りに触りながら、なんとか早くここから出なければと、扉の方を見た。 手のひらで転がすように水晶に触っていると、じんわりと体が温かくなってくる。 構わず水晶を握り続けていると、今度は心臓の鼓動がとくんとくんと速くなってくる。 「ん? 何だろう? 」 清蓮は違和感を感じた。不思議と不快感はなかったが、次第に頬もほのかに紅潮し、体も火照ってくる。 さすがにおかしいと思ったものの、気のせいだろうと気を取り直して、清蓮は店の男の言葉を思い返した。 「目と目があったなら……捕えて、あなたを……離さない……」 清蓮の心臓がドクンと大きく鳴った。 こちらを覗く男の目——- 「あっ⁉︎ 」

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