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第56話
カチャン——
男は振り向いた。
硬質の美貌は時に無表情、時に冷酷にも見え、美しさよりも畏怖が勝ることがある。
だが、清蓮 は男の美貌に圧倒されるが、そこに畏怖は感じない。
それどころか、どこか懐かしささえ感じさせるほどで、演舞場で会ったのが初めてとは思えなかったのだ。
清蓮はこの男のことを知りたかった。
「あの、いろいろと言いたいことや、聞きたいことがあるんだけど……」
「……」
「まずは、あの騒動の時、助けてくれてありがとう。足の手当も。ずっとお礼を言いたいと思ってたんだ」
「……」
男は清蓮を見つめたまま黙っている。清蓮は構わず続けた。
「えっと、あと、これなんだけど……。これは君からの贈り物なのかな? そうじゃないかと思うんだけど、違う? 」
相変わらず男は黙ってはいた。
清蓮は、胸元から水晶の首飾りを出して男に見せた。
男は無言でその様子を見ているが、切れ長の目が、ごくわずか見開くと、その表情が柔らかくなっていくように見えた。
清蓮はその変化を見逃さなかった。
男は何も答えないが、自分の話を一字一句逃さず聞いている。それが、清蓮の質問に対する男の答えなのだ。
そう思うと清蓮は嬉しくなって、相手の返事を待たず、矢継ぎ早に質問を投げかける。
「あぁ、そうだ、君の名はなんて言うの? 君は何故ここに来たの? たまたま私を見つけたの? 」
男は口を開いた。低音の落ち着いた声が清蓮の耳をくすぐる。
「君を——」
清蓮の心臓が、とくんと鳴った。
「君を、捕まえに来た」
「——! 」
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