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第58話

男は清蓮(せいれん)を抱えたまま、隣の部屋へと入っていく。 そこは寝所で、天蓋付きの寝台と鏡台、飾り棚が置かれている。 臙脂色《えんじいろ》の覆われた壁には、赤と白の牡丹が描かれた絵が飾られ、行燈のほのかな灯りがそれを照らしていた。 香の静謐な香りとともに、部屋全体が妖艶な美しさを醸し出していた。 男は清蓮をそっと寝台に寝かせた。 白絹の掛け布に身を置いた瞬間、清蓮の体は柔らかく沈み込んだ。 「? 」 清蓮は、はじめ何が起こったのか分からなかった。 仰向けの姿勢で見上げたすぐ先に男の顔があった。 男は清蓮には跨り、見下ろしているのだ。 「えっ、な、何をする、無礼者! 」 清蓮は男に押し倒されていたのだ。鍵どころの騒ぎではない。 清蓮は男を振り払おうとしたが、自分よりも一回りも大きい男に完全に押さえ込まれ、手一つ動かすこともできない。 「離せ! 一体、何の真似だ! 何を……離せ! 私を誰だと——! 」 男は手で清蓮の口を押さえると、耳元で何か伝える。 その声はあくまで冷静だか、どこか切羽詰まった様子だ。 「えっ、手⁉︎ 足⁉︎ 一体何の話をしているんだ⁉︎ 」 清蓮はさっきから男の不可解な言動に戸惑うばかりだ。 清蓮が混乱するのも無理はない。 男は清蓮に、自分の体にしがみつけといってきたのだ。 急にそのようなことを言われても清蓮にはその意図を知る由もなく、単に男が自分に襲いかかっているとしか考えられない。 男に再会した嬉しさはとうに消え、清蓮は男に恐怖さえ覚え始めた。 「離せ、離すんだ! 」 自分の体にのしかかってくる男から逃れようと、清蓮は渾身の力を振り絞って抵抗するが、清蓮より一回りも大きな男はびくともしない。 男は男で、清蓮を説得することを諦め、実力行使にでた。 「あっ——! 」

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