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第61話
「ふぅ……。それにしても、彼はどこに行ったんだろう? 」
清蓮 は扉に目を向けた。
扉の隙間から、男が隣の客間で店の男から何か受け取っている。
やがて店の男は、男から金を受け取ると、いそいそと部屋を後にした。
男は清蓮のいる寝所の扉をそっと開けた。
手には真新しい肌衣と衣装を持ち、清蓮のそばにそっと置いた。
客間に戻ると、今度は湯の入った小さな桶、盆にのせた唾壺、水差しと湯呑みを持って、戻ってくる。
男はすでに現れた時と同じ翡翠色の上衣を身にまとい、悠然と構えている。
一方の清蓮は、白絹の掛け布を掛けられていたが、衣装も髪も乱れ、わずかな体の火照りもあって艶めいていた。
「殿下……」
清蓮は次の言葉を待ったが、男は清蓮を見つめるばかりだ。
清蓮は彼から話を聞きたいと自ら口火を切ろうとした。
「脱いで」
「えっ? いま、なんて? 」
清蓮は、サッと寝台の縁に身を寄せ警戒する。
「き、君は何を言ってるんだ、今度は脱げたと? さっきは自分を捕まえに来たと言ってたけど、それは嘘で、本当は女を買いに来たんだじゃないのか?
いや、待て、女性(にょしょう)を買うというのなら、私でなく女性(にょしょう)を買えばいい。
私が男だと分かっても、そう言ってくるということは——。
男でも女でもいいのか? どうする?
どうやってここから出る? 彼はかなりの手練だ、勝てるのか? 」
清蓮は、目まぐるしく頭を回転させた。すると、目の前の男がくすくすと笑いだした。
(なぜ笑う? 何がそんなにおかしいのだ? こっちは必死なんだぞ! )
清蓮は困惑するばかりだ。
「殿下、聞こえている」
男は落ち着き払った声で言った。
「えっ? 聞こえてる? 何が? 」
「独り言」
「えっ? えぇっ!」
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