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第71話

「もし良かったら、この中から好きな衣装を着てみて。宮廷で着ていたものに比べると見劣りするかもしれないけど」 部屋中、ところ狭しとずらりと並べられた衣装の数々は、色鮮やかなものから落ち着いた色合いのものまで揃っていて、壮観な眺めだ。 光聖は見劣りすると言っていたが、どこが見劣りするというのだろう。 宮廷で身につけていたものと遜色ないものばかりであった。 「どれも素敵だ。こんなにたくさんどこで集めたの? ここにあるものは光聖、君が選んだんだろう? 」 清蓮は目を輝かせ、衣装一つ一つ手にとると、色合いや質感などを確かめた。 清蓮は華美なものは好まなかったが、それでも職人の手の込んだ仕事ぶりを見るのは楽しい。 (宮廷にいた頃は、母上や名凛と一緒に生地を選んで、かなり手の込んだものをしつらえてもらったな。 三人で仕上がった衣装を着て、お互いの衣装を褒めあって。父上は呆れた顔して見ていた……) 清蓮は手を止めて、重いため息をついた。 つい思い出してしまうのだ。 ちょっとしたことで懐かしい日々を、穏やかな日々を。 清蓮はいまだに信じられなかった。 両親はこの世になく、自分は謀反を起こして、逃亡者になるとは。 現実はいつでも容赦ない。 いとも簡単に清蓮を深淵に底に突き落とす。 「清蓮」 清蓮は不意に名前を呼ばれると、我に返った。 「あ、ごめん。ちょっと考えごとしちゃって。どれも素晴らしいもので、選ぶのが難しいな」 清蓮は光聖に気を使わせたくないと思い、気丈に振る舞おうとしたが、どうにも声は弱々しくなる。 清蓮を見つめる光聖の目も、どこか悲し気だ。 「少し休んだら? 疲れも溜まっているだろうから」 「そうだね、少し横になろうかな」 清蓮は光聖の気遣いに感謝した。 「またあとで衣装を見せてもらうよ。せっかく君が用意してくれたんだ。無駄にはしたくないからね」 清蓮は寝台に横になると、掛け物を頭までかぶった。 歯を食いしばるが小さな嗚咽は抑えきれない。光聖に聞かれたくなかった。 皇太子が人前で泣くなど王族としての誇りが許さない。 国王である父から、王たるものは人前で涙を流すのもではないと教えられてきたからだ。 その教えは清蓮にとって大切なもので、守るべきものだった。 光聖は閉められた扉の前で啜り泣く清蓮の声を聞いていた。 「清蓮、すまない……」 体の傷は簡単に治せる。 しかし——、心に負った傷はそう簡単には治せない。

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