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第73話
「今度こそ、光聖に確かめなきゃ」
清蓮は演舞場で光聖と会った時から少なからぬ縁を感じていた。
きっと自分が思っている以上に、光聖との縁は深いのかもしれない。
そう思うと鬱々とした気持ちに小さな光が差し込むような気がして、清蓮の頬が自然に緩んだ。
「それにしても、光聖はどこに行ったんだろう、隣の部屋にいるのかな? 」
隣の部屋を覗くが、誰もいない。居間も確認するがもぬけの殻だ。
「彼はどこに行ったんだ? 」
清蓮はふと視線を落とした先、卓の上の書き置きに気づいた。
それには流麗な文字で、「すぐ戻る、ここにいて」と書かれていた。
清蓮はその書き置きを小さく畳んで懐にしまった。
卓の上には粥と茶が用意され、どちらも温かく、つい先ほど運ばれてきたのと分かった。
清蓮はありがたく粥と茶をいただくと、もう一度、隣の部屋を覗いた。
部屋の卓の上には、光聖が選んだ衣装一式が整然と並べられていた。
若竹色の衣、絹色に草花が散りばめられた更紗紋様の帯、翡翠の帯留。
白檀扇子は扇いだ時に上品な香りが仄かに漂い、繊細な透かし彫りがなんとも美しい。
さっそく、光聖が選んでくれた衣装を着てみると、鏡台に映る自分の姿を見た。
その衣装は初めから清蓮のために仕立てられていたかのようだ。
若草色も更紗帯も、翡翠の帯留もどれも完璧で申し分ない。
ただ一つ残念なことに、見目麗しい清蓮の両目の瞼は赤く腫れており、彼の美しさを幾分損なっていた。
「ずいぶんと素晴らしい顔をしてるじゃないか、清蓮。せっかくの衣装が台無しだぞ」
鏡に映る不甲斐ない顔を見て、清蓮は苦笑いした。
「もう、泣くのはやめよう。泣いたって現実は変わらない、変えられない。変わるのは……、変えられるのは……自分の心のありようと、これからのことだけだ」
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