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センセー、普通ってなんですか?

「はぁ⋯やっぱり可愛いなぁ」 「うるさいうるさいうるさい!!!お前のせいでこうなったんだよ!!これ、片付けろ!!お前のせいなんだから!!」 「はははっ⋯自分がやったのにわがままだな。わかったよ。ほら、服洗濯するから腕上げて」 「ガキ扱いすんな!!自分で脱げる!!」 強く叫ぶと、服を脱ぎ捨てる。そして寝室から勢いよく出たかと思うとクローゼットに向かい、勝手に直の服をまた着る。 大きすぎてまた肩が大きく出て、ワンピース状態になっている。 「それ、俺の服なんだけど⋯」 「ふんっ、これが楽なんだよ」 満足気な顔をして、してやったりという顔をする。 どうやら反抗のつもりらしい。 「もういいや⋯シーツも汚れちゃったから替えるよ」 「おう、頑張れ」 それが当然かのようにソファに寝転がる。 「えぇ⋯一緒に片付けてくれないの?」 シーツを外しながら、直は困惑した。 「俺のせいじゃねぇし!お前のせいだし!俺悪くねぇもん!!」 「原因は俺かもしれないけど、直接は君のせいでしょ?」 「知らない!!俺は関係ない!!」 「もー⋯しょうがないなぁ。じゃあせめて手伝って、洗濯機押すだけでいいから」 「⋯⋯⋯ふんっ!押すだけならな!」 「よし来た!じゃあこっち!」 汚れたシーツと服を手に持ち、翔太を洗濯機のある浴室に導く。 「ほら、ここに入れて。あっ!ぐちゃぐちゃに入れないでね?広げて入れて」 「はぁ!?なんで俺が!?お前が持ってんだからお前が入れろよ!」 「これも勉強!俺の家で暮らすんなら覚えようよ」 「チッ!⋯わかったよ!入れりゃいいんだろ!!」 直からシーツと服を横取りすると、指示通り洗濯機に入れる。 「えらいえらい!ついでに今日の洗濯物も洗うか」 「はぁ〜?だるっ」 「明日だるいのか今だるいかだけでしょ?ほら、入れる」 今日脱いだ洗濯物が入ったカゴを翔太に渡す。 「くそっ⋯」 ぶつぶつ文句を言いながらも洗濯機に入れる。 「よしっ!次は洗剤ね。はい、これ入れて」 「⋯⋯これもやるのかよ」 「文句言わない。自分で汚したんだからやる」 「チッ⋯」 舌打ちをしながらも洗剤を入れると、直は嬉しそうに頷く。 「うん、上手上手!あとは、スタートボタン押して」 「⋯これか?」 「そうそれ」 「だるっ⋯」 翔太は不満気にスタートボタンを押すと、洗濯機が回り始める。 「いいね!じゃあ、あとは待つだけ!」 「えぇ?めんどうだから明日干そうぜ」 「ちょっ、正気?放置したら洗濯物臭くなるでしょ」 「⋯⋯そんなの知らねーし」 「雑菌が繁殖して臭くなるんだよ⋯⋯もしかしてホントに知らないの?」 こくりと頷く翔太に絶句する。 「マジか。あー⋯そうか、そうか⋯うん、これから覚えよ。ね?」 「⋯⋯やっぱ俺、普通じゃないよな」 しおらしく、しゅんとわかりやすく落ち込む。 「⋯⋯そうかもね。でも、これから覚えればいいんだよ。何事も遅すぎることないんだから。センセーが教えてあげるよ」 「⋯⋯お人好し。なら、教えてくれよ。センセー⋯普通の人間の生活ってやつを」 「普通の人間?」 「普通の生活できても、応用できねぇーもん。今のでよくわかっただろ?人間以下動物未満なんだよ、今の俺」 「⋯⋯⋯また、言ってるよ」 「っ!?ごめん!ホントごめん!!⋯けど、事実だし」 「だから何?要は君は今、赤ちゃんみたいなもんだってことでしょ?上等。教えがいがある。おめでとう、こんな素敵なセンセーと出会えて、君は幸せ者だよ」 「っ!調子に乗るな!!」 「大丈夫。俺が赤ちゃん卒業させてあげる!ゆっくりでいいからね。まずはコツコツと確実にやろう!」 よしよしと翔太の頭を撫でる。 「⋯⋯⋯赤ちゃんはやめろ。恥ずかしい⋯俺、今年で二十一だし」 文句を言いながらも、その手を跳ね除けなかった。 「今年でって翔太、誕生日いつなの?」 「⋯⋯十月二十日」 「もうすぐじゃん!じゃあそれまでに赤ちゃん卒業しよう?」 「はぁ!?勝手に決めんな!!」 「ケーキ用意しよっか!翔太は何が好き?ショートケーキ?チョコレート?チーズケーキ?俺が作ってあげるよ!!」 「⋯ケーキって恋に浮ついた女が作るもんじゃねぇのか?」 「うわぁ、とんでもない偏見だね」 「偏見じゃねぇし。母さんがそうだったし」 「⋯⋯返答に困ることを言うね」 「事実だし」 「うーん⋯君の価値観が狭いことよくわかったよ。その価値観アップデートして、俺は作るから!!」 「そうかよ⋯⋯俺、タルト好き。いちごのやつ」 「⋯っ!?タルトだね!俺頑張って作るよ!ご飯も作るよ、何が好き?」 「⋯⋯ハンバーグ、寿司、麻婆豆腐」 「ははっ!和洋中の欲張りセットだね!いいよいいよ!俺作れるから!あ、辛いのいける?」 「辛いの好き⋯」 「へぇー意外だね」 「ふんっ!見た目で判断するからだよ」 「ごめんごめん!じゃあ山椒きかせちゃおっか!」 「おおっ!マジで!?」 キラキラと目を輝かせ直を見つめる。 「うん、他にも辛いの用意する?」 「おう!⋯⋯っ、わ、悪くねぇな」 子供っぽさを出したのか恥ずかしいのか、すぐにいつもの態度に戻る。そんな翔太を微笑ましそうに見る。 「じゃあ、誕生日は辛いものだらけにしようか」 「マジっ!?俺、アラビアータがいい!!タバスコ絶対用意しろよ!!」 「ふふっ、わかったよ。タバスコ用意しとくから」 「よっしゃ!!」 ガッツポーズをするもののすぐに正気に戻り 「⋯⋯っ!?い、今の忘れろ!!」 顔を真っ赤にして、直を叩く。 「痛い痛い!!わかった、忘れる。でも君の誕生日計画は忘れないからね」 「勝手にしろ!!俺はもう寝る!!」 怒りながら部屋から出て、寝室に向かう。 「もー結局俺が干すんだね⋯まぁいいや。 でも、楽しみだな⋯ねぇ翔太。俺、まだ先生じゃないけど⋯未熟なセンセーだけど、君が心の底から生きててよかったって⋯言えるようにしてみせるよ」 洗濯機の回る音が、部屋に響き渡る。 「絶対に⋯⋯」 呟きは洗濯機の回転音に溶け、夜の静けさへと吸い込まれていった。   ―――――――――――― 「⋯⋯寝ちゃってるか、やっぱ」 洗濯物を干し終えて、直が寝室に戻ると翔太は案の定ベッドの上ですやすやと寝ていた。 (あっ、真ん中で寝てない⋯)   直が寝やすいようにか、翔太は奥の方で縮こまって寝ていた。 (⋯⋯あんなに言っといて優しいのは君もじゃん) サラサラとした前髪に触れると、額にキスをする。 「おやすみ⋯翔太」

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