6 / 15
センセー、普通ってなんですか?
「はぁ⋯やっぱり可愛いなぁ」
「うるさいうるさいうるさい!!!お前のせいでこうなったんだよ!!これ、片付けろ!!お前のせいなんだから!!」
「はははっ⋯自分がやったのにわがままだな。わかったよ。ほら、服洗濯するから腕上げて」
「ガキ扱いすんな!!自分で脱げる!!」
強く叫ぶと、服を脱ぎ捨てる。そして寝室から勢いよく出たかと思うとクローゼットに向かい、勝手に直の服をまた着る。
大きすぎてまた肩が大きく出て、ワンピース状態になっている。
「それ、俺の服なんだけど⋯」
「ふんっ、これが楽なんだよ」
満足気な顔をして、してやったりという顔をする。
どうやら反抗のつもりらしい。
「もういいや⋯シーツも汚れちゃったから替えるよ」
「おう、頑張れ」
それが当然かのようにソファに寝転がる。
「えぇ⋯一緒に片付けてくれないの?」
シーツを外しながら、直は困惑した。
「俺のせいじゃねぇし!お前のせいだし!俺悪くねぇもん!!」
「原因は俺かもしれないけど、直接は君のせいでしょ?」
「知らない!!俺は関係ない!!」
「もー⋯しょうがないなぁ。じゃあせめて手伝って、洗濯機押すだけでいいから」
「⋯⋯⋯ふんっ!押すだけならな!」
「よし来た!じゃあこっち!」
汚れたシーツと服を手に持ち、翔太を洗濯機のある浴室に導く。
「ほら、ここに入れて。あっ!ぐちゃぐちゃに入れないでね?広げて入れて」
「はぁ!?なんで俺が!?お前が持ってんだからお前が入れろよ!」
「これも勉強!俺の家で暮らすんなら覚えようよ」
「チッ!⋯わかったよ!入れりゃいいんだろ!!」
直からシーツと服を横取りすると、指示通り洗濯機に入れる。
「えらいえらい!ついでに今日の洗濯物も洗うか」
「はぁ〜?だるっ」
「明日だるいのか今だるいかだけでしょ?ほら、入れる」
今日脱いだ洗濯物が入ったカゴを翔太に渡す。
「くそっ⋯」
ぶつぶつ文句を言いながらも洗濯機に入れる。
「よしっ!次は洗剤ね。はい、これ入れて」
「⋯⋯これもやるのかよ」
「文句言わない。自分で汚したんだからやる」
「チッ⋯」
舌打ちをしながらも洗剤を入れると、直は嬉しそうに頷く。
「うん、上手上手!あとは、スタートボタン押して」
「⋯これか?」
「そうそれ」
「だるっ⋯」
翔太は不満気にスタートボタンを押すと、洗濯機が回り始める。
「いいね!じゃあ、あとは待つだけ!」
「えぇ?めんどうだから明日干そうぜ」
「ちょっ、正気?放置したら洗濯物臭くなるでしょ」
「⋯⋯そんなの知らねーし」
「雑菌が繁殖して臭くなるんだよ⋯⋯もしかしてホントに知らないの?」
こくりと頷く翔太に絶句する。
「マジか。あー⋯そうか、そうか⋯うん、これから覚えよ。ね?」
「⋯⋯やっぱ俺、普通じゃないよな」
しおらしく、しゅんとわかりやすく落ち込む。
「⋯⋯そうかもね。でも、これから覚えればいいんだよ。何事も遅すぎることないんだから。センセーが教えてあげるよ」
「⋯⋯お人好し。なら、教えてくれよ。センセー⋯普通の人間の生活ってやつを」
「普通の人間?」
「普通の生活できても、応用できねぇーもん。今のでよくわかっただろ?人間以下動物未満なんだよ、今の俺」
「⋯⋯⋯また、言ってるよ」
「っ!?ごめん!ホントごめん!!⋯けど、事実だし」
「だから何?要は君は今、赤ちゃんみたいなもんだってことでしょ?上等。教えがいがある。おめでとう、こんな素敵なセンセーと出会えて、君は幸せ者だよ」
「っ!調子に乗るな!!」
「大丈夫。俺が赤ちゃん卒業させてあげる!ゆっくりでいいからね。まずはコツコツと確実にやろう!」
よしよしと翔太の頭を撫でる。
「⋯⋯⋯赤ちゃんはやめろ。恥ずかしい⋯俺、今年で二十一だし」
文句を言いながらも、その手を跳ね除けなかった。
「今年でって翔太、誕生日いつなの?」
「⋯⋯十月二十日」
「もうすぐじゃん!じゃあそれまでに赤ちゃん卒業しよう?」
「はぁ!?勝手に決めんな!!」
「ケーキ用意しよっか!翔太は何が好き?ショートケーキ?チョコレート?チーズケーキ?俺が作ってあげるよ!!」
「⋯ケーキって恋に浮ついた女が作るもんじゃねぇのか?」
「うわぁ、とんでもない偏見だね」
「偏見じゃねぇし。母さんがそうだったし」
「⋯⋯返答に困ることを言うね」
「事実だし」
「うーん⋯君の価値観が狭いことよくわかったよ。その価値観アップデートして、俺は作るから!!」
「そうかよ⋯⋯俺、タルト好き。いちごのやつ」
「⋯っ!?タルトだね!俺頑張って作るよ!ご飯も作るよ、何が好き?」
「⋯⋯ハンバーグ、寿司、麻婆豆腐」
「ははっ!和洋中の欲張りセットだね!いいよいいよ!俺作れるから!あ、辛いのいける?」
「辛いの好き⋯」
「へぇー意外だね」
「ふんっ!見た目で判断するからだよ」
「ごめんごめん!じゃあ山椒きかせちゃおっか!」
「おおっ!マジで!?」
キラキラと目を輝かせ直を見つめる。
「うん、他にも辛いの用意する?」
「おう!⋯⋯っ、わ、悪くねぇな」
子供っぽさを出したのか恥ずかしいのか、すぐにいつもの態度に戻る。そんな翔太を微笑ましそうに見る。
「じゃあ、誕生日は辛いものだらけにしようか」
「マジっ!?俺、アラビアータがいい!!タバスコ絶対用意しろよ!!」
「ふふっ、わかったよ。タバスコ用意しとくから」
「よっしゃ!!」
ガッツポーズをするもののすぐに正気に戻り
「⋯⋯っ!?い、今の忘れろ!!」
顔を真っ赤にして、直を叩く。
「痛い痛い!!わかった、忘れる。でも君の誕生日計画は忘れないからね」
「勝手にしろ!!俺はもう寝る!!」
怒りながら部屋から出て、寝室に向かう。
「もー結局俺が干すんだね⋯まぁいいや。
でも、楽しみだな⋯ねぇ翔太。俺、まだ先生じゃないけど⋯未熟なセンセーだけど、君が心の底から生きててよかったって⋯言えるようにしてみせるよ」
洗濯機の回る音が、部屋に響き渡る。
「絶対に⋯⋯」
呟きは洗濯機の回転音に溶け、夜の静けさへと吸い込まれていった。
――――――――――――
「⋯⋯寝ちゃってるか、やっぱ」
洗濯物を干し終えて、直が寝室に戻ると翔太は案の定ベッドの上ですやすやと寝ていた。
(あっ、真ん中で寝てない⋯)
直が寝やすいようにか、翔太は奥の方で縮こまって寝ていた。
(⋯⋯あんなに言っといて優しいのは君もじゃん)
サラサラとした前髪に触れると、額にキスをする。
「おやすみ⋯翔太」
ともだちにシェアしよう!

