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センセー、世話焼きすぎです
朝六時――
ジリリリリリリリ
目覚まし時計の音が部屋に響く。
眠い目をこすりながら、直はむくりとベッドから起き上がる。
顔を洗い、歯を磨き、服を着替える。
そして、台所に立つと朝食の準備を始めた。
(今日から二人分か⋯まぁ一人も二人も変わらないか)
今日の朝はご飯・豆腐とわかめの味噌汁・卵焼き・焼き鮭。
さっそく冷蔵庫からまず卵を取り出す。
「⋯よし」
卵を二つ、軽く叩いてボウルに割り入れる。
菜箸で溶きほぐし、砂糖と醤油をほんの少し。
温まったフライパンに卵液を流し込むと、じゅうっと音が弾け、甘辛い匂いが立ち上った。
菜箸で手際よく巻いていけば、黄色い層が重なっていき、ふっくらとした卵焼きが出来上がった。
(次は鮭⋯)
アルミホイルを敷いたグリルに切り身を並べ、火をつける。
(この隙に味噌汁作ろ。出汁取らなきゃ⋯)
鍋に水を張り、弱火にかける。
沸騰したら火を止め、鰹節をひとつかみ分、水に入れる。
ふわりと鰹節の匂いが広がった。
(うん、いい匂い)
一分ほど待ち、箸で軽く沈める。鍋の中で鰹節がゆっくり沈んでいく様子を見届け、直は静かに濾した。
鍋に残ったのは、澄んだ黄金色の出汁。
(よし、次は⋯)
そこへ豆腐をさいの目に切り入れ、乾燥わかめを散らす。火を止め、最後に味噌を溶き入れる。
少し味見をする、
「⋯うん!美味しい!」
(そろそろかな⋯)
グリルの中を見る。
鮭の切り身がいい具合に焼きあがっていた。
「できた」
できあがった料理を皿に盛り付け、机に並べる。
「さてと、起こすか⋯」
寝室に向かう。そこにはまだすやすや寝ている翔太の姿があった。
口の横には涎がついてて、だらしない。
「もー可愛いなぁ⋯じゃなくて翔太、起きて!」
ゆさゆさと揺すり、起こす。
「んっ〜⋯⋯なんだよ⋯今、何時?」
「六時半過ぎ」
「はぁ?まだ朝じゃねぇか⋯寝かせろよ」
「ダメ!俺ん家で過ごすなら、朝起きるって言っただろ?はい!起きた起きた!!」
そう言うと翔太に掛けられていた薄手の掛け布団をガバッとはがす。
「あ〜ん⋯俺のオフトゥン⋯」
「ほら、顔洗ってきて」
「えー?やんなくていいだろ?死にやしないし⋯めんどい」
「ちょっ!?もしかして今までも朝、顔洗ってこなかったの!?⋯⋯信じられない⋯今すぐ洗って!!ほら!!」
両手をグイッと引っ張り無理やり起こす。
「うぅー⋯眠い⋯」
手首を引っ張られ、無理やり歩かされる。
足を引きずるように歩く姿は、完全に子どもだった。
(世話のかかる子どもだなぁ⋯)
洗面台に着くと、意外にも翔太は素直に顔を洗い出した。
「ほら、これでいいだろ?」
タオルで濡れた顔を拭きながらドヤ顔で言う。
「⋯⋯歯磨きは?」
「はぁ?朝もすんの?」
「当たり前だよ!!口の中気持ち悪いだろ!!磨いて!」
翔太の歯ブラシを突き出す。
「なんだよ、めんどくせぇー⋯わぁーたよ。やるよ」
それを受け取ると、歯を磨き始める。
「ちゃんと二分磨いてよ?」
「二分!?長っ!!」
「それが適正時間なんだから文句言わなずにやる!はい、タイマースタート」
スマホのタイマーを押す。
「めんどいって⋯」
そう言いながらも、なんだかんだで磨く翔太に直は微笑ましく見守る。
「⋯⋯こんなの言われたことなかった」
「え?」
「⋯⋯こうやってやりなさいよって言われるの」
「そっか⋯⋯じゃあ、これから毎日やるように言ってあげるからね!目指せ、赤ちゃん卒業!」
「うざっ⋯赤ちゃん扱いやめろや。なぁーまだー?」
「まだ全然だよ。三十秒経っただけだよ」
「長い⋯⋯」
(⋯⋯でも、悪くないかも)
不満を言いつつも、心の中で翔太は安堵する。
(こんなに手がかかるのに、苦じゃない、むしろ楽しいや)
そして、この状況を楽しんでいる直の姿もあった。
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