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センセー、ライバル登場したけどどうすんの?

「はい、今日はここまで。では、今月末までにレポートを出してくださいね」 チャイムが鳴り終わると、教授はそう言い講義室を出ていく。 教室はざわざわと騒がしくなる。 「いや〜テストいけたいけた!翔太様様だな!」 健はニコニコと笑い、翔太の肩を組む。 翔太は嫌そうにそれを跳ね除ける。 「う〜ん⋯俺は多分いけたと思うけど⋯自信ないな⋯」 茂は自分のノートを何度も見返しながら、不安げにしょぼくれていた。 「⋯⋯茂と健。君たちまた翔太に頼ったんですか?」 眉をひそめながら、翔太の大学の知り合いの一人、中園遼(なかぞのりょう)は吐き捨てるように言う。 「だって遼が嫌だって言うんだも〜ん。なら、翔太に頼るじゃん?」 「翔太に感謝感激雨あられ!!」 「茂〜よくそんな難しい言葉知ってるな〜目指せ馬鹿脱却!」 「わーい!褒められたー!!」 「茂⋯それは馬鹿にされてるんですよ⋯」 頭を抱え、はぁーとため息をつく。 「翔太も嫌なら嫌と言わないと二人がつけあがりますよ?」 「もういい⋯俺はどうせ、こいつらの便利屋なんだからよ」 机に突っ伏し、気だるそうに呟いた。 「はぁー⋯相変わらず翔太は優しいですね」 女子を安心させるような爽やかな笑みを浮かべながら言う。   「どこがだよ」 「そうやって、すぐ諦めるところが優しいんですよ」 「はぁ?俺が軟弱だってのか!!」 「ふふっ、そうは言ってないですよ。可愛いなって」 「馬鹿にしてるのか!!」 「あー!遼が口説いてるー。でも、ダメだぜ?翔太にはもう結婚を決めた相手いんだから〜」 「⋯⋯⋯はぁ?」 遼のにこやかな顔がすっと消える。 仮面を剥がしたかのように、冷えきった真顔で健を鋭い視線で見据えた。   「おーこわっ!でももう皆噂してんだぜ?経済学部のおチビさんが教育学部の王子様と結婚するって」 わざとおどけ、肩をすくめる健。 口元はにやりといたずらっ子のように歪んでいた。 「確かに!さっきから皆、翔太のこと見てるもんなー!」 昼の食堂での騒ぎがもう広まっているのか、先程からちらちらと翔太に視線を投げる人間が何人もいた。 「⋯⋯どうりで視線を感じると思いました。で?どういうことですか?翔太?」 「べ、別に!結婚云々はこいつらが食堂で悪ノリしただけだよ!」 「でも〜同棲してるのは事実じゃん?」 「どっ!?⋯翔太!?君、あの教育学部の人と恋人なんですか!?」 「ちがわい!!同居だよ!住まわせてもらってるだけだよ!ざっけんな!!」 「え〜?それにしては顔真っ赤だったじゃ〜ん」 「確かに!今まで見た事ないぐらい顔真っ赤だったよね!!」 「ざけんな茂!お前は喋んな!!!!」 「え!?また俺なんか言っちゃった!?」 口元を両手で塞ぎ、涙目でおろおろと視線を泳がせる。 まるで子犬が許しを乞うてるようだ。   「いやいや!ナイスだったぞ〜俺にはお前がナンバーワンだったぞ、茂!バカワイイぞ〜」 「そ、そう?えへへ⋯」 茂を抱き寄せ、犬にあやすように頭をわしゃわしゃと撫でる。馬鹿にされているはずなのに、茂はそれを嬉しそうに受け入れていた。 「⋯⋯君らの漫才はもういいですよ」 遼は冷めた声で言う。唇は笑っていたが、その瞳は冷ややかだった。 「俺はその一緒に住んでいるのが聞き捨てなりませんね⋯」 「言葉通りだよ。いろいろあって住まわせてもらってんだよ⋯恋人では絶対ない!!」 「へぇー⋯そうなんですね⋯それなら俺にもまだチャンスがあるってことか」 「あ?なんか言ったか?」 「ううん⋯なんでもないですよ?」 声は穏やかだが、目は笑っていなかった。 「あっ、もうこんな時間か〜⋯俺らこれからサークルだから行くわ」 健は立ち上がると、茂の腕を無理やり掴み、引っ張りあげる。 「健!自分で立てるから!痛い!!」 「⋯⋯君たち、レポートはどうするんです?」 「あとであとで!どうせ今月末までだろ?」 「そう言って何回泣きついてきたんですか⋯俺は手伝いませんよ。もちろん、翔太も!!」 「ちぇー⋯ケチ!まっ、いいし!俺、天才だから一日でやってやるし〜」 「はははっ!健ができるわけないじゃーん!」 「茂〜お前も言うようになったな〜てい!」 茂に額に強めのデコピンをお見舞いすると、乾いた音が響く。 「いっっったぁぁ!!本気で痛い!!」 「べぇーだ!茂のくせに生意気言うからだ。んじゃあなー!」 健はひらひらと手を振り、その場を後にする。 「痛いよー⋯あっ!待ってよ健!⋯じゃ、じゃあね!!」 額を抑えながら健のあとを追いかけるように茂も走り去っていった。 「嵐が去ったな⋯」 「そうですね⋯翔太。俺、これから図書館でレポートの参考文献探そうと思うんですけど一緒にどうですか?」 「えぇ⋯面倒くさ。まぁ今やるかあとでやるかの違いだもんな。行く⋯⋯」 「よし、じゃあ行きましょうか」 「おう⋯」 「ほら」 遼は立ち上がると翔太に向かって手を差し伸べた。 「⋯⋯なに?」 「なんとなく。こうしたい気分だったからですよ」 (なんとなくって⋯馬鹿にしてるのか!) 転んだ幼子を立たせるような行動にイラつきを覚えてしまう。 「ふざけんな!一人で立てる!!」 差し出された手を反射的に跳ね除け、勢いよく立ち上がる。 「行くぞ!!」 遼を一人残して、講義室を後にする。   「⋯⋯⋯俺の手は掴んでくれないんだね」 呟いたその声は、誰にも聞こえなかった。 静まり返った講義室にだけ、ひっそりと落ちていった。

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