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センセー、怒らせちゃったね
「⋯⋯ねぇ、翔太?」
「んー⋯?」
翔太はソファを占拠し、だらしなく足を投げ出しながらスマホをいじっていた。
あれから二人への違和感を抱えたものの、つつがなく課題は進み、レポートをあとは家で書くのみの段階に来ていた。
この段階になると、遅々として進まないのが人間である。翔太もその一人で帰宅して一度、ノートパソコンを開いたものの、「今日は無理!」と投げ出していた。
そして今はネットの海へと旅立っている。
「中園くんってどんな人なの?」
「はぁー?なんでそんな事聞くんだよ?」
「うーん⋯翔太の友達だから知っときたいなって」
嘘である。
出来れば関わりたくないが、敵を知るには情報が必要なのも真理だ。
(翔太といたらこれから絶対関わる人だから知っといた方がいいよね)
「あー⋯別に友達じゃねーからそんなには知らねぇぞ」
「え⋯?」
直は思わず声を漏らした。あれだけ距離が近い相手をバッサリ切り捨てたからだ。
「あ、あんなに仲良さそうなのに」
「なんとなく知り合って授業一緒に受けてるだよ⋯⋯大学ってのは知り合いが多い方が有利だろ?だからあいつ俺と一緒に行動してるんだろうよ⋯⋯お優しいよな、あいつ⋯俺みたいな便利屋と付き合うんだから」
「じゃ、じゃあ、あの二人は⋯?」
「二人⋯?あぁ、茂と健のことか。あいつらは俺といると便利だからいるだけだろ?だから友達じゃねぇよ。あいつらにとっちゃ、俺は便利屋なんだよ」
「それは⋯」
こじらせている――
直が思っている以上に翔太はこじらせていた。
どう見ても友達にしか見えないのに⋯なぜそう切り捨てるのか翔太にはわからなかった。
(どうして、便利屋だなんてひどいことを言えるんだ)
「んで、遼のことを聞きたいんだっけ?あいつ会った時からあんな感じだぜ?気持ち悪いぐらい優しいんだよな⋯女子にもあんな感じだからよく告白されてたけど、誰とも付き合わないから恋愛に興味ないのかもなー。あ、あとインターンで内々定もらってたな⋯思い出してもムカつく」
「そうなんだ⋯」
恐らく、翔太のことを好きだから告白も断ってきたのだろう。けれどここまで徹底して友達じゃないと切り捨てるのを見ると、敵ながら同情してしまう。
「それじゃあ⋯俺は?」
「⋯⋯はぁ?」
「君がそれだけ周りの人を友達じゃないと言ってるけど⋯俺はなんなの?」
「⋯⋯なんなのって。そんなの――」
――同居人だろ?
「えっ⋯」
何を言ってるかわからなかった。
「あっ、でもホントに感謝してるから!お、俺の中では好感度ダントツで高いから!こんな俺を住まわせてくれて⋯いろいろ世話焼いてもらってありがたいと思ってるからさ⋯」
翔太は伏し目がちで曖昧に笑っていた。
(友達なんて⋯ましてや恋人なんて思ったら駄目だ⋯期待した分、裏切られた時の反動が大きくなる)
――本音は押し殺し、心の中だけで呟いた。
(⋯なんで、あれだけ好きって言ったのに⋯君に誓ったじゃないか⋯)
けれどいくら翔太が心の中で本音を呟いても、声に出さなければ、そんなものは伝わらない。
「好きって⋯信じるって言ったじゃないか」
「うっ⋯あ、あれはセックスで昂ったというか⋯い、勢いで出ちゃった言葉だろ?」
顔を赤くし、視線を逸らす。
「ば、馬鹿だよな俺?⋯あんなこと言っちゃって⋯めんどくさかったよな?で、でもさ、あんなの冗談だもんな?ベッドの上での戯言っていうか⋯直だって本気で言ってないだろ?」
「っ⋯なんかじゃ⋯」
「え⋯?」
「冗談なんかじゃない!!俺はあの時、本気で言ったんだ!!」
声が図らずも荒くなる。
胸の奥にためこんでいたものが一気に溢れ出し、直は拳を震わせた。
「俺は⋯俺は本気で言ったんだ!!翔太がそんな風に思ってたなんてショックだよ!そんな風に思ってただなんて⋯悲しいよ」
「ご、めん⋯なんで、そんな怒ってんだよ⋯」
「⋯⋯わからないんだ?翔太ってホントに、鈍いね。いいよ、俺が教えてあげる。俺が本気だってこと――わからせてあげるね」
(そうだ、何回も言わないと、教えこまないとこの子には伝わらない⋯)
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