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第13話 離れて気がつく

列車の窓の外を、眺めると木々と街並みが流れていく。  ビジネスバッグの中には、資料とノートパソコン。心には少しの安堵と、寂しさが総の心を閉める。  「·····なんなんだよ·····」  “総さん、ちゃんとご飯食べてくださいね”  と、LIMEのある字が表示される。  それを見た瞬間、  胸の奥がふっと温かくなる。 ⸻  出張先のホテル。  窓の外には高層ビルの夜景。  部屋の灯を落とすと、  静寂が思いのほか重たくのしかかった。  「……あいつ、今頃何してるんだ」  言葉にした瞬間、  自分がこんなにも“気にしている”ことに気づいて苦笑した。  彩芽がここにいないだけで、  空気の色まで違う気がする。  部屋が、広すぎる。視線がないのが落ち着かない ⸻  シャワーを浴び、  白いシャツの袖をまくったまま、  ベッドの上に資料を広げた。  仕事に集中しようとしても、  視界の端に浮かぶのは、  金色の髪と、笑う顔。  「待ってますから」  出発の朝に、彼が言った言葉。  その声が耳の奥で繰り返される。 ⸻  ――待ってくれている。  そう思うだけで、  不思議と背筋が伸びた。  この三日間、俺がやるべきことをきちんと終えて、  胸を張って帰るために。  ただ“会いたい”という感情だけで、  今まで生きてきたわけじゃない。  だが、  “誰かが待ってくれている”というだけで、  仕事に意味が生まれることを、  今の俺は知っている。 ⸻  夜。  ベッドの上に携帯を置いた。  メッセージを開いては閉じる。  何度も。  たった一言、  “元気にしてるか”と送りたかった。  けれど、彼はちゃんと約束を守って、  「待ってる」と言った。  だから俺も、同じように信じなければならない。  互いに信じ合うことが、  この関係を形にする唯一の方法だから。 ⸻  窓の外に月が浮かんでいた。  白い光が、ホテルの部屋に静かに差し込む。  「彩芽……」  名前を呼ぶと、  胸の奥がじんわりと痛くなる。  どうして、  こんなに離れるのが辛いんだろう。  ほんの三日なのに。  ――きっと、もう完全に彩芽の瞳に(依存)をしている。  自覚して、  ゆっくりと息を吐いた。 「あんなに拒んでいたのに俺も、俺だな·····」 ⸻  三日後の帰路、  列車の窓に映った自分の顔が少し柔らかく見えた。  (ただいま、って言える場所がある)  それだけで、  こんなにも帰る道が明るく感じるとは。  彩芽。  お前が待っていてくれるなら、  俺は何度でもここに帰る。  ――どんな遠くへ行っても。

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