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小話:1125(いい双子)の日ss

                     ――今日は十一月二十五日……すると語呂合わせで「いい双子の日」なんだそうである。      僕はシタハルがこういったイベント好きなことをよく知っている。――伊達にその男の、唯一無二の理解者にして双子の兄・天上春命(アメノウワハルノミコト)ではないのだ。  したがって今日にシタハルが何か仕掛けてくるのではないか、と僕は朝からいささかの期待をもって過ごした。    …しかし……――。    僕たちの自室であるここは、古い日本家屋のその一室だ。またあとは寝るだけともあって、この広い木造の一室はうす暗く、明かりとなるものは枕もとに置かれた行灯(あんどん)の他に何もない。   「ふぁぁ…」――白い寝間着姿のシタハルが僕の隣で大あくびをする。   「……、…」    僕はこうしてとっぷりと日が暮れた夜ともなって、こうして一緒の布団にならび入って座ってもなお何も仕掛けてこないシタハルに、――片頬がひきつれるほどの悔しい気持ちを抱いた。  別に己の期待を裏切られたからというのではない。そもそも僕のその期待には、具体的な希望など何一つ(はら)んではいなかった。――そもそもそんな「いい双子の日」なんてもの、僕は実にどうでもよいといったらどうでもよいのである。   「……、…」    ただ、…この男の双子の兄として、この男の興味関心、そしてその言動を読みきれなかった――いや、その読みが外れたことが、悔しくてならないのである。     「いやいや…」とここでシタハルがいつもののんびりとした声で、   「いい双子の日って、ウエが俺にサプライズしてくれる日でしょぉ…」    ぬけぬけとそんなことを言う。――「誰が」僕はそう低声(こごえ)で返す。  ……シタハルは僕の思考などお見通しだが、しかしそれは僕も同じこと。――するとこいつ、昼間から一度も「いい双子の日」に関する思考をしていなかったわり、こうしてそのイベント自体は知り及んでいるではないか。  なるほどあえてそれに関する思考をせず――僕にその思惑を読ませず――、僕に何かをしてもらおうと図々(ずうずう)しく考えていたわけか。   「……ふん…図々しい。だが――いいよ。」    しかし僕はこの小(ずる)い弟・シタハルの兄、…弟のおねだりの一つや二つ、まあ応じてやってもいい。   「…僕に何をしてほしいの」    僕はふと隣のシタハルに顔を向けた。  うなだれているシタハルは、そのゆるい癖のあるゆたかな長い銀髪を、なぜかまた後頭部も高い位置で一つにくくっている。   「ん〜〜…まずはぁ、…可愛くおねだり…?」   「……、…、…」    僕は眉をひそめながらうつむいた。  僕の頭の中に、その「可愛くおねだり」の詳細が流れ込んでくる。――にわかに僕の頬は羞恥に燃え、…しかしその羞恥心は、僕の下腹部の奥をも(あぶ)ってうずかせる。  ……そして髪をポニーテールにし終えたシタハルは、うつむいた僕の顎を下からすくい上げ、近寄せたその妖しい真紅の瞳で微笑しながら、   「……ね…お兄ちゃん…?」    とやたら挑発的に甘えてくる。   「……、…」    僕はシタハルのこの強気に出た態度には…どうしても従順になってしまうのだ…――ドキドキと胸が高鳴るなか、…僕の顔はふいっと顎の下に添えられた彼の人差し指から逃げ、そして僕は斜め下へ顔をうつむかせる。   「……、…、…」    そしてそっと…――指示どおり――黒い寝間着の(えり)を、わり開いてゆく。   「し…シタ…?」   「…ん…?」   「……、…」    僕がこれから言うこと、…言うべきことは、すべてこのシタハルの指示どおりのことである。  ――僕は自ら真っ白な胸板をあらわにし、泣きそうになりながら、こうか細い声で言った。   「ぉ…お兄ちゃんね…、もうシタハルが、欲しくて…むらむら、しちゃってるの…――だから今日は、…お兄ちゃんが、積極的に……」   「ん? なんかちがくない…?」   「……、…」    たしかに、指示どおり…――ではない。  僕はあまりの羞恥から改変したのだ。  そんなこと許されるはずもないというのに…。   「あはは…てかウエ、言わされてるだけで乳首()ってるぅ…――でも、ちゃんと言わないと触ってあげな〜い…、えへへ……」   「……、…、…」    僕は眉を寄せながら目をつむった。  単純にムカッとはきた。だが、兄として。  憎たらしいこいつの兄として、…僕がこれからどれほど恥ずかしいことを言ったって、しかし僕の威厳は保たれるのである。    ――なぜか?    僕が先に生まれている兄だからだ。  こいつは残念ながら永遠に僕の弟。僕の犬。こいつは永遠に僕の思うままになる弟なのだ。  ……そう思えば多少の威厳は保たれる。   「はーー…っ」    僕はいら立ちを吐き出した。  しかし胸もとはあらわなまま、斜め下へ顔を伏せ、目もつむったままに切り替えて、あえて作りこんだ甘い声でこう言ってやる。   「お兄ちゃんね…、実は今日、シタのおちんちんのことばっかり考えていたんだ…」    嘘だ。まさかそんなわけないだろ。  ――しかし僕は兄として。こう続ける。   「ずっと我慢していたんだよ…? 本当は今日一日、ずっとシタハルとえっちしたくてしたくて……一日中、ずぅっとえっちな気分だったんだから……」   「え〜〜? えへへ…言ってくれたらいつでも抱いてあげたのになぁ……」   「チッ…」    調子に乗るなよシタハル。   「乗ってないよ…そういうプレイじゃん…?」   「君が勝手に始めたプレイだろ」   「…えーじゃあやめる…? もう寝よっか…?」   「……、…」    もうむらむらしてるのに…――僕はむっとしながらも薄く目を開け、火照っている伏し目で更にこう、シタハルの指示どおりのセリフを口にする。   「…はぁ…、…だから…お兄ちゃん…、シタが、お兄ちゃんを抱いてくれるなら…――今日は特別に、どんなに恥ずかしいことでも…何でも…してあげる……」   「…えー何でもぉ…?」    とニヤニヤしているシタハルが、…やっぱり調子にのっている。  ……しかし僕は顔をそむけたまま(指示どおり)シタハルの股間を、…もうこんなに硬く、…まさぐりながら、   「…だから、ま…まずは…、お兄ちゃんに…シタのおちんちん、いっぱい…舐めさせて……? 大好きなシタが気持ちよくなれるように…お兄ちゃん、いつもよりおしゃぶり…喉の奥まで、頑張るから……」   「…だめ。」   「……は?」    僕は素にもどってシタハルを見た。  シタハルは頬を赤らめながら、にこっと可愛い笑顔をうかべる。   「…〝いい双子の日〟なんだし…、ここは対等に…弟の俺もお兄ちゃんのこと、いっぱい気持ちよくしたげるね……♡」   「…いやいい…」    お前の「いっぱい気持ちよく」は、(ほしいまま)のほとんど拷問レベルの快感責めだろうが。それは僕に対する奉仕とはいえない。   「いやいや…お兄ちゃんへの、日頃の感謝も込めて…?」    とシタハルが無理やり僕を押し倒してくる。日頃の感謝とか言いながらのくせ、かなり力強く。――僕は迫ってくるシタハルの顔を手で押し返す。   「……っ! い、いいってば、嫌だ、だって、」   「…なに」   「僕が弟の君に奉仕するほうが屈辱的で感じるんだもん…っ!」    ……あ、――つい本音をもらしてしまった。  しかしシタハルも引かない。   「だってウワハル…、俺にいじめてもらえるんだよ…?」   「……、…」    それは……。   「おかしくなるくらい恥ずかしい目に合って…、おかしくなるくらい気持ちよくさせられて…、めちゃくちゃになりながら…――俺に〝可愛い、お兄ちゃん〟って囁かれるんだよ…?」   「……、…」    それは…、いや君…今――僕を「可愛い」と言ったか…?   「うん。ウワハルはかわいいよ…?」    僕はふとシタハルを見上げた。   「許す。…僕を存分に可愛がれ、我が弟よ。」   「わかったぁ、お兄ちゃん…♡ ……」    シタハルの唇が、僕の首筋に触れる。     「……ん…♡ ……――。」      結局…可愛い弟にはかなわないのが、兄か…――。     「え、ふふ…お兄ちゃんがドMなだけでしょ…?」   「……、…」    それは……――僕はシタハルの背中にしがみつき、腰を揺らしながら屈服した。     「んん…♡ もう、意地悪…♡ もういいから早くぅ…、いやらしいドMのお兄ちゃんを、いっぱいいじめて…――僕の可愛い弟よ…♡」        ――このあとめちゃくちゃ…双子の弟にいじめてもらった…♡        いい双子の日ss 了  

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