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「……、…」
――やっとわかったような気がする。と僕は目を伏せたまま考える。
何が、というと、…これはあまり本題とは関係のない話ではあるのだが――先ほど僕は、分霊である僕たちの一時的な別離を、今もなおひき続き天上では共にいるウワハル・シタハルが、僕の夢の中であれほどまでに悲観していたのに対し、『少々大げさだ(自分たちのほとんどは変わらず一緒にいられるというのに)』だなんて思っていた。
しかし今になってやっと、僕にも彼らのあの沈痛な心もちの理由が、少し理解できたような気がしたのである。
ただこの理解にはいささか「感覚的な」ところもあるのだが――そもそも分霊であろうが、僕たちは結局のところ彼 ら 自 身 らしいのだ。すると、もはや「彼ら」というのさえ本当は間違っているのかもしれない。
――しかしいずれにしても…今僕が経験し、そして今考えているこのことさえも、天上にいるウワハルにはリアルタイムで痛切なほど伝わっている、共有されている…いや、――天上のウワハルもまた、僕 を 体験しているに違いない。
そうして彼らは僕たち分霊が経験していることを、これまでにもつぶさに体験してきたばかりか――僕たちという分霊の別離の痛みを、まさに我が身のそれとして体験したばかりか――ウワハル・シタハルという両神は、「離れられない運命 」とまで創造主に決められている以上、きっとこれまでは今回ほどの長い期間、離ればなれになったことなどなかったのだろう。
そして、そもそもウワハル・シタハルにとってのお互いとは、離れがたい「半身」――それもそれは心理的な紐帯 のみにとどまらない、実際的な、肉体的な、神として在 る以上は離れることなど許されない、まさに「比翼 の鳥」や「車の両輪」とでもいうべきか、それこそ生きるために共に在らねば死んでしまう、とさえいっても過言ではない――そうしてその二神を結びつけているものとは、そういった決して断ち切ることのできない「運命 の紐帯」である。
となれば当然彼らにとっての「別離」とは、普通のそれよりももっと深刻な課題といえるだろう。もはや我が身に係 わっていることだからである。
すると僕ら分霊というたった一部の別離でも、彼らが寂しいだの悲しいだの以上の、いわば恐怖心を抱いたことは当然といえる。
……ウワハルはあの夢の中でこう言った。
〝『…我々にとって、何よりも恐ろしいことは…、我々が…我々であるということを、忘れてしまうことだ……』〟
そしてシタハルはこう言った。
〝『……私が何よりも恐ろしいことは…――我が片割れである、そなたと離れてしまうことだ…――私が愛しいそなたを失えば、私は我をも失ってしまう……』〟
――彼らは気持ちで離れがたいと思う以上に、あることを懸念 し、そしてそれを酷く恐れていたのだろう。それは、
僕たち、という自分たちが一時的にとはいえ「神の記憶」を失い、そうして半身であるお互いのことさえも忘れ…――そして悪ければ、
自分 たちが「統合」を果たせず――消滅してしまうかもしれない、ということを。
また…なぜか僕は、感覚的にこう思うのだ。
――たった一部たりとも欠けてはならない、と。
そしてそう思うと、戦慄するほど酷く恐ろしくなるのである。
……なぜなのかは、わからないが…――。
「……、…」
僕はふと目を上げた。
そして僕を見るコトノハさんの心配げな顔を見すえながら、覚悟を決めた静かな調子で彼にこう聞いた。
「ではその…僕たちが〝統合〟を果たすには、どうしたらいいんですか」
するとコトノハさんは、依然心配そうな表情でこう答える。
「君が〝神の記憶〟を取り戻す…――ひいては、まず君が天 上 春 命 としての〝神の自我〟を取り戻すことが先決になる。」
そこでふと目を伏せる彼は、「何故なら」と冷静な声でこう説明をつづける。
「そもそも〝統合〟とは、君たち二柱の〝神氣〟を一つに融合させることでかなうんだ。…しかし今の君は、〝人間の自我〟で〝神の自我〟を抑圧してしまっている…――すると、君がまだウワハル本来の肉体に戻りきっていない通り…――君は今自分の〝神力〟の源である〝神氣〟の発露 にも、〝人間の自我〟で制限をかけてしまっている状態だ……」
そしてコトノハさんはふと上げた真剣な目を、僕の右隣でお椀をあおっているハルヒさんに向ける。
「となれば、…まあ先ほど少しその蓋は開かれたとはいえ…、今の君の中にシタハルの〝神氣〟を注ぎ込もうとも、そもそもシタハルのそれは、蓋をされた君の〝神氣〟の源とまでは満足に辿り着けないことだろう…――しかしそれでも多少なり、〝神氣〟の補給には役立つことだろうが…――といって今の君の状態では、まだ〝無限の神氣〟を得る〝統合〟には及ばないはず……、また何より、」
とコトノハさんが少し困った顔をして僕を見る。
「今の君はまず、そもそも〝統合〟のやり方を思い出せていないだろう…? ――いや厳密にいえば、感 覚 的 な 〝統合〟のやり方を、君はまだ思い出せていないはずだ。…」
「…はい…」
――たしかに僕は、その「統合」とやらのやり方なんてさっぱりわからない…というか、全く覚えていない。…ただ話を聞くに、おそらくその「統合」の方法はいわゆるセックスだと思って間違いはなさそうなんだが、それに付け加えた「感覚での神秘的なやり方」なんて、今の僕には想像にも及ばないことである。
……コトノハさんは「すると、」とこう懸念する。
「全て思い出しているシタハルが、君に実際的なやり方を教えたところで…――結局〝統合〟とは、共同作業も極まった阿吽 の呼吸で成さねばならないことである以上――君のほうもそれのやり方を思い出さない限り、〝統合〟に至ることはまずないはずだ…。」
「……、…なるほど……」
僕はまた目を伏せた。
つまりいずれにしても――僕が早いところ「神の記憶」を取り戻さなければ、僕たちはそのうち死んでしまう、ということか。
「……、…」
感傷的になりそうな胸のうずきはあるが、今はそれに浸っている場合でもないだろう。――事実その消滅とやらの前兆はもう僕たちの身に降りかかっている。すでに僕とハルヒさんは体調をくずしはじめているのだ。
じゃあ何か効率的な、…そうでなくとも、せめて多少なり有用な手立てはないものか……どうしたら僕は、その「神の記憶」を早いところ取り戻せるのだろうか?
まず言われたとおり、僕が「自分が神である」という自覚をきちんと持ち、そしてそのことを事実として決して疑わない…――といってそれは、ここまで自分が人間であると毛頭疑わないで生きてきた僕にとっては、なかなか難儀 を強いられることでもあるのだが、…しかしこれは少しでも疑ったなり否定し、とにかく自分に何度でも「自分は神だ」と言い聞かせる他にはない――それはもちろんのこととしても、…他には何か……。
僕はふと思いつき、目を上げてコトノハさんを見た。
「あの、例えばなんですけど…――誰か…いや、それこそ言葉の神様であるコトノハさんが、さっきみたいに言霊の力で、僕に〝思い出せ〟と命令してみたら……」
なかば強制的にでも、僕は「神の記憶」を取り戻せるのではないだろうか…――しかし、コトノハさんは僕に向けたその複雑そうな真顔を、ふる…と一度小さく横に振った。それから、
「残念ながら、それはできないことなんだ…」
と静かな声で否定する。
僕は軽く目を見開いた。
「…それは、…どうしてですか…?」
「……、ひとまず、試してみるかい…?」
「…はい。…僕の真名は天上春命 …真字は、天、上、春、命、です…」
いずれにしても物は試しに、と僕がそう――名を預けることで己をゆだねる、という言霊のルール通り、かつたしか真名でないと、内面までは操れないとのことだったので――真名を明かすと、…
コトノハさんは先ほどのような鋭い両目で僕の目を凝視しながら、脅すような低声 でこう命じる。
「それでは…〝天上春命 、そなたは今すぐ神の記憶を取り戻せ〟…」
「……、…」
僕の背筋にぞく…と悪寒が走った。それはきっとコトノハさんの「神力」のせいだろう。
ところが…――。
「……、…、…」
先ほどとは違い、僕の身には何も起こらない。
もちろん僕の意識の中に何かがかすめるも何も変化はない。――目を伏せて自分のなかを観察してみても、そこにはただただ静かな『なぜ何も起こらないんだ?』という動かぬ疑問しか存在していなかった。
「ね…」コトノハさんが気遣わしげな声で言う。
「こうして、より言霊の力が発揮される君の真名で命じようが、また、たとえ私が言霊の力を思うままにできる言葉の神であろうが…――これに関しては、残念ながら無駄だ…。」
「……何故…」
僕は目を伏せたまま眉を寄せた。
――コトノハさんはやはり、僕を気遣っているような静かな声でこう説明する。
「何故なら君は…自 分 で 、〝神の記憶〟を取り戻さなければならない…――そのように…他でもない君自身が、天上で言霊の力を用いた誓約を立ててから、この地上に降り立っているからだ…。」
「……、…」
僕は少々の落胆のなかで、なぜか今ふと直感したことがある。
ただなぜこれに関してなのかは、自分自身でもよくわからないのだが――。
というのも、…僕が小さな頃から周りの人たちに「ウエ」と呼ばれていた、そのあだ名の由来とはもはや言うまでもなく、僕が天上春命 だったからである。
しかしこれまで周りの人々はみな、僕にはその「ウエ」というあだ名の由来を、「僕が高い高いが好きな子どもだったから」だと説明していた。
もちろんそれは嘘だったのである。
では、なぜみんなが口を揃えて僕にそんな嘘をついたか、といえばそう…――僕自身でその「由来」、ひいては自分で自分の真名…自分が天 上 春 命 である、ということを思い出さなければならないから、だったのだろう。
いや、そうか…――。
「……、…」
自分で…――それなら、
僕はもう一つ思いついたことがある。
「じゃあ…」と僕は目を伏せたまま切り出す。
「僕が今その言霊の力で、自分に〝思い出せ〟と命じたら……」
そうして僕が再び言霊の力をもちいて自分に命じれば、あるいはそれだって「自分で思い出した」ということにはなるはずである。
――しかしコトノハさんは「いや…」
「今の君にはまだ、それほど大がかりな言霊の力を使えるだけの〝神力〟はない…――というよりかは、今はまだそれだけの力は使えないことだろう…。それこそ本末転倒だが、君が〝神の記憶〟を取り戻し、〝神の自我〟を取り戻さないことには……」
「……、…そう、ですか……」
僕はうつむいて肩を落とした。
するとコトノハさんが僕を慰めるようにこう言う。
「しかし、もちろん私たちが手伝うことはできるだろう。…幸い君は、〝自分の力のみで〟との誓約は立てていないからね。」
僕は「ありがとうございます…」とぺこり頭を下げるが、いっそのことはっきり有識者のコトノハさんにこう尋ねる。
「……ただあの、他に何か有用な手立てとかってないんでしょうか…? その、僕が〝神だ〟と自覚するというのの他には……」
「すまない…」コトノハさんが難しそうに言う。
「残念ながら現状、君が〝神の記憶〟を取り戻す有用な手立てはまだ…――天神 に聞いてはみたのだが、〝それはウワハルの力で見出さねばならない〟とのお答えしかいただけなかったんだ……」
「……、……」
呑気だな…いや、一番呑気だったのはその実僕らしいのだが…――僕はため息をこらえる。
消滅…――つまり僕が「神の記憶」を取り戻し、ハルヒさんとその「統合」とやらを果たさないことには、僕たちはやがて死んでしまう……。
「……、…――?」
……僕はここでふと気がつくことがあり、また目を上げてコトノハさんを見た。
「…あの…そもそもなんですが、僕たちは各々神として成長を遂げてから、その〝統合〟を果たしたんですよね…? ――そうしたら…なぜ〝統合〟する前の僕たちは、消滅しなかったんでしょうか…?」
「ああ…それはね」――あたたかい目色で僕を見ながら、コトノハさんがこう説明をはじめる。
「まず君たちの〝春〟の名にもある通り、君たちはもともと地上に春を齎 す二神だった。――それこそ〝統合〟する以前から、君たちは地上に春を齎してきたんだ。」
「……、…」
僕は目を伏せ、ひとまず気持ちを落ちつけようと、五月汁のわかめの塊をそのまま一口で口内に入れる。
「たとえばウワハルは、本来陽のエネルギーの多い神だったので――陽気…つまり暖気で冬の雪を溶かし、冬眠している動物や虫たちを目覚めさせ、またその陽気で花々を咲かせ、そして田畑の芽を育てた…――それから、川などの清らかな水を陽気で蒸発させることにより、清純な雨雲を作り出すことも得意としている。…つまり君は、あらゆる命の恵みとなる春雨 をも降らせていたのだ」
コトノハさんは「そして」と明朗 な声で説明をつづける。
「一方のシタハルは陰のエネルギーが強い神であったので、陰に属する地……雪の下の地中に眠る命を目覚めさせ、芽吹かせ、また土に栄養を与え、そうして植物や虫、動物たちを地から育み…――更には開墾 、つまり人の子たちが荒れ地と見捨てていた場所を、豊かな田畑に拓 く膂力 にも秀 でている。」
「……、…」
僕はふとハルヒさんを見た。
彼の片手にはもうお椀はなく、そして右手に握った箸を退屈そうにひらいたり閉じたりしているのを、彼はぼんやりと眺めている。
今の説明には出てこなかったが――たしか彼、風を吹かせられるんじゃなかったか?
「そうしてウワハルとシタハルは協力しあいながら、若い頃から地上に春を齎してきたが――更に君たちは各々、自分が内に秘めていた可能性を見つけ出し、そしてそれをそれぞれ伸ばしていった。」
コトノハさんはどこか自慢げな調子でこう説明をつづける。
「ウワハルはその美意識の高さから技芸にも造詣 が深くなり、またその探究心から我が子らしい学問にも秀で……更には、その当時不当な扱いを受けていた女性たちを見て心を痛めた君は、やがてそのうちの母親たちが大切にしている子どもたちも気にかけはじめ、また女性が出産をする折にも安全に易 く、元気な赤ちゃんを産めるように…と力を貸すように――すなわちウワハルは安産、そして婦女子の守護神ともなっていったんだ。」
「……、…」
あぁ、やっぱりウワハルが「婦女子の神」となった経緯、その動機はいたって神らしい慈悲深いそれである。――それが今やスケールの狭まった「腐女子の神」に……なんとも複雑な心境にさせられる。
「それと裁縫…当時は裁縫というと女性たちの仕事だったから、女性たちが針で指を傷めず、また素晴らしい仕事ができるように…と、君は人の子の裁縫にも力を貸すようになった。――ちなみにそれは、君が母から教わったことでもあるんだがね。」
「…あぁ…」
たしかに母はファッションデザイナーともあって裁縫も得意である。しかし…とすると僕も、やれば案外裁縫上手だったりして…?
まあ正直それをやりたいともやろうとも思えないのだが。――僕もお椀を両手で包みもって汁を飲む。今やぬるくなっているこれはもう啜 らずとも飲むことができる。また温度が下がったことで、よりそのかつお節や昆布、野菜の旨味が濃く感じられる。
「そして一方のシタハルはというと、元よりやってきた開墾、農耕 や豊穣 においてより力を発揮するようになったが、…それにおいて必要と思った風を…――すなわち種を撒 き散らし、蝶 や蜂 を受粉のため花々に移らせようと、風を吹かせられるようになりたいと言い出したので…――そこで彼は風の神・志那都比古神 に弟子入りをして、そうして風を吹かせられるようにもなったんだ。」
「……ん、…」
あぁなるほど、と僕は汁を飲みながら思う。それでハルヒさん――というよりかシタハルは、風を吹かせられるようになったのか。
「はは…それにしてもシタハルは、農作業中や風を吹かせるとき、よく陽気な鼻歌を歌う子でね……ある意味それこそが、彼の〝春を齎す神力〟なのかもしれないな…――すると、もとより芸能のほうにも興味があったんだろう。…だからオシクモネになった際にも、君たちは芸能に力を貸せる神にもなれた。」
「……、…」
ふわ…と僕の頬を撫でたそよ風にはたとハルヒさんを見る。彼はニヤリと自慢げな顔をしている。
……そしてコトノハさんはその声の調子からも、自慢げに感心した父のそれでこう言った。
「そうして君たち二柱は、私たちが驚くほど立派な神へと成長し…――たとえばウワハルが作り出した清らかなる雨雲を、シタハルは風で運ぶべき場所へと運び、地上に恵みの雨をもたらす……など、力を合わせるところは合わせ――しかし各々であってもなお、神としての勤めを立派に果たしてきたんだ。…本当に自慢の息子たちだよ。」
見ると、やはりコトノハさんは満足げな笑みを浮かべていた。
「…はは…」
僕は単純に褒められている感じがして、少々照れくさいながらも満足した笑いをこぼした――あと多分なのだがコトノハさん、(当人の息子相手にまで)息子自慢がしたかっただけなのかもしれない…――。
僕は一旦お椀をテーブルに置いた。そして汁から丸い頭を露出している小さい白い肉団子を箸でつまみ、口にはこぶ。…とり肉だろうか。しかし少しもパサパサはしておらず、しっとりとしていて、舌でつぶせるほどにやわらかい。とり肉本来の旨味ばかりで塩味はうすいが、やっぱりこれも美味しい。
「しかし、そう…」とここで、神妙な顔をしているコトノハさんの語調が暗くなる。
「そうして各々が各々のまま神として〝神力〟を使えば、君たちの場合はやがて〝神氣〟が尽き果て、消滅してしまうところを…――では何故、〝統合〟する以前の君たちが、消滅の末路を辿らなかったか、というと……」
「……、…」
僕はコトノハさんを見ながらコクコクとうなずく。
「君たちのその勾玉……君のものは白、シタハルのものは黒…――それを得意とする玉祖命 が特別にお造りくださった、その勾玉にお互いの〝神氣〟を込め…――そして、それを肌見離さず身に着けておくことで、お互いの〝神氣〟を補給していたためだ。」
「……、…」
肉団子を咀嚼していた僕の口は止まり、固まる。
……ふとあの「アクセサリー事件」のとき、泣きながら僕に怒っていた母の顔が思い出された。
この勾玉を肌見離さず身につけておくことで、足りないエネルギーを補給し、消滅を防いでいた…――となれば、…じゃあこれ、…外したら消滅…、
あのとき、もしこの勾玉が見つからず行方不明のままになっていたら、
僕は本当に――死んでいた…のか…?
「……、…、…」
ぞくぞく…と震え上がるほどの恐怖を感じた。
これは僕が不登校となった小学生のころ、ふと『これを身に着けなければ死ねるのでは』と考えたときに感じたそれと、まるで同じ寒心 だった。
僕はそう咀嚼してもいない肉団子を、ごくんっと急いで飲み込んだ。ただ、
「…でも思うんですが、じゃあ別にその、〝統合〟しなくても…――それこそこの勾玉に、お互いのその…〝神氣〟を、込めて、補給すれば……」
僕たちは消滅しないのではないか?
――コトノハさんは「いや…」とその真面目な顔を小さく横に振り、ふともの憂げに目を伏せる。
「〝統合〟する以前の君たちならば、それもかなったことだが…――。」
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