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「……、…、…」
僕の唇をはむ…はむ…とやわらかくあたたかい唇で食んでくるハルヒさんは、僕の生の片胸をやさしくかすめる程度に撫でまわしてくる――すると凝 った僕の乳頭は、彼の手のひらに転がされてうずく――「んん…」僕の鼻からは我ながら少し苦しげな声がもれ、緊張している僕の心臓はドクッドクッドクッとその目まぐるしい鼓動のたび、ズキズキと息ぐるしくなるほど痛むようだった。
「……は…、……」
ふと唇を離したハルヒさんに、僕はそっと薄目を開けて彼を見た。――すると至近距離に見えたのは、彼の少し憂いっぽいあでやかな目つきであったが、しかし、彼は僕と目が合うなりその両目でふっとやさしく微笑した。
「……俺たち、やっと夫夫になれたね…」
「……、…」
ハルヒさんのこのたったひと言のセリフは、そのさりげなさのわりに大きくあたたかい幸福そのものだった。それが僕の全身をふんわりと包みこみ、そして僕の頬の内側にはちいさい火が灯される。
――僕のその両頬の燈火 の燃料は、ほとんど彼と結婚したというその事実への幸せな喜びだったが、とはいえ、この先の展開への緊張や羞恥もその燃料にちょっと含まれている。
ハルヒさんはもう少し僕から顔を離し、頬にいまだのこる乾いた血を、まるで涙を恥じた人のような所作で煩わしそうにはらって綺麗にしてから――その明るいオレンジの瞳で僕の目を見ながらにっと、いたずらっ子のような笑顔をうかべる。
「……で…他の人がどうとかを抜きにした――ハヅキがほんとうに求めてる、幸せは…?」
「……、…」
僕が求めている――僕が自ら進んで選びとりたい幸せ。
僕の本心から選ぶ――僕が心から望んでいる幸せ――僕がもう決して諦めないと決めた幸福の明るい道――今にやっと見出せた、僕が、僕たちがこれから歩むべき「正しい道」――それは……、
僕は一旦目を伏せた。
片方の長い前髪を横髪とともに耳にかけ、それから目を上げて、清々しいきもちで彼に微笑みかける。
「…貴方と結婚すること…――愛する貴方の夫になることです、祁春 春日 さん。」
するとハルヒさんは「へへ…」と照れくさそうに笑った。
「…はい。でもぉ…実は俺が本心から求めて選んだ幸せも、貴方と同 じです…。天春 春月 さん…――これから俺の夫として、貴方の夫の俺のこと、どうぞよろしくお願いします。」――と彼はてれてれ、ニコニコとしながら、ぺこと軽く頭を下げてくる。
「…はい。こちらこそ…、……?」
僕は少しふしぎだった。にわかにハルヒさんが少し泣きそうな顔をしたのだ。
そして彼は僕にぎゅうっと抱きついてくる。
「……ごめん、酷いことして……」
「……、…ふふ……」
ちょっとおどろいたが、僕は彼の背中を抱き寄せながら少し笑う。
「いえ、むしろ嬉しかった…、……?」
不意に、ふぅ…とハルヒさんの唇が吹いたやさしいそよ風が、僕の首筋の傷を撫で――するとたちまちそこの傷の痛みが引いていったので、
「……??」
僕はあれ、とそこに触れた。
今彼のそよ風が触れたそこには彼の歯型の傷があってしかるべきであった。
……ところが今や僕の首筋はつるつるとして、このなめらかな手触りから察するに、もはやかさぶたさえも残ってはいない…――。
「…治しといた…。ごめん、ほんとう…、ほんとにごめん…、めっちゃ痛かったよね……」
するりと僕から離れたハルヒさんは、申し訳なさそうにしゅんとしている。彼は叱られた素直な子犬のような顔をして僕を見ている。――その顔は僕の心を洗うようなほど可愛らしかった。僕のなかに無闇 矢鱈 な寛恕 の心さえ芽生えさせるほどである。
「…はは…いいんです、全然大丈夫ですから…――そんなことより…ありがとう、治してくれて……」
僕がそう目を細めて笑うと、…彼はちょっとむっとした顔をして、そのあめ色の頬をじわ…と赤らめた。
「やっぱ…俺の旦那さん、めっちゃ綺麗…、やば…」
「……、…えっと、……」
僕はドキッと胸が痛み、ふと目を伏せた。
また別の緊張に、正座した太ももの上で握った両手が震える。だが――ここは言わなければ、拒絶ではなく、否定ではなく、…
「……あっありがと、…ぁ、ありがとう、…ございます…、はは……」
受け取るのだ。勇気は要るが――まだ本心からは難しいが――それでも、本当のこと、として。
……僕がハルヒさんの目に「綺麗な人」として映っていることを、僕はこれからはきちんと受けいれるべきだ。…それから、もう自分のことをブスだの不細工だの、醜い化け物だのと見なすことはやめる。
僕はそう決めたのだった。
僕がそうして自分を傷つけることは、僕の愛する家族、…今に僕の夫となったハルヒさんを含めた僕の家族、僕を愛してくれている友人たち、…僕が大切に思っているその人たちをも傷つけてしまう行為なのだと、僕はやっとわかったのである。
それに…――。
「……、…」
僕は目を伏せたまま、おもむろに片手で自分の胸板の中央をおさえる。
その手のひらのなかにおさまった白い勾玉とサンストーンは、僕の体温であたたかくなっている。
……ね。僕がそうしたら「君」も、きっといつかはその暗闇から出てこられるはずだから――「君」も僕と一緒に、これからもっと、もっと幸せになろうね。
「……ふふ……」
僕は胸の中にいる「彼」にほほ笑みかけた。
僕のことを呪っていた僕 は、あの小さくてか弱いハヅキ――だが誰よりも頑張り屋で家族想いで、けなげで不器用で、誰よりも可愛い…誰よりもいい子だった――僕がこれから守ってあげるべき――「小さなハヅキ」なのだと思う。
傷つけられたその絶望と痛みを知っているからこそ、もう僕に二度とあんな思いはさせたくないと――ある種の優しさで――「彼」はその小さな体を張って、一生懸命僕を守ろうとしてくれていた。
だが、結果として「彼」のそれは今や行きすぎた「呪い」となってしまっている。…といっても――「彼」なりに僕のことを傷つけ、僕に恐怖心を抱かせるという方法で、精一杯僕のことを守ろうとしてくれていたのだろう。
そっちに行ったら僕 はまた傷つけられちゃう、だから怯えて、――そっちに行くのが怖ければ君はそこに行かないでしょう、そうしたらもう僕たちは傷つけられたりしないんだから……。
「ありがとう…。でも、もう怖がらなくていいんだ。…それに、もちろん〝君〟にも幸せになる権利はあるから…――だから僕と一緒に…これからは僕と一緒に、もっともっと幸せになろう…、……」
ハルヒさんの熱いほどの手のひらが、ふわ…と僕のその手の甲に重なる。
「〝ちっちゃい君〟とハヅキと、ウワハルと…――俺。ね」
「……、…」
僕は口角を自然と上げながら、チラと瞳だけを上げてハルヒさんを見やった。
「…はい。…ふふ…」
「……、…」
真顔のハルヒさんの頬の紅潮が深まる。
「えっちしよ」
「…え」
また突飛な――ハルヒさんはまた色っぽく翳った両目で僕のことを見つめながら、僕の頬をする…と撫でる。
「…ハヅキ可愛い…、おれ、早く君を抱きたい…」
「……、はは…それも、ありがとう、…ただ……」
貴方のほうが可愛いんだが…と目を伏せる。
――これは謙遜や卑屈なそれではない。僕は単純にハルヒさんのほうが「可愛い」と思うのだ。
「えーそんなことないっ…俺、…俺べつに可愛いだけじゃないから。…これでも男だし、…それに俺、これからは絶対ハヅキのこと守るし。――えへ…君の、ぉ、夫として…。えへへ……」
「……、…」
僕は目を伏せたまま、ニヤけそうな唇を内側に巻きこんだ。
そういうところなんだよな…――しかし、言わぬが花だろうか。
たしかにハルヒさん、容姿はいかにも頼もしげだ。
身長なんと188センチ、細いほうだが筋肉質な体つきで手脚が長くスタイル抜群、そして健康的なあめ色の肌、外国人かハーフかと疑いたくなるほど彫りの深い精悍 な顔立ち――しかしハルヒさんには、その凛々しくととのった容姿を「甘えん坊の大型犬」に見せてしまうような年下、もっというと「末っ子」のような愛らしい魅力、…ともすれば年下扱いをそう簡単には免 れられないような、そういった長所の裏返しの短所がある。
いや、僕だってハルヒさんを夫として断固頼りにしない、などと、別段そこまでのことを思っているわけではない。無論そこまで彼を侮 っているわけではないのだ。
それに僕を守りたい、という彼のその気持ちは本当に嬉しい…――だが、
「……はは…、……」
僕は目を伏せたままちょっと困った笑いをもらす。
どうも僕の推しはやっぱりどことなく「可愛い」というか、…彼のほうがよっぽど僕なんかより放っておけない、かえって守りたくなるような年下らしい性格をしているというか、…ハルヒさんのその愛らしさはそれこそ彼が意図せずとも自然に、ほとんど魅惑的に、周りの助けの手を引き寄せられるもの、というか――端的にいうと、…僕がこの可愛らしい(悪くいうとちょっと子どもっぽい)彼に守られる、という構図が、僕にはいまいち想像ができないのである。
何なら別に…そりゃあたしかに僕はいまだにこどお…いや、仕事はしていても実家に住んだままその家を出る気色 もなかった成人男性、そして、これからもおおよそこの新居とやらで家族そろって暮らすのでは、まあたしかに僕が「誰かしらに守られて」暮らす状況が継続される――というのは間違いなくそうではあれど、…しかしこれでも僕には三十二年なんだかんだと傷つきながら、そして時には誰かを傷つけながら、それでもしたたかに生きてきた三十路 男の自負がある。
確かに僕は今もなお、これ以上の傷を負うことをきっとどこかで恐れてはいるが――それと同時に、これからはその傷を治してくれるハルヒさんが側にいてくれるというだけで、かえって僕は彼の代わりに矢面 に立ってもよいと本気で思うほど、そうした頼もしい勇気がみるみる湧いてくるくらいなのだ。
こうして僕は我ながらしたたかである。
あとそもそも…――そりゃあ神ウワハル・シタハルとしては双子だったのかもしれないが、…
……といって僕がこの山あり谷ありの三十二年間に得てきた知識や経験、その道のりにたくわえてきた処世術が今に更地 にもどされるわけでもなし、…今僕を守ってあげると意気込んでいる彼には――しかしそれすら年下らしい可愛らしさのある彼には――いささか申し訳なくは思うものの、しかし事実僕は、(神としては何千歳らしいが)まだ二十代のハルヒさんに守られないと世間を歩けない…、というほどの引きこもり弱者おじさんというわけでは……。
「俺がハヅキを守るの。あとまだおじさんじゃないでしょ。――そもそももう何千年も生きてるんだから、三十二歳をおじさんって言ったら俺たち、――おじいさんになっちゃうよ。」
ハルヒさんが意固地な調子でそう言う。
「…はは…、……」
ツッコむところそこなのか……。
そうだった…口に出して言わずとも、どうせ彼には僕の思考など「筒 抜 け」なのだった。
つと笑った目を上げる。何か意地になっているらしいハルヒさんは、その大きなあめ色の両手で包みこんだ僕の片手を、自分の胸の前に寄せて、僕をかわいく睨むようなタレ目をずいっと寄せてくる。
「これからは俺に頼ってくれなきゃ困る。」
「……、困る…?」
僕は目を丸くした。
――それ困るほどのことか?
「うん。…だって嫌だし、不安になるから。」
むすっとしているハルヒさんに、…僕は大人として受容することにした。が――ただ本心でもこう思うところがある。
「……はは…わかりました。…いや、でもそうですよね…――僕は誰かに頼ったり…甘えたり…、そういう、誰かに助けてもらう、ということも、これまで以上にちゃんと学ばないと……」
もちろん僕はこれまでにもさまざま人たちに助けられ、支えられてやっと生きてきた。一人で何でもかんでも何とかして生きてきた、だなんてそんな傲岸 不遜 なことは、僕には口が裂けてもいえない。
だが、こと自分の弱いところを隠して、その弱いところを自分だけでどうにか克服しよう、どうにか見ないふりで乗り切ろう、…小学生のときの僕もそうだったが、僕は我ながら自分が本当につらいときほど誰かに「助けて」と言えないところのある人だ。――これからはそうした意味で、誰かに「助けて」と言えるようにならければならない。
ときに頼ったり甘えたり、助けを求めたり、それに慰めてもらうことも決して悪いことではないのだ。
――悲劇ぶっていて鬱陶しいだろうな、なんて考えるほうがよっぽど卑屈だったのかもしれない。
これからはハルヒさんの「傷薬」もちょくちょく頼りにしていこう。そうするべきだ、と、僕はそう何か確信しているのだった。
するとこれは、この「傷薬」を塗ってくれるハルヒさんとの結婚は、僕がそのことを学ぶちょうどいい機会でもあるのかもしれない。
「…えっと…まあ僕も頑張って、なるべくハルヒさんに頼るよう心がけますね。…改めて、これからどうぞよろしくお願いします。」
と僕は照れくさい気持ちでほほ笑みながら、彼にぺこと頭を下げた。
「うんうん。…」
彼は満足げににこっとした顔をコクコクうなずかせた。――しかしすぐさま、ふとその銀色の長いまつ毛をあでやかに狭 め、僕の目をその真紅の瞳でじっと見つめながら……、
「…じゃあハヅキ…? そろそろえっt…」
「あ」
僕ははたと思い出した。
「え゛…」
「そういえば、…あのその前に、ちょっと聞いてもいいですか…?」
「あぁ…、うん…なに…?」
ハルヒさんはどうも不満げだが、…どうも僕はこれを聞かないことには「集中」できそうにもない――まして、それこそこれはセックス中に聞くようなことでもないので――、…とこのタイミングで、首をかしげる。
「…あの、実はさっき……婚姻届が、消えて…?」
そう…先ほど僕が婚姻届の唯一の空欄に『天春 春月 』とボールペンで書き込んだ際、その婚姻届がキラキラと光り輝き――そしてパッとたちまち消えてしまったのだ。
あれはなかなかに「ただならぬ出来事」ではないか?
「ああ」とハルヒさんがややうんざり顔ながら、事態の理由をわかっている明瞭な声をあげる。
「あれね…実はあの婚姻届、特別なやつで…。何が特別って、あれ、伊弉諾 の大お父様と伊弉冉 の大お母様の、縁結びのご加護がたっぷり込められてたんだけどぉ……」
「……あぁ…神様のご加護が…」
「そそ…」とハルヒさんが、少しじれったそうな真顔をコクコクとうなずかせる。
「ちなみに、実は俺たち…あれちゃんと書いて役所に出さないと、キスとかえっちとかしちゃいけないことになってたんだよね…。で……」
「…と、言いますと…?」
「…んぇ、? ぇ、えっとぉ……だからぁ……」
ハルヒさんは眉をひそめ、その銀の長いまつ毛を伏せる。そして、その伏せられたまつげの下の赤味の濃いオレンジの瞳を横へ向ける。『まだ説明しなきゃだめなの?(早くえっちしたいのに…)』とでも言いたげなむすくれた顔である。
「俺たち、伊弉諾 の大お父さまと伊弉冉 の大お母さまとおんなじで、〝運命られた夫夫神〟だからぁ…――結婚するっていう儀式…みたいな感じの手順踏まないと、なんか…なんか悪いこと起きるかもだったの。」
「……あぁ…、……――。」
僕は瞳を上へ向ける。
ふと僕の頭の中にあらわれたこの知識は、ひょっとすると彼のいうそれに関連したことかもしれない…――。
というのも、日本神話にはこうした逸話がある。
まず伊弉諾尊 ・伊弉冉尊 の二神は、多くの日本の土地や子神を産み出した――つまり、彼らはいわゆる「国産み・神産み」をなし遂げた逸話で有名な夫婦神である。
ただいわく「運命 られた夫婦神」とはいえ、イザナギとイザナミも初めから「夫婦(神)」であったわけではない。
――そう…彼らもある結婚の儀式をして、それで初めて「夫婦(神)」となったのである。
まずイザナギとイザナミは天上の祖神(めっちゃえらい神様)に、『あっちのほうに稲穂とかめっちゃ実るいい感じの国があるので、お前たちが治 めなさーい』と、特別な矛 を授けられた。
そこで彼ら二神がその矛をもって早速、天上にあるという天 浮 橋 というところから下界を見下ろすと、
『ん…? 何か脂っこいもん浮いてんな。あの脂マシマシの中に、ひょっとすると我々が治めなきゃならん国があるんじゃね?』
と気が付き、そうしてイザナギとイザナミの両神はまず、天上から下ろしたその神聖な矛 で(背脂マシマシ野菜マシマシにんにく少なめの)下界をぐぅるぐるとかき混ぜた。
――で、矛を上げたとき……ぴちょん、と豚骨醤油スープ、…いや、一滴のしずくが海に落ちた。
するとそのしずくは磤馭盧島 という一つの島になった。――イザナギとイザナミは矛をその島に突き立て、それを「天の御柱 」としてから、早速その島に降り立った。
更にそのあと両神はそこに新居まで構え、そうして彼らは一緒に暮らすうちに――男(神)と女(神)、一緒に暮らして何も起きないはずはなく…――お互いの性器をマッチングしてみない? いいねいいね! えっちしよ! というある種当然の男女のノリになったが――その前に……。
『じゃあえっちして子供をつくる前に――私たち、結婚しましょうイザナミさん。』
と誠実な男神イザナギは女神イザナミに申し出、さらに結婚の儀式の方法をこのように女神に説明された。
『ではあの天の御柱を、あなたは左から回って、私は右から回って、そうして出会い直そう』
『はい』
……そうしてその二神は(多分相当)ぶっとい柱を回り、あらためて――まるで今初めて出逢い、お互いに一目惚れしたかのように――出会いなおしたわけだが……。
『きゃあー! イザナギさまっ♡ あなたってなんてイケメンなんでしょう♡♡』とイザナミはイザナギの美 丈 夫 っぷりにメロメロに。
『え、ぇそ、そう? へへへ…ぁいやいや。…こんなに美しい乙女は初めて見たなぁ……って、――女の子のほうから男に声かけちゃ駄目でしょー!?』
……としかしイザナギはノリツッコミ。
そして彼はこう彼女に説明した。
『もう〜困るよぉイザナミちゃん、一応結婚の儀式はさぁ、男のほうから女の子に声かけなきゃいけないって決められてるんだからさぁ……』
ところがこの男神、理性があるんだかないんだか、…
『――んまあ……でもいっか! 結婚したにはしたしね! さっイザナミちゃん……?』
とイザナギは、実は(今のハルヒさんのように…?)相当我慢していたのか…――そりゃあ美人の若い女性と一緒に暮らしてりゃあ…――突然獣になり、
『イザナミちゃん、好きやで…♡』
『きゃ…♡』
……で…――結局や る こ と を や っ た 男神と女神であった。
が…――。
そう…これこそが「失敗」だったのである。
どういうか、というと――女神であるイザナミのほうから男神・イザナギに「なんてすてきな人!」と声をかけてはならなかった…という、――いやプロポーズするのはどう考えても男のほうからだろしゃきっとしろ、みたいな(現代の価値観でいうと若干)めちゃくちゃなルールがあったらしい。
……そして彼らは決められていた方法で結婚しなかったばかりに、不出来な子(土地・子神)を産み出してしまい、『あれなんかおかしいなぁ…なんか上手くいかないんだよなぁ…』といぶかしがって、天の神々に『なんかおかしいんすよね』と相談した。すると天の神はこう言った。
『君らが(そのめちゃくちゃ)ルールに則 って結婚していないからだよ』
で――結局その二神は正しい形(イザナギがイザナミへ『あなたってなんて綺麗な人だろう! 僕と結婚してください!』)でやり直して、改めて正式な夫婦神となり、「国産み・神産み」に励まれたのであった。――
「――と、すると……」
僕は上のほうを眺めながら考える。
イザナギ・イザナミの夫婦神のルールとは違ってはいるものの、その両神と共通するところ「運命られた」夫夫神である僕たちの場合の、その決められていたルールとはまず…――。
婚姻届を書く。
そしてそれを役所に提出する。
――で…二人が正式に国から「君たちは夫夫です」と認められる。
……更にいうと、そこまで行き着かなければ、僕たちはキスもセックスもしてはならなかった。
「…なる、ほど……」
だから店でハルヒさんが僕にキスをしようとしたとき、母が「あなたたちにはまだそれは許されていない」などと彼を叱っていたのか。
そうでなければ、もし仮に婚姻届を役所に届けないまま僕たちがキスやらセックスやらをしてしまっていたら…――まるで不出来な子を生み出してしまったイザナギ・イザナミのように、ひょっとすると僕たちにも何か不幸が……、………。
「……、…、…」
目を見開いた僕の血の気がさあっとひいてゆく。
……そ、そんなこと知らないから僕、さっきハルヒさんに自らき、キス…してしまったんだが、――。
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