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            「……?」    突然ハヅキに押し倒された俺は、意外な彼の強引さとその唐突な行動に驚き、目を(みは)って彼を見上げる。  ……しかし俺を組み敷いているハヅキは目を伏せ、下にいる俺と目を合わせてくれない。――彼のその真珠のような白っぽい瞳は今、ただ虚ろに俺のしっかりとした喉仏あたりを眺め下ろしているだけだ。   「…………」    黙り込んでいるハヅキの内側も今は「無」で、彼はそれこそ今無心といっていい。…つまり彼の心の声さえ、今は俺の「魂の耳」に聞こえてはこない。  するといよいよ俺の目には、その恐ろしく整った彼の顔のその無表情の無機質さが、――伏せられた長く黒いまつ毛の下で翳ったなり、白い虹彩(こうさい)の中央の黒い瞳孔へむけ放射線状に輝く金糸のような少しの金色の筋と、ほんのりとしたあわい水色の光沢が艶めいている、その神秘的な虚ろな白い瞳が、――まるで美しい球体関節人形のような、冷ややかななまめかしさを帯びて見えるのだった。   「……、…」    俺はぞくっとして息を呑み、夫のその冷艶(れいえん)な造り物のような完璧な美貌に、おもわず()()ってしまった。  ……でも俺はきっと今、ハヅキのその美貌に見惚れている場合ではない。――そうして無表情のハヅキは俺の片耳のそばに片手をついてその腕を立て、また俺が彼のその完璧な美しさにぼーっと心を奪われていたあいだにも、もう片手では俺の腰に巻かれていたベルトをすっかりゆるめ終えてしまっていた。    俺のスラックスのホックが難なく外される。  たちまちそれのファスナーもジーーッと下ろされる。――俺は今さらあわてて彼のその手をやさしく掴んだ。  そして俺の眉尻は困っているせいで下がり、俺は顎を少し引いてハヅキの伏し目を見上げる。   「ぁ、あのハヅキ…? 俺、…ごめんね…――さっきは君があんまりにも可愛くって、…だから、ちょっとからかっちゃっただけで……」    もしかしてハヅキ…怒ってる、のかな…――。  俺はハヅキの唐突な無心にちょっと不安になってそう謝り、弁明した。  たしかに俺はさっきハヅキに「もう俺が欲しいの?」なんて聞いてしまったけれども、あれは事実彼をちょっとからかっただけだった。  もちろん彼のなまめかしい心の声に俺がそそられたから、というのも事実ではある。    ただそもそもウワハルは、実は俺にサディスティックに責められると興奮する――いわゆるドMなのだ。    そして俺はもうシタハルとしての「記憶」も「自我」も取り戻しているから、ついついさっきはウワハルにするようなノリで――彼をよろこばせたいための、ある種ムード作りの一環、ほとんどリップサービス的な言葉責めとして――あんなことを言ってしまっただけだったのだ。  けれども、今はまだウワハルに戻れていないハヅキの感覚で俺のあの言葉を受けとったとき、それは彼の耳には「もう君のなかに挿れたい」という、自分勝手な俺のおねだりのように聞こえてしまったのかもしれない。  それでハヅキは今、なかば自暴自棄にも俺のその(架空の)下心を受け容れようとはしつつ、今こうして無心となるほど不機嫌になってしまったのかもしれない。  だけど、俺にはまさかそんなつもりなどなかった。  俺だって、まだハヅキの体が、俺を受け容れるに足りない状態にあることくらいわかっている。――それに物足りないのは俺も同じだ。    こんなにすぐ挿れちゃうのはもったいない。  だってこれはハルヒとハヅキとして出逢った俺たちにとっての、初めてのえっちには変わりないのだ。  たとえハルヒとしての俺が童貞で、ハヅキとしての彼が「百戦錬磨」だったとしても、今のこのえっちが間違いなく記念すべき俺たち夫夫の「初夜」なのだから、こんな即物的な感じではなく、もっと記憶に残るような素敵なものにしたい。  ……それに、だからというのではなく、俺はもっとハヅキを気持ちよくしてあげたい。もっとハヅキを甘やかして、もっとハヅキのえっちな姿を見て、もっとハヅキの可愛い声を聞いて、挿入はそうやって俺の夫と甘い時間をたっぷり過ごしてからがいい――たしかにさっきはあんなことを言ってしまったけれど、俺ははじめからそのつもりだったというのに、ハヅキには誤解されてしまったみたいだ。 「ごめん、俺…――さっきは別に、君に〝もう挿れさせて〟って言ったわけじゃなくて、…ただ…ハヅキが俺のこともう欲しいって思ってくれたのが嬉しかったし、すごい可愛かったし……だから、…だからついあんなこと言っちゃって……」  きっと怒っているんだろうハヅキの耳にはこれも言い訳に聞こえてしまうんだろうな、と俺は怖がりつつ、それでも俺なりの真実を彼に打ち明けた。  でも目を伏せているハヅキは片腕を立てたまま、弱く制止していた俺の手のなかからその片手をするりと抜くと、今度は自分のベルトを器用にゆるめていく。  カチャカチャ、と、…そのさなかに彼の長い黒のまつ毛がつとわずかに上がって、その妖しい金糸とほのかな水色の光沢が輝く白っぽい瞳が、恍惚と微笑しながら俺を見下ろす。   「……はは、わかってますよ…? 僕は別に怒ってなんかいませんし……」   「…ぇ、…」  じゃあなんでいきなり黙り込んだり、無心になったりしたの…――俺はハヅキが「怒っていない」というほうが、ちょっと奇妙に思えた。  ハヅキは少し恥ずかしそうに微笑みながら、また色っぽい伏し目になる。 「僕がもう欲しいんです…――ハルヒさんの、おちんちんが……」 「……、…、…」    俺は衝撃を受け、赤面しながら目も口もかっぴらいたまま固まった。――俺の夫はこんなに清楚そうな上品な美人なのに、あんなに気弱そうだったのに、俺が思っていたより随分積極的でえっちな人だったらしい、…当然嬉しいことではあるけれども、…  ――ハヅキははにかんだように目を伏せたまま、その頬の赤らみをじゅわ…と濃くする。 「ただその、…ぉ、…おまんこにおちんちんを挿れるのは随分久しぶりなので、…狭くなってないといいんですけど……」 「だ、だ、…だ、だめ、…だめ、だよ、…」  なんてこと言うの、っていうかエロすぎ、いや、…あまりのことにしどもどしてしまうが、…でも――そんな場合じゃない。ここは流されちゃ駄目でしょ。と俺は目に力を込める。 「…駄目、…久しぶりならなおのこと駄目じゃん、…ねぇハヅキ、まだ体ほぐれてないでしょ。…今挿れちゃったら痛いかもしんないし、きっと君にめっちゃ負担かかっちゃうから、…だから、まだ駄目。…」 「…え…? ふふふ…」  儚げに目を伏せたまま、ハヅキははぐらかすような意味ありげな含み笑いで答えるだけだった。  ただ彼の手は自分のベルトをバックルから抜きとり、着々と自分のスラックスや下着を脱ごうとしている。でも、それは別に俺が止めることではない。  そりゃあ俺の本音としては俺がリードして、ハヅキの衣服を一枚一枚丁寧に脱がしてあげて…なんて理想はあったけれども――ただ俺も男としてその「締め付け」の苦しさやもどかしさ、今この瞬間にそれを解放することの必要性は痛いほどわかるので(今はなお()()()()()()わかるので)、こうしたハヅキの脱衣をわざわざ止めるまでの理由はない。――ただ、挿れるのはまだでしょ、という意志をハヅキに示すことはわすれない。 「俺にほぐさせて。…あと俺、まだ君の体触り足りないよ。――俺はもっとハヅキのこと気持ちよくして、君がとろとろになってから挿れたい。」    と俺はハヅキの伏し目を真剣に見つめて言いながら、彼の両頬を手のひらで包み込んだ。  けれどもハヅキは俺を挑発的にチラと見下ろして、ふ…と妖艶にそのツリ目を細めてほほ笑み――後ろへ引いて逃げる……おもむろに膝立ちになると、スラックスのホックもジッパーも解放して…――する…と下着ごと黒いスラックスを下ろしてゆく。   「……、…、…」    見せつけられた――俺の目は釘付けだった。  ハヅキのそり返るほど勃起したその陰茎に――サイズはやや細めで長さは平均くらいだ。まず俺の目をひいたのは、そのたっぷりとした潤みが艶めく青味がかった濃いピンク色の亀頭、それから猛々しい太い血管の浮きでた桃色の竿(さお)、根本の恥骨の一切のくすみがない雪の白さから竿の桃色へ、桃色から先端の濃いピンクへはなめらかにグラデーションしている――、そして根本から垂れ下がっているというよりついている、というようなほど小ぶりなうす桃色の陰嚢(いんのう)に、…俺の喉仏がゴクンッと上下する。  俺の勃起している陰茎がむくむくとうごめき、今にも「何か」をただ乱打的に突き上げたい男の本能が、それの根本の裏あたりにみるみる充填されてゆく。  俺はもちろん彼の――ウワハルの――性器を初めて見た、なんてはずもなかった。  ただ少なくとも生で――夢や思い出以外で――見たのは久しぶりのことで、でも、今はなぜか懐かしさよりも初めて見たというほどの新鮮な興奮を覚えている。    そうか、わかった。――新鮮なのは()()()()()だ。  ……今のハヅキのこの勃起した陰茎は、ウワハルのそれよりもやや小さい。――ただそれは世の人のそれと比べて小さいわけではなく、それこそ今でも平均くらいのサイズはあるのだが、これでもまだ今のウワハルのサイズには届いていないのだ。  ウワハルの陰茎はやや細めだが長さは平均よりもある。今のハヅキのそれは太さこそウワハルのそれでも、全長がまだ(ウワハルのものとしては)未成熟なのだ。――言ってしまえば、それこそハヅキの陰茎はまだ「(ウワハルが)少年のときの」それ、という感じ。…だから俺は『可愛い』と思えたのだった。      ただ、ハヅキはもう「色っぽい大人のお兄さん」だった。   「…僕、ご覧の通り――もう十分興奮して、〝とろとろ〟になっていますから……」    ハヅキは陶然(とうぜん)とした目を伏せ、俺を強気に誘う笑いをふくませてそうささやくように言うなり、下着やスラックスからその真っ白な細長い脚をゆっくり引き抜いてゆく。   「……で…も…、で、でも……」    すると俺は彼の強気に圧倒されて、情けないけれど、それを(くつがえ)す気力がうまく湧いてこない。――ハヅキのその細長いふくらはぎ、細いのにやわらかそうな太もも、…俺は今自分が男だからこそ弱くなってしまっている。 「……ぁ…ね、…だめ…」  俺はつい感じながらも眉をひそめ、でもハヅキの手首をまたそっとつかんだ。…彼は俺のスラックスとボクサーパンツをゆっくりと下ろしてゆくのだ。すると勃起した俺の陰茎の裏筋が、わずかにすーー…っと下着のゴムにこすられた。  ……でもそんな弱気な掴み方じゃ、我ながら抑止力になんかならないことはわかっている――だってハヅキ、こんなに上品な美人なのにえっちには積極的とか、そのギャップがものすごいエロいから、正直悪い気はしないんだもん――俺のお尻に敷かれている下着やスラックスの布さえ、なかば無理やりずり下ろされてしまった。 「ふふ…ハルヒさん…、いつの間にこんなにガチガチにしていたんですか…?」    とハヅキがなまめかしい意地悪を言いながら、俺の下腹部に寝ている勃起した陰茎――へその下まで届く太くて長い陰茎――を、そっと持ち上げる。  ……くちゅ、…俺の充血して敏感さの増した亀頭の先端に、熱くぬるついた粘膜が触れ、――俺はビクッと腰を跳ねさせながらも、恥ずかしいやら自分が情けないやらで燃えているというほど熱くなった顔をしかめて、   「だっだめ、だったら、…」    ……俺の上にまたがるハヅキを、睨んだつもりだ。  ただ我ながらちょっと泣きそう、…恥ずかしい、情けない、――俺、やっぱこんなえっち望んでない、  ハヅキのこといっぱい気持ちよくしてあげたかった、ハヅキのこと丁寧に愛してあげたかった、――ハヅキのことは、俺がリードしたかったのに、…   「どうして…?」    ハヅキはくちゅくちゅと自分の濡れた膣口に俺の先端をこすりつけながら、そう妖しくほほ笑む。   「聞こえますか、このくちゅくちゅって音……僕のおまんこはもう十分とろとろに濡れてますし…、ハルヒさんだって、もうこんなにおちんぽガチガチにしているんだから…――本当はもう、僕のなかに挿れたいんでしょう…?」   「……、…、…」    俺は何も言えずに、泣きそうになるのをこらえて唇に力を込めた。  そりゃあ挿れたくないなんて言ったら嘘だよ、…少なくとも俺の体はハヅキの言うとおり、それを望んでいる。――でも、…  ……俺が反論さえする間も与えず、ハヅキはぐっと腰を落としてゆく――。   「……ッ!」    い゛っ…――ハヅキのしかめられた顔がみるみる真っ赤に染まってゆくが、…俺のしかめられた顔もきっと、みるみる真っ赤に染まっていっている。  息ができない、……俺の勃起が折れるんじゃないかというほどの圧を込めて、…やっと、ずぶ、…と俺の太い亀頭がハヅキの膣口にめり込んだその瞬間、メリメリメリ、と恐ろしい感覚――俺の亀頭がハヅキの膣口を裂いた感覚――が、生々しくそこに伝わってきた。   「…ッハヅキ、…」    ……っ君、どうして、――。   「…グ…ッ、…ぉ、おっきい、ですね、…はは、…思ったより、…」    ハヅキはぎゅっと辛そうに目を瞑ってはいながらも、虚勢を張ったぎこちない笑みをそのしかめられた顔にうかべる。――ただ亀頭まで入ってしまえばそのあとはスムーズに、ずぷんっ…と俺の勃起は、一気にハヅキの膣内にすべて納められた。   「……っは、…はぁ、はぁ……」    ハヅキは俺の上でダラダラ汗をかいたつらそうな赤い顔を伏せ、背中を軽くまるめるようにしてうなだれながら、 「はっハルヒさんのおっきくて、すごく太いし、…何より僕も久しぶりだから、やっぱり狭くなっちゃってました、――でも、全部入っちゃいましたね…――はぁ…、驚くくらい…ぴったり……」    なんてつらそうなまま微笑み、自分の痩せた平べったい下腹部をそっと押さえる。   「……、…、…」    ……いっ…痛い…、(せま)…い、…でも俺は涙目でハヅキを睨みあげ、痛みに詰まった喉から必死にだした低い声でこう言った。 「ぅ゛ぐ、…う、――嘘つき゛、…」

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