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                 俺が自分の上にまたがっているハヅキを(何よりこの窮屈な痛みのせいの)涙目で睨みあげ、「嘘つき」と彼を責めると――ハヅキは顔を伏せたままながら、つと目を上げて俺を見、   「え…?」と、とぼけた微笑を、その疲れたような美貌にうっすらと浮かべる。   「…嘘、ついてたんでしょ…」    でも俺は浅くなった苦しい呼吸のまま、余裕のない小さい声でそうさらに指摘する。…ハヅキは眉を寄せて「嘘って、」と笑った。   「…はは、何のこと…」   「なんで嘘ついたの…?」      ――嘘だったのだ。      俺のこの指摘は「疑い」なんかじゃない。  これは確信だ。――俺は確信している。        ハヅキは嘘をついている――。         「…ハヅキも〝初めて〟じゃん…――。」        ……俺はこの鈍痛をよく知っていた。  いや、よく覚えていた。――これは天上で、初めてウワハルを抱いたときと全く同じ感覚だった。  全く同じ狭さ、全く同じ締め付け、全く同じ痛み、全く同じ…――ウワハルの「初めての証」を突き破って、その入り口を裂きながらも狭く苦しい道を突き進んだ…――あの「初夜」と全く同じこの感覚を、俺はよく覚えている。    俺たち神は、自分の過去の記憶をやがては忘れてしまう、なんてことはない――それどころか、その記憶が時とともに曖昧になっていってしまう、なんてこともない。  神はそのときの温度や感触やかすかな音でさえ、のちのちに――それがたとえ何千年前のことであろうと――過去の記憶を思い出そうとすれば、まるで追体験でもするかのように、それを細かいところまで完璧に、鮮明に思い出すことができるのだ。    俺は今間違いなくハヅキの「初めての証」を突き破った。確信している。「全く同じ」だったからだ。  ちなみに、俺たちはたしかに「経験済」のウワハル・シタハルの分霊ではあるけれども、一旦肉体の年齢を赤ちゃんまで戻してから地上に降りたち、そこから地上の年月というルール通りに成長してきた俺たち、…いや、今や完璧に今のシタハルの肉体年齢に戻っている俺はまた別として――まだ今のウワハルとまでは肉体も戻っていないハヅキは、それこそウワハルが「初体験」を済ませる前の状態だ。…だから彼の膣口にはまだ「初めての証」があったのだ。    たしかに俺の陰茎は太いし長い。  正直我ながら巨根なほうではあると思う。  だけどもしハヅキが「経験済」だったなら、もう少し彼のそこは(ひら)かれていたはずだ。――俺の硬いそれが「折れそうなほど」圧力をかけなきゃ入らない、なんて、きっとそうならあそこまでの苦労は(ともな)わなかったはずだ。   「なんで嘘ついたの。」    俺はちょっと怒っている。  ……自分にもちょっと怒ってはいるけれど、…なぜそんな嘘をついたの。…ハヅキのその「嘘」はほとんど自虐的なものだった。  ハヅキも「初めて」なんだったら、それこそ俺だってさっき、もっと固い意志をもってこんな酷い挿入なんか断固拒んだのに――。    だって、そりゃあ「初めて」じゃ多少の痛みはどうしてもまぬがれられないことではあるけれども、…そうならなるべくハヅキの心と体の緊張を、ハヅキの膣口や膣内をじっくりほぐしてあげて、たっぷり愛撫をして、たっぷり濡らしてあげてから…――なるべく優しく、なるべく丁寧に、なるべくゆっくり挿入してあげて…――せめて俺ができ得る限りの愛を、優しさを尽くして挿入してあげられたし、…俺は自分の気持ちとしてもぜひそうしてあげたかったのに。  ……ただ天上での「初夜」は、あのときに関しては、ウワハルの膣や膣口を指や舌でほぐしてあげようにもそれが許されていなかった――彼のそこに初めて挿入されるものは、彼の運命られた夫神である俺の陰茎だけだと厳密に決められていた――けれど、…今回に関してはそんな決まりもなかったのに。    もちろん俺だってさっき相当痛かったし、今も窮屈な思いをしてはいる。  でも、ハヅキはきっと俺の非じゃないほど痛くて苦しかった――いや、今もきっとかなり痛くて苦しいはずだ。  ……本当は初めてなんだと知っていたら、せめて俺にも、その初めての痛みを軽減させてあげることくらいはできたはずだったのに、…   「……、…、…」    俺、今は泣きそうなくらい後悔している。  ……どうしてもう少し早く夫のこんな嘘に気が付けなかったんだろう。俺、どうしてこんなに馬鹿でまぬけなんだろう。  やっぱり流されちゃ駄目だったんじゃないか。  流されちゃ駄目、と思ったとき、俺はもう少しはっきりと、ちゃんとハヅキのその行為を拒んで、断固とした態度で覆すべきだった。  俺は泣くのをこらえて「ごめん、」とまずハヅキに謝った。…でもハヅキは俺の泣き出しそうな顔を優しいまなざしで見下ろして、ちょっと青ざめた病人のような疲れた顔で、やっぱり綺麗に俺に微笑みかける。 「謝らないでください。…それに僕、嘘なんかついていませんよ。」    ハヅキはそう平然と言い張るのだった。  ……けれども――彼の心は今もなお「無」だ。  俺はハヅキにゆっくりと両手を伸ばした。「おいで」と彼に優しい声をかける。――するとハヅキはおずおずと、ボタンの全部開けられた白いワイシャツを着たままの、その細い上半身を前のめらせる。   「……ね、ハヅキ……」    俺はハヅキの両頬を手のひらで包み込んだ。  ……ごめんね――この嘘に関しては俺、しょうがないから騙されてあげる、…なんて思えない。  きっとそう思っちゃいけないから…――だって君は、君の体は夫の俺に優しく、宝物みたいに大切に、大切に抱かれる(愛される)必要がある。それも初めてならなおのことその必要があった。  俺の愛する夫である君は、俺に必ずそういう丁重な扱いをされるべきだった。――それなのに君はこんな嘘をついて、こんなに痛い思いをすることを、…こんなに雑な抱かれ方をすることを、自ら選んでしまった。    もちろん俺も悪い。  そうしなかったのは俺でもある。  俺の弱さのせいでもある。――ただ、 「俺、実は全部覚えてるんだ…。天上でウワハルを初めて抱いた時の感触、痛み、…つまり…初めてウワハルに挿入したときのことを、全部…――神は追体験をするみたいに、過去の記憶を全部はっきり思い出すことができるでしょ…、だから……」   「……、…」    俺が切ない思いで見上げているハヅキは、こう言ってやっとそのツリ目にふっと、決まり悪そうな鋭さを表立たせたが――彼はふと目を伏せる。   「…だから俺にはわかるの――君も本当は、〝初めて〟だったんだって…。……」    もう主導権は渡さない。  ……俺はハヅキの頬をする…と撫で下げ――その両手で今度は、彼の細い腰を両側撫でながら、やがてその背中を抱き寄せつつ…――むくっと上体を起こした。…すると俺たちの顔はかなり近くなったが、ハヅキは気まずそうに目を伏せたままだ。    ちなみに、だいぶ馴染んではきたみたいだ。  まだまだ狭いのは当然だけれども、今はだんだん、ピッタリと俺の勃起を丸ごと包みこんでくれるハヅキのなかの熱さややわらかさを――その心地よさを――俺はやっと感じられるようになってきている。  ……でもハヅキはどうだろう、それは本当に気がかりだけれども。   「…ねぇハヅキ…。俺、君が〝初めて〟だって知ってたら、……ほんと、後悔してもしきれないよ、…だってそうならもっと優しくしたかった、――もっと大切に、大切に君を抱きたかったよ、――そうしたらもう少し、…痛いは痛いにしても、もうちょっと痛くなかったかも、…ねぇ、そうしたらここまで痛い思いは、大切な君にさせなかったかもしれないでしょ…?」   「……、…」    ハヅキはそっと目をつむった。  俺はまた彼の両頬を手のひらでそっと包みこむ。 「なんでそんな…――なんで経験がいっぱいあるとか、…なんでそんな嘘ついたの……?」   「……、…」    しかしハヅキの閉ざされた唇が開かれる気配はない。――彼の心のほうも貝の口のように固く閉ざされている。…何も聞こえてこない。  本当に嘘だったのかどうかの真偽さえ、彼はわざと無心になって隠そうとしている。    そう、ハヅキがさっきから奇妙なほど無心だった(わけ)は、俺にこの嘘が嘘だと悟らせないため――俺のことを騙しとおすため――だったのだ。    俺の「ハヅキはまだウワハルに戻っていない」という認識は、ちょっと甘かった。  ――やっぱりハヅキはこの短時間で、なぜだかやたら順調にウワハルに戻っていっているみたいだ。    なぜって、これは明らかにウワハルのやり口なのだ。  ウワハルなら片割れである俺のことでさえ、こうしてあざむくことができる。  今もそうだけれども…彼はこの嘘を真実として貫きとおすために、先ほどから努めて何も考えないように、心に何も思い浮かべないようにしている。  それもそれは並大抵の「無心」じゃない。  これはウワハルがこの何千年のうちに習得した「(たく)みな無心」だ。  たしかに俺たちはお互いにお互いの心の声を聞くことができる。そして俺たちは、お互いの心のうちに秘められている感情だって、お互いに読みとることができる。――ただ今はこれでも「繋がり」が薄れてしまっているので、ハヅキの心の声が聞こえている俺でさえ、今はまだ彼の心のうちの感情までは読みとることができないけれど。  そして俺たち双子神のこのテレパシーは、生まれたときからのものだった。…当然だ、だって一つの魂を二つに分けて生まれたのが俺たち二神なのだから、生まれたときから俺たちの魂は繋がっていたし、そしてその「魂の繋がり」があるからこそ、俺たちはお互いの心の声を聞くことができるのだ。  つまり俺たちは生まれてからこの何千年間ずっと、お互いの心の内だけはお互いに明け透けな状態、お互いにお互いのことは何でもお見通しだった。    とはいえ――。  それだって何千年も共に在ればこそ、そのうちに俺たちは、自分の本音を相手に隠す術もまた習得していった。――そう…その術というのは、今まさにハヅキが用いているこの「無心」だ。  そしてこの「無心」は要するに、自分の心の表面に(ふた)をしている状態なので、…つまりきっと、その蓋をされた心の内側では――俺が聴くことを許されていない彼の内側では――ハヅキは今もなお何かしらを想い、何かしらを考えているはずだ。    ただもちろん何千年も共に在れば、相手の挙動や声や表情のかすかな変化から機微を読みとることもお互いに容易だ。それの精度は他の人たちに比べてかなりの的中率だといっていい。――けれども…相手にそれを悟らせないポーカーフェイスだって、当然この何千年間のうちにお互いに習得してしまっている。  ……これはもはや「自己欺瞞(ぎまん)」のようなもので、相手のことを誰よりも知っているからこそ、俺たちにとっては相手ほどあざむきやすい存在もないのだ。    ただ今のウワハルのそれよりは、ハヅキの「無心」にはちょっと未熟さが残っているような気もする。  ――というのも今のウワハルなら、こうして「無音」の状態とさえならず、蓋の外にそれらしい思考や感情やをあえて浮かべておくまでの巧みなことができるようになっているから。 「……、…」  ……いや…でもひょっとすると、ハヅキもそれをやっていたかも、――あのBLがどうたらというのは、もしかすると「蓋の外」にあえて彼が並べていた思考、だったのかもしれない。  なぜならハヅキはあのとき、わざわざもう一度「僕は経験が多い」という言葉を入れていたからだ。    ……いずれにしても、ハヅキはウワハルだからこそできるこの「無心」をそうだと自覚しているのかどうか、実はもう案外ウワハルに戻っていたりするんじゃないのかな、なんて…――この心に蓋をされたままの状態じゃ、それすら俺にはわからない。  なら――もうしょうがない……()()()()だ。      俺は今は目を伏せているハヅキのその白っぽい瞳を、下からのぞき込んだ。   「君は何故(なぜ)嘘をついたの…? 〝天上春命(アメノウワハルノミコト)…、このセックスが終わるまではその心の蓋を取り払い、俺には必ずそなたの真実を聞かせろ。…そしてまずは、この嘘におけるそなたの真実を俺に聞かせるのだ〟……」   「……、…」    ハヅキの瞳が途端に生気のない虚ろなものとなる。  実は俺とウワハルは、天上で「夫夫の(ちぎ)り」を交わしたとき――つまり結婚したとき――、お互いの真名(まな)真字(まじ)をお互いに差し出している。  それも婚姻の儀式のうちの一つだったからだ。  ……ちなみに俺は店でハヅキの真名と真字も聞き出したけれど、それは天春(アマカス) 春月(ハヅキ)としての彼のそれらをも俺が欲しかったというだけ――ハヅキの全てを全部俺のものにしたかっただけ――だった。  ……ただそれもさっきは思いがけず役には立ったものの、…彼に言霊を使いたいだけなら、よっぽどこのほうが彼を完璧に操ることができる。      そう…今ハヅキは――ウワハルは、俺に心を操られている状態なので、     「…貴方に…どうしても抱かれたかった、から……」      と虚ろな表情で、つぶやくように本音を口にする。  そして今やハヅキの心の蓋は俺に――ほとんど無理やり――外されたために、…彼の心の声もまた、俺の魂の耳にこうして聞こえてくるようになっている。     『   ハルヒさんは「好きでもない俺以外のやつに、いやらしいことされるのは嫌でしょう」と僕に言った。    たしかにそんなの嫌だった。体を許す相手が誰でもいいわけがない。  初めては、やっぱり好きな人がいい。  ……というか、――ハルヒさんがいい……。    ハルヒさんの唇が自分の首筋に触れ、僕の肌にキスマークをのこしてくれたとき…――ハルヒさんが僕のネクタイやワイシャツを脱がせようとしてきたとき…――ハルヒさんが僕の肌に触れてくれて、――ハルヒさんが、…僕なんかに興奮してくれた、と知ったとき…――僕は、ほんとうに嬉しかった。    僕はあのとき、ハルヒさんにだからこそ自分の全てをゆだねたい、と切望した。    でも、さっきは…――貴方と結婚はできない、貴方は僕なんかと結婚するべきじゃない、と、僕がそう悲観的に思っていたときには…――僕はハルヒさんに、責任を感じてほしくはなかった。    僕の「初めての相手」になってしまったから、責任を取って結婚…――そういった重苦しい流れにしたくなかった。…ハルヒさんはきっとそう言い出すような誠実な人だと、僕は何となくわかっていた。    だが、好きだからこそハルヒさんと結婚はできない。  あのときはそう心に決めていた。  しかしその一方で、それでも僕は何とかして、叶うなら大好きなハルヒさんに抱かれたかった――。 』     「……、…」    ハヅキの虚ろな片目からこぼれ落ちた綺麗な涙が、つーー…と彼の頬を伝ってゆく。     『     愛しているからこそ――結婚は、できない。    でも僕は、どうしてもハルヒさんに抱かれたい。    だから、自分がセフレもいっぱいいるような性に奔放な人だと嘘をつけば――そういうそもそもが後腐れない人を演じ、…一度抱いてもらえたあとは特に、この胸に秘めた恋心を隠して、本当に「後腐れない人」になれれば…――ハルヒさんは僕のことを幾分か気軽に抱いてくれるはずだ。  そう決意した。  ――僕はそうした嘘をつくことを、決意した。    別に優しく抱いてもらえなくていい。  遊ばれるように抱かれても構わない。  都合のいい存在で構わない。性欲処理の相手だろうと、義務だから仕方なくというのだろうと構わない。  痛くても何でも構わない。  どんな形でもいい。    僕はハルヒさんに抱いてもらえるなら、彼に何をされても、どうなっても構わない。    妄想さえしたことがなかった。  貴方とのキスも、もちろんセックスも――手を握ってもらえればせいぜい、『思っていたよりちょっと綺麗かも』と言ってもらえればせいぜい、――僕なんかがと思ったら申し訳なくて、どんなに貴方を想ってぽーっとなっていたときでも、どんなに体の奥が熱く濡れてきていたときでも――申し訳なくて、妄想の中でさえハルヒさんに嫌悪されてしまうような気がして、まして僕なんかにそんな妄想されるのは気持ち悪いだろうしと、…手を握ってもらう以上の妄想すら、僕にはとてもできなかった。  僕はハルヒさんとの夜に理想さえなかったのだ。  だからどうなっても、僕はどんな形でも彼に抱いてもらえるだけできっと幸せになれると、そういう確信があった。 』     「……、…」    俺はそっと目を伏せ、ハヅキの頬の涙に口づけた。  君ってなんていじらしいんだろう…――。  ただ――ハヅキは更にこう胸の内を打ち明ける。     『     でも、バレたらどうしようか……。  ……まさか本当はセフレなんか一人もいないのだ。    こんな僕にセフレなんぞいるはずがない。  僕は自分がおぞましいほどの不細工だと思っていたから、そんな誰か他人とのセックスなんて思い切ったことできるはずもなかったし、――まあ端から作るつもりもなかったが、そもそも僕みたいなブスの相手をしてくれる人なんかいないと思っていたし、――何より、引きこもりであればあるほど心地いい内気な性格の僕が、そんなわざわざ誰かとの交流を、それも普通のそれより面倒くさそうなそんな関係性をわざわざ持とうだなんて、まさか考えるはずもなかった。    ただその一方、僕の体は本当に「開発済」だ。    BL漫画を描くために、独身でできる限りの経験をしてきた――それは本当のことだった。  僕は自分の手で、自分の体を開発したのだ。    ……とはいえ、アナルも乳首も体の隅々までどこもかしこも開発はしたが、…唯一膣にだけは触れたことがない。  BL漫画に膣のほうの経験は不必要だったし、何よりやたらと怖かったからだ。――何かそこだけは本能で触れちゃいけないような気がしていて、そこに関してだけはよくわからない猛烈な自戒がずっとあった――だから僕はこれまで、膣のほうだけは自主開発さえも避けてきた。    あと、本当はキスも初めてだった。  だからさっき舌を入れられても何もできなかった、…なぜって、…やり方が全くわからなかったからだ……。  多少食んだりなんだりをしたときも、完全に見よう見まねだった。――何かと知識だけはやたら豊富にあるのだが、知識と実践はまた別のものだ。  知識をもとに実際にやろうと思っても、タイミングも舌や唇の動かし方もよくわからなかった。  とにかく僕は本当は、誰かとの行為は全部初めてのことだった。  だが僕は、ハルヒさんと結婚してもそうは言えなかった。  本当は嘘だったのだと――本当はキスもセックスも初めてなんだと――僕は彼に打ち明けられなかった。    今さら「実は初めてなんです」と言い出すだなどと、僕にそんな勇気はなかった。  ……今さら言い出すタイミングも掴めない、…ましてや「実は初めてだから優しくしてね♡」なんて、そんなBLの可愛い系受けでギリギリセーフなこと恥ずかしくて三十路男の僕にはとても言えない、何より嘘をついていた罪悪感もあっては、――もうこの嘘を真実として貫き通すしかない、と思った。    痛みはもちろん覚悟していた。  当然痛いだろう。だが、覚悟さえあればどんな痛みも決して恐れるに足らない。――もちろんアナルを開発したときも、細いものから始めたにしたって、やっぱり多少の痛みと恐怖はあった。  だが、僕はそれをも覚悟してそこを開発したのだ。痛みくらいなんだろう。別にそれは覚悟さえしておけば何も怖いことはない。どうせ血が出るほど膣口が裂けることは決まっているのだから、そんなもん遅かれ早かれである。  ただ問題は、ハルヒさんが僕の思考を読むことができる、というそれだ。  そこで賭けではあったが、思考でも嘘をつけば何とかなるのではないか――ハルヒさんが僕の感情までもを読めるのならば嘘とバレるだろうが、口でも思考でも嘘をつけば、あるいは嘘をつき通せるのではないか――と考え、僕はそれを実行した。    しかし僕は幾度かハルヒさんのキスや愛撫に流され、ついぽうっとなってしまいそうになった――そしてその結果、その心のゆるみのせいで「思考の嘘」にボロが出るのでは、と恐れた。  ……そのため、僕はあえて理性を働かせ、BL漫画のことばかり考えるようにしてみた。なお、ちゃっかり「経験数多(あまた)」とのアピールも忘れなかった。――ところが今度はそれをハルヒさんに訝られたので、では、と挿入を急ぎながらも(とにかく挿入の山場さえ越えてしまえば、あとはこっちのもんだ、と考えていた)、今度は何も考えない無心を心がけた。  さらに僕はBLで言うところの「襲い受け」を演じることで乗り切ろう、かつ挿入を急ごうとした。  するといよいよ「無心」に磨きがかかった。…漫画を描いているときほど無心になれる瞬間もない。それこそまるで漫画を描いているときのように、ある種の仮面(ペルソナ)である受けの人格が表向きフェードイン、その一方で僕本来の人格は一旦フェードアウトした。  だから普段の僕ならあり得ないほど大胆にも彼を押し倒し、思考でも『もう欲しい…♡』なんていう発情を装って(とはいえそれは全くの嘘、というわけでもなかったが)、とにかく挿入を急いだ。    ただ積極的な襲い受けを演じているとはいえ、例えばフェラチオなどは当然未経験なので、…まあディルドをしゃぶったことはあるが、…そういった実践的な行為は避けるしかなかった。――やればその(つたな)さから童貞(32)とたちまちバレるに決まっていたからである。    とはいえ…計算外なことに、ハルヒさんはどうも「初めての感覚」をつぶさに覚えていたらしい。    あーあ……。  ――結局、僕の嘘は嘘だとバレてしまった。 』     「……ふ…」    とハヅキが涙目で俺に微笑みかける。  気恥ずかしそうな、しかしとても綺麗な微笑だ。  またほろ、と彼の美しい白い瞳からは涙がこぼれ落ちる。   「でも…ありがとう、…僕のファーストキスも、〝初めて〟も…――大好きな貴方にもらってもらえて、…本当によかったぁ、…」   「……ばか。…」    もう…俺はハヅキをぎゅっと抱きしめた。  俺たち、やっぱり色々初めて同士だったんじゃん、…なら、本当はやっぱりめちゃくちゃ優しくしてあげたかったな…――言いたいことはたくさんあるけど、…それはあと。  悪いけど俺、これでももう「入っちゃってる」から、…いや自分で聞いておいてアレだけど、実は俺は今、結構そんな場合でもない。   「…もう痛くない…?」と俺はハヅキの耳に囁く。   「はい…、もう痛くありません…」    ……ハヅキは今はもう嘘をつけなくなっている。  それどころか今の彼はもう真実しか口にできないのだ。   「まだ入り口は少しヒリヒリするが、むしろ気持ちよくなってきました…、…でも…実はもどかしいんです…。ハルヒさんのおちんぽの先が、僕の子宮口にさっきからちょっとこすれていて…――お願いします、いっぱい奥突いてください…――早くめちゃくちゃにされたいです…♡」   「……へへ、…可愛すぎ、…俺も早く君をめちゃくちゃにしたーい…。」        だからまずは、今から君をめちゃくちゃにするの。        

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