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「……え…っ?」
とにわかに驚いたハルヒさんが動きを止めてしまったせいで、間際に迫っていた僕の絶頂は寸止めにされる。――僕は彼の驚きの理由がわからない。
だがそれ以前に、初めてこの子宮口付近、すなわちポルチオでの絶頂を迎えられそうになっている今の僕は、彼のその驚きより何よりもこの焦燥 、今自分の体のなかでせり上がってきているこの生命力あふれるあと少しの、あと数回の、あと数秒のことで開花へまでたどり着けそうな、この絶頂の開きかけの蕾 にばかり気を取られ――するとそれをばかり惜しむ気持ちで、そして焦らされた体のある種の生理現象か、僕は自然腰を揺蕩 までさせてしまう。
まさか初体験でこうも容易く絶頂を迎えられるとは夢にも思わなかったが、だからこそこの機にぜひその新しい絶頂を経験しておきたい――そもそも関心のあったそのすさまじいという絶頂がいかほどのものか、ぜひこれで確かめてみたい――と、…この機を逸 せば、何か損をしそうなような焦燥が僕のなかに渦巻いている。
「…ぃ、イけそうなんだ…、イかせて……」
僕が腰をもどかしくくねらせながらも潤んだ薄目をあけ、そのあからさまな驚き顔のハルヒさんにねだると、…彼ははたと我に返ったように――ひとまずは自分のその驚きを脇に置いておこう、と決心したかのように――コクンとうなずき、しかし、
やはり多少の戸惑いを、その彫りの深い美しい顔に漂わせつつも目を伏せ、斜めからの唇で僕の唇を食みながら、僕の両耳の軟骨を親指の腹で愛撫しながら、…またぐうっと亀頭を押しつけた上での、その小刻みなやさしい振動を僕の張りつめた子宮に与えてくれる。
「……ン…っ♡ …ん、♡」
あ、あぁ…あぁイく…――イきそう、イく、イく、イく……。
僕はハルヒさんの背中を強く抱きよせる。僕の膣口がぎゅーっと力んで狭 まる。
ハルヒさんが惜しみなく与えてくれるこの愛、…唇と耳、そして子宮に与えられるこの快感、この快楽は、僕の恋心をひどく陶酔させた。
間違いなく彼は僕の夫だ、運命られた僕の夫だと僕に確信させると同時、あたかもこの快楽を僕に与えてくれる存在は夫のみとさえ断定的に、何か自分の夫が僕にとっての「快楽の唯一神」だとさえ思わせる。――彼は、彼の与えてくれる快感は、この快楽は、今の僕にとっての唯一のよすがだった。
僕は唯一無二の夫の与える、唯一無二のこの快楽に身も心もすっかりゆだねる他にはない、そう断定させるほどのよすがだった。
ああ、イきそう、――。
自然に、ひたすら子宮に蓄積されて膨れ上がってゆく重たい快感一点に意識が集中してゆく。
僕の中で感情が入り乱れる、…イく、と、好き、それらがただただ自分の下腹部のなかにふくれ上がり、重く固く溜まってゆく――イく…イく…――好き…好き……。
貴方だけが――ほんとうに、大好き……。
「…――ッぁ、♡♡」
……プ ツ ッ と 切 れ た 、…僕の子宮を外側から縛りつけていた何か、鎖 か糸かなにかがにわかにプツッと切れた。ふっと思考や感情が途切れる。放出される。
「…ッぁ、ぁぁぁ…――っ!♡♡♡」
僕の腰の裏が反りあがり、胸板は突き出される。
勝手に…この快感は、この快感は、この快感は、…僕の子宮から一気に放出されたこの快感は、僕の腹筋の全体をビクッ…ビクビクッと痙攣させ、――たちまち髪の毛先一本一本や手足の爪の先にいたるまで素早く行き届く真綿のようなこの快感は、この体の末端神経まで何かに恐怖しているかのように強ばらせ、――夫の体をよすがにする他ないとしがみつく僕のその全身の皮膚を、その下の神経を、ぞくぞくと何度も何度も粟立たせる。
――子宮がまるで第二の心臓となったかのようにドクンドクンと脈うち、そしてその鼓動はあたかも快感であった。それもその力強い鼓動は快感をそこから全身の血管に、指先にいたるまでの毛細血管、いや、本来感覚などないはずの爪の先や髪の先、その隅々へまでじわぁぁ…っと伝播 させてゆくようであった。
「ぅぁ、♡ …ぁぁ…♡♡ …ぁぁぁ……♡♡」
僕は今自分の全身にひろがってゆくこの快感を「愛」と認識している。
この全身に行きわたる快感はまるで、僕の肉体のその隅々にいたるまで夫の愛が快楽として伝播しているかのような、その夫の愛に、本来感覚などないはずの髪の毛先や爪の先まで性感帯と目覚めさせられたような――その愛が僕の毛先や爪先を心地よく育 み、伸ばしているかのような――、…僕の魂が望んでいる夫からの「愛の支配」に、肉体ばかりか魂の末端までもをあまさず束縛されているかのような、そうした途方に暮れるほどの悦びを覚えさせる。
「……は、…」
……ただどれほどの時間が経ったのか、数秒だったのか数分だったのかも自分では分明ではないながら、ふと貪欲な子宮の疼きに緩やかに目が醒める。
つまり僕の体はなおも「もっとイきたい」とそろそろ欲を出しはじめたわけだが、それこそは絶頂の波がひとまず落ちついたことの証左でもあった。
そして少しだけ、少しずつ自我のような意識が取り戻された。
「…はは…、なんて可愛いの…?」
僕の意識が最初に聞いたものは、夫のその少し上ずった慈しみのかすれ声であった。
また僕の意識が最初に見たものは、僕のおぼろげな意識を露わにしているだろう瞳をじっと凝視してくる、夫のあまりにも幸せそうな――しかしその幸福の根源は支配欲を満たされたことによるもの、と確信できる、男の欲情した鋭さを帯びた――甘やかなタレ目、細められたその長い銀のまつ毛、そして燃えさかる火よりも血よりも紅 を極めた、潤んだ真紅の瞳であった。
「…ねぇウエ、気持ちよかった…?」
「……はぁ…、はぁ……」
僕は口でか細く呼吸しながらも、浅くコクコクとうなずいた。…あまりにも気持ちよかった、と。
……しかし、彼はギッとベッドスプリングをきしませながら両腕を立てて僕を見下ろし、その影をおびた美貌にちょっと疑問めいた真顔をうかべる。
「…てか俺、ちょっとわ か っ ち ゃ っ た 、かも…」
「……? はぁ…、な…にが…?」
何をわかったと弟 が 得意げになっているのか、僕は気だるい脱力のなかにある薄ぼんやりとした意識であろうとも、当然その男神の意味深なセリフには関心をそそられた。
すると僕の夫はいよいよ何か「確信」を得たらしく、たちまち「えっと、多分だけどぉ…」と子どもっぽい得意円満に、
「…君 が 気 持 ち よ く な る と ウ ワ ハ ル に 戻 る 、――んじゃないかな…って…。」
「……?」
僕が気持ちよくなると――ウワハルに、戻る。
……いや、シ タ ハ ル の 言わんとしていることはわかる。だが、――僕はハッと目を瞠った。
「ぁ、…僕今、――っは、ハルヒさんのこと、シ タ ハ ル っ て 認 識 し て 、…」
確かに僕は今多少なり「戻って」いたらしい。
――「神の自我」……つまり天上春命 としての意識が、…ハヅキとしての僕の自我と乖離している、と言われていたはずのその「神の自我」が、まるでその二つの自我が僕のなかで少し融合したかのように、今あまりにもそれらしい兆候が自然とにじみ出るように表に出ていた、と自覚にまで及ぶほど、…僕は今たしかに「戻って」いた。
「……うん…。ねぇハヅキ…」とハルヒさんが僕を見下ろしながら、その真剣な顔をちょっと傾ける。
「…さっき君、〝僕の旦那様のおちんちんでイきたい〟って言ったでしょ……」
「……ん、あぁ…はい、…まあ……」
言いました…が、…真剣な表情でのそのセリフはいささかミスマッチである。――「あれさぁ…」とハルヒさんはしかし、やはりまるで深刻な話でもしているかのような顔つきのまま、更にこうつづける。
「…君が…、というかウワハルが俺のでイくとき、俺がそう言うようにって躾 けたんだよね……」
「……、…」
躾けたって、おいおい。
だがすぐさま僕の呆れを見透かしたハルヒさんは、ちょっと心外そうに「違う違う、」と慌てる。
「別にそ う い う プ レ イ は俺の一方的なやつじゃなくて、もちろんウエもめっちゃ悦ぶからだよ、…ウワハルはいわゆるドMなの、――それこそ、普段は絶対口にしないような恥ずかしいこととか言わされるのも好きで、…」
「……あぁ…、……?」
――なぜだ…?
なぜだろう…――いや、あの気の強そうな、むしろ「ドS受け」っぽいような天上春命 が夜のみドMになる、とのギャップは意外に感じつつも、なかなか腐男子的には「おいしい」だなんて、僕の(おそらくハヅキとしての)意識ではそう思ってはいるのだが――何かハルヒさんのその「ウワハルはドM」という言葉を否定したいきもちなかば、その一方では羞恥心から言語化を避けたい「肯定」のきもちがもうなかば、…今の僕の意識の中には、その「三つのきもち」が不思議に共存している。
「…ウワハルってさ…」とハルヒさんが複雑そうな表情でつぶやくように言う。
「確かにめっちゃ気位が高いし、ナルシストだし、日によっては〝宝物扱い〟されないと途中でも俺を拒むし、――ほんと我儘 で扱いが難しい血統書付きの猫、みたいな感じなんだけど……」
「……、…、…」
僕の片頬がひくつく。
なぜかちょっとムカッときている僕がいるのだ。
「ただ…逆に乱暴な感じだとか、恥ずかしいこと言わされたりさせられたりするほうが善 い、みたいな日もあって…――それこそ普段は〝おちんちん〟とか〝おまんこ〟とか下品だし恥ずかしいからって絶対言わないのに、…俺にいじめられてとろとろになっちゃうと、自分からもっとエロいこと言いはじめるし、やりはじめるし……」
「……、…」
僕はなぜかかーっと赤面した。
いや、しかしハヅキとしての僕が、その内容を聞いただけで赤面するのはいささかおかしい。――なぜなら僕はバカみたいにBL漫画のエロシーンを描いてきた以前に、それよりひどいセリフも内容もばんばか繰り出されがちなアダルトコンテンツを(ほぼ毎晩)たしなんできた男だからである。
……とするとこの「恥ずかしさ」というのは、ウワハルの…――。
ハルヒさんがふと銀の長いまつ毛を伏せながら懐かしそうに、愛おしそうに微笑する。
「ほんとウワハルって可愛いドMなの…――それに、ほんとうは俺に毎晩抱かれなきゃ生きていけない淫乱だし……」
「……、…――。」
――僕の目の裏にふと浮かんでくる映像がある。
いや、これは「記憶」…だ…――『僕はもうシタハルのおちんぽ無しには生きてゆけない、はしたない体になってしまったんだ』と、僕はそのとき思ったのだった。
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