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俺たちは今繋がりあったまま――俺はハヅキの膣内に自分の陰茎をおさめたまま――まるで二人が一つの塊 になったかのように体を組み合わせ、唇もかさね合わせたまま、じっとしている。
ちなみに残念だけれど、俺たちはまだこの通り二 神 の ま ま ――つまり俺たちはまだ「統合」には至っていない。
ただハヅキは今「統合」の感覚を少し思い出せたみたいだが、全てを思い出している俺からいわせてもらうと、彼のそれはまだ「さわり」程度の未熟なものだった。――たしかに彼のそれは、「統合」するにおいて重要な核心部分のイメージではあるものの、それこそ俺とウワハルが初夜に抱いた程度のまだ初歩的なやつだ。
……そうそう、俺たち双子は初夜にも「統合」には至れなかったのだった。
とはいえ、俺の射精が終わってもなお、俺とハヅキはしばらくこうしてじっとしている必要があるのだ。
というのも、俺たちはこのじっと一つになっている時間に、お互いの神 氣 補 給 をしている。
それの原理はこう。まずはああして俺の神氣――精液――をウワハルの子宮に注ぎ込むでしょう。
するとウワハルの子宮に溜まった俺の神氣は、そこから彼の体内に吸収され、たちまち彼の全身をめぐって――俺の神氣と彼本来の神気とが混ざりあい――そうして俺と彼の神氣がムラなく混ざりあい、「一柱の神氣」とまで完全な神氣になったなら――その完全になった神氣の半分はまた、彼の子宮に戻ってくる。
で、今度は俺がその神氣を受けとる番だ。
その神氣は俺の陰茎の尿道口から入って逆流し、俺の体内へとどんどん入ってくる。――ただ尿道を逆流してくるともなると、他の人たちは痛いのではないかと思うかもしれないけれども、ところが全然痛くはない。…かえってこれがまたむずむずとするような快感を生むのだ。
そのせいでしばしばお さ ま り が 効 か な く な っ た 俺が、夜明けまでウワハルを抱きつぶしてしまうなんて、ままあることなのだ。
でも、今はとりあえずこれで終わりにしなきゃ。
ハヅキも今日はいろいろあって疲れたことだろうし、それこそ俺がさっき意地悪をしてしまったのもあって、これで彼に三回戦まで強 いてしまったら、いよいよ彼は失神してしまうかもしれない。
「……、…」
俺がハヅキの唇に重ねていた唇を――頭をそっと浮かせて見ると、…ハヅキは心ここにあらずのその両目を伏せていた。
……わかる。
俺のなかにも流れ込んでくる――。
――ハヅキは今、ま た 思 い 出 し て い る 。
過去の記憶――ウワハルの、その「神の記憶」を。
……これは…この記憶は――。
俺たちがまだ子どもの頃の記憶だ――。
この日、下界――人間の子たちが住んでいる地上――に遊びに行った俺たちは、まだ人間の子どもでいうところの九歳か十歳ごろの少年だった。
とはいえ、年数でいったらこのときの俺たちだってもう何百歳だ。
でも、人間の九、十歳の少年と同様に、その年ごろの神だってまだまだ遊びたいざかりには違いなくて、…ましてや天上には俺たちと同年代の子どもが少なかった。特に俺たちの周りは大人ばかりであったので、子どもの頃の俺たちはときどき退屈することがあった。
……だから俺たちはたまに地上に――神であるという――素性をかくして降り立っては、人間の子どもたちにまぎれて遊ぶようなこともしばしばあったのだ。
ちなみにこの頃の地上はもちろん随分昔の日本だ。
まだ電気や機械やなんて何もない、明かりといえば灯火か太陽か月、星のそれだけ、建物はすべて木造の日本家屋、それもほとんど平屋、そして人々は、みんなが当たり前に和服を着ていたような時代のことだ。
それで――このときの俺たちも、昼ごろのよく晴れた初夏の地上に降り立った。
梅雨 入り前の、熟した枇杷 の実がたくさんみのる季節だ。
で、この頃、俺たちのことをよく可愛がってくれていた、仲良しのおつるさんというお婆さんがいた。そして彼女と彼女の旦那さんは、住んでいる村はずれの山裾 の野っぱらに、立派な枇杷の木を一本もっていた。
それは彼女と旦那さんの思い出の枇杷だった。――ご夫妻には子どもができなかったから、その枇杷の木がほとんど彼らの子どものようなもので、…けれども、お二人ともお爺さんとお婆さんになってからは、毎年枇杷の実の収穫に骨を折っていた。
……そこで俺たちの出番だったってわけ。
俺たちはおつるさんたちに「分け前」をもらう代わりに、枇杷の実をみーんなとってきてあげる、と約束した。するとご夫妻はとても喜んでくれて、収穫用の大きなかご――竹を編 んで作られた背負 かご――を俺たちに一つわたし、でもおつるさんは「気を付けてね、くれぐれも山賊 なんかが出たら、かごなんか捨ててすぐ逃げなさいね」と忠告しながらも、俺たちを見送ってくれた。
俺たちは「はーい、いってきまーす」と元気よく返事をして、手を繋ぎ――ウワハルは大きな竹かごを背負い――出発。
……そうして村を出てすぐの野っぱらにある、五メートルはあろうかという立派な枇杷の木――薄だいだい色の楕円形の実をたくさんつけたおおきな枇杷の木――の前までたどり着いた。
ただその目的の場所についてすぐ、俺は泣くことになった。――だってウワハルが「シタが木に登れ」というのだ。…俺は「やだよぉ…」と半べそをかいた。
するとウワハルは俺をドンッと突き飛ばし、尻もちをついた俺のお腹に馬乗りになって、
「おい、兄のぼくに逆らえると思うなよシタハル」
とその色白な美少年たらしい顔でニヤリ……。
――このときのウワハルは、…というかこのときのウワハルも、大そう美しい少年だった。
特に(人間でいえば)九、十歳の少年だった頃の彼は、その綺麗な顔と色の白さ、また一見大人しそうな上品な風貌をしていたのも手伝ってか、しばしば女の子に間違えられていた。
またそのつややかな腰までの黒髪は今でいうところのポニーテール、着ている服もかなり上等な白、中は青の公家 の子どもが着るような狩衣 で、…ちなみに一方の俺は白に中は赤の狩衣、俺も癖のある銀髪をポニーテールにしていた。
で、まあ俺もよく美少年だ、とは言われたけれども――我ながら銀色のまつ毛は長いし目尻の垂れた目は大きかったし、このときから顔の彫りもなかなか深かった――、ただ俺のほうは、一度だって女の子に間違われるようなことはなかった。…俺は地黒でもあるので、そのあめ色の肌が特に周りには「活発な男の子」という印象を与えていたのかもしれない。
……ところが、俺よりもよっぽど大人しそうな色白の細身な美少年――どう見たって貴族など、位の高い家に生まれた上品な「いいところのお坊ちゃま」――にしか見えない、…これは何度も言うようだけれど、それこそしばしば女の子と間違われがちだったウワハルは、…けれどもそのしとやかそうな外見にはまるで似つかわしくなく、とにかく気の強い、ちょっと乱暴者なわがままな少年だった。
「早く取ってこいよ」
とウワハルが俺の白い狩衣の、その胸ぐらをつかんでぐっと持ち上げる。
「…うっ…うっ…や、やだぁ……っ!」
でも俺はメソメソ泣きながら首を横に振った。
で、一方の俺は、実は小さい頃――かなりの泣き虫だった。
ウワハルと共にいたずら好きなやんちゃな子どもではあったけれども、ただ本当は怖がりで甘えん坊で、不安だったり痛かったり悲しかったり、あるいは怒ったりすると、俺はすぐにめそめそと泣いてしまう弱虫な子どもでもあった。
それで、このときもウワハルに木に登って枇杷の実を取ってこい、なんて命令された俺は「やだよぉ…」とそれだけで半べそをかいた。
……だって五メートルもの高い木に登るのはあんまりにも怖かったのだ。そりゃあ枇杷は食べたかったけれども。
で、弱気になっていやだいやだ、と半泣きでくり返す俺をウワハルは突き飛ばし、そして泣いている弟の俺に馬乗りになったってわけ。
でもこんなのは日常茶飯事だった。俺の体感ではほぼ毎日ウワハルに馬乗りになられ、しばしばそのままぶたれていたし、…ましてやこのときの俺はまだまだ子どもで、力だってウワハルと同等か、下手すればウワハルよりも弱かったのだ。
しかもあまつさえウワハルは頭が切れて、まず俺と彼とが喧嘩をしたら、口でも力でも俺は兄に勝てなかった(大人が仲裁してくれた場合を除いて)。
大人たちはよく笑いながらこう言ったものだ。
……外見と中身が逆だ、と――。
それこそ彫りの深い活発そうなあめ色肌の少年の俺のほうが、よっぽどジャイア…えっと、…そう、まあ言ってしまえばその年頃の男の子にありがちといったらありがちな、ちょっとわがままでいじわるで気の強い、活発な少年と見えるのに――ところが一見よっぽど気弱そうで、大人しそうで、もじもじしたりメソメソしたり、それこそ優等生っぽく花のように微笑んでいそうな、中性的な容姿の色白の少年だったウワハルのほうが、…よっぽど、よっぽどジャイ……こういう、
「シタ、枇杷を取ってこなきゃぶってやるぞ」
……こういう、メソメソ泣いている弟の胸ぐらを掴んで、小さいまっしろな拳を弟に見せつけ、脅すような――弟をいじめるような――少年だったのだ。
「ッお母さまに言いつけるから…っ」
と俺は泣きながら兄に精いっぱいやり返した。
すると兄は「いいよ」と勝ち気に目を細めた。
「でも、どうせ告げ口されるなら、おまえのことをとことんボコボコしなきゃ損だよな…?」
「ひっ…! ぅ、うう…っ」
……とんでもないいじめっ子の兄でしょ、ほんと…――俺はウワハルのことが大好きだったけれども、…ときどき大嫌いでもあった。
「でも、だって、だって、…木のぼりなんかしたら、着物が汚れちゃうもん、…着物を汚したらお母さま怒られちゃうよぉ……っ!」
俺はやっぱりメソメソ泣きながら、今度は高い木に登れない言い訳をした。でもウワハルはそれをふんっと鼻で笑った。
「もう汚れてるだろ。おまえの背中はもう泥んこだ」
と俺をさげすむ兄の笑顔に、俺はまた「うえぇ…っ」と泣き出した。
で、結局このときはどうしたのか、って……。
……もちろん俺は(いつも通り)兄には全く逆らえず――結局は「怖いよぉお…っ」と怯え、泣きながら木にのぼり、枇杷の実を取ってくる羽目になった。――ちなみにそのときのウワハルはというと、俺が木の上から投げて落とす枇杷の実を一つ一つキャッチしては、背負っているかごにそれを入れていった。
俺は身がすくむような恐怖と闘いながら、…苦労して、苦労してなんとかその木に実った熟している枇杷の実を次々下に落とし、…なんとか全部それをおとし終えて、――そして木の幹を慎重につたい下り、改めて地面に両足をつけたとき、…膝からくずおれた。膝がガクガクと笑っていた……。
ただ、俺って我ながら単純な子どもだった。
俺が苦労して取ってきた枇杷を、「分け前」、そう…俺とウワハルは枇杷の木の下に座って、早速それを食べていたのだけれども(ちなみにウワハルは背負っていたかごを一旦地面に置いていた)、…恐怖心に打ち克 って枇杷の実という戦利品を、苦労しながらも自分の力だけで得られたという達成感――それの加わった枇杷のなんと甘かったことか…――すると俺はそれを食べている頃にはもうすっかり泣きやんでいたし、ウワハルに対して恨みがましく思うような気持ちもさっぱり晴れていた。
ウワハルも「よくやった」と俺を褒めてくれたし、彼は――そればかりは優しい兄らしく――双子だというのに、俺のことを年下の弟扱いして、まるで母や大人が俺たちにしてくれるように、枇杷の皮を一つ一つ丁寧に剥 いては俺に渡してくれた。
「……おいしいね」と俺が隣の兄にほほ笑みかけると、兄も俺にほほ笑みかえす。
「うん。おまえのおかげだ。ありがとうシタ」
「…えへへ…っ、ねぇおれ、カッコよかったでしょ…?」
俺は普段から弱虫、泣き虫、意気地なし、とウワハルにバカにされていたが、今度ばかりは「カッコよかった」と兄に褒めてもらえるのではないか、と期待した。――もちろん、
「…ふ、全然。おまえ、木からおりてくるまでメソメソしてたじゃないか。」
……そう目を細めたウワハルはまさか、俺の「勇姿」をそれとは認めてはくれなかった。
「でも、弱虫のシタハルにしちゃ…、……?」
……ただ――そうやって仲良く枇杷を食べていた俺たちの前に、立ちはだかる大きな影が二つあった。
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