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69 ※
行灯のあかりばかりのほの暗いこの部屋――無垢な白い布団の上、その生白い細長い脚をななめに崩して色っぽく座るウワハルの真後ろにあぐらをかいている俺は今、兄のその雪にも勝るまっしろなあらわな背中をしげしげと眺めている。
……俺は先ほどするー…とウワハルの背後から、彼の身がまとっているその白い浴衣をここまで脱がせた。――けれども、丸裸を恥ずかしがったウワハルは今、白い浴衣の袖にも肘から下を通したままだし、また着くずれているとはいえ、帯から下も浴衣をまとったままだ。
いや、その「着くずれた」感じがまた何ともなまめいて見える。…要は淫靡なのだ。それにちょっとした「非日常」でもある。――だって普段のウワハルの装いには隙なんかちっともない。
その生まれついた稀 な美貌をより完璧なものに仕立て上げようという美意識の強い兄は、身につけた着物の些細な崩れさえ几帳面なほど許さず、それこそ朝起きてウワハルがまずすることといえば、布団にすわって、寝間着の浴衣の衿もとを――すぐ着替えるというのに――整えること、…そして日常のうちにも、逆に多少の崩れくらいなんとも思わない真反対な性格をした弟の俺の、そのだらしなくゆるんだ衿もとに眉をひそめては、静淑 な兄のしぐさでしばしば俺のその衿を正してくれる。
そうした風紀の乱れとは無縁というほど几帳面な兄、いつだって隙のない端雅 な装いを崩さないウワハル、――なのに乱れている…――それだからこそ今、この艶冶 に着くずれた白い浴衣からあらわになった、このまっしろな逆三角形の細い背中の、それでも凛と気高く伸ばされた背筋の、この骨ばった肩甲骨の、何よりこの細い腰の、このややくずれた艶美な黒いまとめ髪の、このおくれ毛のかかる真っ白ななめらかなうなじの、この美しい端整な肉体から香りたつ色香が、よりいっそう濃厚なものになっているのだ。
どこもかしこも、俺の兄の、俺の夫の体はなんて綺麗なんだろう?
こんなに濃厚に香りたつこの白百合の魅惑的な色香は、その実兄のあの潔癖な日常に、兄のあの隙のない着物の下に潜んでいたらしいのだ。…それを隠していたというより無自覚に潜ませていた兄の、その白百合の花びらのように清純な白いなめらかな肌は、潔癖な日常から外れたこのほの暗い部屋によりなまめかしく映えている。
「……は…、……は……」
それに兄のそのうす赤いうつむき顔は今、うつろにその長い黒のまつげを伏せ、さらには元の薄ももから赤みの増した唇も半開き――ウワハルはしきりに、そのつやつやとした唇で喘いでいるけれども、
「……シタ…、ねぇ…もういい、…から……」
と小さな声で背後の俺に言うのだ。いや…求 め る 、のだ。
「……ふふ…、だから…〝もういい〟って何が…?」
俺はま た しらばっくれる。
……「もう先に進んでも構わない」――あれはまったく貞淑なウワハルらしい「求め方」だった。
ところが逆に、その清純も過ぎるくらいの曖昧なセリフ回しにちょっとしたいたずら心が芽ぶいてしまった俺は、それに対しても「え? 先に進めていいってどういう意味…?」なーんてすっとぼけたのだ。
するとそもそも俺を自ら求めた、ということ自体にも羞恥心を覚えていたしとやかな兄は――「清雅 な情交」なんてものを理想としていたウワハルだ。なんならああ言ったあと、彼は自分から俺を求めてしまったことに『なんてことを言ってしまったんだろう…』なんて後悔していたくらいなのだから、当然――「あの、だから、その…」とモゴモゴ……まさか俺の兄には言えるはずがなかった。
そう…自分の言った曖昧な言葉が「どういう意味なのか」なんて慎ましいウワハルには言えるはずもなく、兄はそれっきり黙り込んでしまった。
で、俺は黙り込んだウワハルの背後にまわり、その浴衣をなかば脱がせたって感じ――もちろんウワハルのあらわな背中が見たかったのもあるけれど、ほとんどは意地悪にも押 し 付 け る た め に 、…でも俺はまず後ろから、ウワハルのそのまっしろなうなじにむしゃぶりついた。
「…あぁ…っ!♡ っん、♡ …っし、シタ、…」
媚薬のせいか、それにさえ甲高い悲鳴のような声をあげたウワハルは、その身をよじらせて逃げようとしたが、俺は後ろから兄の細身を抱きすくめるついで、どさくさにまぎれて兄の胸筋を揉みしだく。「ゃ、」とウワハルの両手が俺の手首にかかるけれども、当然今の兄の膂力でのそれはまったく抑止力にはならない。
「ぁ、ぁんっ♡ …〜〜ッ」
そしてあん、なんてもっとも「それらしい」声を恥じたウワハルが、『なんてはしたない声を、』とあわてて両手で口をふさぎ――その手のなかで、
「や、ゃめ、…こ、この変態、…」
と俺を罵ってせめてもやり返す。が、…それくらいのこと平ちゃらな俺は、彼のたわんだ黒髪がかかる耳へこうささやきながら、
「へへ、いーよ変態で。けだものでも、ふしだらでも…俺は何だっていいよ…?」
ウワハルの粒だった乳頭を両方つまんでくりくりといじくる。――するとウワハルはぎゅうっと眉目を険しく強ばらせながら、必死に手のなかで甘い声を殺そうと努めている。
「〜〜っん、♡ ンん…!♡ んふ、♡ ン…くん、♡」
けれども、…かすかながらもれている。
ほんとかわいい…――可愛い声……俺はウワハルの耳にこう囁く。
「はは…なんて可愛い声だろう…、ウエは俺に触れられたなら、嬉しくって…気持ちよくって…こんなに可愛い声を出してくれるんだね…?」
「……ん…♡ んん…♡」
するとウワハルのその伏し目に、何かとろんと火照った幸福が帯びる。お…?
「……ぁ、♡ あぁ…だめぇ……♡」
俺が兄の口もとの手を掴み下げると、いよいよとろめいた声をあげるウワハルは、そのまま俺に――彼の腕が上がらないよう、その両腕を脇にひっつけるよう――後ろからぎゅうっと抱きすくめられると、…自然お尻に押し付けられた俺の硬くて熱いものに、
「……っ!」
ビクンッと怯えてうなだれ、は、は、は、にわかに呼吸を荒くしながら、肩を縮こませてぷるぷると震える。…俺はニヤニヤとこうからかう。
「…はは…〝痼 〟になっちゃった…。心配…?」
「…か、からかうなよ、…流石に…もう……」
こ れ こ そ が 勃 起 だと、それくらいはさすがにもうわかっている、半年前とは違って…――そう反論したいウワハルでも、恥ずかしいやらちょっと恐怖しているやらで、それ以降は何も言えなくなってしまう。…かわいーから更にからかっちゃお。
「…はは…、ね、ウエがあんまりにも色っぽいから…俺、こ う な っ た んだよ…? ウエが俺のおちんちんをこんなにしたの…。全部ウエのせい……」
「……、…、…」
するとウワハルは下方を見ている目を見開き、茹でだこというほど顔を真っ赤に染めながら、口をパクパクしていたかと思ったら、
「……ぐ、…ッうぅぅ゛、…〜〜〜っ」
と耐えきれず、うめきながら顔を思い切りしかめる。
……いや…さすがに「これくらいのこと」で、そんな本気で泣きそうにならなくても…――はぁ…とため息がもれてしまう。…当たり前じゃん。
こ う な る も ん なんだよ、情交なんて……。
「ぁ、当たり前なんかじゃない…っ」――でも、ほとんど泣きながらウワハルはぐぐもった声でそう言い張る。
「……、…」
いや当たり前じゃないって、…混乱してるだけなのかもしれないけどさぁ…、俺がこ う ならなかったら、どうやって…――。
「…そもそもウエだって勃ってるじゃん…、それに…これはウエが濡れるのと……」
ある意味同じ反応、と俺は指摘しようとしたものの、それを聞きたくないウワハルは話をそらすついでに、こうさっきの俺の行為の文句を言ってくる。
「だ、大体、…大体なんで舐めた、…ぼ、僕のっ…さっき、…な、舐めるだなんて、犬みたいに、き、汚い、ふしだらだ、こ、このっけだもの…っ!」
「……、えーなんでって…ただ君を気持ちよくしてあげようと…、…てかウエの体に汚いとこなんかどこにもないでしょ…? はは、すっごい綺麗だったし…ウエの愛液もとっても甘くて…ほんと美味しかった……」
褒め言葉とはいえ、これは全部ほんとうのこと。
……ていうか俺、なんか初めてなのに手練 っぽくない? かなりいいこと言ったよね? だってこんなセリフ、あまーい雰囲気づくりにばっちりでしょ。…人間の子たちの閨事 を覗き見して、勉強しててよかった!
ただ…逆効果だった。ウワハルにはその「事実の甘い艶言」さえ耐えがたいほど「淫ら」だったらしい。
ひ、ひ、と真っ赤な顔でしゃくりあげている。
「…〜〜〜っ、ぉ、美味しい、だなんて、…あ、あんな、ところを、美味しい…っ? な…っなんて淫らなことを、…」
「……、ごめんって…わかった、…わかったよもう、もう舐めないから……」
さすがに泣くほど嫌なら(しばらくは)やめる……けど、そもそも大お父様や大お母様だって、お互いの性器を舐めて愛撫することを「是」としていたんだけどなぁ。――大お母様いわく、『愛あればこそ、普通であれば不浄とも思えよう夫の陰部も、極楽に咲く花のごとき清らかで愛しいものと思えるのです。その官能の甘 し蜜を互いに舐めあうことは、夫に愛を伝える行為ともいえましょう』とのことだ。
……だから、ウワハルのなかに初めに入るべきものは俺の陰茎と運命られているとはいえ、舌を挿入さえしなければ、俺が彼の入り口を舐める のは結構なこと、だとも言われていたんだけれども…――潔癖のウワハルからしてみると、まだその(いわば愛の)境地には至れないらしい。
話変えよっと……。
俺は両腕で締め付けていたウワハルの腕を解放し、彼の上体を優しく撫でまわしながら……、
「はは…、ところでウエ、俺知ってるんだよ…?」
と、話をはじめるが、ウワハルは伝わってくる俺の記憶――毎晩、狸寝入りを決めこんだ俺のそばで兄が繰り返していた、あの寸止めの自慰の記憶――から、俺が今から言おうとしていることを察し、先んじてこう反発した。
「それは、違う…お互い様で…、それにあれは、お言い付け通りの……」
……きっとウワハルは俺の狸寝入りをほとんど見抜いていたが、それでも恥ずかしいから聞きたくはないのだ。――でも、悪いけど俺は言うよ? だってウエをいじめちゃいたいんだもん。
「…夜毎 こっそり俺のことを想って自分を慰めて……でも、ウエだって自分の指じゃ物足りなかったくせに…、…ほんとうはずっと、俺に触れてほしかったんでしょ…――ね、たとえば……」
たとえば「可愛いこことか…」と俺は、ウワハルの乳首の先にちょんと触れる。
「…ん、♡」
するとビクッと背中を丸めたウワハルは、俺にする…と内ももをなで下げられると、――多分無自覚に、期待したように少しそのぷるぷると震えている脚を開き、はぁ…はぁ…と呼吸をより荒くする。
あれ……なんか…、ちょっと…素直になってる…?
「…こことか……」――俺はするんと、ウワハルのそり返った勃起を一度だけ包みこむように撫でる。
「……ッ!♡」
またビクッとしたウワハルだ。でも、その細い腰をゆら…ゆらとくねらせはじめている。
「それに……ここも…、くちゅ…くちゅって……なぞって…――」
そして俺はウワハルの濡れた膣口を、くちゅ…くちゅ…と音を立ててなぞりつつ……、
「俺のおちんちんを、僕のここに挿れてほしいなーって、毎晩思ってたくせに……? ふふ…、ほんと可愛かったなぁーあのときのウエも……」
「…ぁ…♡ は…♡」
するとうつむいたまま声をもらすウワハルの、その臀部 がいよいよゆらゆらとなまめかしく、たしかにくねり――それを恥じらうウワハルが内また気味、俺の手首をその内ももではさむ。
「ぁ…や、♡ 腰…動いちゃ……♡ ぁ…ぁあ…♡ はぁ…かってに……み、見ないでぇ…シタぁ……」
そうは恥じらいつつ、でも兄のその声はどこか甘えているようにとろけている。――俺はなんか手ごたえを感じ、ウワハルの耳にこうささやいた。
「…はは…かわい。ねぇ俺、ウエが淫らでも大好きだよ…? むしろそうなら、男としてすっごく嬉しいのに……だって可愛いもん……」
するとウワハルは、ぽうっとした顔をして、消え入りそうな声でこう尋ねてくる。
「………え…? はぁ…、ほ、ほんと……?♡」
「…うんうん…、大好き……へへ、…」
だんだんわかってきたぞ、ウエをとろかす「ツボ」――俺はダメ押し、みたいなつもりで、さらにこうあまーく兄の耳に囁く。
「…ねぇ、色っぽいねウエ…、すごく色っぽいよ…、…淫らでもいいじゃん…? ウエくらい美しい男神なら、淫らでも下品どころか…むしろ、めっちゃ色っぽくて、可愛いだけだもん…。……」
そしてこの生白いやや細めのうなじに唇を押し付け、ちゅ、ちゅ、と思うまま兄の背中に口づけながら、彼の腹筋に硬いなめらかなお腹を撫でまわす。
……「可愛い」だ。可愛い。――それを言うと、ウワハルはさっきからぽーっとしている。
「…ほんと可愛いね、ウエは……」
「……はぁ…ぁ…♡ ぁぁ…♡ …し、シタぁ……♡ シタ…、シタ……♡」
するとウワハルは、うなじのそのしっとりとなめらかな肌をぞわ…とあわ立たせ、斜め下へ顎を引いた。俺の名前を繰り返す兄のその色っぽいかすれ声は、ある「お願い」の切なさを帯びている。
「……は…、…はぁ…は……」
頭がぽーー…としはじめているらしいウワハルは、のろい思考ながらこう考えている。
――『そもそも…けだもののような衝動というのは…どんなものなんだろうか…?
僕は…てっきり…仏界の餓鬼 のように…醜悪に貪るような感じ、かと…だが、――もし…僕の中にあるこの衝動――シタハルに触れられたい…、彼にすべてをゆだねたい…、いいや、――何もわからなくなりたい、めちゃくちゃに揺さぶられてしまいたい、…愛され…たい……♡
あぁ…好き…♡ 好き…♡ 好き…♡ たっぷりと可愛がられたい……♡ この強い衝動が、けだもののそれだというのなら……僕も、けだもの…なのか……? あぁ…もう………わからな……♡♡♡』
……そしてウワハルは、俺でもちょっと予想外な行動に出た。
「…はぁ…はぁ……」
俺のほうに体ごと振り返ったウワハルは、真っ赤な顔をし――今にも泣き出しそうに眉尻を下げ、とろーんと色っぽくゆるんだその涙目で、俺のことをじっと見つめながら……、
「シタ…、はぁ…そ、そろそろ……」
とその柳腰をなまめかしくくねらせながらも、ウワハルなりに精いっぱい俺を求め、でもそれだけでさえはにかんで、きゅっと唇を引き結ぶ。
これが清純な兄の「精いっぱい」なのだ。
――かわいーー…。
「……ん…? そろそろ…? ――ウエはそろそろ…俺のおちんちんが欲しいの、…へへ…なんて……」
……またぺちん…なんて無力な張り手が飛んでくるかも。と警戒して冗談めかした俺だった――が、
「…うん…」
ウワハルは泣きそうな弱々しい顔で、俺の目をその潤んだ切ないツリ目で見つめながら、極あさくもこく、としおらしくうなずいたのだ。
「……、…、…」
目も口もかっぴらいて驚いたのは俺だ。
嘘、…か、…わ、…い、…い、――。
それどころか…――いよいよ例の媚薬が兄の頭をおかしているらしく――俺の片手をそっと取るウワハルは、
「…触れ…て、…ふふ……」
とその俺の手のひらに、微笑みながら頬ずりしてくる。…その微笑がまた色っぽいし綺麗、なんだけど、
「触れて…いて…? はぁ…ずっと…僕の、どこかに……、愛されたいの…♡ シタに……たくさん…♡ 触れられたいの…♡」
「……、…、…」
嘘、…びっくりだ、けど、…俺は調子に乗る。
当たり前でしょ、だってあの意地っ張りの高慢ちきが今やけに(怖いくらい)素直に可愛く甘えてきてるんだから。
「……ね、ねぇウエ、」――俺はへらへらとしつつ、ウワハルの頬を両手で包みこんで、
「じゃあ素直に〝欲しい〟って言って…? 俺が欲しいって……」
するとウワハルは、恥ずかしそうな小声で――でもうるうると俺の目を見つめながら、
「…ほ…欲しい…、シタが…もう…欲しい……」
「……はぁ…――っ!?」
俺はまた目も口もかっぴらいた。
嘘、…嘘だ、嘘だよっだって、――あのウワハルが!!
……普段のこの高慢ちきだったら『は? 別に僕が欲しいわけじゃない。逆だ、シタハルが僕を欲しているんだろ?(だってこんなにガチガチに勃っているんだから、とは思ってもウエなら絶対言わないけど)むしろお前が僕を欲しいと求めろ。』とでも澄まし顔で言うに決まってるのに、
媚薬様々…ありがとうおツルさま――ウワハルは俺のうなじに両腕をゆるくかけて、「お願い…」と、とろーんとした甘えん坊な顔でくり返す。
「お願い…はぁ…、は…――おね、がい……」
「…っかわいい、嘘、……」
これは……そりゃあ、…お願いを、聞かなきゃ、…
……ということで俺は自分の浴衣の帯を見下ろし、それを慌ててほどこうとした。…が、…その手を兄の真っ白な熱い手がそっとおさえる。
「…だ、だめ…」
え、…と目を上げて見ると、ウワハルは恥ずかしそうにその長い黒のまつげを伏せていた。――えっでも、まさかこの期 に及んで挿れるのを待て、なんて言ってないよね、と俺は眉を曇らせたけれども、
「着た…まま……」――兄は目を伏せたまま、はにかんだ小声で、俺に脱ぐな、と言うのだ。
「…へ」
俺は帯に手をかけたまま固まり、目を丸くした。
ウワハルはふるふる、とその泣きそうな赤い顔を横に振る。
「…君の逞 しいは、裸を…、僕、み、見たら……」
「……、…」
これからすることは、裸同士ですること…なんだけど。
……俺は謎の満足感ににんまりとしながら帯から手を離し、「わかったわかった…」とニヤけつつも兄のその要求を呑んだ。
……ウワハルは俺の(たくましい!)裸を見るのが恥ずかしいのだ。
「く、…〜〜っ」
かわいいいい!!
ということで俺は下着だけ脱ぎ、ただ褄下が邪魔なので、ガバリと下だけ前を開け放した。すると、
「……、…、…」
「…はは…っ、かわいい〜〜…っ!」
猫なで声で、あんまりの可愛さに兄をぎゅうっと抱きしめる俺だ。だってウワハルは見ないように両手で顔を隠していたのだ。乙女みたいに!
……俺はウワハルのその手の甲にちゅ、と口づけ、そおっとゆっくり…彼を押し倒してゆく。
そして、ウワハルの八の字に閉ざされた脚をやさしく開き、その脚のあいだに入り込む。そして、
「じゃあ…ゆっくり…挿れるね…?」
と両手で顔を隠したままぷるぷる震えている兄になるべく優しく声をかけながら、ひくひくとしている彼のその濡れそぼった膣口に、自分の勃起の亀頭をくちゅくちゅとこすりつける。と…――ウワハルの臀部がゆらゆらとくねるよう前後に揺れ、
「…ぁ…♡ ぁぁ…♡ これ…だけで、きもちぃ…♡ あぁ…ん、♡ きもちいい…っ♡」
「……、…」
ねぇ…信じられる…?
あのウワハルが…あの潔癖なウワハルが、くちゅんくちゅんと自ら、俺の亀頭の先にぬるぬると、そのやわらかい膣口をこすりつけてくる、んだよ…?
……しかもまとったままの浴衣の――とはいえ、かろうじて帯に留められているばかりで、上も下もほとんど開かれきった白い浴衣の――その脚のつけ根あたりの布をきゅうっと握りしめ、ぽーっと恍惚の表情で、切なく涙をこぼしながら、
「ぁ…あぁ…♡ 欲しい…うぅ…♡ 欲しい…♡ ほしいの…♡ 早く、…早く挿れてぇ…♡ お願いシタ…♡ 早く…♡ もうおかしくなっひゃぅぅ……♡」
「……、…、…」
……やっばい、…これは…――俺はさらに調子に乗りまくる。
「ねぇ…」俺はぞくぞくとしながら、思わず兄の顔のそばに片腕を立てた。
すると兄はとろんとした弱々しい涙目で、怯えたように俺を見上げた。
「…ウエ……」
「……、…、…」
眉尻を下げて俺を見上げるウワハルの、今にも弱々しく泣き出しそうな、真っ赤な顔をした兄のその目はたっぷりと潤み、そのうるうるとした綺麗なツリ目は恍惚、…酔っているウワハルの目よりもうんととろーんとしていて、いつもの兄の気の強い鋭い冴えなど今はかすかにも残っておらず、妖しい恍惚の焦れた眼差し、なぜかどこかしら背徳的なものがただようその恍惚の、まるで我を失ったようなその色っぽいとろけきった目つき……。
俺は勝手に上がる口角のまま、そうした背徳的な笑みを含ませた声で、
「…ウエ、〝欲しい〟って言ってよ…」
と、再度ウワハルにねだった。いや…俺のその嗤いの含まれた低い声は、ほとんど命じるようだった。
……ウワハルはコク、と小さく喉を鳴らし、ふるふると震える赤い唇でそっと……、
「……ほ…欲しい……」
……俺は自分の前歯が見えるほど笑みが深まったのを、自分の口もとに感じた。
「…何が?」
すると、ウワハルは小刻みに震えるその青白い瞳で俺を見上げながら、か細い声で、
「…し…シタ、が……欲しい……」
……そう(信じられないことに)従順に言うのだ。
俺はウワハルの高い美しい鼻先に、自分の鼻先を近づけた。
「俺の、なにが」
「……、…、…」
この至近距離…泣きそうに目を細めたウワハルは、あまりの羞恥に唇を動かすことしかできなかった。
「陽物 だって」――でも俺はわかっていた。
シタの、陽物が……そうしゃらくさい言い方をした兄を、俺は嗤った。
「言ったら…子供の頃のように――おちんちん、と」
すると羞恥心から少し正気を取り戻したらしいウワハルが、
「……、そ、そんな…こと…、恥を知った今、そんな下品な、ことは……」
とふるふると力なく首を横に振り、「ましてや…」
「は…はしたない…ことを、言ってしまったが…、僕の方から、欲しい…だなんて……――だが君がいけないんだ…、だっ…て……」
「言ってよウエ…、ウワハル…――〝僕の夫のおちんちんが欲しい〟って……」
「……っ、…」
ウワハルの美しい黒眉が恥辱にひそめられる。
それなのに兄の細い腰はなまめかしく揺れつづけている。
「…言えな……そ、そんなはしたない…こと…」
と首を小さく、でも何度もふるふる横に振るウワハルはいよいよ泣き顔になった。ので、
「……、ごめん…、わかった……ごめんね、…優しくしなきゃなのに……」
まあ俺ももう限界だし…――あんまりいじめすぎて泣かせてもなぁ、…と俺は諦め、挿れるために腰を後ろへ引いた。…さすがに「位置」を目で確認しないと、…当然俺も「初めて」なのだ。
でもウワハルは、俺のそれを「言わないならあげない」という意地悪だと勘違いしてしまったらしい――。
「じゃあ改めて挿れ…」
「しなくていいからぁ…っ」
「…え。」
ふとウワハルを見る。
兄は眉尻を切なく下げ、俺を見るその涙目を細め、ポロポロと涙をそのまなじりからこぼしながら、
「もう優しくしなくていいから、…いや、嫌だ、――ほしいの、欲しい、――し…シタハルの、――僕の夫のおちんちんが、僕、もう…っどうしても、…どうしてもシタのおちんちんが欲しいの……っ!」
「……、…、…」
ち…ちが…――俺今、挿れようとしただけ、…
……俺はかーーっと赤面したけれど、…ウワハルも『言ってしまった、…言ってしまった、なんてはしたないことを言ってしまったんだろう…――っ!』と赤面し、ポロポロ泣きながら目を伏せ、顎を斜め下へ引く。
「…っひ、…っ、…ぅ、く、…ぅう…っ、酷い、こんなの酷いよ、あんまりだ…っ、…もうシタなんか嫌いだ、…っもうどうでもいい、もうやめる……っ!」
「ちがっご、ごめんウエ、ごめんっ…ごめんね、」
俺、…多分…悪くはない、けど、…泣いてしまったウワハルにおろおろしながらとにかく謝る。が、弁明もする。
「あ、あのウエ、俺でも、今挿れようとしただけだよ…? 意地悪じゃなくて、恥ずかしいこと言わなきゃあげない、とかじゃなくて、…」
「…え…、…」
するとウワハルは、はたと自分の勘違いにやっと思い当たったらしく、目を丸くする。…うるっうるの涙目で……。
「……、全くもう、…」
俺は上に戻り、ウワハルの唇に唇をやさしくそっと押し付ける。
そしてやさしく何度か食み――唇を離しただけの距離で、俺はしゅんとしながら「ごめんね…」と心からもう一度謝る。
「…でも、だって、だって俺、大好きなウエに俺を求めてほしかったんだもん…、あと…なんか…いじめるとその度に泣きそうな目をするウエが、可愛くって……つい…――意地悪してごめん…。ここからは優しくするから、誓って…」
すると……――。
「……、…♡♡」
たちまち泣きやんだウワハルは、途端に幸せそうにとろーんとした。――『可愛い……♡ 僕が可愛いから…♡ 僕が可愛すぎるから…♡ より可愛すぎる僕を見たいと思い、あのような意地悪をしたと……?♡♡』
「そ、そう…。…許して…くれる…?」
俺はちょっと困惑している。
でも、
「…うん…♡ ゆるすぅ…♡」
こうへにゃあ…とほほえむウワハルは、心の中でこんなことを思ってるのだ…――『許しちゃう…♡ 許しちゃう…♡ ぜーんぶ許しちゃう…♡ だって仕方がないよな…弟の不始末を許せなくて何が兄だ…?♡
……ちがうの、ほんとはシタがかっこいいから僕、なんでも許せちゃうのぉ…♡
何より――僕は魔性の魅力というほど可愛すぎるから、その気持ちはまあ理解できるし…♡ というかシタ、かっこいい〜…♡♡ はやく抱かれたい…♡♡ すき♡ すき♡ すき♡ すき♡ すき♡ すき♡ すき♡』
「……、…、…」
う、ううう嘘だよほんとっ…!? もはやこわっ!
でも、明日から毎日媚薬飲ませようかな…?
だってこのウエ可愛すぎるだもん……。
「え、えーっと、えへへ…――えー、じゃあその…」
そろそろ、ほんとうに挿れ、ても……?
ウワハルは満面のとろとろな笑みを浮かべてこくん。
「うん…♡ さあ挿れ給 え…♡ いつまで可愛いおまえの夫を待たせるつもりだシタハル…♡」
「……、…」
いつもの高慢ちきでさえ無条件で許せちゃうくらいとろっとろの、あっまあま……下手な毒より怖ろしいもの飲まされたんだなぁウエ、…いやでもありがとおツルさま…、ほんとかわいいーー……。
「……はい、えへ、すみませーん…――では、」
「……、…ぁ…――♡」
そして俺はいよいよ、ウワハルの濡れた膣口に自分の亀頭を突き立てた――。
――やっと君と一つになれる。
本当は、…本当は俺も――君が欲しくて欲しくてたまらなかった。それなのにごめんねウエ、意地悪をしてしまって……俺を欲して熱く熟れた君の中に、俺のすべてが包み込まれたなら…――ああ、一体どれほどの君という快感が訪れることか。
大お父様と大お母様がおっしゃられたように、
ともすれば俺は、その凄まじい幸福な快楽に呑まれてしまうかもしれない…――。
そりゃあもう…――。
そりゃあもう……――至高の幸福に…全身を……。
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