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「……っ、……?」
俺、さっき言ったっけ…――?
気持ちいいですか、と聞くときに「旦那様」をつけてね、なんて…――いや、俺、俺は言ってない!
つまり今ウワハルが俺のことをそう呼んだのは、ウワハル自身の意思ということだ。
て、ことは……ば、バ レ た 、のかな…?
というのも俺は、いつかウワハルに「旦那様」と呼ばれてみたいなーなんて、あるときからそんな密かな憧れをもっていた。
ちなみにそのあるとき、というのは、俺が人間の子たちの閨事を覗き見するようになってからのことで、…俺はその実ちょっと憧れていたのだ…――人間の夫妻が情交をしているとき、しばしば色んな奥さんが「旦那様♡」なんて旦那さんに可愛く甘えているのを見て、俺はしばしばキュンとしていた。
その旦那さんたちがちょっと羨ましかった。
ただ別に俺だって、間違っても誰かの奥さんにキュンとしていたわけじゃないし、もちろんその愛らしい女性と結婚できた旦那さんたちを羨ましがっていたわけでもない――まあ誰かの閨事に(うっかりでも)遭遇したとき、そういう嫉妬をする人もいなくはないんだろうけれど、幸い俺には、誰もに羨ましがられるだろう至上の美神の許嫁がいたのだ(今は夫になったけど)――。
俺には単純にその「旦那様」という呼び方や甘え方が『なんだか可愛い』と、仮にもウワハルにそう呼ばれたらさぞかしキュンとしちゃうことだろう、なんて思えた――つまりウワハルに「旦那様」と呼ばれた自分を思いえがいての「キュン」だったし、…
それで俺、褥の上のウワハルにも、自分がそうあまーく呼ばれながら甘えてもらう妄想をしてはその、……ただ兄の性格上、まず現実では無理なことだろうな、なんて思ってもいたのだ。だからそう伴侶に呼ばれて可愛く甘えられている旦那さんたちがちょっぴり羨ましかった――のに、
それなのに…もしかして、…バレたの、かな…、ちゃんと「蓋」をしてたはずなんだけど、妄想するときは…――。
「……、…、…」
なんて内心ちょっと焦っている俺の上にいるウワハルは、俺の上半身に上半身を重ねるようにしたまま、とろぉんとゆるんだ――でも少しはにかんでいるような――潤んだ両目で俺の目を見つめ、ぬちゅ……ぬちゅ……と俺の手のなかにあるお尻をゆっくりと上下させ続けながら、
「はぁ……シタ…、…僕の、旦那…さま…♡」
と、やっぱり俺を「旦那様♡」なんて呼んでくれる。…しかも俺の「憧れ」をからかうようでもなく、兄は、まるで俺に惚れ込んでいるみたいなうっとりとした声でそう俺のことを甘く呼ぶのだ…――俺、ひょっとして夢でも見てるの…?
「……、ね、ねぇウエ、…」と俺はちょっと迷ったけれど、ウワハルにはっきりとこう聞いてみる。
「ぉ、俺のこと、どうして旦那様って……? なんか、なんかめっちゃ、めっちゃときめいちゃうんだけれど……」
そうして俺が困惑気味のはにかみ笑いを浮かべながらどうして、と聞くと――動きを止めたウワハルは少し恥ずかしそうな、でもうっとりとした顔を伏せ、
「…それは…」――そしてウワハルは俺の首もとにそっと片頬をあずけてくると、俺の鎖骨の上にそのあたたかい片手の指先を添えてくる。
「…実はずっと…憧れて…、僕は…いつか夫の君を、旦那様と…そう呼んでみたかったんだ…――母上はたまに、父上をそう呼ぶだろう…? 何だか…そう父上を呼んでいるときの母上はとても愛らしくて…僕の目にも、とても愛らしい女神に見えたのだ……」
「……、…」
あ〜〜…たしかに、俺たちの母上もたまに父上を「旦那様♡」と呼ぶのだ(ただいつもは「あなた」なんだけれども、ふざけているときやおねだりをするときに)。――ましてや母上は、くだけた物言いを許される場ではうちの夫が、ではなく、「うちの旦那様が…」と言うようなときもある。
周りはそうした母上を「いつまでも新妻 のようだ」なんてからかうけれど、父上は母上にそう呼ばれると嬉しそうな顔をするし、母上もけっしてそれを恥じるでもない(むしろ父上を喜ばせたくて、かついつまでも可愛い妻でありたくてあえてそう呼んでいるまである)しで――全くお前たちはいつまでも新婚夫婦のようだな、なんてしばしば周りの神に羨望まじりに言われるくらい、…いうなれば俺たちの両親は、誰の目が見ても明らかなおしどり夫婦というか。
「父上も…母上に旦那様と呼ばれると、嬉しそうに微笑んで、母をうっとりとした目で見るし……」
「……、…」
そっか。
要するにウワハルは、そう父上を呼んでいるときの母上の愛らしさと、母上にそう呼ばれたなり嬉しそうな顔をする父上との、その可愛い関係性にちょっと憧れているのかもしれない。
……ウワハルはひそひそ声で、ちょっと自信なさそうにこう続ける。
「だが…柄 にもないことだと…、僕は淑女である母上のようじゃない…。我ながら気が強くて…いつも意地を張ってしまうし、それに可愛げがなくて、すぐにシタをムッとさせてしまう…――きっとこんな僕なんかが君を旦那様と呼んでも、およそ噴飯物 だと…、きっとシタは僕をからかって…傷付けると思って……」
「……、…、…」
ちょっと、さぁ…――ウワハルって……、
いや、もう知ってはいたんだけど……やっぱ、実はめっちゃ可愛くない…? 健気っていうか、自分ではそうじゃないと思っているみたいだけれど、ほんとうは結構ちゃんと奥ゆかしいのだ。それこそ顔は母上とフツじい似、性格は父上と母上似って感じ(俺は顔も性格もタケじい似ってよく言われるけど。ただ顔は父上の要素も濃いみたい)。
俺はそっとウワハルの頭をなで…なで、と撫でてみる。熱気はこもっているが兄の髪は絹 のようにとてもさらさらだ。すると、すり…と俺の首筋にその熱く汗に濡れた頬をすり寄せてきた兄は、「だが…」といじらしいささやき声で俺に聞いてくる。
「さっきは…今なら呼べる、きっと今なら許される…、そんな気がした…。だからつい…、ぽうっとした気分のまま、君を旦那様と呼んでみた…、…そうしたら君は――ふふ…思いがけず、喜んでくれたのだ…。」
「…いや…むしろ俺……」
てか、なるほど……なんか憧れにいたった経緯は違えど、さすが運命られた夫夫神ってかんじだ。
想いあった同士の夫夫のある憧れが一致しているだなんて、こんなに幸せなことってあるだろうか?
俺はたちまち幸せな気分になって、ウワハルの頭を撫でながらこう打ち明ける。
「すごく嬉しい…、実は俺も、密かにウエにそう呼ばれたかったんだよね…。俺も密かに憧れてたの、その旦那様って呼び方に…――それに…可愛いねウエ…、ほんとうに可愛い…、なんて可愛らしいんだろう…。そう不安がらなくても…俺、からかったりなんかしないよ…?」
きっと俺はいつウワハルにそう「旦那様」と呼ばれても、さっきみたいにびっくりはしたことだろうが、といってからかいはしなかっただろう。…まあわかんないけど、いや、やっぱ時と場合にはよったかも――このふたりきりのあまーい雰囲気だからこそ、俺はこう言えた気もする…――でも、俺はいつそうウワハルに呼ばれたって、少なくとも内心ではものすごく喜んだ、それだけは確かだ。
「…嬉しいだけだよ…。…なんなら、いつもツンケンしているウエが俺をそう呼んでくれたからこそ、常に奥ゆかしい母上よりもうんと愛らしく感じられるもん…――全く、なんていじらしいんだろう、君ったら……」
そうウワハルの頭を撫でながら、俺が幸せな気持ちいっぱいで打ち明けると――ウワハルはきゅぅぅ…となかを締めながら、甘いか細い声でこう言う。
「…は……♡ シタ……、僕の…旦那様…、ふふ……」
そしてウワハルはまたおもむろに頭をもたげ、その恍惚とした幸福感あふれるうす赤い顔で、ふと俺にほほ笑みかけてきた。――またぬちゅ……くちゅ……とゆっくり、お尻を上下させながら。
「僕の…僕の、旦那様…♡ ん……♡ 僕のなか…お加減は、…い…いかが、ですか…?♡」
「……ぅ、うん…最高、めっちゃ気持ちいい、…」
なんて俺が余裕なく目を細めて答えると――可愛すぎ! ――、ウワハルは幸せそうにそのツリ目を甘く細め、きゅーーっとまた狭くしたそのぬるぬるの熱いなかで、ぬちゅ…ぬちゅ…と俺の勃起をしごきながら、
「はぁ…は…♡ シタ…♡ 僕の、なか…気持ちいい…?♡ ねぇ……ねぇシタ…――もし…もし僕が先に、他の男神のものになってしまっていたら…、やきもち、妬 けた…?」
なんて、俺に聞いてくる。
「……そ、れは……」
俺は想像するだけでゾワッとするほど嫉妬した。
でも、なんかそれを肯定したらウワハルが俺をからかってきそうで、…それに器の小さい男と思われそうで、…俺にはこう言うのが精いっぱいだった。
「…いやでも、さ、運命があるから…そもそもはじめから、そんなことになるはずは…」
ない、と。でもウワハルは――お尻を動かしつづけながら――、それこそちょっと俺をからかうように目を細めた。
「…間違ってもやり直せばいい…、そう言ったのは君だろ…? は…♡ ね、もし僕の唇も…今君が入っているここも、先に…誰かのものになっていたら…――シタは妬いてくれたの…?」
ウワハルはうるうるの半目開きで、俺に「そりゃあ妬けるよ、と言って」、と求めていた。
「……、…、…」
でも、俺は恥ずかしくて言えない。
するとウワハルは、少し悲しそうな目をした。
「…それとも…、よかったの…? 僕が…君以外の誰かと、恋仲に……この唇や体の純潔を、誰かに捧げてしまっていても…――僕が、他の男神と接吻を…、それに…僕の体が、他の男神に触れられ、口付けられ…抱かれて…――僕がそうして、一時的にも他の誰かだけのものになってしまっていても…――シタは、どうせ結婚するんだからと…それでも構わなかった…?」
「……、…、…」
いいわけないじゃん!
ウワハルがただ仮に、というのでそれを具体的に羅列しただけで、俺は今怒りさえ覚えている――ウワハルのこの真っ白な美しい体が俺以外の誰かの下に、ウワハルの白い手が誰かの背中にしがみついて『ぁ…♡ ぁ…♡』とあの可愛い声を、ウワハルの唇が誰かの唇に奪われて、…あの綺麗な泣き顔、ウワハルの綺麗な涙、ウエの色っぽい顔も微笑も声も唇も体もなにもかも全部、…――つまり俺は心の中では叫ぶほどそんなの嫌に決まってる! 君は全部俺だけのものだ! と訴えていたが、
「よく、…ない。」
……口ではちょっと不機嫌そうにそう低い声で言うだけだった。――でもウワハルは俺のよくない、という言葉に少しホッとしたみたいで、「それなら…」と可憐に微笑した。
「お願い…、ウエは俺だけのものだって…そう言ってよ、シタ…――君に恋をしてからというもの、僕はずっと君にそう言われたかったのに…、君ったら、全然そう言ってくれないから……」
「……、俺…」
俺はウワハルのお尻を鷲 掴 み、恥ずかしまぎれに腰を突き上げた。「あっ…?♡」と不意に奥を突かれたウワハルが甲高い声をあげる。
俺はとにかく腰を突き上げつづけ、
「あ…っ♡ あ…っ♡ あ…っ♡ し、シタ、♡ ぁ、♡ だめ、ぁう、♡ ご、誤魔化 さないで、」
と切なく顔をゆがめて善 がりつつも、お願い、言って、と涙目で訴えかけてくるウワハルに、ムッとしながらこう言った――腰を突き上げながら――。
「ごまかしてなんかないから、…ウエは俺だけのものだ、ずっと君は俺だけのものだったの、…っ何ならずっと妬いてたよ、そりゃあもう、――実はずっとヒヤヒヤしてたんだからっ俺、…だって君美しいんだもん、色っぽいんだもん、みんな君を欲しがるんだもん、…ふと何か間違いが起こって、ウエが俺以外のものになっちゃったらとか思うと俺っ、…ほんとっ…それだけでいつも不機嫌になるくらいやきもち妬いてた、…」
俺がこれを言うにはこ う い う 勢 い が必要だったのだ。すると俺の首もとに片頬をあずけ、俺の上、肩を縮こませて小さくなったウワハルは、
「は、♡ ッぁぅ、♡ …〜〜〜〜っ♡♡♡♡♡」
きゅぅぅ…っとキツいくらいなかを締め、…どうやらウワハル、嬉しいとなかを締めてうごめかせる癖、みたいなものがあるらしい。
ただ今の兄はいつもと違って甘かった、つまりとても素直だったのだ。
「……っん、♡ …あっ♡ あっ♡ うっ嬉しい、♡ ずっとそう言ってほしかった、♡ シタっぁ、♡ 好き、♡ 大好きっ…♡ ――ぼ、僕の…旦那様…っ♡♡ ぼく、僕っもう、♡ 僕はもう…っシタだけのものだよ、♡」
「……っ、…、…」
でも…俺は思わず動きを止めた、…でも、ウワハルをぎゅーっと抱きしめた。――出ちゃいそうだったのだ、今、あんまりにもウワハルが可愛くて、可愛すぎて……。
てかやばい俺、…なんか、なんか――ウエの「旦那様♡ 呼び」のせいで目 覚 め ち ゃ い そ う 、…俺のなかで何 か が 目 覚 め ち ゃ い そ う 、!
まあそもそも憧れていたのだから素質はあったんだろうけれど、ただ俺のその憧れは別に『いつかウエにそう呼んでもらえたら嬉しいなぁ』みたいな、願望というよりかはただの憧れだった――のに、…いざウワハルにほんとうに「旦那様♡」なんて呼ばれると、しかも俺が意地悪とかで言わせているんじゃなく、ウワハル本人の意思でそう呼ばれると俺、…な ん か す っ ご い 刺 さ る 、…やたらめったら興奮する、…
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