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〖思っていたよりとろあま溺愛新婚生活〗77 ※極微
「……ま…、…さま…――…エさま……」
「……ん、…んん……」
誰かが…僕を…呼んで……――っまぶしい、…不意に明るんだ鮮やかな光を閉ざしたまぶた越しに感じ、それがまぶしいあまりに自然と眉が寄る。
「ウエ様、もう朝でございますぞ。…もう少々眠られたほうがよろしいかとも思いましたが、…しかし、じいめは心配なのでございますよ…――ウエ様は昨日 気を失われて以降、何も召し上がられておりませんから……」
「……、…」
あぁ…じいや、か…――。
気を失った……そうか、そうだ…――初夜、
なんて凄 まじい初夜だったろう……いや、厳密にいえば、朝からはじまったあれは床入りというべきだ。
緊張がほぐれるというからおツルさんに勧められたまま媚薬なんか飲んでしまったが、あんなもの飲むべきじゃなかったのかもしれない。
なんて淫らな、なんてはしたない…自分のあんな痴態 を少しでも思い出そうとすると羞恥でどうにかなりそうだが――しかしとにかく恐ろしいほど気持ちがよく、また我を失うほど、もはや夫のシタハル以外の何かなど全てどうでもよくなるほど、結局は幸福に全身をひたしたかのように幸せな床入りだった。
しかし…――そうかなるほど、僕は気を失ってしまったのか。
……シタハルときたら困った弟…いや、困った夫である。…僕が疲れた、もうやめようと何度言っても聞かなかったシタハルは、どうやら僕のことを抱きつぶした。――それだから…なるほど、どうりで僕の記憶はあるところでぷっつりと途絶えている。
あお向けに寝ていた僕の腰をシタハルが掴んで布団から浮かせ、僕の腰をひき寄せた状態でガツガツと奥ばかり……そうして激しく揺さぶられていた僕は『あ゛っ♡ あ゛っ♡ あんっ♡ あぁっ♡ もぅやめへ、♡ あ゛あぁ、♡♡ あ゛ーいく゛、♡♡ またいく゛、♡♡ いくいく゛、♡ もうやら、♡ や、♡ らめっ♡ らめ、♡ や、ああぁぁあ…――っ!♡♡♡』なんて下品な甲高い悲鳴をあげさせられ、…背から喉までを弓なりに反らせて、絶頂させられた。
……そこで僕の記憶がふっと途絶えているのだ。
つまり、そもそも僕は幾度となくシタハルに絶頂させられていたが、なかでも殊 に凄まじいあの絶頂を迎えてしまったそのとき、それでなくとも疲労困憊 であった僕の肉体は耐えきれず、結果僕はあれをきっかけにして気を飛ばしてしまったのだろう――。
「ともかく…朝食のご用意が整いましたので、…もしまだお体の調子が優れませんようでしたら、こちらまで喜んでお持ちいたしますが」とじいやが気遣わしげに言うので、…僕はやっと気だるいまぶたを薄く開けた。
「……、…」
なるほど、僕は今横向きに眠って…ぼんやりとした僕の視界に映る黒い巨体はやや遠い…、じいやはこの部屋の出入り口に佇 んでいた。
頭上からは心地よいチョロチョロという水の音が聞こえてくる――僕は、……?
――それにしても、もう朝…だと…?
いつ失神したのやらも定かではないが、僕ときたらどれほどの時間眠ってしまっていたのか…――。
「…じいや…――今は、何時 だ…?」
「……、…」
じいやのその雄牛 によく似た雄々しい顔が、みるみると驚きのそれに変化する。大きく見開かれた目、ぽかんと開かれた口、広い鼻翼 をひくひくとまでさせて…――にわかにドタドタと僕のもとへ駆け寄ってきたじいやは、
「ぅ、ウエ様…――否、…ウ ワ ハ ル 様 …っ?」
とやたら困惑気味に僕に呼びかけてきながら、その場に片膝を立ててしゃがみこむ。
「……? 何だ…?」
しかし、まさかこれまで昏睡状態であった病人が目を覚ましたんじゃあるまいに、何をそんな……。
「……全く…、じいやまで僕をからかっているんじゃないだろうな…、何をそう驚いて…、……」
と言いながら僕はおもむろに上半身を起こした。
そして、寝ているうちに多少なり乱れてしまっただろう着物の衿 を整えようとうつむく。…これはもはや無意識下のうちにもできるくらいの僕の習慣となっている、…が…――。
「――…、……?」
――パジャ、マ…?
僕は今白いパジャマを着ている…、寝間着の浴 衣 、ではなく…――いや、そもそも先ほども不思議に思ったのだ。僕が寝かされていたこの部屋は「夫夫 の寝室」ではない…――いや、いや、あぁ…そうか、
「……、…」
そうか…違う、…だがここは「夫夫の寝室」で合っている。…ただし「もう一つの夫夫の寝室」――あれは、過 去 の 記 憶 だったのだ。
だから僕は今ベッドに座っている。天上にある家の寝室に敷 かれた布団ではなく。
そして、だからじいやは今着物ではなく、黒いスーツをその巨体に身にまとっているのである。
そう…あれはそうだ、僕とシタハルとが初めて肉体上においても夫夫として結ばれた床入りの記憶…――僕はいつも通り追体験に似たかたちで、過去のその記憶を思い出していただけだったのだ。
「……ふむ…、……」
寝ぼけていたらしいな…。
そもそも思えば、今度の僕の体に溜まった疲労感や痛みというのは――実際の床入りのときに比べれば――軽微なものである。
今は致し方なく裂けてしまった膣口が多少ヒリヒリとし、また無理にもこじ開けられた膣内に何かまだ違和感があるという程度…、…あの床入りのときはこれに付け加え、体中の関節という関節がきしむように痛み、また腰の鈍痛、そして、それまではなかなか開く機会もなかった内ももやら何やらの筋が筋肉痛を起こしていた。…倦怠 感とてこれくらいならあの床入りの比ではない。
だが、それにしても…僕にはこの白いパジャマを自分で着た記憶がないのだが、一体誰が…――いや…シタ、か…、あいつはいつもそうだ。
……あの男は時折、日ごろ抑制している自分の獣性 を解放しては僕をしこたま抱きつぶす。――すると僕が失神するしないにかかわらず、シタハルはこうして多少の機嫌取りのために僕の体をきちんと洗い清め、何かしらを僕の身にまとわせて寝かせておくのだ。
すると経験則から言っても、およそ今度のこれもまた、あのシタハルがやったことで間違いないだろう。
だが――あれは今、どこに……?
「……、じいや…――シタハルは今、どこに…」
と僕が――なんとなし気配でわかる――今この部屋にはいないシタハルの所在を、じいやを見下ろしながら尋ねるも、
「おおぉ゛、おっお、おっ思い、思いっだ、…」
と僕を見上げ、そう口も回らないほど何かに焦っているじいやは深刻そうに眉を寄せ、しかしその両目は見開かれたまま、真偽を確かめようと必死にその紅 い瞳で僕を見つめている。
「それでは何を言っているのかわからない…、まずは落ち着いて…、……?」
……ん…?
僕はじいやに小首をかしげて見せる。
「じいや…、貴方、いつ…その瞳を緑から赤に戻した……? 近頃は緑に染めていたはずだろう…」
「…っあ゛ぁやっ、」
じいやはよりその上下のまぶたを押し開け、ほとんど叫ぶようにしてこう言う。
「やっぱり、ウワハル様…っ! ウワハル様、…もう思い出されたのでございますか、もうお 戻 り に な ら れ た のですね、…」
「……? …――ぁ、…」
今度は……僕がたちまち目を丸くして驚く番だった。
「ぁ、――ああっ…!? じ、じいや、じいや僕、僕今っ…!?」
僕、…僕今、――あんまりにも自然に、
天上春命 の意識になって、というか、戻 っ て いた――っ!
「……は、ハヅキ様…、……」
するとじいやが何かなかばホッとしたような――しかしもうなかばは落胆したような――感じに、その白髪まじりの太い黒眉の端を下げる。
「いや…このじいは今、余計なことを言ってしまったのやもしれません…。…ウエ様は今確かに、確かにウワハル様に戻られて…――私があんなことを言わなければ、あるいはウエ様はそのまま……」
「……、あ、それ…なんだけどさ、…じいや……」
実は昨日のうちにも、僕はしばしば天上春命 に「戻った」瞬間があったのだ。それに、少しずつだが「神の記憶」を取り戻してもいたし――何ならあの「初夜の記憶」や、その前のウワハル・シタハルのなれ初め…のような記憶なんかもそうだ…――そう、そうなのだ。
僕は、
「な、何でか知らないんだが、…その…実は昨日から、――ちょっとずつ、取り戻しはじめていたんだ…――あの、〝神の記憶〟……はは、……」
……そう…全く順調に、早速僕は昨日から「神の記憶」を取り戻しはじめていたのである。
ただ、まさかじいやには言えやしないが…――まさか、もしかするとその「鍵」となるものが、…僕が「性感を得ること」かもしれない、だなんぞとは……。
「ただ昨日からこんな感じで、…ふっと我に返る…じゃないけど、…こうやってすぐハヅキに戻っちゃうというか…――だから、今のに関しても別にじいやのせいってわけでは……」
なんて僕はポソポソになった寝起きの後ろ頭を押さえながら、心配そうな顔をしているじいやに困り笑顔を浮かべてみせた。が、ここで、
「…おはよーハヅキぃ〜…!」
……とハルヒさんがこの寝室の扉をガチャリと開けながら、全く晴れ晴れとこの部屋へ入ってきた。
黒いVネックのパーカに臙脂 色のチノパンを穿 いている彼は、ベッドの上に座っている僕をニコニコと見つめながら、軽い足取りで歩みよってくる。
「ぁ、おは、…おはようございます、ハルヒさん…」
しかし僕は照れ笑いを浮かべた顔をうつむかせた。
「……、…、…」
僕の頬や耳たぶがじわー…っと発熱してゆく。
……な、なんか…恥ずかし…どうもハルヒさんの顔が直視できない…、…なぜって昨日、…推しであるハルヒさんと夫夫になったばかりか、…早速、彼とその…――なんだろうかこのふわぁ…っとした、このもごもごもぞもぞふわぁ…っとした気分は。
いや、これがいわゆる初 朝 チ ュ ン の気分か…なるほど、あとでメモしておこう…(これだってきっと漫画には活かせるに違いない…)。
「気分はどう?」と言うハルヒさんの朗 らかな声が、もうすぐそばから降ってくる。つまりもう彼は、僕のいるベッド下にひざまずいたじいやの隣にでも立っているのだろう。
「体はだいじょうぶ…? どこか痛かったり…」
「…え、あぁ、…別に大して…、まあ可もなく、不可もなく…というか……?」
まあちょっと気だるいだとか、膣あたりに違和感やヒリヒリとした感じが残っているだとかはあるが、特別体調不良ということはない。
いや…かえってしばらくぶりに体調はいいほうかもしれない。この頃は寝ても寝ても寝たりない、というようだったが、今朝は「十二分によく寝た」という体調である(ただいささか寝すぎたな、というような気だるさはあるのだが)。
「そっか、よかった…。でもちょっと無理させちゃったかも、と思って……」
「…はは…、いやいや……」
僕はうつむいたままてれてれと笑った。
まあ僕の記憶にある限りでは――ウワハル・シタハルの床入りのそれとは違って――二回、…初めてにしたら多いのかもわからないが、といってそう彼に無理を強 いられたという感じは僕にない。
しかしハルヒさんはやっぱり僕をこう気遣ってくれる。
「…そだ…俺、ハヅキのことまたお姫様抱っこして下まで運んであげよっか…? いや、王子様抱っこかなぁ…、えへへ…もしかすると腰、痛かったりするかもだし……」
「…ぁい、いや、だ、大丈夫です、…僕、体はこれでも割と強いほうですし…、……」
こと腰は特に鍛えているし――。
というのも、漫画家という職業は十なん時間も座りっぱなしなんてこともままあるので、僕は腰痛予防として腰は特に鍛えている――のみならず体力もつけておこうと、結果として全身の筋トレや有酸素運動にも精を出してはいるが――。
「そっか…? でも、俺にできることあったら遠慮なくなんでも言って…? マッサージとかでも…俺、ハヅキのためならほんとなんでもするから…、ね…? ふふ……」
「…はは、ありがとう…、……」
て、…照れくさあああ〜〜っ!
さて……ここまで、僕たちのこのいかにも新婚夫夫っぽい、いかにも初夜後っぽい、ある種独特な初々 しい会話をただ黙って聞いていたじいやは――ここですっくと立ち上がった。
ふと見上げた先、じいやは何か感慨深そうな――まるで子どもの成長をじっくりと味わい喜ぶ父のような――やさしい微笑をうんうん、とうなずかせ、
「……それでは…あとはシタ様にお任せすると致しますかな。…ともかく朝食のご用意は終わっておりますので、ご無理がないようでしたら階下のダイニングのほうへ…――では、また後ほどー。…はっはっはっはっ…、……」
……なんて気をつかって踵 を返し――朗らかに笑いながらおもむろにこの寝室から出ていった。
パタン……静かにこの部屋の扉が閉まる。
「……、…、…」
だが、…じいやのそのい ろ い ろ 察 し た 上での気遣いがまたなんだか、…あ゛〜〜気恥ずかしい……。
しかもその気遣いゆえに、ハルヒさんと二人っきりにされちゃったのもなんか、なんか恥ずかしさが倍増する…――。
ギ、とベッドスプリングがきしむ。
ハルヒさんが僕の座るベッドに乗りあがってきたためだ。…そうして彼は僕の右隣に膝を立てて座ると、ちゅ…――僕の頬にキスをしてきた。
「……っ? ……、…」
不意だったそれに僕は驚き、頬を指先で押さえながら隣のハルヒさんへ顔を振り向かせる。
この艶のあるあめ色肌の色っぽさ…――この彫りの深い美しい精悍 な顔、長い先の少しそり返った銀色のまつ毛、この独特な、愛おしさというやさしさを帯びたオレンジ色の透きとおった瞳…――今朝も僕の推 しは顔面が強すぎる…――彼はその美貌をやさしくほほ笑ませた。
「はは…おはよハヅキ。…今日も綺麗だね」
「……、…、…」
僕は赤面しつつも、今は何かきっと恐ろしいものを見たかのような、驚愕 の顔――眉をひそめ、目をかっぴらき、口をぽかーーんと開けた顔――をしている。
……っだ、だってあのChiHaRu さ、…いや、推し、…は、ハルヒさんが、…こんな朝っぱらから僕なんぞにほっぺチューの「今日も綺麗だね」!!!!!
しかしハルヒさんがちょっといたずらな目をしながらも、こうやさしく僕をからかうように叱る。
「…あれ…? 〝ありがとう〟って受け取るんでしょハヅキ…、〝僕なんぞ〟じゃなくて……」
「…ぁ…、……」
あ、そうだった…――。
僕は昨日、特に自分の容姿への自己卑下をもうやめると決めたのだった。
「ぁ…はは…あ、ありがとう、ございます…、…」
僕は照れくさいあまりに困り笑顔で、しかしきちんと有言実行をしてから、「はぁ……」とため息と共にまたうつむいた。――朝からドキドキさせられてしまった。
綺麗…か…、何だか思っていたより甘い新婚生活になりそうだ…――って、新婚生活なんてどれもみんな結構こんなもんなのかもしれないが。
「…………」
「……、…」
ハルヒさんが何も言わず、僕のかけ布団に置いた片手の甲をそっ…と、そのあめ色の手のひらで包み込んでくる。…あったか、いけど…――僕の手がにわかに小さく震えてはじめてしまう。
「…………」――しかし彼は何も言わない。
「……、…ぁ、あのハルヒさん、…」
だが、どうもそのちょっとした沈黙にさえ耐えきれなくなった――それもハルヒさんのほうはその沈黙中気まずそうではなく、ただニコニコと僕のことを愛おしげに眺めているような気配ばかりで、それが余計に僕の気まずさをかき立てたので――僕は、単に今ふと思いついたこんな話をはじめる。
「僕も…ハルヒさんも神、…で、ママやコトノハさん、じいじやロクライさんも神…なんですよね、…っていうか、みんな神、じゃないですか……?」
たとえば僕は天上春命 、ハルヒさんは天 下 春 命 …、ママは天美津玉照比売命 、といったように、それこそみんな名のある神様である――それも僕らはともかく、特にロクライさんこと建御雷神 やコトノハさんこと天児屋根命 、そしてじいじこと経津主神 あたりはゲームなんかでもよくキャラクター化されているような、日本神話のなかでは結構有名な神様である――と昨日聞かされたその信じられない事実はしかし、今となってはもうほとんど確信的に事実と認めているというのに、どうもまだ不安な物言いをしてしまった僕である。
……といって最悪、「いや、あんなの冗談だよ?」と言われる可能性もやっぱり捨てきれないなと……。
「うん」としかし、ハルヒさんがすぐに肯定する。
「……てことはその、…じゃあやっぱり、じいやも神…なんですよね……?」
いや、なぜか昨日店で二 人 の じ い や が フ ュ ー ジ ョ ン し て 一 人 の じ い や に な っ た んだから、…そりゃあ彼だって神には間違いないはずだろう――少なくともあれが僕の見間違いか何かしらの要因によって引き起こされた幻覚かじゃない限りは…――。
ただ店では、じいやの神様としての名前だけは聞けていなかったので、
「ならそのー…じいやは何という名前の神様で…?」
……いっそのこと彼のその真名 も気になるというか、なんというか。すると、
「…ん〜〜…、えっとぉ……」
とハルヒさんがのーんびりと答えはじめる。
「じいやはぁ…神 じ ゃ な い よ…?」
「……、え゛っ…?」
僕は思わず自分の耳を疑い、ふっと隣のハルヒさんへまた顔を向けた。…彼は平然としたおだやかな真顔である。
いや二 人 で 一 人 のじいやが神じゃないって、そっちのほうがよっぽど驚きなんだが…――?
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