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 まだネームが作成できていない作品の内容とはこうである――。  二十五歳、いわゆるダウナー系の美貌をもつ攻めが長時間労働の末、ひとり暮らしをしているワンルームへへとへとになりながら何とか帰宅すると、攻めを出迎えた見知らぬ美青年――受け――、それも黒い猫耳と長い尻尾を生やしたその美青年が、『おかえりなさいっ』と攻めに抱きついてきた。 『……っ!? あ、あんた誰ですか…っ!?』  攻めは驚いたが、受けは――喉をぐるぐると鳴らしながら――攻めの頬に頬をすり寄せ、ペチャペチャと首や頬やを舐めてくる。  攻めは不審がって混乱のなか受けを突き飛ばし、『け、警察呼びますよっ!』と威嚇した。が、受けは猫耳をへたぁと伏せてしょんぼりし、 『()()()のこと、忘れちゃったの…?』  と言うのであった。攻めは目を見開く。 『…み、ミルク…? ――ミルク、なのか…?』  ……ミルク――それは攻めが飼っているオスの黒猫の名前である。…自分をその愛猫・ミルクだ、という受けは、攻めににっこりと笑ってみせる。 『うん。ねぇ、これからは僕が君のお嫁さんだよ。だからもう()()()()()()と付き合うのはやめてね?』 『……は…?』  唖然とする攻めは、内心――いや泥棒猫って…俺、本当は犬派だし…――などと、混乱のあまり取り留めのないことを考えているのだった。  攻めは全国に百店舗以上を構える、大手チェーン系列の本屋に正社員として勤務する二十五歳である。  攻めは大そう美しい青年であった。  しかし自分が美貌であるという自覚はなく、大人しくお人好しな性格の自分を「陰キャ」だとカテゴライズしている。そのせいか、あるいは過労気味のせいなのか、彼の生来の美貌にはどことなく廃退的な、アンニュイな、陰鬱な色気が足され、すると彼のそのどこか危険な雰囲気のただよう美貌は、ますます人の目を惹きつけるようだった。  また彼はオタクではなかったが、本を読みはじめると耽読とまで至ってしまうほどに、子どもの頃から本、特に小説というものを愛していた。――それだから図書館の司書になりたいと夢見たときもあったが、大学ではあえて経済学を学んだ。  というのも、将来的に彼は、祖父が下町に構えている小さな個人経営の本屋を継ぐつもりなのである。  だから彼は今大手チェーン系列の本屋で働き、将来のための勉強をしている最中なのであった。  ところが攻めの勤務先はいわゆる「ブラック」である。――彼は店長にもエリアマネージャーにも都合よくコキ使われ、日付の変わった深夜にへとへとになって帰宅するようなことも珍しくなかった。  するとひとり暮らしをしているワンルームは荒れ放題、食事もインスタントにばかり頼りきり、帰ってコンビニ弁当を食べてシャワーを浴びて数時間寝て、起きて用意をして出勤の道すがらコンビニに寄り、てきとうなパンやエネルギーチャージゼリーなんかを買ったなら、職場への道すがらにその簡素な朝食を済ませるような(わび)しい日々――この頃は大好きな本も休憩時間くらいにしか読めず、彼の部屋には積読(つんどく)の「塔」がいくつも建っていた。  ただ勤務先の高校生・大学生のバイトたちや、パートの主婦たちには愛されていた。口数は少なくおどおどしがちだったが、彼は美しかったし、何よりお人好しなほど優しかったからである。――いや、ことバイトたちには「モテて」いたといっていいだろう。  しかし攻めには結婚を見据えている彼女がいた。  自覚するところ陰キャのコミュ障とはいえ、美しく優しい彼を、周囲の女性は放っておかないのであった。それだから彼は「不思議と」彼女という存在を切らしたことがない。――ましてや彼は誠実な性格をしていたので、たとえ他の女性にアプローチをされても「彼女がいるので…」と必ず断ってきた。  そうした攻めはひそかに、しかしいつも夢見ていた。  いつかは気立てのよい奥さんと子ども、そして自分とで祖父の本屋を継ぎ、慎ましくも幸せな家庭を築くことを…――ところが、なのである。  攻めはお人好しが過ぎた。要は尽くし体質が過ぎたのであった。――すると彼は職場でもそうだが、男女関係においても「健全な均衡(きんこう)」を保てなかった。  献身、奉仕とまでいった優しさというものは、ややもすれば人からの搾取対象になりがちである。…そもそも他者に与えてばかりの彼自身が「健全な均衡」をあまりよくは知らなかったし、また図らずも彼の容姿には廃退的な美があったせいで、彼はある種の「危険な女性」ばかりを引き寄せがちであった。  どこまでも献身的な彼に寄ってくる女性たちは、その「愛の沼」に浸りたい、依存したい、愛するより愛されたい、というような、いわゆる「地雷系」ばかりであったのである。  いや、もちろん自立した健全な女性も攻めに恋はするのだが、攻めを狙っている「地雷系」の女性がその健全な女性たちを(おびや)かし、追い払ってしまうせいで、攻めの知らぬ間にそうしたまともな女性たちは、彼に寄り付かないようになってしまっていた。  そして今度の攻めの彼女も――攻めは情緒不安定な彼女でもありのまま受け入れ、結婚を見据えていたが――、攻めを裏切るのであった。  合鍵を有している攻めの家、彼のベッド上で、彼女は見知らぬ男とセックスをしていた。――そこに帰ってきた攻めはがく然とした。…彼女は攻めに構ってほしかったから、仕事ばかりで寂しかったから、と泣きながら言い訳をした。…攻めは自分も悪かったんだな、とほだされかけ、彼女を許そうとした。  しかしそこに一匹の黒猫が現れ、彼女にシャーッと威嚇する。――それが攻めの愛猫・ミルク(受け)である。ミルクは黒猫のオスだ。  ちなみに攻めは元来犬派ではあったが、その持ち前の優しさから、怪我をして道路に倒れていた痛ましい姿の黒猫を放ってはおけず、すぐさま動物病院に連れて行ってやった。――そして病院では、幸い命に別状はないが継続的な治療が必要だ、と告げられた。  となっては、攻めは里親を探す前に怪我を完治させてやってから、とその期間家でミルクの世話をしてやって――なおミルクは猫用の牛乳が好きでよく飲んだので、そこから「ミルク」と名付けられた――、定期的に動物病院にも連れていった。…ところがそうして一緒に過ごしているうちに情が湧いてしまったので、――このワンルームはペット不可ではあったが――こっそりとミルクを飼うことにしたのだった。  ただ、ミルクは歴代彼女の誰にも嫌われていた。  なぜなら彼女が攻めの家にあがるだけで、ミルクはシャーッと威嚇し、ひどければ彼女のことを引っかき、噛みついたりもした。――家のベッドの上でセックスなんてしようものなら、しばしば彼女の顔のうえに座ったり、彼女の裸の胸や腕に噛みついたり、もっと悪いと彼女の体におしっこをひっかけたりして、とにかく二人のその行為を邪魔してくるのだった。  攻めはそうして彼女に乱暴を働くミルクを制止しながらも、内心驚き、困惑するばかりであった。  というのも――ミルクは攻めにはたったの一度も威嚇さえしたことがなく、甘えん坊で、爪切りをされていてもなおぐるぐると喉を鳴らして、三ヶ月にいっぺんのお風呂のときでさえおとなしくしているような、きわめて気性の穏やかな人懐っこい猫だったからである。  また環境の変化に敏感な(たち)なのかというとそうでもなく、攻めが帰省する際に置いてはゆけないからと実家にミルクも連れてゆくと、ミルクは多少もの珍しげな感じで実家を観察したあとは、いつもの甘えん坊な調子で攻めはもちろん、祖父母や両親やにもすりすり、ぐるぐると甘えるのである。  要はミルクは攻めの彼女に対してのみ乱暴な、悪い猫になるようであった。  そして今度も、自分の不貞が原因であるというのに泣き落としで許されようとしている彼女に――それにほだされて許しかけている、馬鹿なお人好しの攻めに――、ミルクはシャーッと威嚇してきた。  しかしあと少しで仲直り、というような望ましい、ある種しっとりとした穏やかな雰囲気のなか、ミルクのその威嚇は彼女にとって邪魔――いや、そもそもミルク自体が邪魔な存在――であった。  彼女は攻めに甘えながらこう言った。 『ねぇ、この猫今すぐどっかに捨ててきて。』と。 『わたしがこの猫に何度も引っかかれたりしてたの知ってるでしょ。わたしが他の人と寝た原因には、いつも邪魔してくるこの猫のせいもあるんだよ?』  すると攻めはふと神妙な面持ちになった。  彼は冷静になった。途端に目が覚めたのであった。 『無理…、そういうこと言う人とは俺、やっぱり無理だ。――やっぱりもう別れよう。』  すると逆上した彼女が、ミルクを破れかぶれに蹴ろうとしたその瞬間、攻めは驚くほど勇敢になって彼女を止め、合鍵を奪い、そしてたちまち家から追い出してしまった。  そうして将来を夢見ていた彼女と別れて数日後、まだ破局の傷も癒えないままの攻めが、相変わらずの過労によってへとへとになりながら家に帰ると――自分こそは攻めの愛猫・ミルクだ、という黒い猫耳と長い尻尾を生やした美青年が攻めを出迎え、『今日からは僕が君のお嫁さんっ』と宣言するのであった(ちなみにミルクは攻めのTシャツを勝手に着ており、しかしそれはミルクの体には大きいため、鈴付きの赤い首輪に半そでのワンピースを一枚着ているような格好になっているのだが、その素脚には黒い網タイツを履いている)。  そして困惑しつつも攻めがひとまず家に上がると、あれほど荒れ放題だった家の中は綺麗に片付けられ、風呂は沸かされ、さらにミルクは美味しい手料理をまで攻めにふるまう。  そうしてミルクは、疲労困憊の攻めを「お嫁さん」らしい甲斐甲斐しさでいたわりながら、実は自分は何百歳の「化け猫」という妖怪で、かねてより自分を助けてくれ、優しくしてくれる「王子様」のような攻めに恋をしていたが、こうして人のような姿を見せれば攻めが「()われる」だなんて怖がると思い、今までは単なる猫のふりをして攻めの幸せを見守っていた、と話す。 『猫は恩を三日で忘れるなんて嘘だよ。ずーっと忘れないし、ましてや長く猫を飼っていたら飼い主を食べちゃうだなんて、ほんとに真っ赤な嘘。…僕、大好きな君に恩返しがしたくて…それに、君には誰よりも幸せになってほしいの。……でも……』  ……しかし攻めがあんまりにも危ない女性とばかり付き合うので、その危険な本性を早くから見抜いていたミルクは、ああして――この泥棒猫! なんて嫉妬まじりに――攻めと彼女たちの仲を邪魔していたのだという。  そしてミルクは攻めの頬にちゅっとキスをし、 『これからは僕が君のお嫁さんになってあげる。あの女たちと別れたあと、いつも君は〝やっぱり信じられるのはお前だけだ〟って言ってくれていたでしょう? 僕、大好きな君のためなら何でもしてあげるよ?♡』  と、テレテレ可愛らしく言い――。 『ね…ほら見て…?♡』と脚をM字にひらき、あらわな濡れそぼった秘所を攻めに見せつけてくるのだ。 『僕、君と交尾もできるよ…♡ 化け猫遊女っていって、昔は遊郭で働いてたこともあるから、えっちには自信あるんだ…♡ ――もちろん人間には幻覚を見せて、おちんちんがないように見せていたけど……君は、ありのままの僕でも愛してくれるよね…? 今までと同じように……』  しかし――攻めはそもそも自分はゲイではないし、あと犬派だ、と言って断る。  するとミルクは『メスにはなれないけど…、じゃあ、せめて僕が犬になれたらお嫁さんにしてくれる?』としょんぼり。――攻めは、どうせ猫が犬になどなれはしないだろうと思い『うん。ミルクが犬になれるならね』と答える。  ミルクは『わかった…』と切なげに、『じゃあ僕が犬になれるように(しつけ)をして…? 僕、いい子で従順な君の犬になれるように頑張るから……』と攻めに服従を誓い…――エロシーン突入、というわけである。  ちなみに攻めはミルクの人化に対する混乱――自分は夢を見ているのだろう、というようなある種の錯乱――に付け加え、お先真っ暗な最近の破局にブラック勤務と今やほとんど自暴自棄なのもあって、ミルクのことを「(エロい意味で)ドS調教」する。  実は攻めは彼女たちに嫌われたくないあまり隠して、献身的なセックスをばかりしてきたが、元来の気質としては絶倫かつドSなのであった。――そしてミルクは「そういったプレイ」のAVで抜いていた攻めを常日ごろから見ていたために、攻めのその性癖を知っており、勝手に飼い主のクレジットカードで調教グッズやら誘惑用の下着やらをネットで買い込んでいた。  しかしそれは攻めへの愛ある献身のほかに、ミルク自身もドM気質だったからというのがある。  ゆえにミルクは攻めからの調教にも懸命に応え、するとミルクのそのけなげさと美しい艶姿に、いつの間にか攻めは勃起し――愛するばかりではなく、愛される喜びを知った攻めは結局ミルクを抱いて、…三年後のエンディングではミルクの想いにも応えたとわかるよう、個人経営の本屋の一隅(いちぐう)で「黒い子猫」を撫でながら本を読みつつ店番している攻めを、ミルクが『お昼できたよ、ダーリン♡』と呼びにくるシーンで話は終わる。  ……といったような作品なのだが――これをハルヒさんに演じてもらう、となるといささかハードルが高い上、ともすれば内容的にドン引きされかねないのと、…そもそも向こう見ずに「まだネーム未作成のものが〜…」だなんぞと自分で言い出しておいてなんだが、仮にこれをやってみよう、となったら何より僕が恥ずかしい思いをするし(おそらく僕が演じることになるのはミルクのほうだからである)、…何なら結婚二晩目にして僕、ハルヒさんにマゾ犬(猫)調教されることになるのでは……?  ということでそのプロットを出し渋っていた僕だが、…ベッドに座っているままのハルヒさんは(僕の頭に思い浮かんでいたその作品の内容に)ニヤリとして「面白そう、やろやろ」と案外ノリノリであった。  そして「そのプロットっていうの見せて」と言うので、僕が(なかば渋々)その手書きのプロットをハルヒさんに手渡すと、彼はそれを読むのかと思いきや――そっと目をつむり、そのプロットの紙に右手のひらを押しつける。 「…………」 「……? …ぁ…――?」  ……ハルヒさんの右手の五本指の股から、黄金の光が溢れてゆらゆらと揺らめいている。――彼はそのままこう言った。 「ふむふむ…なるほど…、おっけ。設定はこのままで、でも…名前だけは…――とりあえずハヅキと俺、つまりハルヒでやらせてね…? 俺、そのほうが興奮するから……」 「…ぁ、ああはい、それはまあ構いませんが……」  このプロットにも見るように、ある程度の心理描写は固められている。――要は場面場面の構図やプレイ内容、すなわち絵面のインスピレーションや実際の体感を得られればそれでよいので、名前をどう呼ぶかというのに関してはそこまで重要ではない。ただ、 「何してるんですか…?」  僕がそう聞くと、ハルヒさんは目をつむったまま微笑して「()()()()()()してんの」と言う。 「君の書いたものにも、君の想いっていう〝神氣〟が込められてるから…――内容を目で見て読むより、このほうがイメージとかも全部はっきり伝わってくるんだよ。」 「…はあ…なるほど……」  よくわからないが。  とここでハルヒさんが目をつむったまま、 「…ハヅキ…、目をつむって」と言うので、 「……? はい…」――僕は目をつむった。  しかしその直後にすぐハルヒさんが「目を開けて」という。 「……?? は、はい…、……」  僕は一秒あまりでまた目を開けた。 「――……、……っ?」  すると僕はいつの間にか、その一瞬で見知らぬ――いや、設定画に描き起こしてあった――ワンルームのベッドに腰掛けていた。  ……白い壁ぎわに設置されたシングルベッドに、である。ベッドの前の床には黒い(まる)いラグマットの上に白い二段のローテーブル、それの前(ベッドから対面)には壁沿いに濃紺の二人がけソファが置かれている。ソファ上の壁には液晶テレビ、テレビの横にはカレンダー、テレビ上には真四角の時計がかけられている。またベッドから見て右手側には、床すれすれほど長い黒いカーテンが閉め切られているガラス戸がある。  そしてソファの隣には、観葉植物の鉢をへだてて、木製の幅広な本棚が三つも立ち並んでおり――その本棚にはすき間なく本が収められている――その先には小さなキッチン、キッチンの真隣には玄関があり、玄関近くの壁にはトイレへの扉、脱衣場への扉がある。  またベッドの足もと付近(ガラス戸側ではなく、キッチン側)には白いプラスチックの衣装ダンスと、黒っぽい木製のクロゼットが置かれている。 「…昨日〝補給〟もしたことだし、ちょっと神域を展開してみたの。――どう、イメージどおり…?」  僕の隣でそんな凄いことを言うハルヒさんに顔を向ける、と――。 「……っ?」  僕はまたがく然とする。  ……僕に顔を向けて微笑んでいるハルヒさんが、黒髪になっている。――それもダウナー系美青年とでもいうか、その黒い前髪がある種憂鬱な感じに目もとにかかっており、また服装も白いよれよれのワイシャツに黒いスラックス、青いネクタイに変わっている。  肌はあめ色のままだが…――僕がイメージしていた通りの攻めの格好、雰囲気、全くそのものに……(あと、結局推しはどうなっても顔面が良すぎて似合うしカッコいい)。 「……はは…、でも、()()()()()()()()()()()()()よ…?」 「……ぇ、…」  僕は驚きのあまり顎を引いた。  その瞬間、チリンッ…――僕は目を伏せ、おそるおそる首もとを指先で触ってたしかめる。 「……、…、…」  ……僕は今、…鈴付きの首輪をしている。  僕がデザインしたミルクの服装はまず、鈴付きの赤い首輪と、それから攻めの白いTシャツを着てはいるが、受けの体格にそれは過ぎるほど大きい設定なので、そのTシャツはミルクが着るとオーバーサイズのワンピース風――肘までの半そでに、太もも中腹までの裾と、ぶかぶかな着こなし――になっている。…し、そのまんま僕は今それを着て……。  いや、それも……ミルクは想い人である攻めを誘惑するため、そのTシャツの下にまず黒レースのオープンブラジャー(カップ部分の三角がくり抜かれた、要は乳首など何も隠す気がない装飾用ブラジャー)と、下は黒レースのクロッチレスショーツ(要するに股部分に穴が空いている、着たまま挿入可能なエロ下着)、それから黒いファー付きのガーターベルト――ガーターベルトには股下十五センチくらいの靴下型の黒い網タイツが繋がっている――なんて、蠱惑(こわく)的な下着をひそかに身に着けているのだった。 「……、…、…」  いや、感触でわかる。…それも着ている……。  なんつーもん着て…いや着せられ……恥ずかしすぎるんだが……なんて内心羞恥まじりの動揺をしていると、 「……っ?」  ()()()()()()()()()()()()()()。 「……? ……、…、…」  ……僕は恐る恐る頭上を触って確かめ、… 「……ぅあ゛ぁ…っ!?」  ね…っこみみ、…猫耳――っ!?  ボワッと僕の背後で膨らむ、  ……ね、猫尻尾…――っ!?!? 「……、…、…」  いや、いや落ち着け…――要するにこれはハルヒさんの「神力」によるアレ、要は神ゆえに成せる魔法での変身である。  ……それにしたってず、随分本格的だ…――。  なんて僕が驚きのあまりドキドキしていると、ハルヒさんが「ん…?」と気だるげに僕に首をかしげる。 「いや、ていうか…それは君自身の〝神力〟だと思うけど……?」 「……え゛。……」  ……うぁーダウナー系の推しも格好よ…って、…僕自身の神力……?  ハルヒさんはその長い黒い前髪の下で妖しく目を細め、微笑する。 「…そう…ここは俺がつくり出した簡易的な神域でしょ。…まあ他の誰かがハヅキの部屋に入ってきたら解けちゃうくらいの、ほんとにゆるゆる〜な神域だけど…――でも、神域の中って要は…神にとっては水。だから。」 「……、…」  水……? ああ、 「あーーと、要は…()()()()()()()()…と言いたいんですか…?」  水、だけだといまいち意味がわからんが、おそらくハルヒさんは水を得た魚のように(神として本領発揮できる…?)、と言いたかったのだろう。――彼はコクコクとうなずく。 「そそそ。…で…もちろん君も神だから、ここでなら人間基準では不可能なことでも、思うままになんでもできちゃうってわけ。――ねー、ハヅキも案外ノリノリだね?」 「……、…、…」  あ〜〜…? と、すると僕…――自覚していないところの本心では案外ノリノリで――自らミルクのこんなエロい格好に……この衣装を着ている以上に、そのほうが恥ずかしいんだが……?  なんて赤面しうつむいた僕だったが、ハルヒさんはチリチリと僕の首輪の鈴を指先でくすぐりながら、 「さぁ俺の猫ちゃん…? 始めよっか…――。」  と妖しく暗くほほえむのである。

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