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なぜだかわからないが、僕の膣内に――神氣補給のために――挿入されているままのハルヒさんの陰茎が、ドクンッドクンッと脈打ちながら、またたちまち硬質を帯びてゆくのを、僕はいまだ敏感なその場所で感じている。
ただそれは、あるいは僕が今下腹部――幸せな重みの溜まった子宮――を撫でていたため、するとその微弱な快感から、僕の無意識のところでなかがうごめいたり締まったりしてしまい、そうして彼の陰茎に刺激を与えてしまったせいかもしれない。…が…それにしても、それ以前から彼のは勃起の反応を起こしていたようにも思うので、…なぜ、なんだろう。
「……、…」
いや、と僕は目を伏せたまま考える。
僕が先ほどの情事を思い出させるようなことを言ったせい、だろうか。…しかし、それ以前からこうなっていたような……。
では、まさか…僕が「可愛いから」…? ――そうならそりゃあ照れくさい反面ありがたい、というよりかとても嬉しいが、――ただそれだけだと、いささか性的興奮をもよおす要因には足りないような気もする。
それこそ可愛いというだけでは、…それにつけ加え、何かしら色っぽい要素がなければ、それとこれとはなかなか結びつかないはずである。――そして僕は今、上には白いパジャマのシャツを着ている。それもそれはきちんと全てのボタンが留められている。
つまり今のハルヒさんの視界に映る僕の肌の露出とは、せいぜいがそれの襟から上、すなわち首もと(と顔)くらいのものなのである。
すると、視覚情報的には少なくとも興奮、勃起にいたるまでの「色っぽい要素」は、――そのひとのフェチズムにもよるが、一般的に考えれば――今の僕にはそうあるとも思えない。
「……? …、……」
いっそ、はっきりどうして、と聞いてしまったほうが早いんだろうが……とは思いつつも、僕はそっと目をつむり、静かに息を止める。
気を抜くとそれらしい艶のある吐息や、ともすれば「ん…」なんて声がもれ出てしまいそうなのだ。
それは致し方ないことなのだが、どうしてもいまだ敏感ななかで彼のがドクンッドクンッと脈打ち、みるみるとまた硬く太くふくらんでゆくその感覚には、ついぞくぞくと肌が粟立って、…すなわち弱々しくも快感を覚えてしまうから……そしてそれによってまた、色情のスイッチが入ってしまいそうになるからである。
……いや、そもそも愛するひとの陰茎が自分の性器内に入っているというだけで、もはや僕のその「スイッチ」は今ほとんど「ON」になりかけてはいるのだが…――しかしあくまでも今のこの挿入状態は「神氣補給」のため、と、明確に目的が「それ」ではないので、…とにかく今はこれに耐えるしかないのだ。
「……、…、…」
「……、…」
ただ、あきらかに今ハルヒさんも耐えている、我慢しているらしい上――勃起の程度がみるみる増していっているのだからそれは当然だが――、彼にいたっては今気まずい思いをしているような、極ちいさい息を詰めたり、ごく、と喉を鳴らしたりするような音が上から聞こえてくる。
まあ一方の僕としては今気まずいというよりかはなぜ、という疑問が、嬉しいなかばあるだけなのだが――もしかしてハルヒさん、僕の「何か」にまた興奮してくれているのかな、…ただその「何か」がなんなのか、僕にはなかなか自覚に及ばないのだが…と――、…ましてやその気まずそうなハルヒさんが、愛おしいやら可愛らしいやらで、別にそう気にしなくてもいいのに、とさえ思っているくらいなのだ(いや、同じ男としてそれを気にしてしまう彼の気持ちも重々わかってはいるつもりなのだが、とはいえ、かえって僕が彼と同性だからこそ、その生理現象をこうして微笑ましいくらいほがらかに捉えられているところもあるのかもしれない)。
「……、…、…」
「…………」
ちょろちょろちょろ……僕たちの頭上でおだやかに流れるその水の音は、ふたりの沈黙がやぶられるそのときを少しでも早めようと急かしてくるようだった。――いや、事実このままお互いに無言でいつづけても、彼の苦しみはどんどん増してゆくだけだろう。
ということで…――僕はちょっとからかうようなつもりで、つっと上目遣いにハルヒさんを甘く睨んだ。…ちなみにこの寝室はもうすっかりと明るい。
曇りのない明るくまばゆいほどの朝の陽射しが、ベッド横の壁一面の障子の紙を透かして、もはや照明など不要なほど、このおしゃれな旅館の一室のような、和風モダンの寝室をのどかに明るませているのだった。
……そしてその輝く陽射しを片頬に受けているハルヒさんは、その真っ赤に染まった彫りの深い美しい顔に弱々しい困惑の表情をうかべており――僕と目が合うなり、その赤味の濃いオレンジの瞳をゆらっと揺らして、それから慌てて恥ずかしそうに目を伏せた。…その瞬間、彼の長い銀のまつ毛がチラと極小の光を放った。
しかし僕はほほ笑みながらあえてこう……、
「…ハルヒさん…、あの……僕の気のせいじゃ、なかったら…、その…――僕のなかで、貴方のが…ドクドク、…どんどん…硬くなって……」
なお僕はあくまでもそれを責めている感じではなく、僕の何かにまた興奮してくれたようで嬉しい、というような甘い幸せな笑みを含ませてそう指摘した。
「ど、どうして……?」
そしてそう、照れくさくなって眉尻を下げつつも、ほほ笑みを深めながら優しく尋ねた。
するとハルヒさんはその赤面した顔を少しむっとさせ、目を伏せたまま「ど、どうしてって、」
「…ハヅキが…綺麗すぎる、から…。あと今の上目遣いとかも可愛すぎた、し…――ていうか、俺に抱かれたあとって感じの顔してるから、君…今…、俺のものになった顔、…いや、あの、だから、――ほっぺとか鼻の頭とかピンク色で、まだちょっと目が潤んでて、とろーんって色っぽい、しあわせそうな顔してて…――しかも綺麗な笑顔でお腹なでなでとかするし、俺の精液入ってるお腹……、――ね、ねぇなんでわかってないの、…俺、さっきから君に見惚れてばっかいるのに……」
「……ぇ…、……」
ドキ、と僕の心臓が甲高い高鳴りに大きくふるえた。――う…、
「う…嬉しい…です…、あ…ありが、とう……」
僕はまた目を伏せ、笑んだ唇を軽く巻きこみ、この悦びを噛みしめる。
……僕が、色っぽい顔をして…綺麗だったから、愛おしかったから、少し色っぽいことをしていたから…ハルヒさん、僕に見惚れて…興奮、まで…してくれたんだ…――まだまだ自信のない自分の顔だが、愛するハルヒさんがそこまで好きでいてくれている、だなんて…う、すごく幸せ…――僕はドキドキと玲瓏 なときめきをくり返している自分の胸、その心臓に四本の指先をあてがい、その鼓動をたしかめる。
「でもだ、抱かれたあとの…顔って、…ちょっと恥ずかしいですが、正直…――とはいえ、どっどうしても、そういう顔になっちゃうんでしょうね、多分、誰でも…その…こういう場合、…だって…貴方のものに、なったあと、だから、…本当に…事実、…はは……」
僕は照れくさい歓びのあまり今少し混乱気味で、そうしたとりとめのないようなことを言ってしまった。今黙っているだけの勇気はなかったのである。が、
「ちょっ…俺のものにって、…」
「ん、♡ …っす、すみませ、…ははは、…」
そのとき、不意に僕のなかでハルヒさんの陰茎がビクンッと跳ね、僕は思わずもれてしまった艶めいた自分の声を恥じ、笑ってごまかす羽目になった。
ハルヒさんは「たしかにそれ俺が言ったことだけど、」なんてつぶやき、それから、ちょっと泣きそうな震えた低い声でこうぼそっと言う。
「ごめ、とにかくな、なか締めないでハヅキ、俺、今けっこう我慢してんの、…」
「…ぁすみません、そのっ…でもわざとじゃ、」
いや、たしかに僕の膣内は今――ハルヒさんの陰茎の脈動に――感じてしまい、きゅっきゅっと締まってしまった。もちろんわざとじゃないのだが。
「ううんわかってる、わかってるんだけど、…っごめん違うの、ただ、…〜〜〜っ」
「……、…」
僕は伏せていた目をそっと上げ、ハルヒさんの様子をうかがった。――彼はやはり赤面したまま、つらそうに顔をしかめ、なるべく僕を見ないようにと目を伏せている。…可哀想になってきた。
……思うとこの神氣補給のための状態というのは、およそハルヒさんのほうが負担の多いものなのではないだろうか。――僕も男だからわかるのだが、それこそ射精後の敏感な陰茎を膣内に挿れたままでいなければならない、それも僕のなかの構造はいわば「高刺激系オナホ」に近しいわけであるし、――かててくわえて本物のオナホよりタチが悪いのは、当然僕の肉体の反応次第ではそこが締まったりうごめいたり、はたまた奥へ吸いこむような動きが起こったりするところで(しかも言うまでもなく冷めることのない体温がある)、…するとこの状態、どうしても必要とはいえ、彼は今なかなかの苦痛や我慢を強いられているに違いない。
「……、…」
……本当に可哀想だ。
ハルヒさんのその苦痛を多少なりともやわらげてあげるために、今僕にできることは何かないだろうか…――まあまず、なるべく膣内を動かさないように(感じたりしないように、また骨盤あたりをなるべく動かさないように)することはもちろんだが、…
「……、…ハルヒさん……?」
そうだ…と僕は、両手を上へ――ハルヒさんのシャープな両頬へ――伸ばし、するりとその赤くなった熱い頬を撫でる。…と、彼はつと下の僕をそのうるうると弱気な感じにうるみ、震えている赤っぽいオレンジの瞳で見る。そのしゅんとした子犬のような顔、可愛すぎる……僕は眉尻をさげて微笑する。
「辛 いですよね、可哀想に…、大丈夫ですか…? ――あの…よかったら僕に頭撫でさせてください…。ちょっとは気が紛 れるかもしれないから……」
痛みというものは、その場所を優しく撫でられると多少はごまかされるものだろう。――もちろん今のハルヒさんの苦痛は、厳密には痛みではないのだが、それだって性感というより(健全な)マッサージに近い「頭を撫でられる」という心地よい感覚には、もしかすると多少は今の陰茎のつらい感覚から気が逸れて、結果としてその苦痛の軽減につながるかもしれない。
「だから、こっち…来て……?」
と僕がハルヒさんの両頬を軽くこちらへ引き寄せると、彼は泣きそうな少年のような顔をしながらその顔を僕のほうへ下げ…――僕の首もと、鎖骨のあたりに片頬をそっとあずけてくれた。
僕は片腕を彼のうなじの下あたりに乗せて抱き、またもう片手では彼の頭を抱えるようにそっとやさしく、なで…なでとそのひとの後ろ頭を撫でる。
ハルヒさんの銀髪は触っていてとても気持ちのいい手触りである。細くてしっとりとした、つるつる、ふわふわの猫っ毛だ。
「ふふ…いい子、いい子…――神氣補給っていつになったら終わるんでしょうね…? 早く終わるといいんですが……。…辛いでしょうけど…もうちょっとだけ、我慢してくださいね……」
愛おしい。甘える子どものように、じっとして僕の体にもたれてくるハルヒさんの頭の重みが、あまりにも愛おしい。トクトクと速くなった自分の鼓動にくすぐられている僕の胸が、ぽかぽかとあたたかくなってゆく。
「はは…、それにしても…本当に可愛い、ハルヒさん…――もし眠れるようなら、このまま眠っちゃっても大丈夫ですよ…。…お疲れ様でした…、……」
僕はちゅ、と彼の銀の髪がゆたかに生えてそろっている頭頂部にキスをし、なで…なでと彼の頭を撫で続ける。
「…ん゛〜〜…っ」――しかしハルヒさんはそう苦しげにうなった。そしてすっと頭をもたげ、
「……っ?」
一瞬、切羽詰まったような真剣なハルヒさんの顔が見え、間近にあるその顔はさっと少し傾いて、そのままはむ…とやさしく唇を食まれる。
「……んっ…、……、…」
僕はすぐにそっと目をつむり、はむ…と小さい動きで、浅く彼の唇をはみ返す。ハルヒさんの耳もとの髪を両方きゅうっとやわく掴んで軽く引き寄せ、はむ…はむ…と、ふわ…ふわ…と力なく、ついばんで甘えるように…――だめ、きゅんとしてしまう…――胸がドキドキとして、子宮がうず…と切なくなる。
「……ん……♡」
とかすかに声をもらしてしまった。
キスされるの、だめ…、好き…でも、…なか、動かしちゃ…だめ…なのに…――。
「……っ、う、…だめ、ほんと、やば……」
……しかしハルヒさんはそう言いながら、僕の耳もとに顔を隠し――そこでぼそぼそとこうこぼす。
「てか逆効果だった、ごめん…、すごい美人の旦那さんによしよしされるの、…しかも君のいい匂い嗅ぎながら優しい声でよしよしされるの、逆に…だめ、――どんどんまたしたくなってっちゃう、…」
「……、…」
僕は目を開けたが伏し目、じゅわ…と両頬ににじんだ熱を感じている。
また…したく…――えっち、を……?
…いやそうに決まってはいるが、…じゃあつまり、さっきあんなにたくさん求めてくれたあとなのに…まだ僕のこと、抱きたく……だめ、なかがきゅんっとしてしまった、…いや、しかし僕…でも、じゃあ…どうしたら…――僕はハルヒさんの後ろ髪を指ですき、そうしてゆっくりと何度もそこを撫でながらこう考える。
「……、…」
それでむらむらしてしまうというのなら、もはやきっと何をしても裏目に出てしまうというか、もはや僕が何をしてもハルヒさんはむらむらしてしまうのではないか、というか…――それだけ愛されている、求められている、…しかも今またさらっと「すごい美人」だと褒めてくれた、つくづく僕の顔、本当に好きでいてくれているんだ…というのはあまりにも幸せで、正直とても嬉しいことなのだ、が…――ただそうなってくると、もう僕にはなす術がないようにさえ思われてくるのである。
なぜなら…ハルヒさんの苦痛の原因は、幸か不幸か…――「僕」だからだ。
……しかし、それでも何とか少しでもそのつらさを紛らわせてあげたい気持ちは山々なので、そうすぐに諦めるのではなく、なにか他に方法は……と、ここで――僕のこの困惑ぎみの悩みを聞きとったらしいハルヒさんが、沈みこんだささやき声でこう言う。
「だいじょぶ、心配しないで…? 俺はだいじょうぶだし、…ていうか、もう襲ったりしないから…我慢するから、…できるから、我慢、だからだいじょぶだよ、気にしないで…――あと、あとね…、もうあんな酷いえっちも絶対しないから…。ほんとにごめん、ハヅキ……酷いことして、ほんとうにごめん……」
「……、…」
ハルヒさん…先ほども「やりすぎた」と言っていたが、ああした理性のない乱暴を僕にしてしまった、と落ち込んでいるのだろう…――僕は彼のその気持ちが伝わってきて切なくなった。そして、寂しくもなった。
「……、もう…してくれないんですか…?」
僕は眉尻を下げ、するり…ハルヒさんのうなじを覆うえり足を指でゆっくりとすいて撫でる。
「たまには…また、今日のようなえっちがしたいです、僕は……」
……そりゃあ最中はだめ、やめて、もう無理、だなんて僕は何度も言ってしまったが、…まああのときはなかば本心でそう言っていたとはいえ、それが完全なる本気の言葉だったか、本気で僕が嫌がっていたのか、本当に僕がやめてほしかったのか、と言われればそれははなはだ疑問である。
かえって今となっては、僕は先ほどのハルヒさんの激甚 な本能むき出しの、衝動的な獣のような姿を思い出すだけで口角が上がり、またそれだけでじわ…と奥のほうから熱く濡れてくるほど、またあんな甘美な苦痛をしいられる激しい情交がしたい、彼にされたい、と心から強く望んでいるのだ。
「でも俺…」――ハルヒさんは反省しているような、沈鬱なかすれ声でこう話す。
「さっきすごい、ハヅキに酷いこと…、ごめん…――あの俺ね、シタハルの分霊 の中でもその…君への執着心とか、そういうドロドロした気持ちがとにかくものすごく強いの…――地上に降りてくる前に、ウワハルと〝未練を残しとく〟って約束しちゃったせい…――だから、俺ひとりじゃ生きていけない、ハヅキがそばにいなきゃ俺は終わる、…みたいな感情が、普通のシタハルよりも魂に刻み込まれてて、…」
そしてハルヒさんは、焦慮しているような調子でこう続ける。
「でも、もう君とは結婚までしてるのに…――それなのに俺、それなのに、ハヅキが他の誰かに盗 られちゃったらどうしようって、君に嫌われちゃったらどうしよう、…ひとりにされちゃったら、見捨てられちゃったら、君が万が一他の誰かのものになっちゃったら、どうしようって、――それで、そうしたらその約束の未練が、独占欲とか、支配欲とか、征服欲とかになっちゃって……」
「……、…」
僕は何かここで、はたと気がついたことがある。
ハルヒさんのえり足をやさしく、おもむろに指ですきながら、ひとまず彼の言葉を聞き置いているが、…そうか、僕……。
「それで…そういうのがたまに、俺を怖いひとにしちゃうの…――君をいじめて、壊しちゃうくらい乱暴に君を犯したくなって、君に酷い最低なこと何度も言わせて、怖いくらい君を束縛したくなっちゃって、――そうやって…俺の、ハヅキは俺のって、どこまでも君を、自分だけのものにしようとしちゃう……」
今のハルヒさんは自分の中の、その強すぎる想いを誰よりも彼自身が恐れているかのような、いや、いつか自分が僕を壊してしまうのではないかと恐れているかのような、あるいは、自分のなかの慈愛と愛執の相克 にひどく困惑しているかのような、そんな感じで、とにかく怯えているようだった。
だが――僕はおもむろに顔を彼のほうへ向け、ちゅ…とそのひとの耳に優しいキスをした。…それからほほ笑みながらこうささやく。
「大丈夫ですよ…。ねぇハルヒさん…――僕今、ちょっと気が付いたことがあるんです……」
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