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 あれからおよそ一週間後――。  僕ら家族は予定通りプライベートジェットに乗りこみ、初夏のハワイへと旅立った。  つまり多少の懸念があった僕の仕事は、無事それまでに片づいたということである。  ……何ならああしたハルヒさんのご助力――僕の(つく)り出した攻めと受けにお互い(ふん)し行ったあのプレイ――のおかげもあって、その翌日に僕が作成したネームは――実はあの日のプレイ内容や最中のハルヒさんのふるまいを参考に、いくつかプロットから変更した点もあったが――、担当編集のみっちゃんに提出したなり、なんと即座にOKをもらうことができたどころか、みっちゃんに『もっと良くなってる!』とお褒めの言葉までいただくにいたった。  そして、そうしてネームが承認されればあとは清書をするのみ――といって、そもそも清書は僕の得意分野であり、そこまでくれば一日程度で原稿を完成させられる僕の早筆ぶりも相まっては、思っていたより早くに僕の仕事は片付いたのであった。  ちなみにこの一週間のうちに、僕とハルヒさんとのあいだには「ある約束事」が取り決められた。  それというのは――毎日えっちするのはもちろんOKだが、一日上限三回まで(なおプレイ内容は問わない)こととする。  そして、ああした夜通しのえっちは週に一回まで(どうしても我慢できない場合は要相談)とする。  ただし、僕の漫画のインスピレーションを得るためのえっちに関しては、日に三回のうちには含まれないこととする――三回したのちでも必要となる可能性があるため――。  ……いや、たしかに僕はあのあと、一睡もしていなかったわりにやたらと元気ではあった。  ふつうに仕事もできた。だからこそあの日のうちにネーム作成まで完了できたのである。  すなわち、たしかに肉体的には案外眠らずとも問題はないようではあった(なおハルヒさんもなんら問題なかったようで、何なら彼は帰宅後も元気なままであった)。…が、…だからといって、毎日毎日夜通し――どころか、ハルヒさんが出勤するまで――抱かれつづけるというのは、何か僕が精神的に疲弊する予感がされた。  ……いや、そりゃあハルヒさんに抱いてもらえるのは幸せなのだ。そればかりか僕は人よりよほどエロいことが好きなほうではあるし、気持ちいいこともかなり好きで、実際彼とするのはいつも気持ちがいいし、…つまり…――僕だって何も、ハルヒさんとのセックスが苦痛なのではない。  ただ、家族と同居している以上いつ「その場面」を見られてしまうかもわからないし…――そもそもすでにあの日、声をかけに来たじいやのあの態度からして、あきらかに彼には「バレて」いたとしか思えないし…――、…というか、まあそれもそうなのだが、何より……。  ……あれだけしこたま抱かれ、そしてハルヒさんが仕事へ行ったあと、実は――ほぼ常に彼がなかにいる状態に慣れてしまっていた僕の体は、なんとも耐えがたい寂しさに襲われてしまった。  ……彼の形にぽっかりと空いた僕の膣内のその空虚感は、あまつさえネーム作成のために彼との情事を想起せねばならなかったのもあって、僕の体を恋々(れんれん)としたもの寂しさでわずらわしく疼かせたのだ。――また、もう何回するんだよ、もういい加減にしろよ、なんて最中は思っていたくせ、ひとたびハルヒさんと離ればなれ…夜までは「一つ」になれないという状況下に置かれると、それはそれで僕は、頭のなかまで耐えがたい彼への恋い(わび)しさでいっぱいになり……。  そうして心と体のその寂寥(せきりょう)感に(とら)われてしまった僕は、もう勝手にオナニーしちゃ駄目、だなんてハルヒさんには言いつけられていたものの、その日、ついつい何度もディルドやバイブを使っての「孤愁(こしゅう)の時」を過ごしてしまった。そしてそのようにしてなんとかやり過ごしながら、仕事をする羽目になったのだ。  まあ幸い、その日はなんとかネーム作成を完了させるまでに至ったはものの、とはいえ――これはよくない。  非常によくない……。  ……毎日こうでは、確実にやがて仕事にも支障が出てきてしまう。  と、いうことで――僕は早速その日の夜、ハルヒさんにその(むね)を相談し、そしてその結果僕と彼はあの「えっちの約束事」を取り決めたのであった(まあその日の夜もそのあとふつうにえっちはしたのだが、…ある意味では約束通りまた三回も……)。  なおハルヒさんはこの一週間、その約束事をきちんと守ってくれてはいるが、ただ毎日きっちり三回僕を抱くのであった。  ……とはいえ、僕はなにかそれが嬉しかった。すごく求められている、という感じがするのだ。まあ、たまに僕から求めたこともあったのだが――するとハルヒさんが喜んでくれるし、何より僕も結局は毎日彼としたいので…――。  ましてやハルヒさんは、いわゆる「賢者モード」にならないタチのひとで、…それこそただただ性欲が強い、だから性欲処理のために僕を抱いている…――だなんて微塵(みじん)も僕にかんじさせない、事後もずっと『大好き大好きモード』であったので、それがまた嬉しくて可愛らしくて、たまらなかった。し…ハルヒさん、夜の事後は僕が眠りにつくまで、僕の頭を撫でて…ときどきちゅ、と顔のどこかにキスをしてくれるのだ。――「愛してるよハヅキ…おやすみ…」と、このごろの僕は眠りにつく直前に、毎晩彼のそのやさしい声を聞いている。…幸せすぎる…。  ちなみにその「日に三回」の内訳は、大概は彼が仕事に行く前に一回、夜に連続で二回――それの内容はときに激しく、獣性むき出しのえっちということもままあったが、はたまた優しく丁寧に、それこそじっくりと愛しあうような、いわば「ラブラブあまあまえっち」ということも多かった。  正直、僕はかなり幸せであった。  ……毎日毎日ハルヒさんに求められて、毎日抱かれながら可愛い、綺麗、美しい、色っぽい、大好き、愛してる、などと甘く愛をささやかれ――なお「最中」でなくとも、彼は事あるごとにそう僕に愛を伝えてくれるのだが――、毎日抱きしめてもらい、毎日キスをしてもらい、毎日全身に触れてもらって、毎日全身にキス、それから毎日毎日…何度も何度もイかせてもらって……。  僕の子宮は常に彼の精液(神氣)でたっぷりと満たされ…――僕の心も、彼の愛で常にたっぷりと満たされて…――とはいえもちろん満たされているのは「夫夫生活」ばかりではなく、…毎日彼に微笑みかけられ、毎日笑いあい、見つめあい、寄り添いあっているこの日々には、彼と結婚する前の僕なら夢にも思わなかった、信じられないほどの幸福がたっぷりと満ち満ちていた。  それにハルヒさんは、もはやえっちするか否かにかかわらず、スキンシップや愛の言葉などの愛情表現は惜しみなくしてくれるひとである。  僕が不安になる隙をあたえないどころか、毎日照れてしまうくらい……ただ僕も、なるべく同じだけ返そうと努力はしているのだが。  それこそ毎日、仕事に行く前のハルヒさんに行ってらっしゃいのキスとハグをして、彼を笑顔で見送り…――そしておかえりなさい、と出迎えると、いつも嬉しそうにニコッとして僕をぎゅーーっと抱きしめ、「一緒にお風呂入ろ」と人なつっこく甘えてくる彼と、毎日いちゃいちゃしながらお風呂…――またお風呂から出ると、ハルヒさんは必ず僕の頭を撫でながら髪を乾かしてくれるのだが…それのみならず、過保護なくらい僕の身の回りのことを何でもやろうとしてくれる。  たとえば後ろから僕を抱きしめながらの爪切りだとか…――そればかりかこれまで僕がやったこともなかった甘皮処理や、爪がピカピカ、つやつやになるまでの爪みがきまで――、朝晩僕の髪を()かしてくれるだとか、毎日ボディクリームを体のすみずみにまで塗ってくれるだとか(ちなみに僕はもともとボディクリームを塗る習慣がなかったのだが、この一週間は毎日塗ってもらっている)、顔のスキンケアも化粧水、美容液、乳液とよほど僕が自分でやるより丁寧に、段階多くやってくれるし(これまで僕はメンズ用のオールインワンしか使ったことがなかったというのに)、…  それから(そのまま…ということもあったが、一応は健全な)マッサージ――さすがに毎日は申し訳ないのでときどき、それと僕もそのときにはお返しでマッサージしてあげているのだが――、…また僕のコップが空くまえに必ず飲みものを()ぎ、食卓で自分がなにか調味料をつかったら僕にも要るかと絶対に聞き、…と、そうしたありとあらゆるこまやかな気づかいもたくさんしてくれるハルヒさんは、いつも僕をいたわってくれ、優しくしてくれて、…ただ夕食後、あと歯を磨いて寝室へ行くのみという段までくると、僕はこのごろ自分の足で廊下を歩かせてもらえない。  ……というのも、ハルヒさんは必ず僕を横抱きにして二階までの階段をあがり、洗面台のある脱衣場へ…――歯を磨きおえたらまた横抱きで寝室へ……と、僕を抱えて運んで行ってしまうのである。  僕はそれに「あの、自分で歩きますよ…」と――正直まんざらでもないながら――遠慮するのだが、ハルヒさんは「いーの」と言って、おろしてくれない。  いや僕、大事にされているどころか、さすがにハルヒさんに甘やかされすぎでは……?  と正直僕は、(もちろんその横抱きのみならず)ハルヒさんの負担になっていないか心配だったのだが――それも疲れているはずの帰宅後に、彼はかかさずそうして僕に尽くしてくれるので――、しかしいわく、そもそもウワハルはシタハルに毎日同じようなことを(当然のように)させていたそうで、…彼としてはこんなのは当然のことで、あくまでも日常のルーティンのうちのひとつでしかない、とのことであった。  ……いや、もちろん()()()()()()()()()この一週間のうちにも、僕はいくつかまた「神の記憶」を思い出しているのだが――ちなみにそれは主にウワハルとシタハルの日常の「記憶」であった――、…なんとハルヒさんのその言葉には嘘がなかった――たしかにその「記憶」のなか、ウワハルはシタハルにそうした奉仕を当然のようにさせていた――のだ。  しかしまあハヅキである僕としては、やっぱりいささか申し訳ないというか…――萎縮してしまうというか、なのだが、…かえってハルヒさんは夫の僕に対してそれくらいやらないと自分の気が済まない、どうも落ち着かないんだそうで、――それをしいて固辞するのも何か感じ悪いし、とひとまず僕は彼のその奉仕を受け入れつつ、なるべく自分も彼にお返しできるところはしている日々だ。  ただ、それがまた本当に幸せだった。――それこそこの一週間のうち、僕は何度『ハルヒさんと結婚してよかった』と思ったか知れない。  ハルヒさんの笑顔を見るたびに幸せを感じ、ハルヒさんに触れられるたび幸せを感じ、ハルヒさんと何でもないことを話すたびに幸せを感じ、ハルヒさんと日常を送れていることに幸せを感じ…――ほかにも数えきれないほどのあらゆる瞬間に幸せを感じ…――そうして、それはあらゆる幸福を感じるたびに思うことだったが…――たとえばハルヒさんは、いつも僕の足のつま先へまで愛おしそうにキスをしてくれる。  すると僕は昼間、自分のそのうす桃色のつま先を――彼が磨いてくれたために、綺麗なつやを放っているそのつま先を――ふと見ただけでも、奥のほうからじわ…と熱く濡れてくるのを感じた。ただし、それは単なる欲情による愛液ではない。  それはハルヒさんが惜しみなく、たっぷりとくれる愛によって満たされているからこそ溢れてくる――寂しくて、もの足りなくて濡れてくるのではなく――彼への安心感のある恋しさや愛おしさ、そういった彼の愛、そして僕の彼への愛に熟れた果実の甘い蜜であった。  そして僕はそうしたとき、ふと微笑んでいた。  僕の心から体から、僕のすべてが逐一(ちくいち)感謝したくなるような幸福で満たされていることを感じていたのだ。  ただといっても、僕のこの一週間の幸福は、何も夫のハルヒさんがもたらしてくれるものだけで構成されていたわけでもなかった。――僕を愛してくれている仲の良い家族と過ごすなんでもない時間、楽しくて平和で、お腹が痛くなるくらい笑いが絶えないその家族との時間も、確実に僕を、思わず感謝したくなるほど幸福にしてくれたのだ。  僕は、みんなに愛されていた。  ……するとこの一週間のうち、僕の内面にも前向きな変化があった。  僕は思いきって髪を切ったのだ。  ……といっても、もともとそこまで髪が長かったわけでもないので、()()()()だなんて豪快さはなかったし、またまさか坊主頭にした、というわけでもない。――ただ旅行に行くというのをきっかけに、その前にと小さなころからお世話になっている美容院へ行って、これまで鼻先まで伸ばしていた前髪を、もう少し短く切りそろえてもらった。  手ぐしで軽く整えるだけで、目もとをあらわにきちんとセットできる短さと形にしてもらったのだ。  ……しかしまあそれでも、前髪をすっかり下ろしてしまえば、やはり目もとはそのすだれのような前髪に隠れてしまうのだが――これでもう外でも二度と目もとを隠さない、というまでの決心はまだできていないが――、…といっても長年、自分の前髪を鼻先にとどく長さまで伸ばし、その長さで自分を守ってきた僕にしてみれば、これはわりに大きな進歩だった。  なおその内面の変化は、その実僕の今の瞳の色にも関係しているかもしれない。  僕はああしてまた『目が熱い』と感じていたが、するとやはり以前のように、僕の白い瞳はほんの少しでも、また青味がかった光沢が濃くなっていた。  つまり僕はまた順調に、「記憶」ばかりか、少しウワハルとしての神力も取りもどした…というよりか、抑圧していたそれをまた少し解放できたようなのだが――僕が抑圧しているものは「ウワハルの自我」もそうであり、そしてそれはその神の精神ともいえるわけで、…すると僕はその自己愛の豊かなウワハルの自信、それもほんの少しだけ取り戻せたのかもしれなかった。  が、…すくなくとも目に見えて確実な、僕のその勇気の(みなもと)――僕の地を這うようだった自己肯定感を高めてくれたのは――やはり家族の愛、なによりも毎日僕を褒めて求めて、毎日たっぷりと愛してくれている、ハルヒさんのその惜しみない僕への愛情なのだが。  ちなみに余談だが、髪を切ったその日、仕事から帰宅したハルヒさんは、僕が前髪を少し短めに整えてもらったことにもひと目ですぐ(さと)く気がついてくれた。それも「すごくいい…!」と興奮ぎみに目を見開き、よく似合ってる、綺麗、カッコいい、素敵、とたくさん褒めちぎってくれた。  ……ただその晩、…もはや()()とは言わないが、とにかく「すごかった」――彼いわく「だってハヅキが余計綺麗になったから、興奮しちゃって」とのことである――。  とにかく、あまりにも全てが順調だった。  そしてそうして幸せな一週間を過ごしたのち、僕たち家族はみんなそろって和気あいあいと、初夏のハワイへ発ち…――。  プライベートジェット、なんていう超リッチな飛行機内を満喫しながら、ほぼ家族水入らずの快適な約七時間…――。  異国のまぶしいほどの朝――ハワイの空港、エキゾチックな現地のお姉さんやおじさんおばさん、お兄さんたちのニコニコ笑顔と陽気な「アロハ〜!」  そして花輪(レイ)!  ヤシの木! 青々とした木々! ココナッツ!  照りつける爽やかな太陽! 青い空! 青い海!  そしてそして…――

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