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――ぅわぁぉ……」  と僕は赤い花のかざられた冷たいパイナップルジュースを片手に、昼前の澄んだ青空と明るい陽射しの下、その白い肌をより白く映えさせている、目の前にそびえたった豪奢な造りのホテル…――のような「ちいっちゃい(デカい)」ロクライさんの別荘をこの目で見て、思わず感嘆した(なおいわくホテルだったこの建物を、ロクライさんは個人の別荘用にと改築したんだそうである)。  ちなみに僕は今、頭には麦わら帽子、そして水色に百合(リリー)柄の半そでアロハシャツと白い半パン姿、さらに空港で、日に焼けた肌のきれいなお姉さんにかけてもらった赤いレイ――プルメリアという花をつなぎ合わせて作られた、ハワイならではのあのネックレス――を首からかけている(ただ、もちろん家族全員そのレイを首から下げているのだが)。 「うへぁ…、すご…デッカ……」  いや…まあデッカいとはいえ、客室の数が百以上あるホテルほどの大きさはない――ホテルでいえば、目測で客室十数部屋といったところだ――が、…それにしたって別荘にしてはかなり立派である。  ……それも目の前にデンッ! とその建物があるわけではなく、今僕らが立っているこの大きな黒い鉄の門からなかは、芝生(しばふ)の青々とした前庭となっており、またこの門からまっすぐにつづく白い広いレンガ道の中央には、白い円型の噴水――水がめを肩の上にかかえた女神の像の、その足もとをぐるりと囲うようにして水が弧を描きながら噴き出ているのだが、彼女の抱えるその水がめからもジャーーッと水が流れ落ちている――の設けられた広場まであって、そして、その噴水の奥の道をもう少し進んださきに、やっとその白亜の別荘があるのである。  ちなみに前庭には南国ならではの花々やヤシの木などが植えられている。…そりゃあもう「南国リゾート!」ってかんじの超リッチな別荘である。 「ガーッハッハッハッ! おーーどうだぁウエ! ビックリしたかぁ!? のお!? ど〜〜ぅだ、ちいっちゃかろうが!? なあ〜〜!?」 「…ん゛っ…!? んお゛、ぉんん゛っ…! ぅッうん゛、…いやっめっちゃビックリ、ッすっすご、…デカ、…ぐ…っ!」  いや、そらもうビックリもビックリはしているのだが、…案の定wktk(ワクテカ)顔のロクライさんが、いきなり僕の肩を横からそのデッカい手でわしっと掴んでぐわんぐわんと揺さぶってくるせいで、…脳震盪(しんとう)起きそう、その衝撃に何より僕の体が一番ビックリしている……(何ならこの別荘が「ちいっちゃい(デカい)」のはすでに()()()()されてもいるし…)。  ちなみにロクライさんは黒に赤いハイビスカス柄のアロハシャツに、ベージュの半パン、そしてサングラス姿である。――そして、彼の隣では白に紺のリーフ柄のアロハシャツとベージュの半パン(地味にそれだけペア)の祖父が、「ほっほっほっ…お前さま、はしゃぎすぎだよ」なんて笑っている。 「まあお義父(とう)さま、こんなに素敵な別荘をお持ちでしたのね。さすがですわ」と僕の隣で母が、(おうぎ)でその小さな顔を優雅にあおぎながら感心し、上品に言う。  彼女は紺色にピンクのハイビスカス柄の半そでのワンピース、…だが、黒い日傘と黒いアームカバーとサングラスと麦わら帽子と、…と、日焼け対策ばっちりな姿である。 「ところでじいや、」とここで僕は、自分の背後にいるじいやにふりかえる。  ……彼もサングラスに麦わら帽子、青空のような青色に茶色いココナッツ柄のアロハシャツ、さらに下にはジーンズの半パンを穿いており…――そして、今門前の道路に停めている黒いワゴン車から、積み荷をおろしている最中である。  ちなみに僕を揺さぶるのをはたとやめたと思ったら、いつの間にかそのロクライさんも「さーて運ぶかあ〜」なんてじいやを手伝いはじめているが(それを見た祖父も今動きだした)。 「僕も手伝うよ。何運べば…」と僕も声をかけながら、動き出そうとしたが、 「よっこいしょ。…」  とじいやは地面に置いていた大きなクーラーボックスを持ち上げざま、 「ああいえいえ」とにっかり笑う。 「何、どうぞお気になさらず。――ただ中に入りましたら、これらの荷(ほど)きのほうはお手伝い頼みますぞ。」 「……あぁ…うん…、…わかった…。……」  ……まあ、これら大量の荷物を別荘内へ運ぶにおいては、祖父とロクライさん、この()()()()にプラス、()()()()がここへ来そうな気もするし、…何ならC、Dともっと分身(分霊)するかもしれないし……。 「……、…」  すると、僕が変に手伝ってしまうと、かえって邪魔…かもな……。 「さあみんな、早く中に入りましょう…♡」  とここで、機嫌よく先陣をきって歩きだした母にみんな続く。――ちなみに今この白レンガの道を歩き、別荘の玄関へ向かっているのは、母、僕とロクライさんと祖父、そしてじいや(A)しかいない。  ……ではコトノハさんとハルヒさんは今どこにいるのか、というと…――。 「…ハヅキ〜〜!」  と道なかばで、前の噴水の影からあらわれたハルヒさんが――真っ赤なアロハシャツ(赤に黄色いパイナップル柄)と、黒い半パン姿のハルヒさんが――両腕を広げ、僕のほうへ一目散に駆け寄ってくる。 「んぼぁっ…!」  へ、変な声出た、…いやだって、ハルヒさんが188センチの巨体でタックルするように僕を抱きしめてきたからだ、… 「えへへ…っハヅキ〜♡ 会いたかったぁ〜…♡」 「……っんぶ、…、…、…」  で、僕の顔が自分の胸板にうずもれている――息がうまくできていない――のもお構いなしに、彼は僕をぎゅーーっと抱きすくめ、僕の頭頂部を片腕で抱きかかえて、僕の頭にすりすり頬ずりしてくる。 「寂しかったよぉハヅキぃ〜〜…」 「……、…、…」  パイナップルジュースはなんとかこぼれないように死守したが、…息が……自分の巨体をまるで自覚していない(しっぽをブンブン千切れんばかりに振っている)大型犬に絡まれている気分である…――てかなんか彼の胸から、白檀の甘いにおいに加えてどうも潮…? っぽい香ばしいにおいがほんのりとするような、しないような……。 「まあ…たかだか一時間くらいのもので、随分大げさですこと。」――と母が呆れ半分に、からかうようにくすくす笑っている。 「ははは…」  コトノハさんの笑い声もする。  ……実はハルヒさんとコトノハさん、そしてじいやBは、先にこの別荘に着いていたのだ。  というのも僕たちは、日用品や食材の買い出し組――僕、母、祖父、ロクライさん、じいやA――と、家からの荷物を別荘へ運び、それの荷解きをする組――コトノハさん、ハルヒさん、じいやB――に分かれて行動していたのだった。  ちなみに今みんなが身につけているこのアロハシャツなど衣服は、空港近くのお店でみんなで買い、着替えてからふた手に分かれた。 「みんな、買い出しありがとう。…手伝うよ。」  とコトノハさんが爽やかな声で言っている。 「いえ、とんでもなくってよ。あなたたちこそありがとう。…もう荷解きは終わって?」 「もちろんだよ。…途中でシタは海で遊んでいたので、彼らのは定かじゃないけれども…――あ、持つよ父さん」 「ほっほっほっ…いいからいいから。お前たちだって今度は主役なんだよ…――ほら、もうふたりでおゆき」  祖父が母とコトノハさんに気を遣っている。 「え、…いいのかい父さん…、だが、」 「なぁぁにを遠慮しとるんじゃ! ほれほれ、新婚夫婦は行った行った!」  ロクライさんもコトノハさんの遠慮を笑い飛ばして…――。 「そうでございますぞ、旦那様、奥様。…荷物はどうぞ我らにお任せくださいませ。はっはっは…」  なんてじいやも…――そうしてみんな和気あいあい、ぞろぞろと別荘へ向かってゆく足音が聞こえる(なおこれはただの僕の直感なのだが、多分今「まあ…♡ ではお言葉に甘えて…♡」と言っていたママ、コトノハさんの腕に抱きついて、テレテレ笑ってるコトノハさんと並んで歩き出したと思う。家でもそういう感じなのだ)。…ただ、「ほれウエ、シタ、行くぞー」とロクライさんがかろうじて僕…僕たちのことを気にかけてくれた。…が……。 「……、…、…」  いや僕、()()()()()()()()――?  ……僕はあれからずーーっとハルヒさんの腕の中に閉じ込められたまま(※ロマンチックな比喩(ひゆ)ではなく、力技で)、顔に彼の胸板を押しつけられたまま、…いやなんで誰も何も言わずにノータッチで放置……? 助けてくれよ……。 「んむぐ、………」  あの、…と僕は心のなかでハルヒさんに話しかける。――すみません、息ができない…、というか、まあ息はかろうじてできているものの(ハルヒさんの厚い胸板でふーすーふーすーなんとかギリギリ)、身動きが取れないんですが、…僕たちも中に入りましょうよ……。 「あ、ごめんねぇ。えへへ…」  とやっと離してくれたハルヒさんは……、 「……ん。……」  もう…――僕の頬を両手ではさみ、顔を上げさせて、ちゅ…とキスをしてきた。  そして甘く僕に微笑みかけてくる。 「…麦わら帽子かぶってるハヅキ、かわいー。ふふ…」 「はは、…ありがぁ……っ!? ぁ、あの、…っ」  で、…なんで横抱き……っ?  僕は目を(みは)ってハルヒさんを見上げたが、彼は歩きはじめ、ニコニコとしながら――あ…ていうか本当に(荷解きの途中で)海で遊んでいたのだろう、彼の銀髪、ちょっと濡れている――、 「てか海がねー、すっごい綺麗でー、青くてー、透明でー、めっちゃ冷たくて、ほんと気持ちよくってねー…――あ、あと俺たちの部屋もすっごい素敵でー、ハヅキにも早く見せてあげたいなーって俺、ぁでもちゃんと俺たちの荷物の荷解きはしたよ? したんだけどー、実は()()()()()()になっちゃ…あ、パイナップルジュースだ〜。…」  とマシンガントークをかましていたかと思えば、僕の手に持っているパイナップルジュースのストローをくわえて、ちゅーっとひと口。…それからまたにへらぁ、と僕に笑いかける。 「……うわ〜おいしー。甘いねぇ、あはは…」 「……、…」  ん゛。可愛い……推しがめちゃくちゃはしゃいでる…――なんて僕は内心もだえ(要はほだされ)、…まあ「ほどいただけ」らしい荷物の片づけはあとで僕がやっておくとして…――結局横抱きにされたまま別荘へ入ることとなった。  ……のだが…実はこのあと、「ある事件」が起こってしまうのである…――

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