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まあただ、実をいうとそのジュース、こってりとしたバーベキューの具材に案外合うのだった。
たとえばこってりと甘いものには渋いお茶、というように、その酸っぱさが口の中をすっきりさせてくれるのと、何となくその酸が消化を助けてくれるような爽やかな感じがあって、それだから笑いの種というのもあったが――存外そのジュースが一番になくなり、それもなんと「追加製造」までされたのである。
あとちなみにだが、そのジュースの味に一番驚かなかったのはじいやだった。
「はいはいウエ様、お肉ばかりではなく、お野菜も食べなければ大きくなれませんぞぉ〜〜」
とか言いながら僕の紙皿に、銀のトングでピーマンやトマトやタロイモなんかを山盛りにのっけてゆくさなか、そのジュースをぐいーーっと。
「ぷはぁ、…いやあ〜これ、まっこと美味しいですなぁ〜!」
「……、…、…」
へえぇえ……? どうやら…彼にとっては「美味しい」らしいのだ……。
牛だと味覚が違うものなんだろうか…? とかなんとか思いつつ、僕は箸 を使い、じいやのお皿にそお…っとピーマンを移動させていた。
「はっはっは、こらこら、なりません。…なぁにをなさるのか…」
……す ぐ に 帰 っ て き た が。
「はいはいはい! じゃあ俺が代わりに食べます!」
するとハルヒさんが元気よく挙手し、じいやに自分のお皿を差し出す。…チラッと僕を見て、『俺カッコいい? イケてる? 俺の気づかい嬉しい?』とキリッ、…(幻覚だが)犬のしっぽをブンブン振りながら。
が、ボソリと祖父がこう言う。
「お前さんが食ってもウエの身にはならんよ」
「…ガッハッハッ! いかにも! いっくら一心同体の双子っつったってのお〜、そらそうじゃよ。…はいはい、いい子でお野菜も食べなさい。これだって美味しいんだぞぉ?」
しかもロクライさんにまで野菜を追加される始末である。…いや、あちこちから野菜が、…母からコトノハさんから、…
「…い、いやほら、じいや焼いてくれてるばっかで、全然食べてないなぁって…お、ぉ…――そ、そんなに食べられな……も、もうやめてええ……っ!」
僕は結局、そうして野菜もたくさん食べることになってしまったのだった。――
まあそんな感じで話は尽きることなく、僕たちは楽しいバーベキューの昼食を終え…――そして、
海といえばやっぱり……。
スイカ割り!
と…いうことで、食後のデザートも兼ね――僕とハルヒさん、祖父とロクライさんとじいやで、浜辺でスイカ割りをすることになった。
……ちなみに母は日焼けするのを嫌がったので、「ママ日焼けしちゃうから、テラス から見ているわね」と言い、するとコトノハさんも「(妻をひとりにしてはおけないから)じゃあ私も彼女とここにいるよ」と――そうしてそのふたりはテラス、というよりか、それの近くのパラソル下の席から僕たちを見守っていた。
それで…――。
日差しの照りつけるベージュの砂の上、ドンと置かれた丸いスイカ…――順番はじゃんけんの結果、僕が一番手となった。
ために僕は、そのスイカから二メートルほど離れた場所で目隠しをし、両手で木の棒を握って、スイカ割りに挑んだのだ。
すると…なるほど…――。
「……、…」
目隠しをするとやたら感覚が研ぎ澄まされる。
何かこう、「勘」のようなものが蘇 ってくるような…――…ざあ…ざざあ…と波の音…――遠くでかもめか何かがギャアギャアと騒いでいる…――スイカまでの距離は二メートル、少し離れたところに立っているじいや、ロクライさん、ハルヒさん、祖父、…そのひとらの距離感まで頭に鮮明に思い浮かんでくる。
いや、かえってそのひとたちの存在が、スイカまでの道のりを確かにしてくれているようだった。
この距離にじいやがいて、ロクライさんがここ…祖父がその隣、そしてハルヒさんはここ…――スイカには当然気配はないが、彼らにはそれがある。
すると記憶している位置関係から、スイカの位置もわかる。
…僕は走り出した――そして…――こ こ だ。
「……はあ…――っ!」
バキャッ…――その破裂音もさることながら、僕が飛び上がりながら思いっきり振り下ろした木の棒に、たしかな手ごたえを感じた。
「うわっ…おお〜〜! ハヅキすご〜〜いっ!」
「お見事! いやぁ何という鮮やかな、」
「…おおああ! おっどろいたのぉ〜〜、さあっすがワシの孫じゃあ!」
「おお、すごいすごい…。…いやしかし、スイカ割りごときでそう殺気を出さんでもよかろうにね……」
……僕は目隠しを上にずらしながら、褒められすぎて照れくさくなり、「へへ…」と笑った。
するとまずスイカが見えた。うわ…しっかりと割れている。スイカが。それも破裂の程度が激しく、粉々一歩手前というかんじで、真っ赤な果肉がぐちゃぐちゃになるくらい…――我ながらすごい、かも…しれないが、…
「なにウエ、お前さん…ちょっと思い出していないかね、ウワハルの戦闘の勘のようなもんを…――剣捌 きがまさにウエのそれだったよ…。」と祖父が感心した顔で言うように、
「…はは…、……」
剣さばき、か……それはちょっとやりすぎかもしれない(一発で割れたのは嬉しいが、これはいささか割れすぎであるし、…何よりこれでは、もっと右、そっちじゃないよ、というようなスイカ割りのワイワイとした雰囲気、その醍醐 味 のようなものを一蹴してしまったような気も…)。
僕はうなじを押さえて苦笑する。
「なんかごめん……」
「…まあまあ、それはそれとして。…さあ、向こうで食べ…」と祖父がやさしげにほほ笑んだ、そのときだった。
ゴロゴロゴロ…――どぉぉ……ん……。
「……、…」
みんなが一斉に海のほうへ振り返る。
……まだこちら側は晴れているが、遠くのほうに大きな暗雲が立ちこめている。…今の遠雷は、その雲あたりでのことだろう。
「…ぅえぇ…、五月のハワイに雷雲…?」
とハルヒさんがぼんやりとつぶやいた。
すると祖父がこう返す。
「いやいや、ハワイでもこんなのは珍しいことじゃあないよ。にわか雨が降ることもよくあるさね」
「ほぇえ……え、ぁでも、…もしかしてさぁ〜〜」
ハルヒさんがいたずらっ子の顔をして、ロクライさんに目を細める。
「タケじいがやってんじゃないのぉ…?」
「ああっ? ちがわいっ…ワシゃあそんな不粋 なことせんわ、なぁにを…」
とロクライさんは心外そうにムッとするが、ハルヒさんはニヤニヤとしながらこうさえぎる。
「え〜〜でもぉ、雷って言ったらぁ…やっぱり? 建御雷神 がぁ〜〜……?」
「はっはっはっ…、大旦那様、見損ないましたぞぉ。」
「ちっちがっ…違うわっ! ワシじゃあない!」
「…ははは…、…あっ僕、雨降るかもしれないって、ママたちに言ってくるね。……――。」
で…――。
僕がテラスのパラソルの下、そのテーブルについて僕たちを見守っていた母とコトノハさんのほうへ歩いて行ったら…――コトノハさんは血だまりのなかでうつ伏せに倒れ、…そのひとを背後にした母が僕に駆け寄ってきて、…抱きついてきたのだ。半泣きで。
「……? どうしたの、ほんと…?」
僕はとりあえず――スイカの果汁で――赤く染まった木の棒を浜辺の砂に突き立て、僕の胸板のうえでひくひくと泣いている母を抱きしめる。
……みんなもどうしたどうした、と駆け寄ってくる。が、
「うっうっ……」
と母は泣いてばかりである。
「……、…」
て、…いうか…――コトノハさんも、どうしたの…? いや、何ならコ ト ノ ハ さ ん が 一 番 ど う し た の …? まさか死、…いやいや…そもそも彼は神なのだから、まあ死にはしないことだろうが……。
「…ママ…? あの、コトノハさん大丈夫なの、あれ……」
一見殺人現場みたいになってんだけど……。
「…ジュースをひっくり返しただけですわ…」
と母が僕の胸元でしゃくり上げながら答える。が、
「いや…」
まあ血だまりっぽいのが「(ハルヒさん特製)真っ赤なクエン酸ジュース」なのはわかった…――血ではないのはよかった。が、…だ け …ということもないような……?
「倒れ…てるけど、だって…」
今じいやに助けおこされているが。…ていうかすごい、魂が抜けたみたいな虚 ろな顔してるじゃんコトノハさん…――顔真っ赤なジュースでびっちゃびちゃだけど…――どうも失意に呑まれてないかあれ……。
「ジュースで足を滑 らせて勝手に倒れただけです……」
「…ああ…なるほど…、……」
いやだから、だ け 、じゃ…というかなるほどっていうかまあ…とにかく、お気の毒に……。
……で、僕はこのやたらコトノハさんに冷たい母の態度に察するところがあり…――というか僕も含め、多分みんなもうそれ以前の段階で察してはいただろうが…――、…母にやさしくこう尋ねる。
「ところで…もしかしてママ、コトノハさんと喧嘩でもしt…」
「だって!」
と母が声を張り上げる。
……だって、ということは…さっきまであんなにラブラブだったのに、やっぱり喧嘩したらしい。
「な…なんで……?」
僕は困惑はしつつも喧嘩の理由を尋ねたのだが、
「もう無理、…」
と母がそう言うと、ゴロゴロゴロ……と遠くで雷がとどろき…――。
「もおぉー離婚よお゛ぉ…――っ!」
ドオォ……ン…――っ!
「……へ…っ!?」
やっぱりママの怒りが雷を、…じゃなくて、
ちょっ…――あ、明日結婚式なのに……っ!?
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