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137 ※微
――さて僕は今、自分たちにあてがわれたこの優麗 なロココ調の部屋の、両開きのガラス戸近くに置かれているクイーンサイズのベッドに腰かけ、そこからそのガラス戸の外、白い手すりのバルコニーで今もなお降りつづいているその豪雨をぼんやりと眺めている。
ちなみにこの部屋は先にも思うとおり、まるで王族の寝室かのような――女性なんかはお姫さま気分になれて喜ぶだろうな、という感じの――全体が華美なロココ調の装いであった。
そして見たところ広さは十畳ないくらいではあるが、もっともそれは――この部屋におかれている比較的大柄な家具をひき算していない――僕の体感による推測であり、いうまでもなく正確な面積の数値ではない。
この部屋の基本の色調はミルク色と水色である。
床はこげ茶色のフローリング、壁紙の色は海のような水色で、またこの壁紙にはベビーピンクと緑の小花が散らされており、さらには等間隔に金押しの縦のボーダーラインが入っている。
そして出入り口のドアから対面には――今もってやまない雨の降りしきっているのが見える――白い窓枠の、アーチ状の両開きのガラス戸があり、またそのガラス戸を出たさきには、白い手すりが白い半円の床をかこうバルコニーがある。…なおそのバルコニーはプライベートビーチに面しており、どうもそこからはあの青い美しい海を一望できるようであった。
さらにそのガラス戸から一メートルよりもう少しあけたところに、今僕が腰かけているクイーンサイズのベッドがある。――そのベッドはなんと天蓋 つきである。
そしてその天蓋は、ベッドの四角 にミルク色に金の装飾のついた柱を立てているので、クリーム色のシルクのカーテンをふくめれば、一見箱状とも思わせるようなものである――なお壁に沿わされた象牙の色とつやをもつベッドヘッドは、金の装飾に縁どられているばかりに繊麗 な山型をしており、さらにはその山型をうち側でふちどる白いシルクのクッション地が、同色のボタンで打ちつけられた華美なデザインとなっている――。
ちなみにそのベッド、壁に面したベッドヘッド以外の三側面がひらひらとした白いつやのあるシルクのフリルで飾られている。一枚のおおきなかけ布団は青空色で、こちらもシルク素材である。またシルクのクリーム色のまくらも二つあり、それもやはりひらひらとしたフリルがふちについている。
……と、そんな感じでこの部屋にあるクローゼット、ベッドサイドテーブル、その上のベッドサイドランプ、それからローテーブルにソファに…――それら家具のすべてが、そのベッドとセットのミルク色、かつ金のロココ調の華美な装飾、そしてソファなど布地のあるものには更にひらひらのフリルの装飾がされているのだった。
それこそヨーロッパの王族の寝室、というような装いの部屋であり、…それだから僕は『女性なんかはお姫さま気分になれるのだろうな』との第一印象をいだいたのであった。
まあハルヒさんの言うとおり、たしかに素敵な部屋…ではあるが、僕がこの部屋に入ってすぐいささかの場違い感をおぼえたのもまた事実である。――それは照れくさいというのもあれど、何というか…――こうした耽美な様相の部屋で、僕のような三十路の陰キャオタクは一体どうして過ごせばよいのやら、それが全く判断がつかない、というそうした困惑でもあった。
しかしまあ、それだって旅行の醍醐味の一つではあるのだろう。――こうした少しばかり刺激的な、そしてだからこそ新鮮な、それこそ自分なら絶対自宅の寝室をこのような内装にはしないだろうな、なんて感じの部屋に泊まるというのも、旅行の楽しみのうちのひとつに違いない。…ただ…少なくとも今はまだ落ちつかない感じではある、が。
とはいえ…――今はそんな些末な問題など、僕は気にしてもいられなかった。
ザアアアア……ガラス戸の外、昼間だというのに雨雲のせいで薄暗くなったバルコニーに今もなお降りつづくその豪雨は、激しさのあまりそこの白い床付近を煙 らせている。――ときどきゴロロ……ドォー…ン、と雷鳴までとどろく。
「……、…」
僕はベッドに腰かけている太もものそば、そのベッドのふちを両手でつかんで、ぼんやりとその激しい雨を眺めていた。
「……、ね、ハヅキ……?」
とここでハルヒさんが、僕のことを後ろからそっと抱きしめてくる。――彼は荷物の片づけが終わったあと、このベッドの上(僕の背後)に寝ころび、なにか自分のスマホを見ていた。なお僕は彼にもそうした(ある意味ではひとりの)時間も必要だろうと、あえて話しかけたりせずそっとしておいたのである。
ハルヒさんは僕の耳元でこう心配げに言う。
「君の気持ちはわかるけど…、俺たちがどんだけ考えても、しょうがないというか…、ぶっちゃけ、それで解決するわけじゃないかもなーって…俺はおもうの…――結局…あとはパパとママがどうするか、でしかないからさぁ……」
「……そう…ですよね…、……」
……僕は目を伏せた。
僕は今の今まで、母とコトノハさんの喧嘩をうけ、どうしたものかと窓外の雨景色を眺めながら考えていたのだった。
しかしどうにか解決案を考え出そうとしているというのに、僕の頭の中は、…今後はどうなってしまうのだろう、だとか、せっかくママもやっと女性としての幸せを得られると思ったのに、だとか、あんなに結婚式を楽しみにしていたのに、これじゃあママがあんまりにも可哀想だ、とか…――だがコトノハさんだって可哀想で、彼は決して母のことを傷つけようとしたわけではないというのに、むしろ愛する母の身を案じ、ただ母に愛を伝えようとしただけだったというのに、ちょっとした言葉の行き違いでこんな喧嘩になってしまって、きっと彼も今かなり悲しいだろうな、つらいだろうな、だとか…――せっかく家族になれたのに…、大好きなふたりが喧嘩…僕も胸が張り裂けそうだ…――叶うなら別れてほしくないな、…だなんて……。
僕の同情や不安や――ともすれば自分勝手な――願望や、…そうした次々と降りかかってくる感情ばかりが、論理的な解決案を導きだそうとする僕の理性を、まるで外の煙雨 のように曇らせて、僕の思考の主導権を奪ってしまってばかりいたのだ。
しかしハルヒさんのみならず、じいやにも似たようなことを言われたが、…その通り…この件で思い悩むべきは――解決案を探るべきなのは――結局のところ、きっと僕ではないのである。
これはどうしたって当事者の母とコトノハさんが解決しなければならないことで、…もしかするとこうした夫婦喧嘩においては、そのふたりにしか解決策はわからないものなのかもしれない。
「ね…ハヅキ、覚えてる…?」
とハルヒさんは僕の耳に優しくささやいてくる。
「……?」
僕はふと横目に彼の顔を見た。
彼は優しくほほ笑んでいる…が――する…と後ろから、僕の胸を撫でまわしてくる。ので…察する。
「……ん、♡ ぁ…あの、――それ〝神の記憶〟にかかわること、なんですね、…要するに……」
ハルヒさんが「覚えてる?」とたしかめながら唐突に僕に愛撫をほどこしてきた、それすなわち、その愛撫こそ、彼が今僕に思い出させたい「神の記憶」の「鍵」だからである。
「うんうん…、ぁでも、あんまりハヅキが可愛すぎたら俺、たぶん我慢できないけどぉ……」
なんて彼はもうすでに色っぽい目をして微笑するが、…僕は「駄目ですよ…」と目を伏せながらうつむく。
「ママたちが喧嘩しているのに…僕らだけ、なんて…――僕、今はとてもそんな気分にはなれない…。」
もちろん誰に咎 められているわけでもない――ましてやあのふたりだって、今自分たちが喧嘩しているからといって、僕らのそれを咎めるとも思えない――が、…それにしたって今つらい思いをかかえている彼らを尻目に自分たちだけ幸せなその行為をする、だなどというのは、どうしても良心の呵責 を感じてはばかられる。
しかしハルヒさんはのんきな声でこう言うのだ。
「……ふ、だいじょうぶだよぉ…? 別にこれがあのふたりの初めての夫婦喧嘩だとか、離婚の危機だなんてわけでもないんだし…。こんなの何百回もあのふたりは乗り越えてきてるんだよ…? それにね…――今は気持ちいいことだけに集中して…? 今俺が君に思い出してほしいの、もしかしたら解決のヒントになるかもな〝記憶〟なの……」
……そしてハルヒさんはそう言いざま、後ろから僕の水色のアロハシャツのボタンをぽちぽちと開けてゆく。
「……、…」
まあ、それなら…――なんてうつむいたままの僕のたがが緩んだ刹那、ハルヒさんの熱くぬるついた舌がぺろっと僕の耳を舐めてきた。
「っひゃ、?♡ あっは、ハルヒさん、み、耳…っ――耳は駄目って、僕、いつも、…」
と僕は腰をビクッと跳ねさせつつも、ちょっとムッとしながら顔をそむける。
駄目だと数日前からくりかえし言っているのに、…最近僕、耳…何かおかしいというか、…すごく…――。
そうなのだ…最近僕…どうもおかしいのである。
というか、僕 の 体 が 少々おかしいというべきか。
……というのも…この頃の僕の体は、やたら感 じ や す く な っ て きているのである。
それもこの一週間たらずの短期間で(そりゃあ困惑もするだろう)……いや、そもそも僕は(ハルヒさんいわく)生来敏感体質なほうではあったらしいのだが、この頃はそのいささか困った「モロ感体質」に磨きがかかってきているというか…――それこそ耳をちょっと揉まれたりするだけで、頭がとろーんとしてきてしまうし…――今のように舐められたなら、たとえそれが「ペロッ」という感じの、ほんのちょっとのことであろうと、僕の腰はビクッと跳ねてしまう。
また僕がいまだ忘れられない恥ずかしい記憶が……ハルヒさんに「可愛いハヅキ…」だの「綺麗だよ…」だの、また「愛してるよ」だとか「大好き…」だとかと甘ったるく囁かれながら、ひたすら耳を愛撫され、くちゅくちゅとなめ続けられたときなんか、ただそれだけのことで僕の体は完全に…――。
『ぁ…♡ ぁ、だめ…だめはるひさ…♡ ぁ…――♡♡』
……子宮に巻きついていた幾重もの快感の糸が、プツ、と切れ、解放…――じわーっと骨盤内に放出されてゆく絶頂の快感に体をわななかせながら、僕は『もういや、ぁ……♡』
『………っは…♡ も、もぅや…♡ 耳、もういや……、はるひ、さん……♡』
まさか耳だけでイッてしまう、…だなんて……。
『あれ…? ふふ…ハヅキ、イッちゃったんでしょ…――俺お耳いじめてただけなのにー……♡ 綺麗なお顔もこんなとろっとろにしちゃって…、ほんとかわいい、ハヅキ…♡』
……『ここも…お耳だけでこーんなぐちょぐちょにしちゃったの……?』くちゅくちゅと自分の膣口から鳴っていたあの音が――あの恥ずかしすぎる記憶が今でも忘れられない僕は、それからハルヒさんからの耳への愛撫をちょっと嫌がるようになったのだった。
「んーー…?」――しかしどこ吹く風、ハルヒさんは後ろから僕のお腹をぎゅうっと抱きしめ、僕の背中を包みこむように密着しながら、僕の耳もとでそう少し不満げな態度をとるだけである。
いやそればかりか、せっかく顔をそむけて距離をとったというのに、彼は僕の耳もとにわざわざ唇を寄せてこう囁いてくる。
「そいえば…――最近ハヅキ、自分がすっごい色っぽくなってきてんの…知ってる…?」
「……へ……?」
それは…知らない、というか…――知っているはずもない、というか……?
「俺と毎日えっちしてるからかなぁ…?」とハルヒさんが、僕の耳に唇をあえてくっつけて囁いてくる。
「……ん、♡ ……、…、…」
僕はそのこそばゆい快感にぞくぞく…としながら、首をそらせたままうつむき、そっと目をつむる。
「ほら、その表情もすごい色っぽい…」
ハルヒさんはそう柔らかく笑いながら、ボタンをすべて外されて開かれたシャツのその下、僕の生のお腹を撫でまわしてくる…――と、ぴく、ぴく、とそこが反応してしまう。
「なんか最近のハヅキ、ほんと色気がすごいの…。…なんか余計綺麗になったっていうか…、俺のおかげでもっと綺麗になってく、っていうか…? ふふふ…――肌もつやつやになって…、最近は唇もずっと濃いめのピンクだし…――目を伏せてたりすると…、儚げなのに、すんごい色っぽい…。…ほんと、毎日愛しくてめちゃくちゃにしたくなっちゃう……」
「……っ!♡」
僕はビクンッと上体を跳ねさせた。それは、彼の両手のひらが僕のおへそあたりからすー…と上へ、そのままツンと凝結した乳首ごと、僕の両胸を撫でまわしはじめたからである。
「…ふふ…、ハヅキの乳首、可愛くぷっくりしてる……」
ただ僕の乳首が勃っていることに気がついたハルヒさんは、指先でゆっ…くり、縮こまった僕の乳輪を両方じらすように円くなぞってくる。――それだけで僕は目をつむったまま眉を寄せながら、もじ…と両膝のうち側をこすり合わてしまう。
「……ぅ…♡ ふ…♡ ……、…」
……いや…それこそこのごろ日に三度もハルヒさんに抱かれているせい、だろうか…――そもそもいやに敏感になってきたのは耳のみならず、…そもそも全身のどこであっても、彼の手指やはたまた唇、舌が軽く触れるだけで、僕の体はそのあわい快感にさえぴくんっぴくんっと敏感に反応してしまうばかりか、期待しているのもあってか、じわ…とすぐさま奥のほうから濡れて、本当にすぐ愛液が外まであふれ出てきてしまうのだ。
ただそのぴくんっというのが特に、どうも大げさな反応であるような感があって――もちろんわざとじゃないし、またハルヒさんにそれが僕の演技だと思われている節があるわけでもないのだが…――自分では、あまりにも恥ずかしくてたまらなくなってしまう。
が…さらに肌でもこと敏感な場所、たとえば内ももや首すじなどにちょんとでも触れられると、酷ければ僕の体はそれだけでビクンッと大きく跳ね…――「んっ…♡」なんて声をもらしながら、ぐっと腰を反らせてしまうときさえしばしばある。
というか、もはや最近はキスをされるだけでももう…――嬉しいことに、ハルヒさんは僕とキスするのを好んでくれていて…――彼はいつもえっちの始めに、大概僕の唇にキスをしてくるのだが……こうして、
「……ん…♡ ……んん…♡」
……彼のほうに顔を横向けた僕の唇を、こうしてはむ…はむとされるだけでももう、僕のなかはいつもとろとろに…――いや、頭も…――現にもう僕の膣口はすでにぬるついているくらいなのだ。
だが……は…と顎を引いて唇を離し、僕はとろんとゆるまった半目開きでハルヒさんの欲情した目を見つめる。
「あの…でも…今は、最後までは…ん…♡ う…♡」
最後までは、ちょっと困る…――ママたちのことがやはりどうしても気がかりなのだ…――と言いたかった僕の唇に絡みついてきた彼の唇はなめらかに動き、…その快感に僕の全身の肌がぞくぞくぞく…と粟立つ。…僕…のんき、だな……。
するとハルヒさんは唇同士が若干触れたまま、
「…だいじょうぶだってば…、ね、今はふたりのためにもきもちよくなろ……?」といたずらな笑みを含ませてささやきかけてくる。
「…いやでも…、何だか悪い気が…ぁ、♡」
ここでにわかに、ツンと立ちあがった乳頭の先を両方、指先ですりすりと高速でこすられ、僕は眉をひそめた。
「はるひさ…っ♡ ぁ…っ♡ ん、♡ …〜〜っ♡♡」
……最近こうして乳首に触れられると、そこの快感が紐づけられている僕の子宮は、きゅーーっと全体が縮まるような甲高い快感を生じさせ…――やはりひどければ僕は、乳首だけでイッてしまうようなこともある。
「あは…♡ かわいーハヅキ…――お耳もいじめちゃおっと…、……」
「ひぅ…っ?♡ くッぅぅ、♡ 〜〜〜っ!♡♡」
それもこうして、耳の穴をぐちゅぐちゅと舌先でほじくられながら、乳首をぴんぴんとはじかれたり、先端をカリカリとつめ先で引っかかれたりすると、――僕は、
「ぁイッ………――ッ♡♡♡」
……近ごろの僕は、こうしてすぐイッてしまう。
本当に…我ながら、僕の体はどうかしている…――もはやおかしくなっている、としか言えない。
「ん、…は…♡ は、♡ …ぁぁ…♡ ぁうぅ……♡」
今うなだれている僕のビクンビクンとしていた体は、一番猛烈な快感が全身にかけ巡るそのときを過ぎてもなおわなないている。が…――その体をぎゅうっと包み込まれるようにハルヒさんに抱きしめられると、いつも、…もう……。
「はは…ハヅキ、もうイッちゃったね…。なんか最近イくの早くない……? ほんとかわい〜〜…♡」
「はぁ……♡ はぁ……♡ …んぅ……♡」
しあわせ、で…――溶けて、しまいそうに…なる……。
「綺麗……――ね…、覚えてる…?」
とハルヒさんはぽーっとしている僕の耳にささやきかけてくる。
「伊弉諾 の大お父様と伊弉冉 の大お母様の大喧嘩…、それと――」
「…は、……――。」
僕はそっと目をつむる。
「――復縁の、話……。」
……覚えて…――、
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