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141 ※微

 母上は自己価値――こと女性としての自己価値――を、この地上における価値観に合わせてしまったばかりに、見誤ってしまっている。  しかし父上が例の「愛の本音」をさえ母上に伝えられれば、たちまちこの夫婦喧嘩は円満解決、それも大団円のときを迎えることだろうが、そればかりか――あるいはそれによって、彼女の誇りも回復するのではないか? 「……、…」  まあ…つまるところが、結局(やはり)母上のその「心の痼」を取り去れるのも父上、(誤解をまねいたのも父上なら、その)誤解をとけるのも父上、この夫婦喧嘩を大団円の結果に導けるのも父上…と――改めて思うに、なるほど僕らの出る幕などそうそうない。  とすると僕らにできることというのは、やはりせいぜい父上にそうしてみたらどうか、と助言するくらいのことではあるが――といってそれくらいの助言、わざわざ僕らがせずとも、今父上のそばにいるのであろう祖父たちがすでにしているに決まっている。  それなら僕ら息子たちは、彼ら夫妻ならば絶対にまた大丈夫であろうと、愛をもって楽観しておく――。  それこそは愛する自分らの父母への、そしてうまいことその夫妻の仲を取り持ってくれるだろう祖父たち、ひょっとするとそれはじいやもか――すなわちそれこそは、自分たちの愛する家族への、何よりの「信頼の証」なのである。  ――が、 「じゃ…、ウエの結論も出たみたいだし……」 「……や、…ぁ…――っ♡」  ……僕の首の前面(喉)を、するりと片手で撫でながら顎を上げさせたシタハルの唇が、僕のうなじにちゅっと吸いついてくる。――すっかり()()()の存在を忘れかけていた僕だが、そうだった…――こいつは今、ベッドのふちに腰かけている僕を後ろから抱きかかえているばかりか、先ほど(「記憶」を思い出す前)「する気まんまん」で僕の水色のアロハシャツのボタンを全て外したのだった。 「えっちしよっか、ウエ……♡」 「っ昼間っから(さか)るなッ、この変tァあぁ……っ♡」  …ぼ、僕としたことが、「変態」と罵ってやっているさなかに、ひどくみっともない声をあげてしまった……。  耳の穴をぐちゅぐちゅと舐めほじられたせいである。  シタハルが僕の耳もとでこうからかってくる。 「は…、…ふふ、随分かわいー声出しちゃって…?」 「……、…、…」  僕はあまりの恥ずかしさに赤面しながら深くうなだれた。が…弟の両手が、僕の上半身の肌にかすめるような加減で這いまつわってくる。 「……ん……♡ ……ッ♡」  すると皮膚の下からその表皮ににじむようなぞくぞくとした快感のさざなみがうまれ、そしてそれは僕の頭をみるみると(にぶ)くしてゆく…――またこらえてもこらえても、ときどきピクンッと皮膚の下、触れられているところの筋肉が跳ねて、するとつられて上半身がそのとおり揺れてしまう。 「……ッ♡ ぅ…♡ や、やめろシタ、…夜ならまだしものこと…、こんな、明るいうちから…ぁ…ッ♡」  今度は乳頭を両方きゅっとつままれただけで、またビクンッと腰が大きく跳ねてしまった、… 「…〜〜〜っ」  恥ずかしい…――なんて感じやすい淫らな体にされてしまったことだろう、――今にもシタハルを睨みつけてやりたいところだ…が、…  しかしそうは言えども、事実感じてしまっているこの顔を弟に見られたら…――と僕はシタハルから顔をそむける。が、するとそのがら空きになった敏感な首筋を、弟のぬるりとした熱い舌にぺろー…と何度もゆっくりなめ上げられる。  それだけでぞくぞくとしてしまうばかりか、ビクッ…ビクッと僕の体が――彼の両手に今もなおやさしく撫でられてつづけている体が――大げさなほど跳ねてしまう。 「んっ…♡ ぅ、♡ …っうぅ、♡ …シタ……だ、だめ、…っだったら……」  僕はせめても弟の手の甲を両方つかみ、そうして自分の上体の肌を愛撫するのをやめさせた。  するとシタハルは僕の耳に、こう妖しい低い吐息でささやいてくる。 「どうして…? 気持ちいいんでしょ……?」 「…だって……だめ…」  僕は弟から顔をそむけたまま顎を引き、膝の側面をすり合わせながら、目をつむる。  どうして…――どうしてって、 「濡れ、…ちゃう、から…――そんなこと、…されたら……」 「…ふっ…」  シタハルが僕の耳もとで笑う。 「何言ってんのもう、可愛いなぁ……いやそうだよ? それならむしろ願ったり叶ったり。だってウエを抱きたいから、俺はこうやって愛撫して、君の心と体をとろとろに濡らそうとしてんだもん。――てかさぁ…逆にそういうこと言われると俺、もっとそそられちゃうんだけど……」 「……、…、…」  僕の羞恥に震えている唇は半開きであったが、ここできゅっとむすばれる。――今指摘されて気が付かされたが、…いや、決して僕はそんなつもりで言ったわけではない、……雨ふりとはいえこの真っ昼間に、僕まで淫乱のように「したく」なってしまっては目も当てられない(ましてや楽観しようと決めたとはいえ、そうすぐに切り替えられるはずもない。いささかこの弟ののん気にいまだ呆れているというのに、「濡れて」しまっては結果としてこのバカと同じ穴の(むじな)になってしまう、それは嫌だ)、と言いたかったのだ――が、…そもそも「したい」弟にとっては、僕を「したく」させたいわけであり、となればたしかにあれではこのシタハルの思うつぼだった。 「はは、まあそれもあるけどさぁ…、ほんとわかってないなぁーウエは…――俺の愛撫に気持ちよくなって〝濡れちゃう…♡〟とか、それ普通に男に対する誘い文句だからね。あと〝だめ…♡〟も逆効果。」 「…は、? ち、違う…! っ僕は、」 「ていうかウエ、〝濡れちゃう〟とか言ってるけどさ…――どうせもう……」  シタハルはそう僕の耳にささやきながら、僕の白いハーフパンツのなか――どころか――下着のなかへまで片手を差し込んでくる、…が、僕は「嫌…っ」とやや遅れてその手を布の上から掴んで止める。 「嫌だっ、夫とはいえ気安く触るな、」  が、… 「やぁ、♡ ぁ、♡ や、♡ やめ…っん、♡」 「ほら、自分でも聞こえるでしょ…?」  くちくちくちくちくち、――シタハルの指先がわざと濡れているそこを素早く引っかくようにこすってくる。 「なんでそういつまでも素直じゃないかなぁー。…こんなとろっとろに濡らしておいて……」 「やっ…はァ…ッん、♡ ち、ちが…っ違う、ぅ……っ♡」 「いや違くないってば…ははは、…このくちゅくちゅって、ウエの濡れてるおまんこから鳴ってる音だよ、ねえ……?」 「…ぁ、♡ ぁぅ、♡ ふ…く、ッんん、♡ ち、…〜〜っ違う、! 濡れてなんかない、…」  僕はわかっていて嘘を言った。  しかしシタハルの反応は「ふっ…あっそ」とたったそれだけで――弟は僕の虚勢にも慣れている――、その代わりにわかに、にゅぷぷぷ……と、 「ひ、?♡ あぁ…〜〜っん、♡♡」  指、奥まで挿れちゃだめぇ……!♡♡ 「うわーウエのなか、奥までとろとろだ…。ふふ…――ほらウエ、いつも通り意地張っても、いつも(どー)り自分がつらくなってくだけだよ…――だから早く素直になってさぁ…俺とえっちするって、…僕もシタとえっちしたいって言いなよ…、ほら…?」 「……っ」  僕は眉をひそめながら、自分の肩の上に顔を出しているシタハルをキッと睨みつける。  と…――。 「……、――あ……?」  ハッと――突然ではあるが、 「ハルヒ…さん、――僕、また…ウワハルに……」  ……ウワハルから「ハヅキ」に戻った。  というのも、である。 「……はは…おかえりぃハヅキ…」  とハルヒさんも「ハルヒらしい」――シタハルよりもゆるふわぁ要素マシマシの――やわらかい笑顔をうかべる。――僕は(同一人物である以上、当然顔立ちこそ全く同じでも)シタハルよりもうんと短いハルヒさんのその銀髪を見て、にわかに自分もハヅキであることを自覚したのであった。  ただ、なのである…――。 「あ、あのー…――昼間からはその、僕……」  そのあたりはウワハルと同意見なのである…って、同一人物なのだからそれはあくまでも当然の話だが。 「でも俺たちぃ、朝にも昼にもよくえっちするじゃん…?」――ハルヒさんはそう言いながら、なかにある指をにゅくにゅくと抜き挿ししつつ、僕の片方の乳首の先をすばやくぴんぴんとはじいてくる。 「ぁ、♡ ぁぁ、♡ だめっだめハルヒさ、…ん、♡」 「なにがだめ…?」 「は、♡ だ、だって、…」  家族で旅行中、それも今コトノハさんと母が夫婦喧嘩中――ともなると、たとえ同じ昼間であっても――自宅でえっちをするのと、今この状況でえっちをするのとではあきらかに、ふいにこの部屋へ誰かが来訪するリスク、ひいては「最中を見られる」リスクの高さが段違いである。 「最中に、誰か来たら…」――と僕は、自分の肩の上に顎をおいているハルヒさんへ顔を向けたが、…これがよくなかった。 「困りま…んぅ……♡」  はむ…と唇を食まれてしまった――それもなかから指を抜いた彼に、乳首をどっちもぷにぷにとつままれ、こりこりとすり合わせるように揉まれながら――すると僕は、ほとんど条件反射で目をそっとつむってしまうのである。 「ン…♡ …んんぅ…――♡♡」  それは、まるで「許して」しまったかのように…――。      ◇◇◇  で…――。 「…はぁ……」  もう…頭、まだ…とろとろ…――。  体にも力、はいらない…――僕は今あの天蓋つきクイーンサイズのベッドの上、向かいあうハルヒさんに腕まくらをされながら、身も心もぽーっとした状態で目を伏せている。  ちなみに僕たちは今シルクの空色のかけ布団のなかにおり、さらにいうと、このベッドの天蓋から垂れ下がっているクリーム色のシルクのカーテンは今閉め切られているので、一応外から僕らのすがたは見えないようになっている(「誰か来たら…」と不安がる僕にハルヒさんが配慮してくれた結果である)。  そう…とどのつまりが――()()()()()のだった。  ちなみにハルヒさんは今満足げな、しかしうっとりとしたやさしい眼差しで僕を見つめながら、向かいあう僕の髪を指ですいて撫でてくれている。 「俺…ほんと、俺に抱かれたあとのハヅキの顔めっちゃだい好き〜…、えへへ…♡ ――すごく綺麗…色っぽくて、でもちょっと儚げでぇ…――なんだろ、愛しいっていうのかなぁ……なんか守ってあげたいって思えるの…すごく、強く、無性に…――俺なんか、いつもより男っぽいきもち。今」 「……、…」  いつものようにゆるふわぁな調子の声で、そんな男らしいことを言われたら、…きゅん……♡ ――だが、僕はつとハルヒさんのことを甘い気分もなかばににらむ。――彼はやたら(少し子どもっぽいが)キリッとした顔をしていた、…おそらく彼なりの「キメ顔」をしていたが、僕と目が合うなりきょとんとする。 「…ん?」 「……でも、最後までは…駄目って、僕……」  僕はちょっとムッと唇をとがらせてそう言った。  もう今さら何を言ったってしょうがないことだとわかってはいるが、僕は途中でハルヒさんに『挿れるのは駄目です…』と言った。――万が一誰かがこの部屋に来ても、「挿入状態」でなければまだごまかしようがあるように思えたからだ。  ただその代わり彼にフェラチオをしてあげて、実際それで彼は射精をした(ちなみに僕はもちろんそのまま飲精した。僕らにとっては、精液すなわちお互いの体内に取り込むべき神氣だからである)。――が……気がついたら僕は、ハルヒさんに「抱かれて」いたのである。 「はは…、あれ、覚えてないのぉハヅキー…?」とハルヒさんがニヤリとする。 「でも君が言ったんだよ…? ――〝ハルヒのおちんちん、僕のなかに挿れて〟って……」 「……そ、それは…、…いや、だって……」  僕はムッとしたまま目を伏せる。  ……そりゃあ覚えてはいる、が…――。 〝『はぁ……は、おねが…、はるひのおちんちん、もうなかに挿れてぇ……?♡ ――えっちしたい…♡ はるひとえっちしたい…♡ えっち…したく、なっちゃった…♡』〟  ――そもそも、僕がそう言ったのは……。

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