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 わあ可愛い、精霊さんだ――と僕たちは、十センチたらずのスクナビコナのおじさんを見つけたなり歓声をあげ、ふたり並んでその場にしゃがみこんで、縁側に腰かけたオオクニヌシのおじさんのちょうど片ももの隣あたりに立つ、その小さな男神を無邪気にかがやく眼差しで見下ろした。  それではなぜ僕とシタハルは、(背丈こそそれらしくとも、一般的な精霊のイメージとはどうもかけ離れた、…失礼ながらそれと比べれば、いささか「むさい」感じの中年男性的容姿と酒焼けしたしゃがれ声をもつ)スクナビコナのおじさんを、「精霊さん」だと思いこんでしまったのか?  ……まず(当然だが)スクナビコナのおじさんは、僕たちに「精霊さん」だと勘違いされたことに、顔を真っ赤にして怒り、片手に槍のようにしてもっている和菓子用の竹串の尖端(せんたん)を、僕たちへ突きつけるようにかかげた。 「ふざけんじゃねェぞ小僧共! えェ? オレぁ精霊なんかじゃねェ、このオレこそは国造りの立役者・スクナ…」  ところがおじさんのその話を聞いていなかった僕たちは、ニコニコとした顔を見合わせて、このような会話をしていた。 「母上の言ってたとおり、やっぱり精霊さんってちいっちゃいんだねぇ」とシタハルが言う。 「ねえ。母上の言っていたことはほんとうだったんだね。」と僕も同感してコクコクとうなずく。  ――そうなのである。  僕たちがスクナビコナのおじさんを「精霊さん」だ、と勘違いしてしまった理由(あるいは原因)は、母上が『たとえ些々(ささ)たるものと思えても、たとえば小さなお花や雑草、小石など、小さなすべてのものにも、…そうね…これくらいの』と、ちょうど十センチくらいの幅を人差し指と親指でしめし、 『とっても小さな、可愛い〝精霊さん〟がやどっているものなのですわ。だから踏んづけたり蹴ってしまったり、勝手に引き抜いたりしてはいけませんよ。…ただ…精霊さんはとっても恥ずかしがりやさんでね、普段はそのものの中に隠れてしまっているから、なかなか会うことはできないのだけれど…、会えたら、お友だちになれるかもしれませんわね』と――僕らに話して聞かせてくれたからであった。  そして僕たちは母上にその話を聞いてのちしばらく、たとえば道ばたの小花や石ころに『精霊さん? 出てきてよ、あそぼうよ』とよく話しかけてはいたものの――ちなみにこれは単なる子ども向けのおとぎ話ではなく、本当にそれらに精霊は宿ってはいる(僕らは春の神として花神の務めも果たしているので、そのことをよく知っている)ものの――、恥ずかしがりやの精霊が姿を現してくれることはたったの一度もなく……。  ために僕らはすっかり彼らと会うこと、ひいては一緒に遊べるお友だちになることを諦めていた――その矢先、…そう。  母から聞いていた精霊さんの背丈ちょうどの男神――スクナビコナノミコトを見て(念願かなって初めて出会った)精霊さんだ、との勘違いをしてしまったのだ。が、そればかりか、――僕は弟にこう提案までしたのである。 「あっそうだシタ! せっかく会えたんだもん、精霊さんと絶対お友だちになろうよ!」 「ああ! そうだねぇ、きっとお友だちになれるよぉ」  さて…このようにして僕たちは、悪気なくスクナビコナのおじさんを無視してしまっていたのだが――彼はその小さな背丈のわり、僕らがびっくりしたほどの大きな声で「おいゴラぁ!!」 「よく聞け小僧共ォ!」  とそうガラガラの低い声で言うので、僕たちは「なあに?」とまたおじさんを見下ろした。――スクナビコナのおじさんは、やっぱり怒った顔をして僕らを見上げていた。 「ひでェ勘違いするんじゃねェや! オレは精霊なんかじゃねェ! このオレ様こそは…」 「えーでもぉ、」としかし、シタハルが疑わしげに小首をかしげる。 「うそだよぉだってぇ〜、母上が言ってたんだもーん」  僕も「そうだよ」と彼を精霊さんだと疑わない。 「小さなお花や草や、石っころとかには、ちいっちゃな精霊さんがやどってるんだって。――それでそういう精霊さんたちは、お花を咲かす神の子どもたちで、草を生やす神の子どもたちで、それから岩の……」 「ちげぇやィ!」――しかし僕の言葉のさなかに、短気なスクナビコナのおじさんは睨みをきかせてきた。 「この国造りの立役者・少彦名(スクナビコナ)様を、まぁさかそんっな下っ端・()()の精霊共と一緒にするんじゃあね…」 「うわぁかわいぃ〜、うふふっ…怒っててもちいっちゃあ〜いっ」  しかしシタハルはあめ色のちいさい膝小僧に両ひじをつき、その子どもらしいふくよかな頬を両手でつつんで、(悪気なく)そう思うままの言葉をニコニコと口にした。――するとスクナビコナのおじさんは「アァ?」とガラ悪く顔をしかめ、シタハルに、片手にもつ竹串の鋭利な先をむけた。 「それとこれとは関係ねェだろうがィ! オレぁ笑っても泣いてもこの背丈だ!」  ごもっともである。  ただ弟は道理のわからない子どもゆえに、無邪気にそう思ったというだけのことなのだが。 「ねぇー。かわいいねー、ちいちゃいねぇー」  と僕もまっしろな子どもの膝小僧のうえに両腕をかさね、しげしげとスクナビコナのおじさんを――怒っているその男神を――、ニコニコとながめ下ろしながら同調した。  ……今となっては不思議なのだが、このときの僕たちはたしかに彼のことを「可愛い」と心から思っていた。しかしその理由というのはわりに単純で、子どもの僕らの手のひらの上にも乗るようなほど、おじさんが小さかったためである。 「ゴラ、オメーらみてェな小便くせェ餓鬼に〝可愛い〟だなんぞと言われる筋合いゃねェや! 悪いがこのオレはオメーらよりなんっ千歳も年上の…!」 「んぇ、なんぜんさいってなあに?」シタハルがこてんと首をかしげる。 「んアぁ?」するとスクナビコナのおじさんは竹串をなかば脇にはさむようにして、気むずかしそうに腕を組む。 「チッ…そんなことも知らねェのか、これだから餓鬼ってのはよォ…」  しかしその厳しい態度にも臆するところのない僕は、「ねえ精霊さん」と明るい声で彼に話しかける。と、何だかんだ言ってもおじさんは不機嫌そうながら僕の顔を見上げた。 「僕ウワハル。こっちは弟のシタハル。…みんなにはウエとシタって呼ばれてるの。精霊さんもそう呼んでいいよ。」 「っンだァらオレぁ精霊さんじゃねェ!」  そう……もはや面白いくらいスクナビコナのおじさんは逐一目をかっぴらいて怒り、怒鳴るのである。 「いいかよく聞け小僧共! このオレこそは国造りの立役者・男神少彦名命(スクナビコナノミコト)でィ! 覚えとけ!」 「ふぁーん…精霊さん、スクナビコナっていうんだぁー! よろしくぅ〜!」  精霊さんの名前を知れた――イコールちょっと仲良しになれた――と嬉しく思ったシタハルがそう、パッとそのオレンジの瞳を明るませる。が、おじさんは今度は弟をガンつける。 「おいテメーッ! 餓鬼のクセして年上のオレを気安く呼び捨てになんかすんじゃねェや! せめておじさんくれぇつけろってんだ!」 「「じゃあスクナビコナのおじさん」」――僕とシタハルの声が完全にそろう。 「「(おれ)たちとお友だちになって」」  しかし…「ふんっ」と鼻を鳴らしながら、おじさんはぷいっとそっぽを向いてしまった。 「いーや滅法ゴメンだ、ッどうしてこの少彦名(スクナビコナ)様が、オメーらみてェなチビっころの小僧共と〝オトモダチ〟になんか……」 「えーちびっころは精霊さんでしょお〜〜!」  とシタハルがケラケラ笑いながら言う。  するとスクナビコナのおじさんは「ッるせェ!」と怒号をとばし、またふんっと鼻を鳴らしながら、どすんとあぐらをかく。 「でも」と僕は――この一連の流れを黙って見守っていた――オオクニヌシのおじさんを見上げ、 「大国主(オオクニヌシ)のおじさんとはお友だちなんでしょ?」 「だァらちげェってんだ、オレとコイツは義兄弟だっつの、覚えときやがれ!」スクナビコナのおじさんはそう下から訂正するが。 「……、…」  オオクニヌシのおじさんは優しい目つきでちょっと僕の目を見つめたあと、「なあ少彦名(スクナビコナ)」と呼びかけながら、自分の片ももの隣にいるその男神をおちついた眼差しで見下ろす。 「この子たちはお前が思っている何倍もしつこいんだよ。――はは、なあいいじゃないか、この子たちのお友だちになってやるくらい。…まあまあ、なってやれよ。それこそ今友だちになってやらなきゃ、いよいよ常世(とこよ)の果てまで追い掛けてきて、永遠にだってせがまれてしまうぞ? ――それくらいしつこいんだよウエとシタは。」 「……、…」  するとスクナビコナのおじさんはオオクニヌシのおじさんを見上げ、かなり不服そうに顔をしかめた。ビキビキと口もとが、片眉が痙攣している。  しかし僕たち双子はある意味では(さと)かった。――少なからずオオクニヌシのおじさんを味方につけた感があったので、いよいよスクナビコナのおじさんと「お友だち」になれるもの、…いや、もはや「なれた」ものと思い…――まずはシタハルが浮かれぎみに、オオクニヌシのおじさんを見て、目をキラキラとさせてこう言った。 「おれねー、今ねー、精霊さんのお友だちがちょうどほしかったんだー」 「ははは、そうかそうか。それはよかったねぇ」 「だァら、オイ、やぁ…」  もはや何度否定しても揺るがない僕らの「精霊さん」の認識(加えて子どもの言うことだから、と、それを否定しない義兄弟)に、スクナビコナのおじさんは力が抜けぎみに、しかしそれでも否定しかかったが――そこでも僕は事もなげに、スクナビコナのおじさんを見下ろして、 「ところで、スクナビコナのおじさんはなんの精霊さんなの? お花?」  するとスクナビコナのおじさんは呆れ顔でこう反論した。 「お花だァア? オイふざけんじゃねェ、いい加減にしな、何度言ったらわかんだオメーら、オレぁ精霊なんかじゃ…」  しかし僕とシタハルは同時に(無視して)、 「「ねえ、じゃあちょっと触ってみてもいい?」」と彼に首をかしげる。  ……あるいは触ればわかるかと思ったのだ。たとえば花の精霊ならきっとやわらかな花びらの感触がするだろうし、石の精霊なら硬い石の感触がするものだろう、と――推測の域からは出ない話だが――、僕たちは同時にそう思いついたので、それで触ってもいいかと確かめた。  しかしスクナビコナのおじさんは、「たまったもんじゃねェや!!」と怒鳴りながら、すっくと立ち上がった。そして僕たち(のちょうど中間あたり)を極小の人差し指で()し、 「ン駄目に決まってんだろ馬鹿野郎め! 餓鬼ってのは何だって乱暴に扱うじゃねぇか、これでプチッと潰されでもしたらたまんねぇ、絶対(ぜってェ)ゴメンでィ!」 「ほらおいでよ」としかし(あいかわらず)意に介さない僕は、おじさんの足元に――床に――手の甲をつけ、つまり手のひらを上にして置いた。  が、腕組みをしたおじさんは、ペッと横に(つば)を吐きすててそれを拒否する。 「おいでだァ? ハン、オレ様を犬っころかなんかだとでも思ってやがンのかィ小僧。」 「でも…だっておれたちもうお友だちでしょぉ」とシタハルがきょとんとしながら、兄である僕のフォローをする。 「お友だちにもおいでって言うでしょぉ?」 「…悪いが、オレぁオメーらのオトモダチになんかなった覚えは、わァあァァアあ゛!?」  としかし…突然スクナビコナのおじさんが悲鳴をあげたのは…――、 「お友だちじゃないならつまんじゃお」といたずら心を起こした僕が、おじさんの背負う(彼にしてみれば)大きなひょうたんをちょんとつまみ、彼をもち上げたせいである。  そうしてぷらーんと宙づりにされた彼は、当然手脚をじたばたと暴れさせ、 「ぃやめろォこの悪餓鬼! クソったれが、下ろせ、下ろさねェと酷ェぞ!」 「あ、あ、かわいそう…かわいそうだよぉウエぇ、ほら…苦しんでるよぉ…」  とシタハルが(じたばたと苦しんでいるようにしか見えない)スクナビコナのおじさんの足もとに、お椀型にした両手をかまえる。 「ほら、おいでよ、おいでよ、…おれが助けてあげるよ?」 「…ウエ、それはいけないよ。下ろしてあげなさい。」  しかし、そうオオクニヌシのおじさんにも静かに叱られた僕は、 「……うん、わかった。ごめんね…」  としゅんとして謝りながら、ちょんとシタハルの手のひらの上にスクナビコナのおじさんを下ろした。――「苦しかった? ごめんねぇ」とシタハルが、指先でそっと彼の頭をなでなでする。 「ぃやめろッこの、…これくらい平ちゃらだィ、いいからナデナデなんかするんじゃねエ!」  と、しかしスクナビコナのおじさんは両腕をぶんぶんと振って、弟の指先を払おうとしながら、 「チッ、やりやがったなァテメー!」と僕を睨みつけ、そして目にも止まらぬ速さでビョンッと飛び上がると、 「いてっ…!」  僕の頬に両手両脚でしがみつき、ガブリと噛み付いてきた。  ……ただ痛くはあったが、その痛みはさながら(あり)かなにかに噛まれたかのような、本当にチクッとするくらいの痛みであった。  するとオオクニヌシのおじさんが、あっはっはっは…と大声で笑いだす。 「これはやられたねウエ、…いやぁーなんと懐かしい…――お前、少彦名(スクナビコナ)、出逢ったとき私にもそうしたよな、…お前というのは、そうして頬に噛み付いてきたんだよな。はははは…」 「もうっ…」  僕は仕方なくまたスクナビコナのおじさんの背負う大きなひょうたんをつまみ、なかば無理やりにも引きはがした。 「どうして噛むの。僕、ごめんねって言ったでしょ、…」  するとまたぷらーんとぶら下がるおじさんだが、今度は落ち着いた感じで「ふんっ」と鼻を鳴らすと、腕組みをしてぷいっとそっぽを向いた。 「オメーが悪いんでィ。」 「まあまあ…これでおあいこ。これで仲直りだ。それでいいだろう。……」  そう笑いながら仲裁したオオクニヌシのおじさんが、ずずず…と湯のみからお茶をすする。――僕はちょっと不満ではあった…、それでむすくれてはいたものの……、 「いいよ…、じゃあ仲直りね…」 「へんっ…そう言うんならまず下ろしな。」  しかし顔をそらしたまま、こちらも不服そうなスクナビコナのおじさんであった――が、  ドガ、ズベシャァッ…――!     ◇◇◇ (おととい、昨日更新の鍵・目にも同様の文面を掲載しておりますため、そちらでお読みいただいた方は以下のお知らせは読まなくて大丈夫です!) お久しぶりです…! 皆さま、いつも本当にありがとうございますm(_ _)m さて、Xやブルスカでも「突然引っ越すことになっちゃったので、更新がまばらになるかも〜〜」などと抜かしておりました鹿ですが、思いのほか引っ越してのちにやることが死ぬほどあり、更新がまばらになるどころか、しばらく全く小説が書けねぇ日々がつづいてしまっておりました(白目)。 以前言っていたことと違う感じになってしまい、本当に申し訳ありませんm(_ _;)m 正直引っ越しっつーもんを舐めていました。引っ越しは人生二度目です。学べ。 ほいで、ひとまずはあら方片付き、今日からやっと復帰!という感じなのですが、ちょいちょいまだやることが残っていたりなんだりするので、今度こそ……本当に……多分……更新がまばらになるかも〜〜! でもなるべく(執筆に詰まったりしなければ…)三日ごと更新できる期間もあるはず〜〜! なフェーズに入れたはず! もうこれ以上ふわふわしたこと言うなあ!! すみません……。 ※あとめちゃくちゃ久しぶりに小説書いたせいで、案の定すっかり書き方忘れてました。誰か助けてくれ。 そ、そんなわけで…ひとまずはただいま…! マジですんませんでした…今後ともぜひよろしくお願い申し上げます。 🫎藤月 こじか 春雷🦌

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