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 そうしたわけで…――。  小さい頃の僕とシタハルとは、ふたり揃ってどうしてか(その背丈十センチ未満とはいえ、なかなかの強面(こわもて)・うるさ型・酒豪ゆえのしゃがれ声、と「おっさん三拍子」の揃った)スクナビコナのおじさんを、「精霊さん」であると信じて疑わなかった。  本当に、それは一体どうしてだったのか……。  いや、それこそ「(精霊(よう)に)背丈が小さいから」というだけの理由で、そう決めこんでいた子どもの頃の自分らに対しては、まあ所詮短絡的なところのある子どもであったから…とまだ理解にもおよぶが――ましてやスクナビコナのおじさんもおじさんで、ぎこちなくも精霊のふりをしてくれていたので、子どもの僕らがその真実に気がつけなかったのは、ある種仕方ないことともいえようが…――しかし……、  なんと僕らは、それこそ人間でいうところの十五、六歳とそのくらいの年ごろになるまで、彼が「精霊さん」であるとの思い違いを解かないままであったのである。  ……もっとも、そもそも遠方(常世の国)に住んでいるスクナビコナのおじさんとは、他の大人たちと比べれば会える機会も少ないほうではあり、それこそ一年に四、五回その機会があればよいほうではあったのだが、――それも一つ、僕らのその勘違いが引きつづいた要因とはいえることだろうが、――それにしても、もう少し早くそのことに気がつけていてもおかしくはなかっただろうに……と我ながら、今となれば少々自分らに呆れている。  しかし僕らはあることをきっかけにして、スクナビコナのおじさんが精霊ではなく神である、という真実に直面することとなる。  それは…――人間換算十五、六歳ほどといえる僕とシタハルとが、よく晴れた秋の昼間のあぜ道をだらだらと歩いて散歩していたところ、 「よぉウエシタ、おめさたち、どぉもなぁ」  と…僕らに話しかけてきた神があったので、僕たちは足を止め、声をそろえて「どうも、こんにちは」と挨拶をかえした。  それは、重たそうに(こうべ)をしならせるほどよく(みの)った稲穂が、見渡すかぎり一面に黄金(こがね)色に輝いている田んぼとあぜ道との、ちょうど(さかい)に立っていた「かかし」――まさに神出鬼没のかかしの神・久延毘古(クエビコ)さまであった。  ……クエビコさまは何でも知っているかかしの神であり、そしてその知恵や情報が必要な者の近くに、必要なタイミングでパッとあらわれるのである。  なお、その神はまさに「かかし」のお姿をしている――真っ白な布でできたへのへのもへじの顔、木の一本足に木の棒の両腕を水平に伸ばして、そして、紺の作務衣(さむえ)と頭には竹笠をかぶっている――のだが、…こうして話すときは、ちょっとだけ左右にゆらゆらと揺れる。 「おら、おめさたちに一個言いてぇことがあんだぁ。――実はよぉー…おめさたち、なげぇーことある勘違いをしてんだわ。」 「…? …勘違い…?」――シタハルが僕の顔を見てくる。勘違いって何だろう、というのである。だが僕もわからない。  そうして僕たちが『勘違い?』といぶかしげな顔を見合わせているなか、クエビコさまは「わがんねんだべ? んだんだ、んだからおらがここへ来たんだぁ」と少し笑ってから、こう言った。 「おめさたち、おらが今から言うことを耳かっぽじってよぉ聞け。――少彦名命(スクナビコナノミコト)は精霊じゃね。…神だぁ。」 「……、…、…」 「……、…、…」  ……僕たちは鏡あわせのごとく、顔を見合わせたまま同様に、そして同時にがく然とした。――それから「「神、?」」とやはり同時に、クエビコさまへ顔を向けた。 「んだ。神だぁ。…おら、おめさたちにそれだけ言いにここへ来たんだ。――ほいじゃなウエシタ、元気でなぁ〜〜…、…………」 「えっ…っちょ、……」  とシタハルが言っている間にも、しかしクエビコさまはシュルシュルシュルと背後から、すばやく絡みつく白い煙にたちまち全身をつつみ込まれ――そして数秒でその煙がさあ…と晴れたときにはもう、その神の姿はこつ然となくなっていた。  そこに残るは、ざああ…と吹きぬけた秋風に波打つ、広大な黄金の稲穂の海ばかりであった。  ――もちろん僕たちは、まさかクエビコさまの言ったことが嘘だの冗談だの、そうであるとはちっとも思わなかった。  しかしそれにしても、長年信じて疑わなかったことが揺るがされた以上、大人たちにその真偽をたしかめずにはいられなかった。  母上に、父上に、祖父たちに、近所のおじさん、おばさんたち、…そして、スクナビコナのおじさんの義兄弟・オオクニヌシのおじさんに、――尋ねてみた結果はそう……、  ……まだそんなことを信じていたのか、全くお前たちときたら可愛いなぁ……と、からかうように驚かれ、笑われ、果てには(思春期の僕らにとっては屈辱的な)小さな子ども扱いをうけ…――なんと僕たちがその件を尋ねたその全員が、まるで図り合わせたかのように、そうした感じのほとんど同じリアクションをとった。  正直僕は恥ずかしくてたまらなかった。  どうして言ってくれなかったんだ、と文句を言ってみても、しかし大人たちの誰もが「まさか、まだ気が付いていないだなんて思いもしなかったからだ」と言ったのである。  さすがに大きくなったら、自然に気がつくことだろう、と思っていたと。  本当に恥ずかしかった……。  まあしかし、とまれかくまれ、そう……そうしてやっと、僕たちのその勘違いは解かれたのである。  ところが――。  ……実はその長年の勘違いについて、僕たちがスクナビコナのおじさん当人に直接話を切り出せたのは、実に「婚礼の儀」ののち――その宴の席でのことであった。  というのも、そこに至るまでの僕たちは、自分らでは大人になったつもりであっても、やはりまだまだ子どもであり、――いわば思春期の少年同様に――長年彼を「精霊さん」だと信じて疑わなかった、その子どもっぽい勘違いをいつまでもそれだと気がつけなかった、そのあまりの恥ずかしさに、時たま彼と会えてもなお、まだその件を切り出せるだけの根性も余裕もそなわっていなかったのだ。  それで結局、その節目のときになってやっと…という次第になってしまったのだ、が――。  広々とした宴会場、集まった八百万(やおよろず)の神々がどんちゃん騒ぎの祝杯をあげる、その宴会のさなか――。  取っ手つきの六角形のお(ぼん)に載った、祝いのお神酒(みき)を満たした銚子(ちょうし)と自分らの二つの(さかずき)をたずさえて、この宴に出席してくれた神々の席ひとつひとつにお(しゃく)をしながらの挨拶まわりをしていた、僕たち――白無垢姿の僕と、黒い束帯(簡単にいえば、お内裏(だいり)様のあの衣装)を着たシタハル――は、もちろんスクナビコナのおじさんの席へも挨拶に行った。  ちなみにその日、黒い紋付き(はかま)を着ていた彼は他よりうんと小さな男神であるため、祝いの料理の載せられたお膳の上、彼用の五センチ角のざぶとんの上に片ひざを立てて座っていた。――また同様に盃も彼用に小さく、それこそ僕の小指の先にのるようなそれの最大容量は、せいぜいが酒一滴、二滴ほどと、…そのため、僕たちは神経を研ぎ澄ませて慎重に、かつ極めてゆっくりと、注意しながらお酌をしなければならなかった(なお僕「たち」というのは、この宴におけるお酌が、一つの銚子の取っ手をふたりで持ってするものであったから言うことである)。  さて…スクナビコナのおじさんは、むっつりと不機嫌そうな顔をしてただじっとその様子を眺めていた。が…――やがて自分の小さな盃に酒がぴちょんと満たされると、「うっ…」と顔をしかめ、片腕に目もとを押しつけながらおいおいと男泣きをしはじめた。  そして僕たちはその男神の涙を、自分らの成長とこのハレの日に感激してくれた、最大級の祝いの涙であると捉えたので、「ありがとうございます」と改まってお礼を申しあげながら微笑んだ。  しかしスクナビコナのおじさんいわく、 「何を言いやがる、ッオレのこの目から溢れてンのはただの汗でィ…! 酷ェ勘違いすンじゃねェや、…」  ……とのことである(僕らは何も言っていないが、要は泣いていない、と先んじて主張されたのだ)。  僕とシタハルとは相変わらずだな、といっそ(なご)んで笑い、その顔を見合わせた。  しかし、ここでスクナビコナのおじさんが「オイッ」とぶっきらぼうな声で呼びかけてきたので、僕たちは一斉に彼を見下ろした。  そして僕とシタハルはこのとき、今しがたついふたりでくすっと笑ってしまったことに、また文句でも言われるのかと思っていたのだが――しかし彼はあぐらをかいて両ひざをつかみ、(すご)むようにして僕らの顔を交互に見ながら、こう不機嫌そうな低い声で言った。 「オメーらの盃を寄越せ」  ……なお、僕たちが銚子のほかに自分らの盃をたずさえていたのは、いわば「このため」である。  要は自分たちがお酌をしてもてなすなかでも、相手に「まあまあお前らも一杯」と勧められたなら、その一杯につき合うため――相手からのお酌を受けるのも一つの礼儀であるため――だ。  それだから僕たちはすぐに「はい」と各々の盃――二つとも(うるし)塗りの、僕のものは青に金箔の散った、シタハルのものは赤に銀箔の散ったもの――をその小さな男神の前にさしだした。  するとスクナビコナのおじさんは、その日にも背負っていたあの酒瓢から、僕たちの盃にそれの中の薬酒をたっぷりとそそいでくれた。――それから彼はまたどかっと臙脂(えんじ)色のざぶとんに、荒々しく片ひざを立てて座り、脅すような鋭い目つきで僕らを見上げる。 「…飲め。」とおじさんは顎をしゃくり、怒ったようにこう続ける。 「オメーらもう飲めンだろィ、エェ?」 「……ふ…、はい、有り難く頂戴します。……」  と僕は相変わらず素直ではないおじさんにまた少し笑いながら、両手で丁寧にもちあげた盃に口をつけて傾け、その透明な酒を少しだけ口にふくんだ。  ……ちなみに薬酒とはいえ、それは案外に美味しいものであった。――よく熟成された酒のカドのないおだやかな苦味、さらりとした、しかし濃厚な甘味のうちに、柑橘系のそれに似たさわやかな苦味とほのかな酸味、そして気分の落ちつく漢方薬らしいお香のような渋みのある(かお)り…――子ども舌のシタハルは一口でうえぇ、という渋い顔をして舌を出していたが、一方のわりに酒が好きな僕にとっては、初めて味わった美味しい酒と思われた。 「へぇ…薬という割に、なかなか美味しいんですね」  と僕が見下ろすようにしながらスクナビコナのおじさんにほほ笑みかけると、彼は「ケッ」とつまらなさそうに目を伏せ、こう悪態をつく。 「(かしこ)まりやがって、滅法水臭ェ、…」 「…はは…――しかし…僕たちももう、少彦名(スクナビコナ)のおじさんを〝精霊さん〟だと勘違いするような年齢ではありません。…少彦名(スクナビコナ)のおじさん、その節は大変失礼な……」  僕は正座した太ももの上、両手の指でささえて持っている盃のなかの酒を見下ろすように頭を下げ、無知かつ無垢な子どもの頃のそれとはいえど、その無礼を詫びようとした。…しかしスクナビコナのおじさんは「るせェ!」と、怒声でそれを差し止めた。 「何が大変失礼な、だ、…チクショウ、…」  そしてそう、片腕に目もとを押しつけてまた泣きはじめた彼は、 「言っとくが、オメーらはどんだけ図体がデカくなったって、オレにとっちゃまだまだ餓鬼にゃ違ェねェんだ、――こんなにデカくなりやがって、生意気にも立派になりやがって、クソッタレ、――あんっなちびっころだったオメーらが、今じゃァこのオレの薬酒を飲めるンだもんなァックソ、――コンチキショー…ッ!」 「……えーでもさ、ちびっころはおじさんでしょ?」と空気の読めないシタハルがケロッとそうこぼす。  おじさんは「るせェ!」とやはりそれには怒ったが、…シタハルがさらにきょとんとしながら、 「ていうか俺、大人たちが(うま)い旨いって言うから、酒ってどんだけ旨いもんなのかなーって楽しみにしてたけど、――正直苦いし渋いしピリピリするし、辛いし…まぁ我慢すれば飲めないこともないけどさ…――何ならおじさんとっておきのこの酒も、なんか薬臭くってマズい。」  とこう、無礼も無礼な子どもっぽいセリフを素直に、それこそ子どものように悪びれもせず口にすると…――スクナビコナのおじさんは嬉しそうにブッと吹きだして笑い、泣き笑いをうつむかせたまま腕を組んで、こう本音をこぼしたのだ。 「コンニャロ、ああそうかよ、そうか、ははは、…チッ、本音言えャずっとオメーらの〝精霊さん〟でいたかったぜ、オレぁよォ、――あー寂しくってたまんねェや!」 「……、…」 「……、…」  僕たちはふと驚きまじりの微笑を見合わせた。――スクナビコナのおじさんが「寂しい」と弱音にもちかい本音をもらすのを聞いたのは、僕も弟もこれが初めてのことであった。  それからふたりでまた同時に、うおぉぉ、と豪快に泣いているスクナビコナのおじさんを見下ろし――まずはシタハルが嬉しそうな笑顔でこう言う。 「少彦名(スクナビコナ)のおじさんは、今もこれからもずーっと俺たちの〝お友だち〟――旧友、だろ。…ね、ほんとのことはどうであっても、俺たちにとっては結局、今もまだ…」  そして弟の言葉のその続きは、やはり(我ながら少し馬鹿にしたように)微笑した僕が引き継いだ。 「少彦名(スクナビコナ)のおじさんは、飲んだくれの素直じゃない()()()()()()()。だ…――ふふふ…ねぇ少彦名(スクナビコナ)のおじさん…、これからもずっと変わらず、僕たちとは〝お友だち〟でいてくれる…?」  するとスクナビコナのおじさんは勢い立ち上がり、険しい真っ赤な泣き顔で僕たちを見上げると、こう怒ったように叫んだのであった。 「ったりめぇよ! ――オレの友・天上春命(アメノウワハルノミコト)(アメノ)(シタ)(ハルノ)(ミコト)――たとえどうなろうが、オレとオメーらはいつまでも〝お友だち〟でィ!!」  僕たちは彼を見て、にっこりと笑みをふかめた。  そしてそのあと、僕たちが次に行こうにももうちょっと付き合え、と引きとめ、僕らからの神酒を何杯もおわかりしたスクナビコナのおじさんは、そのほろ酔いのうち――こうした話を聞かせてくれたのだ。  彼は立てた片ひざに伸ばした腕を置き、倒しているほうの膝には盃をもつ手をのせながら、シタハルがあぐらをかいた膝においた片手にもつ、赤い盃――先ほど注がれた薬酒がいまだほとんど手つかずで残っている――を、どこか懐かしそうなまなざしで遠く眺めながら、 「その薬酒はな、このオレにとっちゃァまさに〝友情の象徴〟なんでィ。」  と、その赤くなった強面を多少ゆるめながら話し始めた。 「ソレは、オレと大国主(オオクニヌシ)が天下をまとめ上げる旅の道すがら――道々に見つけた薬草やら温泉やらをあーでもねェこーでもねェと、二柱で試行錯誤しながらやっとこさ完成させたモンでな……」  そして彼は自分の盃からくっとひと口酒をあおると、また遠い目をしてこう続ける。 「…まずオレだけでも大国主(オオクニヌシ)だけでも、そンな最高の薬酒は造り上げられやしなかったこったろうよ…――オイ、友っつーのはな、ウエ、シタ、」 「はい」と僕たちが真剣に話を聞く姿勢をみせると、スクナビコナのおじさんは目を伏せ、嬉しそうな赤ら顔でニヤリとした。 「…よォ、友っつーのは、旅路を共にする連れ合いでィ。――どんな友だって、現実にはどンだけの距離が開いてたって、友が友である限り、魂では一緒の道を歩いて、一緒に旅をしてンだ。」 「旅…」  僕が心に触れたその言葉を口にふくむと、スクナビコナのおじさんは「オゥよ」とたくましい笑顔で僕を見上げた。 「そりゃァ旅は旅。自分にとっちゃァ道(なか)ばでも、友か自分かが目的地に着いちまったら、そこで否応なくキッパリ別れなきゃならんときもある。――だがオレと大国主(オオクニヌシ)のように、行く先で再会することもある。――(そで)触れ合うだけ、一期一会(いちごいちえ)の友もありゃァ、存外長く道を共にする友もある。」  それからスクナビコナのおじさんはまたシタハルの盃を見て、ふ、とめずらしいことに、やさしげな笑みをうかべた。 「だが…何にしたって言えンのはよ、〝友とは薬酒だ〟ってことでィ。…ソレはよォ、大国主(オオクニヌシ)とオレで厳選に厳選を重ねた、十二種の生薬と温泉の湯三種を酒に混ぜこんで十ヶ月(くら)で寝かせ、それでやっと出来上がるモンなんだが…――それがまた、そのどれか一個でも欠けちゃァなんねェ。その最高の薬酒にするためにャ、全部が必要なんだ。…要は、そらァもう絶妙な塩梅(あんばい)で、それぞれが上手く作用し、かつお互いの効能を邪魔することなく、いや、(かえ)って引き立て合う配合になってンだよ、それァよ。」  そして「いいか、ウエ、シタ」と彼は言い、また盃を煽って――腕で口もとをぬぐってから、僕とシタハルを交互に見て、真剣な顔をする。 「酒、温泉、生薬…それぞれだけでも薬にャなるが、相性のいいのを同じ器にぶち込んで、時間をかけて調和させてやりゃァ、――そらもゥ一個の薬なんざ目じゃねェほどの最高の万能薬、その薬酒が出来上がンだってこと、忘れンじゃねィ。――つまり、」  そこでスクナビコナのおじさんは自分の隣、照れくさそうにニヤニヤとしながら、しかし口をはさむことはなく、ただ自分の話を聞きおいているばかりの――かつて共に地上の各地をまわり、医薬・医療・温泉をひろめ、人や家畜の病を癒やしながら、協力をして天下を治めた――義兄弟・オオクニヌシのおじさんを一瞥(いちべつ)し、はんっと強気に笑って、また僕たちを見る。 「ひとりじゃ到底成し遂げられねェようなことだって、友と力を合わせりゃあ何だって成し遂げられンだってことよ、おォコンチクショウめ。わかったか餓鬼共、エェ? ……」  そして「何より…」と彼はまた懐かしむようなまなざしで、シタハルの盃のなかの酒を眺めはじめる。 「テメェひとりで事を成し遂げるより、友と事を成し遂げたほうが、結局絆も学びも成長も結果も人数分倍、もっと多くのモンを得られるンでィ。――何でもかんでもテメェだけでやろうってのは、まァ半人前のやることで違ェねェや。」 「……、…」  僕はふと隣のシタハルへ顔を向けた。  弟も同時に僕へ顔を向けた。――僕たちはじっと、信頼関係の確固な強気の真顔でみつめあう。 「オイ、よォ、どうせなら得しなきゃ損だぜ。――ならば、(はな)から友に助けを求めることを遠慮しちゃいけねェ。…そいで、友を助けることにも躊躇しちゃいけねェや。それがその場限りの友だろうが、連れ合いだろうがよ。…友は友。…助け合い、高め合い、引き立て合う薬酒になりやがれってんだ。――よォわかったかオメーら。…アン? チッ、なァにオレの話の途中に見つめ合ってンでィ。」 「……、…ふ……」  僕がふと鼻からかすかな笑みをもらすと、弟はひょいっといたずらに眉を上げてみせた。――それからふたり同時に、スクナビコナのおじさんを見下ろす。そして、 「…っンぉ!? おっオイウエ、チクショウめ、」 「んふふ…」  僕はスクナビコナのおじさんの背負うひょうたんをつまみ上げ、彼を自分らの目線の位置までつり上げる。  それから横目でシタハルに目配せし、僕たちは何も言わず、ほほ笑みながらふたりで盃の中の酒を飲み干した。  友の盃――この薬酒は、絆の証。 「うぇ、やっぱまずー…」 「…この子供舌。ふふふ…」 「チッ…いっちょ前に粋がりやがって、」――そうまた悪態をついたスクナビコナのおじさんは、しかし(僕につまみあげられたまま)自分の盃もあおって空けると、満足そうな強気の笑みをうかべた。

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