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のんびりとギターの弦をつま弾く指を止める。
ハワイのサンセットは、とってもロマンチックな眺めだ。
「……、…ふーー…――。」
俺はゆっくりとまぶたを閉ざし――耳を澄 ます。
ざああ…――ざああ……とおだやかな波の音に、砂浜で燃えているたき火のパチパチと火の粉が爆 ぜる音…――そしてシャカシャカ、シャッシャッと真隣から聴こえてくる、紙をこする鉛筆の先の摩擦音……、
……そっと…目を開ける――。
俺たちの背後から迫りくる濃い紫の夜に追いやられて、今地平線まで逃げてきたとろけそうな紅い夕陽が、横にひろがる濃紺の海にその身を少しとけ込ませ、一本の紅く燃える炎の道を、そのゆるやかに波立つ水面につくり出している。
――この別荘には今、俺とハヅキしかいない。
……というか、厳密にいえばじいやもいるにはいるけれども、じいやは今ちょっと買い出しに出かけている。
結婚式を終えたパパとママは、今夜はふたりっきりで朝までデート――じゃあじいじたちはというと、披露宴からのノリと勢いで、集まった神々のうちの何柱かと一緒に、今夜はハワイの夜遊びを満喫するらしい。
それで俺とハヅキもまたふたりっきりに――ハヅキは首もとを楽にくつろげた白いワイシャツと下は瑠璃色のスラックス姿に、俺は楽な黒に赤いハイビスカス柄のアロハシャツと、下は白いハーフパンツに着替えて――今は夕映えの別荘のウッドデッキに並んで腰かけ、俺は愛用のアコースティックギターを太ももの上にかかえて、今しがたまでそれを弾きながらのんびり、今の気分のままに即興の作詞作曲で歌っていた。
そして俺の隣のハヅキはというと、美しいハワイの夕暮れ時の海のスケッチを、俺の名もない歌を聴きながら…――今日は膝にスケッチブックをのせ、左手には鉛筆を握って。
「……歌うの…飽きちゃいました…?」
と、しかしハヅキがちょっと寂しそうに笑いながら俺に話しかけてきたから、俺はふと彼に顔を向けて「ううん」とほほ笑む。
「なんか今…浸 ってた。すごいロマンチックだなぁーって…、ハワイの海…ていうか、サンセット? ――君と一緒に楽しむ、この景色に。」
それから俺は――ハヅキは口に出しては言わないけれども、俺の歌を聴きながらスケッチをするのがあんまりにも心地よく幸せだったので、本当はもう少し俺の歌を聴きたがっているのをわかっているから――そして実は俺も、彼のスケッチの音を隣で聴きながら歌うのがあんまりにも幸せで、だから「浸った」ところも大いにあったし…――こう、説明をつけ加える。
「で…そやって浸るとさ、なんかこう…じわぁーって喉まで湧き上がってくるんだよね…――なんていうのかなぁ、こう…魂の一番ふかーいとこから、歌とかメロディとか…歌詞とか、そういうのが……インスピレーション?」
「…そっか、なるほど。」
するとそうハヅキがふっと綺麗な微笑を浮かべる。
俺もにこっと両目を細めて笑い返してから、抱えているギターの弦――親指をかけたままの弦――を見下ろす。
俺の指が短い、透きとおったおだやかなメロディを奏で…――それから俺は弦を手のひらで押さえ、音を止める。
「…ふんふふーん…ふーん…♪」
そして今ギターで奏でたメロディをくり返し、鼻歌で歌うと……、
「ふふ…」ハヅキが嬉しそうに笑って、こう言う。
「今の鼻歌、何だかすごくシタハルって…感じ。…って、同一人物なんだからそれは当然ですけど…、……」
「……そういえば…」そして彼はそう切なげに切り出す。
「……僕…、自分ではもう大分〝神の記憶〟を思い出せているような気がしていたんですけど…――でも、まだまだたくさんのことを思い出せていないんだなぁって、今日…つくづく痛感しました……」
「……、…」
俺が顔を向けた先にあったハヅキの綺麗な横顔は、遠く沈みゆく夕陽を遠く眺めて、寂しげにくもっている。――俺はふと顔を伏せて、俺たちのまえの砂浜に燃えるたき火を眺めはじめる。
「ううん…順調だよ。気にすることない…、ていうかそれ、多分ハヅキだけだよ、そんなに気にしてるの…――みんなちゃんとわかってるし、責めようとも思ってないし、それに…誰も急かしたりなんかしてないからさ…、…だから…焦らなくて、だいじょうぶ。…俺と一緒に、焦らずゆっくり…一個ずつ思い出してこ。……――。」
――ハヅキはあのあとの披露宴でいろんな神に会って、それで「まだまだ自分が思い出せていない〝神の記憶〟がたくさんある」んだと、焦ってしまったみたいだ。
披露宴会場として指定されていた真昼のビーチ――チャペルの後ろに広がっていた、あのエメラルドグリーンの海と白い砂浜のまぶしいビーチ――に俺とハヅキとが遅れて行くと、当然だけれども、そこではもうすでに披露宴が始まっていた。
……ちなみにスクナビコナおじさんはあの「秘密の結婚式」の直後、俺たちを『ほら、いつまでもオメーらが不在だととーちゃんかーちゃん悲しむぞ、さっさと行きやがれってンだ』とほとんどチャペルから追い出したけど、…あの感涙をこれ以上俺たちに見せたくなかったんだろうなーなんて、俺は思っている。
さて…ただし、披露宴とはいっても形式ばったあれこれは必要最低限で、それはほとんどお祝いの立食パーティーという感じだった――海外の結婚式ではわりとよくあることらしいけれども――。
それこそ浜辺のあちこちに置かれた、白いテーブルクロスのかけられた長方形のテーブル――もちろんその上には華やかなハワイのご馳走がずらり――のまわりに、招待された大勢のお客さんたちが立って食事を楽しんでいたり、話に花を咲かせていたり、…そしてそのお客さんたちに、アロハシャツやムームー(ハワイにおける正装のワンピース)を着たウェイターさんたちが、片手にもつ銀のお盆にのせたカクテルやジュースなどの飲み物を勧めていたり。
でもしいてそれっぽいといえばそれっぽかったのは、広大な透きとおった海をバックに設けられた、トロピカルな花や蔦 やで飾りつけられたステージだった。――ここでは現地の音楽団が、会場BGMとしてほとんど常にハワイらしい音楽を奏でてくれていたけど、そうではないときは――お祝いのダンス(たとえばフラダンスとか)をダンサーさんたちが踊ってくれていたり、(俺たちは見逃してしまったけれども)ウェディングケーキ入刀! なんてそれっぽいことをしたり、…それから俺も両親のために一曲歌ったりと、とにかく披露宴を盛り上げるための催し物が常に何かしら行われていた。
……それで俺たちがそのビーチに行くと、ちょうどそのとき両親は――比較的動きやすそうなスーツとドレスにお色直しをして――招待客ひとりひとりに挨拶をして回っていた。
そして…――。
……俺はビーチに着いてすぐ、ワクワクしながらまずはハヅキの手を引いて、円 いテーブルの上にそびえ立つ立派な五段のウェディングケーキ――ベースの白にブラックベリーや紅いラズベリー、いちご、ブラックチェリーのおしゃれな、大人っぽいウェディングケーキ――の前に立ったのだ。ちなみにそれの頂点には、今日の両親にそっくりなミニチュアのお人形が腕をくみ、寄り添いあって立っている。
俺はケーキ入刀! は見逃してしまったけれども、…ていうか、正直それは別にどうだってよかったんだけれども、――日常じゃまず見ることもない、こんなにおっきなケーキだ! ワクワクしないはずがない――そのケーキを食べるのだけは楽しみにしていたから、まずはハヅキとそれを食べに来たのだ。
それでここまで来た……のはいいけど、…
「……、んー…? あれ…ないなぁ……?」
と俺はケーキの土台近くを見回した…けど、ない。ぐうっと腰から真横に体を傾けて見ても、…ない。
どこにも……取り分けるためのナイフだとか、そういう道具が何一つとしてない。――でも、そもそも、なんか全然減っていないのは何でなんだろう…?
……みんな食べなかったのかな? ――でもここにあるってことは、(他の料理同様)勝手に食べてもいい…ってこと、だよね。
でしょ。だけど……それにしても、…ない。
そうして俺がキョロキョロとケーキを取り分けるための道具を探していると、俺の隣でハヅキが「ぷっ…」と小さく吹きだした。
「……?」俺は目を丸くしながら腰をもどし、なんで笑うの、とハヅキに顔を向ける。
彼はそのツリ目を可愛らしく細めながら、くすくす肩を揺らして笑っている。
「ふふふ、…あの…このケーキ、多分…」
「…シタハル。――まさかそれを食べようだなどとは考えていないだろうな。」
と…ここで凛とした女性の声――俺とハヅキはハッと背後にふり返る。
するとそこには、ツバの広い麦わら帽子に、白に紺色の葉っぱ柄のアロハシャツをカッコよく着こなした――涼やかな目もとをもつクール美神……、
「それは食べられないぞ。」
「あ。――天照 さま。」
そう…天照大御神 が、立っていた。…彼女は今日はその黒髪をポニーテールにしている。
ちなみに彼女のお隣には蒼白い肌をもつ、ちょっと妖しい雰囲気の黒髪の美女――ストレートの長髪に、ツバの広い麦わら帽子、紺色のムームーを着た――瀬織津 姫 のお姉さんも立っている。
タレ目の彼女の泣きぼくろはちょっと魅惑的だ。ただセオリツのお姉さんはその容姿こそ少しミステリアスな雰囲気だが、俺とハヅキを交互に見て微笑み、
「ウエちゃん、シタちゃん、こんにちは」
と挨拶をしながら、ひんやりとした白魚のような手で、親しげに俺とハヅキの二の腕をするりと撫でさげ――そのままそれぞれの片手を取ると、一旦ハヅキにその澄んだ紫の瞳を集中させる。
「まあ、こんなにお洒落しちゃって…とっても素敵。よく似合ってるね。――ふふふ…、〝記憶〟を思い出すのは順調? もう龍にはなれるの?」
「……あ…えっと…、いえ……」
……ただハヅキは――ちょくちょく「記憶」にも出てきたアマテラスさまはともかく――セオリツのお姉さんには、ちょっと申し訳なさそうな、気おくれしたような目色を向けて、…それから目を伏せた。
まだ彼女の「記憶」は取り戻せていない――つまり今のハヅキにとってセオリツのお姉さんは、たとえどれほど彼女のほうが親しげに接してくれようとも、どうしたって「初対面の女性」でしかない。…それこそハヅキには彼女が女神なのか人間の女性なのかも、まだはっきりとはわからないくらいなのだ。
ただ、ウワハルであるハヅキが「神の記憶」を取り戻せていないことは、みんなが知っている。
だからもう龍になれるの(龍に変化できるくらい神の力を取り戻せた?)、と彼に悪気なく、何気なく聞いたセオリツのお姉さんだったが、彼の曇った表情を見たなり、はたと自分の失敗に気がついたみたいな困り顔になった。
「ごめん。そっか…お姉ちゃんのことは、まだ思い出せていないんだね…。…ごめんねウエちゃん……」
そして彼女はその細い体で、ハヅキのことをそっと抱きしめた。――ハヅキは(いい匂いの美女に抱きしめられて)びっくりして固まった。…けれども、セオリツのお姉さんのそれは他意なくやったことで、そもそもスキンシップが平ちゃらな女神なのにも加えて、何より小さな頃から知っている俺たち相手には、特に「お姉ちゃん」の意識が強いから、いわば彼女にとったらこれは「(俺たちに)いつもすること」なのだ。
「やめないか瀬織津 、困っているぞ」と少し複雑そうな顔をしているアマテラスさまが、お姉さんの肩を後ろから掴んで軽く引く。
「あ…ごめんね…」するとセオリツのお姉さんはハッとして離れ、困惑のあまり固まっている――自分より十センチくらい背の高い――ハヅキを見上げて、申し訳なさそうな顔をする。
「わたしったら、つい…――そっか…そうだよね、初めて会うみたいなものなんだよね…――ウエちゃん、ううん、えっと…ハヅキちゃん…わたしね、わたし…、――わたしは、瀬織津 姫 といいます。よろしくね…」
そしてそうセオリツのお姉さんは、寂しそうに笑った。するとハヅキは申し訳なさそうながらも、こう笑い返す。
「あ…えっと、僕は…天春 春月 …っていうか、あの、あ、天 …」
「うん。ウエちゃん………って、呼んでもいい…?」
とセオリツのお姉さんが上目遣いでハヅキに、遠慮がちにうかがう。ハヅキは慌てぎみにコクコクうなずきながら「はいもちろん、もちろんです」と答える。
するとお姉さんは困り笑顔を浮かべた顔を、そっとうつむかせる。
「ありがとう…。それで、ごめんね…、あなたがどこまで思い出せているか、わたしは知らないから…――わたしのことはまだ、だったんだね。…じゃあびっくりさせちゃったよね、ごめん……」
「いえ、いえそんな、…むしろ、こちらこそすみません……」
とハヅキも申し訳なさそうに表情をくもらせてうつむく。
するとアマテラスさまが、そんなハヅキの両肩をがっしりとつかみ、キリッと彼を見据えながらこう言う。
「謝ることなどない。」
「……、…」
ふとハヅキが目を上げてアマテラスさまを見る。
彼女は真摯なまっすぐな眼差しで、彼を見つめる。
「どうせ、いずれ君は全てを思い出すのだ。何も気負うことはない。――我 を含め、神の全員が君の味方だ。…不安がるな。絶対に、我たちは絶対に君を消滅させたりなどしないから。」
「……、ありがとう、ございます…、……」
……でもハヅキは――「消滅」という単語を聞いてしまってはなお――やっぱり気にしているみたいで、ふとその顔を横へ向けた。
――彼が遠く眺めているのは、このパーティーを各々楽しんでいる神の面々の姿だ。
たとえばフラダンサーのお姉さんに、興味津々でフラダンスを教わっている木花咲耶姫 のお姉さんと、天鈿女命 のお姉さん…――豚の丸焼きを誰が一番はじめに完食できるか、なんて炎天下で汗をダラダラかきながら大食い対決をしているタケじい、建御名方 のおじさん、そして須佐之男 のおじさん…―― 伊弉諾 ・伊弉冉 のご夫妻と共に、テーブルの上のご馳走を見下ろして何かを言っている菊理媛神 のお姉さんと保食神 、それから宇迦之御魂神 …――海を眺めながら詩をしたためている道真 おじさん…――大国主 のおじさんと、そのひとの肩にのったスクナビコナのおじさん、そしてオオクニヌシおじさんの正妻・須勢理毘売 のお姉さんと談笑している、宗像 三女神 の三姉妹、……
知っている――思い出した――顔と、知らない――思い出せていない――顔が入りまじっているその光景に、ハヅキはかすかに眉間をくもらせた。
「んでさぁ」と、ここでわざと切り出したのは俺だ。
「ねね…このケーキ、ほんとに食べらんないの…?」
俺の眉が寄る。
こんなに美味しそうなデッカいケーキが食べられない……? そんなまさか…――じゃあ俺たち、まさかケーキ食べらんないの…? ――もちろんハヅキの気持ちがこれ以上重たくならないように、と切り出したことではあるけれども、…とはいえそれ、俺にとっては結構な重要事項だった。
「ふっ…」とアマテラスさまが、「ふふ…」と笑うセオリツのお姉さんと顔を見合わせて、そうしてふたりして苦笑する。
そしてアマテラスさまは、ちょっと呆れたような笑顔で俺を見たのだ。
「…シタ…少しは頭を使え。――こんな強い陽射しの下、生クリームだのと溶けやすい素材を用いた本物のケーキなんか、とてもじゃないが置いてはおけまいぞ。違うか?」
「……んあ」
あーたしかに。言われてみたらそれはそう。
そしてハヅキもちょっと苦笑い気味に、こう俺に教えてくれる。
「それもそうですし…、あと、ウェディングケーキって最近は大体フェイクなんだそうで…――ほら、いくらたくさんのお客さんたちみんなで食べるとしても、やっぱりこのサイズだと食べきれなかったりもしますから…――それで最近のものは、新郎新婦がナイフを入れたり食べたりする部分以外は、」
「……ふえー…どれどrうわほんとだ…っ! これ、これフェイクだあ……っ!?」
目をかっぴらいた俺は騙された気分だった。
だって試しにちょっと生クリームの部分を指先でつついてみたら、なんとカチカチでコチコチな感触がしたのだ。それこそプラスチック的な。
「…酷い、こんなに美味しそうなのに信じられない、…っ騙された…――っ!」
「…はは…」
と表向きはやっぱり苦笑いをしているハヅキだけど、内心では『可愛い…可愛すぎる…』と内心俺にメロメロになっている。
……ただ――ここで、
「やあ坊やたち」と横のほうから渋い落ちついた男性の声――そちらへふり返ると、銀色の短髪と口ひげが渋くてかっこいい、微笑した……、
するとハヅキがびっくり顔でこう叫んだのだ。
「ぁ、…っあー! ――みっ道 真 お じ た ん !!」
「……、…」
……すると道真 おじさんは面食らって一瞬固まる。
ちなみに今日は白に濃い茶色のリボンが巻かれた中折れ帽と、ベージュのお召 に、(帽子のリボンに合わせた)濃い茶色の羽織り姿だ。――両手にはそれぞれ一枚ずつ、ケーキののった白い皿をもっている。
おじさんはびっくりされたことにびっくりした感じで、ハヅキを見ながらこう返す。
「あ、ああ…、何だね、ウエ君…?」
「…あっいやっすみ、すみませんっその、…」
するとそう、ハヅキはその驚きとはにかみ笑いとが混ざった顔を、たちまち真っ赤に染めてゆく。
今になって自分の大きなびっくりリアクションがちょっと恥ずかしくなってきたらしい。――そして彼はあたふたとながらも、自分が今驚いてしまった理由をこう説明してゆく。
「あのっえっと、…ま、まさかお会い…で、出来る、だなんてその、か、か、神、あの、――お会いしたいとは思っていたんですが近々、その、でも神社に…神社に行くべきなのかな、なんて、思って、思っていたものですから、…だからあの、こうして直接…? お会い出来たことがちょっと意外だったというか、正直びっくりで、…」
「……、…」
……あーそっか…と、俺はここで思い出した。
そういえばハヅキ、道真 おじさんの「記憶」を思い出したあと、『ひとまず(おじさんの)神社にお詣 りに行こう』と考えていたのだ。――それはハヅキとしての自分も小さい頃にお世話になっていたとはいえ、神である道真 おじさんとは普通に会えるものなのかもわからないから、となると確実に「会える」だろう方法はきっと神社参拝だ、との理由でだ。
……でもハヅキはそうは考えつつも、やっぱり相手は神――ましてや人間のハヅキとして願掛けをし、それもそのお願い事を叶えてくれた神、すると彼にとって道真 おじさんはいよいよ「神様」という認識が強い神、ともあって――、まさかこうして普通に会えるとは予想外だったのだろう。
「…ああ、神社……?」と道真 おじさんが、ちょっとだけ釈然としないその顔を傾ける。
「まあ…な。それでも会えるには会えるが…、しかし私と君との仲じゃないか、ウエ。…ふ、――招いてくれさえすれば、私はいつだって君に会いに行くぞ。……但 し、詩を書くのに熱中さえしていなければ。」
「……あ、はは…、ありがとう、ございます……」
とはいえ…ハヅキは内心、そんな気軽にお招きなんか畏 れ多くてできない…と思っているのだけれども。
「さて、坊やたち。――此処にいる…ということは、」と改めておじさんは優しい笑顔で俺たちを見て、
「お望みのものはこ れ だな。」
そう、両手に持ったケーキのお皿を差し出す。
「…っあー!」俺も大声を出した。
「ケーキ! ありがとうおじさん!」
………と…いうことで……俺たちは無事、フルーツたっぷりの美味しいケーキを食べることができた。
道真 おじさんいわく、ちゃんと俺たちの分はスタッフさんが取っておいてくれていた――冷蔵庫で保管されていた――ので、尋ねたら出してくれた、とのことだった。
そうしてハヅキは念願の? 道真 おじさんとも会えたし――ただおじさんをはじめ、思い出している神相手にもまぁまだぎこちないというか、ちょっと緊張したっぽい慣れない感じではあったけれども、――それでも初対面というよりかは久しぶりに会う親戚の誰々、くらいのかしこまり具合だった。
でも問題は…――実はハヅキはそのあと、まだ「記憶」にない神に、しばしばセオリツのお姉さんと同じような反応をされてしまったのだ。
もちろん誰も彼のことを責めなかったし、彼を急かすようなことも誰も言わなかった。
それでもその反応が積み重なってしまったら…――ハヅキは披露宴会場ではあれっきり、それについて焦っているような素振りは見せなかったけれども――本当はやっぱり気にしていたのだ。
でも、それは当然だと思う…――。
……いつの間にか、俺がぼんやりと眺めているたき火のオレンジ色が濃くなっている――あたりが暗くなってきたのだ。
「……、…」
ただ…実は俺も今、ちょっと気にしていることがある…――。
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