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――それは俺が取材からこの別荘に帰ってきたとき…、もっというと、自分たちの部屋に帰ってきたときのことだった。
ちなみにその取材というのはもちろん、結婚式のあと、チャペルのなかにまで押しかけてきたあの記者と俺とが約束した、例のあれだ。
それは俺にしてみたらハヅキを護るためにやむを得ず、という感じで、一旦はマネージャーの(平河 )ススムくんに話を通さずに約束しちゃった取材ではあったけれども、その人たちが去ったあとすぐ、その旨 を彼に連絡したら――まあ『勝手に取材なんか受けるな、事務所を通してください、自分からは何とも言えません、くらいのこともまだ言えないのかお前は、何年この業界でやってるんだ、いい加減自分の知名度や影響力を自覚しろ』とかなんとか、ガミガミガミガミ怒られたけどぉ…――、ススムくんもオンラインで同席してくれる、とのことだった。
だから、俺は楽しい披露宴も途中で抜け出さざるをえなかったけど、でも取材自体は――ススムくんがテキパキ仕切ってくれたり、答えたらまずい系の質問をさりげなく躱 してくれたりなどなど、フォローしてくれたおかげで――俺が思っていたよりもうんと早く済んだし、しかも我ながらうまくハヅキをかばいつつ、でも記者たちに不満はもたせないような(記者的にもなかなか旨 みのある)いい感じの受け答えができた気がするしで、とにかくつつがなく終わった、と思う。
ただ俺的に問題だったのは…――実はそのあと……、
俺が取材を終えて別荘に、そして自分たちの部屋に帰ってきたとき…――ハヅキはその部屋で取り引き先の編集さんと、テレビ電話をしていた。
というのも――実は披露宴のさなかハヅキのスマホに、「突然で申し訳ないけど、今日打ち合わせできないか」と担当編集の美柳 さんから連絡が来て、そしてそのメッセージを見た彼は、『ハルヒさんも途中で切り上げるならちょうどいいし(正直他の家族は家族で楽しんでいるみたいだから、ハルヒさんなしで、つまりほぼひとりでここにいるのは人見知りだから苦痛だし)』――と…いうことで、…ハヅキも俺と一緒に、披露宴をちょっと早めに切り上げた。
で…途中までは一緒だったけれども、ハヅキはテレビ電話をするべく、持参したノートPCのある別荘に先に帰り――そして一方の俺はというと、もちろんその足で取材の約束の場所へと向かったのだった。
……そういうわけで、俺もハヅキが編集さんとテレビ電話をしていることは知っていたし――それこそ俺だって、それを問題だ、と思ったわけじゃないのは言うまでもない話だ(というかそれを問題だ、とは思いようもない)。
ただ…――。
「……、…」
ハヅキ…――その人絶対、君のこと……。
……俺はつい自分たちの部屋の扉を背にしてうつむき、ハヅキと編集さんの会話を盗み聞きしてしまった。
でも、はじめは全然そんなことをするつもりはなかった。…盗み聞きだなんて、俺だって本当はそんなこと、したくはなかったのだ。
それこそ取材から帰って、自分たちの部屋の扉の前に立ったとき、扉越しにまだ会話している声が聞こえたから、俺は『あ、まだ電話中なんだ』と――じゃあ邪魔しちゃいけないな、しばらくは室内 に入るのは遠慮しよう、と思って…――だからはじめは、ハヅキの通話が終わるまでてきとうに別の場所で時間をつぶそう、それこそ海を見ながらぼーっとしていてもいいし、談話室で甘いものでも飲みながらスマホで何かを見ていてもいいし、…なんて、盗み聞きをするつもりはなかったどころか、部屋の前から立ち去ろうとさえ考えていた。
でも――聞こえちゃったのだ。
『ところで先生って、すごい綺麗な顔されてますよね』
ハヅキにそう言ったのは、編集者の男の子――もっとも神の俺にしてみれば「男の子」だけど、三十代なかばくらいの男性、つまりハルヒである俺より年上の――「栗原 」だ。
……俺はこれを聞いたとき、『む』となんか嫌な直感が来ちゃって、どこかへ行こうとしていた足を一旦その場にとどめた。
ちなみにハヅキは、
「え?」
と突然言われたそれに、ちょっとびっくりしていた。
……実はのちのちハヅキから聞いたところ――ハヅキがデビュー当時からお世話になっているという担当編集者の女性・美柳 さん(ちなみにハヅキが「みっちゃん」と彼女を呼ぶので、俺も会ったことはないけどそう呼んでる)は、実はいま妊娠中で、これから産休・育休に入るという予定自体は、もともとハヅキも聞いていたことではあったんだけれども…――ただあともうちょっとで臨月、というところで切迫早産(早産になりそうな危険な状態)になってしまい、急に入院が必要に…――それでちょっと産休を早めざるをえなくなったのと同時に、いそぎで当座の代打編集者・栗原 との顔合わせや、引き継ぎ、確認の必要性もでてきたので、…
それで、それをするためのビデオ通話が、今日のこれだったらしい。…のだけど…――。
『先生の描くキャラクターみたいな顔っすよねほんと、…うわー、僕ちょっと緊張しちゃうなー…』
「……、ぁ、あぁ…? は、はは……」
ハヅキはそのはにかんだような栗原 の褒め言葉にも、こまって愛想笑いを返したばかりだった――けれども、栗原 はへこたれることなく、熱を入れて若干早口気味にこうつづける。
『よく言われません? 美形とかイケメンとか、…っていや、言われないわけないっすよね、ははは、…いやーマジでイケメンっすもんね先生、…芸能人か? ってくらい。』
「……へ…、…あぁえっと…、あ、うーん…、あの…はは、あー…ありがとう、ございます……?」
ハヅキはやっぱり栗原 に圧倒されて、困惑しながらもそうお礼を言った。
ちなみにハヅキは内心でも困惑していた。『なんか間 をもたせようと一生懸命褒めてくれたり話しかけてくれたり…、あああ゛申し訳ない…、みっちゃん早く戻ってきてくれー…、初対面の人と二人っきり、めちゃくちゃ気まずいんだがー…』と――どうやらみっちゃんはこのとき、トイレか何かで席を立っていたみたいだ――。
そしてハヅキが『いや、というか思ったら栗原 さんに話しかけてもらってばっかりじゃないか僕、…そうして受け身すぎるのはちょっと感じ悪いよな…、何よりこれから当面のあいだお世話になるわけだし、ここは感じよく…仲良く……』と、
「ただその…、あ、あ、あのでも、あー…えー…、えっと…多分、栗原 さんのほうがよく言われる…んじゃ…? その、イケメン…とかは……」
なんて(人見知りなのにちょっと無理をして)返してあげると、栗原 は(調子に乗って…!)嬉しそうに声を明るくした。
『いやー僕は全然っすよ。つか、僕なんかより先生のほうがイケメンじゃないすか』
「…ぁいえいえ僕は別に…そんなそんな…そもそもあんまり言われませんし、その…イケメンとかは……」
『えーマジすか? そんなことあります?』
「…はい…まあ…、あ、あんまり…」
『…えーでも、正直声とかかけられません? 街歩いてていきなり、とか。』
「…え、えーと、…別に……? というか、…そもそもあんまり街歩かない……」
『はは、あーそれはそうかもしんないすよね、漫画家さんですもんね。』
そして栗原 は、親しげな明るい声のままさらっとこう打ち明けたのだ。
『いやでも、僕なら先生みたいな綺麗な男の人がいたら、それこそコンビニで漫画立ち読みしてても声かけますけどね。…あ、僕実はゲイなんで。』
「……あ…あぁ…、あー…あの、あーまあ僕も、一応ゲイでは……」
……あるんですけど…、とはいえ夫にしか恋をしたことがないので、まあもちろんそれでも立派にゲイとはいえるものの、ただ「男性が性愛対象」という範囲広めな感じのゲイではないかもでして…(つまり、ゲイあるある的な話題にはついていけないかもでして…)――とハヅキは続けて言いたかった(心にこのセリフが用意されていた)けど、すかさず栗原 が、
『えー先生もすか、マジで…なんか運命感じちゃうなぁ…――じゃあ僕とかワンチャンあります? なんて。…はは…』
なんて…意気揚々と! グイグイ!
「……、……?」
……しかも、それに対して何も返さないハヅキは、
――『??? わんちゃん? ワンちゃん…? 運 命 の ワ ン ち ゃ ん ……』
わんわん運命のご主人に会えて嬉しいわん…って、そんなわけないでしょ……!
自分が口説 かれていることにまだ気がついていないというか、ハヅキ、もはや理解が追いついていない。
ただ『もしかして…』とちょっと遅れて――『もしかして…運命感じちゃう…、ワンチャン…? ワンチャンスのワンチャン…? 運命感じちゃうなぁ…からの、栗原 さんとか、ワンチャン……?』
――『…………え?』
「……、…、…」
『もしや僕…これ……いや、いやまさか、』と…、やっとハヅキは「もしかして、いやまさか」でも、一応栗原 の「ワンチャン」の意味に気がついた。
ただ最近自己肯定感が上がってきているとはいえ、やっぱり自分に自信があるとはいえないハヅキは、ましてや初対面、ましてや仕事先の編集者、ましてやオンライン会議(つまり仕事上のビデオ通話中)、…というのもあって、念のため栗原 に真意をたしかめておこう…と、
「あの…、え、えーとそれ…あはは、あのーどういう……」
でもここで『おい』とちょっとからかうような、かつそれでもきっちりと叱る感じの女性の声――みっちゃんが、戻ってきた。
『おいおい君ねー…あの栗原 くんさぁ、まさかとは思うけど、今先生のこと口説いてなかった…? ちょっとそれは見過せなーい……』
『え? いえいえ、まさか口説いてなんかないすよ。ねえ?』
するといけしゃあしゃあと! 栗原 は嘘をついた。
……でもこいつのこれは、今その件の真意を直接確かめようとしていたハヅキにとっては、その場逃れの「嘘」なんかではなく――「答え」になっちゃったのだ。
「…はい、…うん、うんうん大丈夫大丈夫…はは、…ほんと、いやーまさか口説かれてなんかないよーみっちゃん、…あはは、…はは…は…、……」
と言うハヅキは『っっぶねぇえええ!!』と、そのとき安心しちゃったのだ。――『ヤバいヤバいヤバい、助かった…! 僕あんまりにも恋愛経験がないせいで、我ながら本気と冗談の見分けがついてないんだなほんと、…あーよかったぁー! いやでもそりゃそうだよな、そうだよな、…危ない危ない…〝どういう意味?〟なんて真に受けているひとのそれだし、何なら僕そのあとに〝いや僕、これでも結婚しているので…〟なんて続けようとしていた、…あのままみっちゃんが来てくれなかったら赤っ恥かいているところだ、…』
まあ確かにハヅキは本気と冗談の見分けがついていないけど…、だって絶対栗原 は本気だったからだ。
……で…――今日のこれに関しては、さすがの栗原 もみっちゃんがその場にいたら「悪さ」はできず、このあとはちょっと仕事の話をしたあと、軽く親睦を深めておこう的な雑談を三人でして…終わった。
…んだけど……俺が通話後のハヅキに「ごめん、ちょっと話聞こえちゃってて…」と断ったあと、
「でね…多分だけど栗原 さん、さっきハヅキのこと本気で口説いてたよ…――だからちょっと、気を付けたほうがいいんじゃないかなぁ……?」
なんて…それとなく忠告したら、ハヅキは……、
「え? あはは、いやいや、大丈夫ですよ。…栗原 さん本人も別に口説いてなんかいないって、さっきもはっきり言ってましたし。――まあ…あれはちょっとした悪いジョークというか、からかわれただけ…というか? ――そもそも僕、ほら、結婚指輪もちゃんとしてますから。…今日はオンラインで、手元までは見えていなかったかもしれませんけど。」
なんて…そんなに警戒するまでのことでもない、大丈夫大丈夫…と――何なら俺の気にしすぎだ、くらいの感じで――かなり楽観していたのだ。
……俺は彼のそれにすぐ口を開いて、…だめだよそんな楽観しちゃ、何度も言ってるじゃん、ハヅキは本当に綺麗なんだよ、魅力的なんだよ、栗原 は絶対本気だよ、これから関わりが増えるんだから絶対警戒したほうがいいよ、ううん、ていうか俺が夫として警戒してほしいんだよ…――そう言いたかった。
言いたかったけど……でも、言う前に口を閉じて、言わなかった。
――それは俺が自分の意志で言うのをやめたのだ。
俺は天上で交わしたウワハルとの約束で、過剰なくらいハヅキをひとり占めしたい…――過剰なくらいハヅキを失うことを恐れている…――いわばそういう「呪い」がかかっているような、ちょっと特別なシタハルの分け御霊だ。
でも俺…実は、そういう自分が嫌いだ。
ちょっとしたことで嫉妬したり、不安になったり、心配したり、それでハヅキを束縛しようとしてしまったり…――疑うべきところのない夫のハヅキのことを疑って、試して、支配して、俺だけのものだって無理やり示して…、悪ければ、ハヅキに暴力的なことまでしちゃったりして…――ほんと、酷い夫。
俺、最低…――。
……だから俺、本当の意味で、ハヅキに対して愛情深い夫になりたい。――無条件の愛とか、無償の愛とか…もっと広い心をもって、もっとハヅキのことを、ハヅキの愛を無条件で信じて、――呪いみたいなもんなんだからしょうがない、って諦めるんじゃなくて、俺は自分が理想としている、そういう優しくて素敵な夫に変わりたいのだ。
変わりたい…――。
ハヅキはそんな俺のこともゆるしてくれるけど、自分はそういうハルヒさんも好きだ、俺にそうされるとかえって幸せだって言ってくれるけど、でも、…俺が嫌。俺自身が、嫌。
変わりたい。誰よりも俺自身が、そういう自分のことをゆるせない。――我ながら自己肯定感は高いほうだけれども、そんな自分だけは俺、ほんとうに大っ嫌いなのだ。
だから俺はあえて言うのをやめた。
今度こそハヅキのことをちゃんと信じようって、そう思ったからだ。
でも…――こうやって、まだそのことを気にしている自分がいる……。
「……、…」
本当にそれでよかったのかな、本当にあれを言わなくてよかったのかなって……。
正直ハヅキは、恋愛に関してはどうも鈍感なひとだし…――ましてや自信回復も途中段階にあるから、どうしてもまだ「まさか、自分なんかに」みたいな意識が根っこに残っているっぽいし…――それに初対面でいきなりの、仕事先の、仕事上の、って条件が揃っていたら、そりゃあ「まさか」と思うのも無理はないし…――でも思うに、栗原 は絶対ハヅキのことを狙っているし……なのにハヅキは全然それに気がついていないわけでしょ、…大丈夫大丈夫ってなんかすごく楽観してるわけじゃん……。
「…んんん゛……」
どしたらいいの、…と俺が蒼ざめた暗闇のなかで燃えるたき火を睨みつけながらうなると、隣でハヅキが「ふふ…」と笑う。
「あのーハルヒさん…どうかしました…? 何か、悩んでる…?」
俺はふとハヅキに顔を向けた。
彼は心配そうにすこし眉尻を下げて、でも優しく俺に微笑みかけている。
「え、なんでわかったの…?」
驚いた。
まさかハヅキ、ついに俺の心の声が聞こえるように…――と思ったけど、ハヅキは「はは…あの、そりゃあ…」と困り笑顔で言う。
「だって呻 ったじゃないですか今…、人が呻ったら、誰だってそんな感じで心配はするかと…――あと、さっきからギターの音色が悲しげなので…、なんとなく……」
「……あ」
……どうやら俺、考え事をしながらギターを弾いていたみたい。無意識で、今の気分のまま。
まあいいや、と俺は正直に、ハヅキにこくんとうなずいて見せる。
「…うんうん、そう…実はちょっと悩んでる…――ね、ハヅキ…」
「はい」
「……、…」
ハヅキの無垢な表情を見ていたら……いっそのこと言っちゃおうかなと思ったけど、…俺はやっぱり口を閉ざした。――なんか、言ったらハヅキを責めちゃうみたいだし…、何よりやっぱりハヅキのこと、無条件で信じたいから…――、それで、すっかり真っ暗になった夜の海を遠く見やりながら、ウッドデッキのふちにかけられたハヅキの左手を、上からにぎる。
「〝僕を信じて〟って…言ってくんない…?」
「……?」
「いいから。お願い…」
それは構わないが、どうして…と心の中で不思議がっているハヅキだけれども、俺は理由は言いたくないから、そうとだけ言った。
でもさすがにいきなりすぎたかも、と反省して、こうつけくわえる。
「俺の悩み、君がそう言ってくれたら多分…解決するから……、……」
夜空の星々を、その青黒いさざなみに映すハワイの海――。
ざざああ…――ざざああ…ん……。
穏やかなのに壮大な波の音――パチパチとたき火から聞こえる小さな音…――ふと見上げた夜空にかがやく星々は、日本で見るそれよりもなんだか煌 きが鮮やかだ。少しだけ欠けた白い月も浮かんでいる。
「…もしかして…栗原 さんのことですか。ハルヒさんが悩んでいるのって。」とハヅキが、冷静な声で聞いてくる。
「……、…」
俺はドキッとした。もちろん図星だったから。
……ハヅキは「ふふ…」と俺の図星を見透かしたように笑うと、自分の左手を上から握っている俺の右手と、指を絡めて手をつないだ。
そしてきゅっと確かに、俺の手を握る。
それからハヅキは、静かなおだやかな声でこう話しはじめる。
「……僕はやっぱり、そんなに心配は要らないかなとは思うんです、正直…――でも、すみません…、ああやって咄嗟 には〝大丈夫ですよ〟なんて、ハルヒさんの心配を突っぱねたみたいになってしまったけど…――本当にすみません…。…さっき…〝わかりました、気を付けますね〟って、言えばよかったなぁなんて……」
「……、…」
俺はまた隣にふり返った。
ハヅキは遠く夜の海を眺めながら、その綺麗な色白の横顔にうっすらと、困り笑顔をうかべている。
「ちょっと後悔してます…、だって僕、本当はハルヒさんが心配してくれたのが嬉しくて…だから笑っていたでしょう、…それで浮かれて〝大丈夫〟だなんて…――でも、僕がさっき素直に〝ありがとう、気を付けますね〟ってそう言えていれば、きっとハルヒさんを今、不安にさせてしまうようなことにはならなかったはずですよね…――だから、すみません……」
「ううん…、別に、ハヅキのせいじゃ…」
「いや…、……じゃあ、改めて言いますね」
とハヅキがにこっと笑いながら、俺にその可愛い笑顔を向ける。
「気を付けます、ちゃんと。ハルヒさんの夫として、ちゃんと。――だからその…僕のこと、…あはは、…」
ただハヅキはそこで呆れたっぽく眉尻を下げ、笑顔を深めた。
「いやそうですよね…、正直僕ほんと頼りないなぁって、自分でもそう思うんですが…――でもあのー、とはいえ今日誓ったばかりですから、…あの素敵な記憶と、この指輪に…――ハルヒさんだけを永遠に愛するって…――だからそれも含めて、よかったら…というか、…出来たら……」
そしてハヅキは、ふっと美しく俺に微笑みかけた。
「僕のこと、どうか信じてください。」
「……、…」
俺の両頬がじわーっと熱を帯びてゆく。
嬉しくて…あとハヅキがあんまりにも可愛くて綺麗で、でもさっきの自分に呆れたような笑顔もまた、全部、ハヅキの全部が愛おしくて…――にこっと自然に笑顔になる。
「うん、…はは、ごめん。…疑って、…ごめんね。」
ほんと…だめだよ。
ハヅキを疑っちゃだめ。
もう絶対ハヅキを疑わない。――俺は心から夫のことを信じよう、と思えた。
今はもう迷いはなく。
本当に、心から――。
「ふふ…、…ね、ハヅキ……?」
と俺はまぶたをゆるませながら、ゆっくりとハヅキに顔を近寄せる。と…彼はわかっているから、「はは、」と照れくさそうに笑って…――そっと顔を傾けながら目を細め、自分からもちょっと俺の顔に、…俺の唇に、唇を寄せてくれる。
そしてそのまま…俺たちは同時に目をつむり、優しく唇を押し付けあった。――手をつないだまま。
ざああ…――さざああぁ……。
……俺はふとあることを思いついた。
だからそっと唇を離して――「ね…」とハヅキに話しかけながら、彼の耳元に唇を寄せた。
「そうだ…、あのさ…――。」
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