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第3話 開発はシャワールームで

何かで悩んでいる時も、そうじゃない時も、飛ぶに限る。 昨日色々あったシャワールームは見ないようにして水着に着替えた俺は、授業が終わると誰よりも早くプールへ来て、柔軟体操をしてから十メートル上の飛込み台へと階段を昇った。 台の上に立つと、プールの屋根についているライトがダイヤモンドの様に輝き、その光がステージライトの様に俺を迎え入れる。 水面がシャワーで揺らされているのを確認してから、一旦離れ、深呼吸を二回。 今日は気分で、バク宙から飛んだ。 考えるのは、回転と入水角度だけ。 それ以外のない二秒を終えて、プールからざぱりと上がった。 まだ誰も来ていないなら、また飛びたい。 何度でも、頭を空っぽにしたい。 瞑想にもにた無の感覚を味わいたい。 きょろ、と辺りを見回すと、プールに来ているメンバーは(まば)らでまだ柔軟体操をしている最中だった。 しかし、気付いてしまう。 競泳の方のプールの中から、プールサイドに腕組みしながらその腕に頭だけを乗せ、こちらをじっと見ている選手が一人いる事に。 プール帽もしてるし、ゴーグルも付けたまま。 競泳部門のメンバーも知らないので誰かわかる筈もないのに、駿琉(ヤツ)だ、と思った。 見られている事に気付いた途端、昨日掘られかけた尻がヒリヒリと痛む気すらする。 何で気付いたんだ、と自分を呪いたくなる。 今まで競泳プールなんて見ても何とも思わなかったのに、自分が見れていると思うと凄く落ち着かない。 性的に見られているかも、なんて考え出したら、今すぐジャケットを羽織って逃げ出したかった。 まさか一部女子の気持ちがわかる日が来るなんて……水泳部にも、一時(いっとき)は彼女だった胸の大きな女の子がいて、普段は気にせず泳いでいても、いつも見てくる男子の目線は気になる、と話していたなと思い出す。 俺は駿琉を睨み付けてから背を向け、その後も飛込み続けた。 *** すっかり駿琉の事は忘れ、今日はまぁまぁの出来だったな、なんて思いながらプールサイドを歩いていると、観客席からきゃあ、と声が上がった。 つい、と視線をあげると、俺好みのストレート黒髪女子と、茶髪ポニーテール女子が競泳プールの方を指差している。 昨日もこんな事あったな、なんて思いながら今度は競泳プールを見れば、昨日見た記憶のある綺麗なフォームの選手が泳いでいるところだった。 「……」 何となく、嫌な予感がする。 フォームから予想される体格が、思い出したくもない人物を思い出させた。 いや、ヤツが泳いでいるなら逆にチャンスだ、と無理矢理思い直す。 もし今すぐシャワールームに駆け込めば、いつもの様に長々と使用しなければ人がいるうちに出て来れるだろう。 諦めていたシャワーだが、使えるもんなら使って、塩素だけでも落としたかった。 善は急げ。 俺はさっさとプールを後にしたが、昨日と同じく泳ぎ終えた駿琉が俺の背中を熱心に見つめている事にはやはり全く気付かなかった。 「そろそろテストだよな、クソだりぃ~」 「……」 「誰か職員室入って、問題用紙パクって来いよ」 「問題用紙より回答用紙だろ~」 「確かに。問題手に入れても、アホだから回答間違えそうだわ」 「……」 俺達高飛込部門のメンバーは、いつもの定位置と言って良いシャワールームで馬鹿話をしていた。 因みに、俺は成績がこの学園では中の中だが、問題発言をしていたヤツらは凄く頭が良いので本当にテストの問題用紙を狙っている訳ではない。 「そいやさー、聞いたか? 来年の生徒会長、理事長の息子が中等部から上がってくるから、高等部一年なのに決まってるんだってよ」 「へぇ何それ、知らね」 「……」 「ボンボンは大変だよなぁ~」 「ストレス溜まらないのかね? 家でも学校でも親に見張られてるようなもんじゃん」 「……」 シャアアアア、と流れていたシャワーをきゅ、と締める。 今日は長居したくない。 仕方ない、さぁ出よう。 クルリと個室で振り向いた俺は、目を見開いて固まった。 「な、」 何でいるんだよ。 そう言おうとした俺の口は、駿琉の大きな掌で押さえられ、よろけた拍子に壁にドン、とぶつかった。 地味に痛い。 駿琉は、しぃー……つまり、黙れと言いたいのか、もう片方の人差し指を自分の口にあてて、頭一つ分上からニヤニヤと笑って見下ろしてくる。 きゅ、とシャワーを全開にされて、顔を近付けた駿琉は小さく囁く。 「今日も綺麗だった。やっぱり湊は、飛んでいる時が一番だな」 綺麗と言われて「は!?」となったが、高飛込のフォームを誉められたと気付いてつい顔を背ける。 顔が赤くなっていない事を願った。 まぁ、一生懸命やっている事を誉められて嬉しく思わない人はいない、だろう。 多分。 「……」 「今日はイイモノ持ってきた」 「……?」 イイモノ?? シャワーが俺達二人の頭にあたり、飛び散る。 駿琉は一瞬扉を開けて外に手を出し、また引っ込めた。 そこには、防水タイプの巾着袋がある。 シャワールームの個室にはフックがあり、皆タオルやゴーグルを入れる為の巾着や水筒など、各々使用しているのだ。 俺はゴーグルかと思って、巾着を開く手元を見ていた。 「……っっ!?」 見るんじゃなかった。 いや、見るんじゃなくて、逃げるべきだった。 *** 「昨日あれからショップで買ってきた。失敗しないアナル開発バイブ、らしい」 「……」 そこを退け。 今すぐに退け。 力いっぱい駿琉の胸を押したが、びくともしなかった。 金テキするしかないか!? と思っても、同じ男同士痛さが想像出来るのでやっぱり躊躇してしまう。 「中小2本のシャフトと特性違いのローターが魅力らしいけど、まぁローターは今日はいいかな。俺の操作で喘がせたいし」 目の前でぷらぷらとそれ(それ)を揺らされ、つい怖いものみたさで目ので追ってしまう。 バイブは双頭になっており、短い方が細身のパール系、長い方が太めのねじり棒という感じ。 いやいやこれは……。 「ぉ……」 「お?」 「……女の子に、使ってあげる、ものじゃない……?」 必死で言葉を発したが、苦笑されただけだった。 「何言ってんの? 女に使ってどうすんの? 湊を気持ち良くさせたら俺と付き合う約束だろ?」 「……」 ん? 付き合う約束なんてしたっけ?? 断らなかったっけ?? 「昨日、やっぱり俺のちんこだとまだ痛そうだったからさ。今日から開発するぞって気合い入れて色々買ってきた」 「……」 そこに気合い入れないで欲しかった。 「あれ? 湊、まだいる??」 その時友人から声が掛かり、心臓が跳び跳ねる。 「……あ、ああ」 かろうじて答えた俺、偉い。 「そっか。じゃあお疲れ~」 あっさりそう言って、友人達は去って行った。 びびびびびったああああ!!! そりゃ、シャワーはほぼ毎回一人置いて行かれるのがむしろ当たり前だ。 むしろ、一緒に出る方が珍しい。 一人キョドった俺が胸を撫で下ろしていると、駿琉がいつの間にやらしゃがみ込んで、石鹸を纏わせたそのバイブを尻に突っ込んできた。 を突っ込まれたのかは、全くわからない。 ただ、駿琉の指よりは固くて、長さや太さは同じ位だった。 「~~~っっ!!」 にゅぷ♡ にゅぷ♡ と出し入れされて、身体に力が入る。 喉から変な息が漏れた。 「力抜けよ」 そう言った駿琉は信じられない事に、俺のまだへんにゃりしたイチモツを口に咥えたのだった。

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