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第3話 再会
ビルの中を一周して周り車に戻った美月は、車を見ると運転手の田中の姿はなかった。
きっとトイレにでも行ったのだろう、後部座席に乗り込もうとしたが、気分屋の美月は運転席に座り、田中をおいて車を走らせた。
まだかなり寒い一月の半ば、それでも頭の中をスッキリさせたくて、運転席と助手席の窓を開けて走り始めた。
赤神志乃舞の作品に惚れた美月はその才能を信じていたが、世間は評価しないのが悔しかった。
「ははは、さすがにさみぃわー!!」
例え厚みのあるスーツでも、窓全開の車で走り回れば寒さは凍えるほどだ。
美月はスーパー銭湯の看板を見付けると、迷わず車を駐車スペースに停めて店内に入った。
すると受付に先程の満月の姿を見付けて、声を掛けた。
「あぁ、さっきの弓道の青年じゃないか」
満月は美月を見返したが、どうやら気づいていないらしい。
「……車の中暗かったしな、わかんねぇか。ガラの悪い運転席の後ろに俺が乗ってたたんだよ」
すると満月は真面目な表情で、こう言った。
「あの若さんですか」
「あははは、……若は名前じゃないって。俺は北白川美月 だ」
「綺麗な名前ですね。自分は夜霧満月 といいます」
「へー満月君か、君こそ綺麗な名前だな。それに名に月が入ってる奴と初めて会ったな。俺達は同志だ」
満月に美月、珍しく名前に月がつく二人が出会った瞬間だった。
話しながら受付を済ませ脱衣所に向かう二人は、後ろから見ると兄弟のようだった。
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