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第8話 初めての感情
その日の夜の満月は美月との口付けが忘れられず中々眠りに付けなかった。
台所のウォーターサーバーの水をコップに注ぎ、一気に飲み干した。
しかし常温の水は身体の火照りを覚ましてはくれず、冷凍庫の氷をコップに入れ再度水を注ぎ、再度飲み干した。
「……はぁ」
氷水を飲み干しても熱は冷めることはなかった。
今日の昼過ぎに初めて出会った北白川美月、まだ一日も経っていないのに、想いは募るばかりだった。
甘いテノールの声色は聞き取りやすい良い声だと思っていた。
スーパー銭湯で顔を合わせてから、その時の声主は綺麗な人だったことを知った。
そして脱衣所で陶器のような滑らかな肌と身体つきを知った。
初めて人という形が美しいと感じた瞬間だった。
他の誰にも感じたことのない、付き合っていた女子にも感じなかった気持ちを抑えている最中に、奪われた不意打ちの口付け。
感じている火照りは性欲以外の何物でもないことに気付いているが、初恋の相手を汚すようで行動に移すことができない満月は、コップを洗い自室に戻りベッドに横になる。
無理やり目を瞑り布団に潜ると、考え疲れたのか眠りにつくことが出来た。
早朝目が覚め自分を悩ませていた身体の火照りが解消されたことで異変に気付き、満月は下着を確認した。
生まれて初めて夢精をしてしまった自身を恥じながら、満月は下着を洗い自室に干し、 どうか母親にだけは気付かれないことを祈るしかなかった。
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