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第10話 マー坊
満月と出会ってから美月はスーパー銭湯に通うようになったのだが、再び会うことはなかった。
田中は背中に墨を入れているため、中に入ることはできなかったので一人駐車スペースの車内で美月を待つ羽目になっていた。
しかし美月は身体の何処にも入墨はないので、何処にでも自由に行き来していた。
風呂に浸かり、サウナに入り、休憩所で寛ぐ、その繰り返しで肌は更に磨きがかかってしまった。
「満月のやつ、ッたく。なんでここに来ないんだよ」
夜霧宅からここのスーパー銭湯まで徒歩五分、普通ならもう少し来ないか?!と心の中で怒りがこみ上げていた。
自宅は知っているし最悪押しかけてもいいが、美月はこれでも北白川組の若頭だ、極道の男が一般人を待ち伏せするわけにも行かず、今後どうするか考えていた。
丁度その時声をかけてきた一人の年寄りの男がいた。
「兄ちゃんは夜霧のマー坊を待ってるのかい?」
マー坊?
一瞬誰だと思ったが満月のことだと気付いた美月はニコッと笑って答えた。
「おじさんは満月君のお知り合いですか?」
「マー坊のママのスナックの常連なんだ。小さい頃からマー坊のことはよく知ってるよ」
どうやら満月の母親はスナックのママのようだ。
「満月君にどうしても会いたくて、ここに来ているんです。けどまた再会するのは難しいですかね」
美月は怖がらさせないよう言葉遣いに充分注意しながらそう言うと、年寄りの男も笑顔になった。
「三丁目の大通り交差点の手前に『スナック月夜』ってのがあるんだよ。マー坊のママのやってる店さ。そこ行ってママに聞くといい」
さすが地元の爺さん!!と美月は心の中でガッツポーズになった。
満月の幼い頃も知ってるなら、いつかじっくり話を聞いてみたい。
「俺いつかおじさんと話がしたいです」
「ああいいよー。この時間帯におれ必ずここにいるから、話でもなんでもしような」
美月は身支度を整えて、一目散でスーパー銭湯を後にした。
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