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第14話 レスリング元日本チャンピオン田中の羽交い締め
「若っ?!なっな……なななっ何してんすかっ!!」
血相を変えた田中は、美月を抱き寄せている借金取りの腕を掴みそのまま体を一瞬で羽交い締めにし床に寝転 がせた。
「アテテッイテッ!……って、テメェ離しやがれっっ!!」
呻きながらも反撃しようと借金取りは藻掻くが、田中の羽交い締めは緩まることはなかった。
「流石、レスリング元日本チャンピオン田中!!」
美月はその光景を面白がりながら野次を飛ばすが、田中は一喝した。
「ふざけるのも大概にしてくだせぇ、若頭!!組長が知ったら、おれが怒られるんすよっ?!」
田中がそう口にすると借金取りの顔色は真っ青になり、唇すら紫色になる。
「まっまままま、まさか……アンタ、北白川組の若頭ァァァ?!」
美月はにっこり笑いながら借金取りの顔を片足で踏み、どすの効きながらも落ち着いた声色で言い放った。
「仕事に私情と私欲は駄目だろよ?なぁ、お前の上誰だぁ?ほら……、言えよ」
その姿は満月の知らない表情だった。
初恋の相手がまさかこんなにも悪役顔に豹変するなどと思いもしなかったし、美月が極道で有名な北白川組の若頭だと気付きもしなかった。
美月は夜霧月夜の借金を小切手で支払い、スナック月夜のママは今後守られることになった。
「せっかく店の床を汚さないよう外で田中にやらせようとしたのによー、お前が拳振り上げるから床拭くことになるんだ」
満月の知る美月に戻ったが、結局のところ極道者 ということがバレてしまった。
知られた以上は普通に遊べないだろう。
ならいっそこの母子に取引を持ちかけよう、その材料はすでに出来上がっているのだから。
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